ありふれた職業は零でも世界最強   作:うぇいうぇい

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半日で書けてしまった恐ろしさよ。


ハジメ&女神と解放者が出会ったら

 

 ハジメとオスカー達は、先程の砂漠とは打って変わって、日差しも優しい森の中にいた。

 

「うひゃあ! まさか一瞬で来れるなんて信じられないよ!」

「ナイズの転移の距離無制限版みたいなものか……凄いな、君は」

「……これくらい、造作もない」

 

 二人が感心している理由は、エヒトからパクったユエの転移用魔法、〝天在〟の圧倒的な距離の転移だ。

 

 現在地は、トータスの大陸最東端のとある森の中。先程までいた赤の大砂漠はトータスの西端にあったので、大陸の端から端までをたった一回で転移している。これに驚かずには居られないだろう。

 

「……ハジメ」

「ん? おお、そうだった」

 

 ハジメが身をかがめると、ユエが首にカプチューをする。〝天在〟でかなりの魔力が持っていかれたので、その分の補給だ。

 

 その様子を、頬を引き攣らせて引いているオスカー。コイツ新手の変態か……!? という風だ。しかし、どこかで見覚えも……

 

「……黒衣部隊の、吸血行動……まさか、魔王国の……?」

「あれ? オーくん聞いてない? ユエちゃんは純粋な吸血鬼族だよ?」

「……へっ!? あの滅多に国外に出ないって言う魔族のかい!? 竜族並に希少だって聞いてたし……そ、そうなのか……」

 

 と、ミレディに続いて衝撃の事実を知り放心気味のオスカーはさて置き、そう言う訳で、現在ハジメ達がいるのは大陸の東端部……通称【帰らずの森】。

 

 そこでは、解放者のメンバー達によって急ピッチで居住地の確保が行われていた。

 

「一瞬で着いちゃったけど、ようこそ! 〝解放者〟の隠れ里へ!」

 

 そこは、まだ開拓の始まったばかりの村みたいな感じだった。

 

 様々な解放者のメンバーが協力して、木を切って森を切り拓き、住居を作っている。

 

「隠れ里……解放者のメンバーを住まわせるのか?」

「うーん、そっちの意図が大半だけど、今回は特殊な事情があってね。この前魔王と戦って、魔王国で行われていた人体実験*1の被験者とか、身体を変えられちゃった人達の治療や保護をする必要が出てきたんだ。それで人数も多いから、新しい隠れ里を用意することにしたんだよ」

 

 ここで、ハジメ的に新情報が舞い込んできた。

 

「……魔王いるのか」

「そりゃあ、なんたって魔王国だからね! 国家元首の魔王さんは居るよ〜。と言っても、ちょっとからかい癖のあるだけの良い人だから、今度紹介してあげよっか?」

「そうか……機会があれば、会ってみたいもんだな」

 

 自称……いや、あちらのトータスでは普通に神殺しの魔王としても知られているので自称ではないが、自分以外にもう一人魔王がいるというのが少しだけ気に食わない……とか思いつつ、ミレディと共に隠れ里を回る。

 

 オスカーとは、既に別行動だ。住居の作成が急がれているので、案内をミレディに頼み、住居作りに必要な各種部品の錬成に勤しんでいる。今も、遠くで何やら箱を抱えているようだった。

 

 ミレディが小刻みにスキップをしていると、四十路を過ぎたくらいの男性と、瞠目したままのおっとりとした白髪の美女が談笑しているのを見て、

 

「お、あっちいるのが、マーシャルとミカエラだねー。マーシャルは〝金剛〟っていう固有魔法の持ち主で、ミカエラは盲目だけど、固有魔法の〝魂の眼〟のお蔭で周りが見えるんだ。あの二人、実は最近仲良さげで、新たなカップル成立か! って言うのが隠れ里の中で噂になってたり〜」

 

 と言う風に、一人一人紹介していくのだ。メンバーについて話している時のミレディはとても楽しそうなので、二人は肩を竦め合いつつ話を聞いている。

 

 ミレディが次の場所に向かおうとすると、突然ドスドスドスという地鳴りが響いてくる。次第に大きくなるその衝撃に、ハジメはビクッと体を跳ねながら、その方向へ視線を向け……

 

「あら、ミレディちゃん! お早いお帰りねぇ!」

「ベル姉さん! いやぁ、色々あったんだよぉ。それと紹介するね! 新しい仲間のハーちゃんとユエちゃんだよ!」

 

 そこには悪夢がいた。

 

 何処かで見たようなフリフリの可愛らしい服を、隆起する筋肉ではち切れんばかりに締め上げ、髪をピンクのリボンで結えた、一人歩く世紀末の様な劇画タッチの濃ゆい顔をしたその巨漢は、ミレディの後ろにいたハジメとユエを見て、「まあっ」と肩頬に手を添えてくねっとする。

 

「……な、なんでこんな所にベルの一族がいやがるっ」

「あらぁ? そんな怯えちゃって、どうしちゃったのかしらん?」

 

 ハジメの戦慄した表情に、この世界の第一漢女……ジングベル*2は顔を近づけ、汽車のように鼻息を吹き放つ。ハジメは堪らずクロスヴェルトの四点結界で遮った。

 

 一方、ユエは特に恐れる様子もなく、その漢女に近づいていた。

 

「……私はユエ。貴女は?」

「むふんっ、あたしはジングベルよん! ところでユエちゃん、ちょっとあたしの作った衣装を着てみないかしらん? お人形さんみたいで、イメージがギュンギュン膨らんじゃうのよぉ〜ん」

「……それはちょうど良かった。新しい服、幾つかお願いしてもいい?」

「もちろんよんっ! もう少しで今の服が縫い終わるから、それまでちょ〜っと待っててねぇん!」

 

 地震のごとき足音を立てて戻っていくジングベルに、ハジメはふぅー……と肺に詰め込んでいた空気を吐き出した。

 

「……ユエ、頼むからもう漢女を量産するなよ?」

「……ん。月に代わって、おしおきする時だけだから、大丈夫」

「……頼むぞ」

「…………んっ」

 

 やたらタメが長かったが、多分大丈夫だろう……多分。と自分に言い聞かせて、ミレディの案内に付いていく。

 

「あ、おーい! ナっちゃん! ヴァンちゃん!」

「……む? ミレディか」

「だからヴァンちゃんはやめろと言っているだろう……」

 

 一人は、赤錆色の髪を短く刈り上げ、砂漠の民のローブに身を包んだ長身の男と、魔人族特有の褐色肌をした、何故かタンクトップにマフラーを着けた男。

 

 ハジメはその人物らを見ると、いつか大迷宮やミレディの所有していた写真にある人物を見て「なるほど」という風にぽんっと掌を拳で叩いた。

 

「ナイズ・グリューエン*3とヴァンドゥル・シュネー*4か」

「……ミレディ、まさか教えたのか?」

「え?」

 

 何を? とナイズに言おうとして、直前にハジメの言葉を思い出した。

 

「ハーちゃん、グリューエンって名前知ってるの?」

「ん? ああ、たしか村の名前らしいな。そこの生まれなんだろ?」

「……その通りだが……まさか、知っている者がいるとは」

 

 それもそのはず。

 

 グリューエンという村は、ナイズの空間魔法の暴走により文字通り消滅してしまい、地図にも名前が残っていないという。

 

 驚きとその他諸々の感情故にか、押し黙ったナイズと代わるように、隣にいたヴァンドゥルが、ふむ、と考え込みながらやって来て、ハジメをジロリと見つめる。いや、正確にはその下……脚に掛けられたホルスターに目が向いていた。

 

「……なぁ、その武器はなんだ?」

「これか?」

 

 腿のベルトのホルスターから、銃を取り出してプラプラさせると、それだと頷くので、ハジメは弾倉をグルっと回転させてから、宝物庫より射撃訓練用に用意された人型の金属板を取り出して、一拍。

 

 ──ドドドパンッ!

 

 三回の銃声で放たれた計六発の銃弾は、眉間、喉、心臓、両足首、股間を的確に射抜いていた。なぜ股間まで射抜かれたのかは……かつて〝スマラヴ〟として名を馳せた名残か……

 

「これは銃だ。簡単に言えば、爆発を利用して金属の弾を飛ばしている」

 

 ハジメが銃を差し出すと、ヴァンドゥルはそれをゆっくり手に取り、あらゆる角度から観察を始める。

 

「……タイミングを気取られず、時間の差無く遠距離を牽制できる武器か。オスカーの作る武器よりも、奇抜かつ手が読めない。装飾は無いようだが、立体的な流線形の造形美が垣間見えるな……ほう、螺旋状の溝で回転を加え、精確性も向上と……魔法に頼らない造りには惚れ惚れする」

「分かるのか、この銃の美しさが……! 他にも自動拳銃という種類があってだな、このスライド部に細かい模様を────」

 

 宝物庫から、いつ作ったのか、錬成で作り出したと思われる自動拳銃をヴァンドゥルに熱烈に紹介している。ヴァンドゥルもヴァンドゥルで、実用性、美術性の観点からハジメの作品をひどく気に入ったらしい。いつの間にか、あれこれと意見交換を始めている。

 

 その様子に、ユエがぶすっと、不満げな表情を浮かべている。ミレディもやれやれと肩を竦めている。似たような人物(オスカー)が身近にいるからだろう。

 

「……錬成師の性なのかなぁ、あのこだわりっぷりって」

「……最近、よくあっち側に行くことが多い。いつもならハンマーで殴って連れ戻してるけど、今はいないし……」

「ハンマーで殴り飛ばさないと戻って来れないんだね……」

 

 奈落での暴走と、昨今の南雲家での暴走……特に最近は平和を享受しているせいで生来の性格が強く出てしまっているのだ。

 

 ユエもびっくりするほどの豹変ぶりだ。

 

「……オスカーは、大丈夫だろうか」

 

 ふとナイズが呟いた。

 

 〝大丈夫だろうか〟というのは、主に、錬成師としてのプライドという面での事だ。

 

 ナイズの頭の中には、勝利したプロレスラーのように、右手をヴァンドゥルに持ち上げられるハジメの姿と、四つん這いになってズーンと落ち込むオスカーの構図が浮かび上がる。

 

 こちらの戦力が増加するのは願ってもないが、それで親友のメンタルがズタボロになるのも憚られる。

 

「むぅ……」

 

 ナイズの苦労は、まだまだ続くようである。

 

 

 

 

 

「うーん、今どこにいるのかなぁ」

 

 ハジメが止まらなくなったので、ほとぼりが冷めるまで一旦放置の方針を固めたらしいミレディとユエは、いま隠れ里を歩き回っていた。

 

 ミレディがキョロキョロと首をあちこちに向けて探しているが、ミレディが目的としている人物は見当たらないようだ。

 

「……誰を探してるの?」

「うーんとね、メル姉──メイル・メルジーネっていう、再生魔法の使い手の海人族だよ。ハーちゃんがいないけど、紹介はしておきたくて……と思ったのに、全然見当たらないや」

 

 「メールねぇ〜! どこぉ〜!」と声で呼び掛けるも、反応はない。

 

 それを見兼ねたのだろう。ユエはある物を取り出すと、指を指した。

 

「……え?」

「……あそこにいる」

 

 何を根拠に……とミレディが、何かを握るユエの手元に、とてつもない気配を感じ取った。

 

「もしかして、その手に持ってる物のおかげ?」

「ん……〝導越の羅針盤〟。自らが願うものの場所を教えるアーティファクト」

「自らが、願うもの……」

 

 懐中時計のようなコンパスが差し出された。それをしげしげと見つめるミレディの顔は綻んでいて、つい手に取ってしまう。

 

「……なんでだろ。とても、懐かしい……」

 

 ミレディには、見たとことないし、初めて触ったはずのもの。それが、まるで沢山の思い出が詰まった物のように、妙に懐かしく思えていた。

 

「あ、あれ……め、目が霞んできたなぁ。ミレディちゃん、もう眠くなってきたのかなぁ……まだミスター太陽はギラギラしてるのに」

「…………」

 

 熱い水が、ポツポツと滴り落ちて、透明なガラスカバーを濡らす。胸にギュッと押し付けて、堪えようと俯いた。

 

「……えへへ、こんな気持ちになるの、久しぶり過ぎて……止まんないや」

 

 それもそのはず。

 

 ミレディの手に持つ羅針盤……それに込められた概念は、〝望んだ場所を指し示す〟。

 

 かつての〝解放者〟達が協力して作った三つの概念魔法のうちの一つ。

 

 極限の意志によってのみ生み出されたこの羅針盤に込められているのも勿論、七人の〝解放者〟達の極限の意志。必然と、伝わってくるのは当時の〝解放者〟達の願いだ。

 

 先の未来での願いを、心の底で汲み取ったのか……ミレディは、顔を拭っていた。

 

 その顔には、決意の表情も浮かんでいる。

 

「……うん、君達の意志は、私達が受け継ぐよ」

 

 再度、目をゴシゴシ。次の瞬間には、ユエの目の前にグイッと差し出された。

 

「ごめんね、これ、返すよ」

「……いらない」

「……え?」

 

 ミレディがポカンと首を傾げた。こんな凄そうなアーティファクトを、ポンと人に渡していいのかと。

 

 だが、ユエは頑然として首を振った。……凄く、嫌そうな顔で。

 

「……そんな、人の涙が付いたような状態で返さないで。早く洗ってきて、さあ早く、さあ」

「まさかの潔癖症の方!?」

 

 差し出されたはずの羅針盤を逆にグイグイと押し返されて、嫌悪感丸出しに顔を歪めながら、ユエがミレディをグリンッと回して背中を押していく。まるで扱いがどこぞの不憫な般若スタ◯ド使い……

 

「……特にミレディの涙なんて吐き気がする。ん、慰謝料。弁償して。代償としてミレディの命を払ってもらうことにする。だから、早く洗ってこい」

「傷付いたよ! ミレディちゃん、超傷付いたんですけど!? 全世界のアイドル♪ミレディちゃんが泣いたっていいじゃないか、人間だもの!」

 

 有名なみ◯をの言葉風にそう言い返すも、ユエは歯牙にもかけない様子でミレディの背中を押しまくる。

 

 しかも無駄に高度な重力魔法が、全力で抜けようとするミレディを押さえつけている。どうにか解除を試みようとするも、やはりここでも技量の差なのか、抜けられないらしい。

 

 これには、思わずミレディも「むきぃ〜!!」と唸る。

 

「……到着」

 

 そのまま、押され続けてやってきたのは、一つの天幕。「ほへ?」とミレディの声が漏れた。

 

「ここって……メル姉の天幕、なんだけど」

「……メイルとやらは、この中にいる」

「えっ……でも、わざわざその中で何を……」

 

 この天幕、本当に解体用に作られた、とても簡易的でコンパクトなものだったりする。そのため、中は寝る場所を確保する為の空間であり、布団ぐらいしか敷かれていないのだが……

 

「…………」

 

 ミレディが真顔になった。さっきまで表情をコロコロ変えていたのに、ストンと抜け落ちると、途端に何か触れてはならないような雰囲気を漂わせていて、ユエが隣で「誰だこれ……」と言ってるかのように目を見開いた。

 

 ゆっくり、天幕の布が上げられる。中には、真っ白なお布団と、そこからちょこんと、水色の髪が見えている。

 

「……うーん、だれぇ? 私、いま寝てるのよ……早く出てかないと殺すわよぉ〜」

 

 入ってきた光に反応したのか、中の人影がもぞもぞ動くが、出る気配はない。それどころか物騒な物言いで帰るように促してくる。

 

「……ねぇ、もうお昼だよ?」

「それがどうしたのよ……ずっと布団に引き篭ってもいいじゃない……お姉さんとても眠いから、放っておいてくれるかしら……」

 

 ユエがチラリと覗きこむと、中の人物は本当に眠いのか、もう一回布団を被ろうとしている。

 

「……起きて、メル姉(・・・)

「…………え?」

 

 ミレディのやけに低い声に、布団をガバリと開け放ち、天幕の中を覗くミレディを見て、酷く驚いた様子で暗闇から紅い瞳を覗かせた。

 

「……み、ミレディちゃん? あ、あれ……まだあと二週間はかかるはずじゃ……」

「……それよりも、メル姉。もう、お昼過ぎだけど? お仕事は、どうしたのかな」

「そ、そのね? お姉さんに弁解させて貰えるかしら……?」

「……とりあえず、天幕出よっか?」

「あ、はい……」

 

 ミレディの気配に気圧されてか、その女性は、ビクビクした足取りで外に出た。

 

 直後に、ミレディの後ろにいたユエと目が合う。互いに、色合いのよく似た紅い瞳で、当然、驚かないはずもなく……

 

「貴女……もしかして吸血鬼族かしら?」

「……そっちこそ、海人族との?」

 

 返答は無いが、お互いの反応からして、認識は一致していたらしい。女性の方から歩み寄り、眼下の金髪紅眼の少女を見て、暫し茫洋と見詰めると、「まあっ」と手を合わせた。

 

「可愛いお嬢さんね? 私はメイル。メイル・メルジーネ。海賊団の船長をやってたりするの。ユエちゃん、よろしくねぇ〜」

「……ん、私はユエ。よろしく、メイル」

 

 ハジメ曰く、大雑把でドSそう……との事だが、人柄は良さそうだった。ユエは、おっとりしたゆる〜い感じで握手を求めるメイルに応じて、握り返した。

 

「あら、お姉さんと呼んでくれてもいいのよ?」

「……少なくとも、私の方が年上だから」

「そうかしら? 見た目的には、十二くらいだけど……吸血鬼だからなのね?」

「……それもあるけど、主に私の固有魔法のせい。成長は固有魔法が発現した時から止まった。だから、実際はこんな感じになる」

 

 パチンッ!というフィンガースナップと共に、ユエの身体が淡い光に包まれて、大人(20歳)ver.のユエとなった。

 

 ただでさえ妖艶さたっぷりの吸血姫だと言うのに、成長すると、それこそ〝限界突破〟級の美しさだ。服は変身時に背丈に応じたものに切り替わってはいるものの、やはり服の上から主張してくる双丘がなんとも艶めかしい……

 

 ミレディが、その美貌にポッと顔を紅くしながら、「裏切られた!」と言って崩れ落ちた。何に対して裏切られたと思ったのか、それはミレディが自分の身体をまじまじと見ている事から推して知るべし。

 

「……ヤバいわ。鼻血出そうかも」

 

 こちらも美貌にやられてか、既に手遅れなまでにポタポタと幸せの赤い汁が滴っている。普段は可愛らしさに鼻血を出すのに……と、驚きを露わにしつつ鼻をティッシュでふきふき。

 

「……ええ、年上って事は分かったから、ちょっと戻ってくれるかしら。軽く災害になっちゃうわ」

「……誰が歩き回る災害か」

 

 ムスッとするが、ユエに自覚がない訳では無い。しょうがなく元の姿に戻った。

 

「やっぱりユエちゃんはそのままが一番だと、ミレディさんは思います!」

 

 四つん這いから回復して、わーい!と背後からユエに抱き着いた。ミレディ的に、巨乳じゃない仲間に親近感が湧いていたらしい。ユエのジト目が、肩にのっかるミレディの頭に向けられるが、振り払おうとはしないようだった。

 

「……これはこれで可愛いわよねぇ。どうにか、第三の妹に出来ないかしら」

 

 第一の妹は、母親を同じとする異父姉妹のディーネ*5。第二の妹は、そこのミレディだ。

 

 このメイル・メルジーネという海賊は、妹の為にアンディカという海上都市を乗っ取ろうとするほどのシスコンにして、その海賊の船員の殆どは、メイルによるアメとムチの調きょ──特殊な訓練によってファミリーの一員となった者達である。

 

 ドSシスコン海賊女帝……とっても属性過多なお姉さんだ。

 

「そういう訳でぇ、この場所にいる主要メンバーの紹介は終わりだよ〜。ユエちゃんはこれからどうする?」

 

 うりうり〜とじゃれついてくるミレディの頭を押さえると、一瞬考えて、一言。

 

「……ハジメの所に戻ってくる」

「うえっ?」

 

 シュピンッと、ミレディが体の内に抱きかかえていたユエが消え去った。傍で見ていたメイルが、これまた驚いた表情を浮かべる。

 

「……ナイズ君の空間魔法みたいに見えたわ」

「あー、そのね? ユエちゃん、色々神代魔法が使えるっぽくて」

「……ユエちゃん、見た目の通り凄まじいのね」

 

 だよねー……、というミレディの虚しさ溢れる声が、平原に響いた。

 

「……もちろん、メル姉は後でお説教ね?」

「そこ、忘れてほしかったわ……」

 

 

 

 

 一方、ハジメはと言うと。

 

「……む? ヴァン、ハジメ。この真上の上空から、何かが落ちてきているぞ」

「……空から? 例の神の使徒とやらか?」

 

 ハジメとヴァンドゥルが話しているところに、ナイズが異常事態を告げていた。

 

 ヴァンドゥルがそう尋ねるも、ナイズは空間魔法で空をモニタリングすると、不思議そうに首を傾げた。

 

「……いや、人だ。焦げ茶の髪と目で、オスカーみたいなスーツ姿の女の子だな。涙目なあたり、自分には、空に落とされてただ落下しているように思える」

「……ん?」

 

 ナイズの言う女の子の容姿を聞いて、ハジメの頭に、一人の女性の姿が頭を過ぎる。

 

(いや、まさか……とは思うが)

 

「なぁ、ナイズ。それって、140センチくらいの童顔で、髪がボブカットな感じか?」

「む……その通りだが、どうして分かった?」

 

 ハジメの脳裏に浮かぶ、ちみっこ教師の姿。

 

「それ、多分ウチの嫁だわ」

「よめ……嫁!?」

 

 ナイズがギュリンッとハジメの方に顔を向けた。

 

「こんないたいけな少女をか!?」

「おいナイズ、それはブーメランだぞ」

「ち、違うっ、スーシャ*6とユンファ*7の方から寄ってくるだけだ! 俺は断じて、ロリコンなどではない!」

 

 頭を抱えてガクブルするナイズに、何があったんだと引き気味、ハジメは空を見やる。

 

「……ところでハジメ、貴様ロリコンだったのか」

「人を勝手にロリコン呼ばわりするな……小さいが、もう二十七だしな」

「なんだと?」

 

 ヴァンドゥルの胡乱げな目がグサグサと突き刺さりながら、ハジメはクリスタルキーを使って、遥か上空へと転移する。

 

「この辺りなら大丈夫か……」

 

 上を見ると、段々と近付いてくるのは、太陽をバックにして影となっている、人型。

 

「──ぁぁぁあああああ!? だ、誰かたすけてぇえええっ!!」

 

 丁度その時、ハジメの横を落ちていった。

 

 瞬間、目が合う。

 

「え?」

「よお」

 

 ハジメが〝空力〟を解除すると、落下が始まったにも関わらず、最初から自由落下の最高速に達した状態で、その女の子こと畑山愛子と並びながら落ちていた。

 

「まさか、愛子ともフリーフォールする羽目になるとはな……」

「は、ハジメくん!? なんでさりげなく隣に居るんですか!?」

「そりゃあ、自分の嫁さんが空から落ちてきたのに助けない奴がいるかよ」

「いるかよって、普通は空から落ちてきませんよ!」

 

 世の男性が、もしも自分の恋人なり嫁なりが空から落ちてきているとして、一体何人が落ちてくる最愛の人を助けられるのだろうか。

 

 助ける助けないの意志はさて置いても、咄嗟に助ける手段を持っているのはそれこそハジメくらいなものだろう。

 

「……それで、愛子もあれか? 持ってる劣化版のクリスタルキーを使って転移したら、こんな事になったのか?」

「あ、そうなんですよ……ちょっと、ハジメくんの家に顔出そうかな〜 って思ったら、鍵から嫌な音がし始めて、ゲートに吸い込まれて、それでこんな事になってしまったんです……」

「なるほどなぁ」

 

 聞く限り、ハジメと転移した時の状況と一致している。最低でもクリスタルキーでゲートを開く事が、この世界に来る条件なのだろう。

 

 しかし、それをシア達に伝える手段をハジメは持っていない。時間軸の問題なので、この時代にいない人間にはどうやっても伝えられないのだ。

 

 困ったな……と頭を掻きむしりつつ、ハジメはとりあえず現状に目を向けることにする。

 

「んで、どうする? このまま俺とフリーフォールを楽しむか?」

「む、ムリです無理です! 使徒と戦ってた時ぐらい怖いし……」

「そうか……それじゃあ、ちょっと失礼」

「……ふぇ?」

 

 ハジメが手を前に出すと、そのまま愛子の膝裏と背中に置いて横抱きにした。瞬間、愛子の顔が爆発するかのように真っ赤に染め上がった。

 

「えぇっ!? い、いきなり過ぎますよぉ!」

「これぐらいしか方法無いしな。まあ、許してくれ」

「はうぅぅ……」

 

 ハジメの胸をポカポカ叩きながら、弱々しい抗議をするも、その内ぽふっとハジメに顔を埋めた。

 

 しかし、やはりハジメに抱えられている状況は、かなり安心するらしい。ハジメが地面に着くまで、ジッとハジメの中に収まっていた。

 

 〝空力〟も利用して、最高速で隠れ里に戻ると、下には何人もの人々が集まっていた。

 

 地面に着地したことに気付いた愛子が辺りを見回すと、そこには……

 

 

「ナイズに呼ばれて来てみれば……その子も君の仲間のようだね」

「これが、本当に成人しているのか? どう見たって子供だろう。チッ、やっぱりロリコンか……」

「……俺はロリコンではない。俺はロリコンでは……」

「あらあらぁん? なんて小さな女の子なのかしらぁ! むふんっ、新しいお洋服作らなくちゃ!」

「おおう、あれがリーダーの言ってたハーちゃんとやらか……空で女の子を捕まえるとか憧れるな……」

「間違っても、空にダイブしてる人を空中でキャッチしようだなんて思いませよ、マーシャルさん……」

 

 カオスだった。愛子はガバッとハジメの胸に再度顔を埋めた。

 

「お〜い、現実逃避するなぁ〜」

「何ですか今の!? 色々見えちゃいましたよ!?」

 

 特に、漢女が居たのはかなりショッキングな絵面だっただろう。

 

 ハジメが苦笑しながらも、愛子を諌めてやる。

 

「大丈夫だ。ほら、もう足が着くぞ」

「う、う〜! 分かってますけど……」

 

 腹を括って、愛子が足を着けて、前に振り向く。全員の視線が愛子に向いた。

 

 スーハーと、ゆっくりと深呼吸し……

 

「どうも皆さん! 〝豊穣と勝利の女神〟──愛子ですっ!」

 

 手を振りながら、にこやかな笑みと共に、演説でもしているかのように声を張り上げて、ファンに挨拶でもするかのように名乗った。

 

『…………?』

 

 全員がコテンッ、と首を傾げた。

 

「……女神?」

 

 オスカーが、さらに首を反対に傾げた。 

 

 女神ってなんだ?と互いに顔を見合わせる解放者達。

 

「あれぇっ!?」

 

 この予想外の反応に、愛子の気の抜けた声が木霊した。

 

 愛子はトータスで、土壌や種を作りかえて出来の良い作物を実らせる〝豊穣の女神〟として、神エヒトに連なる者として世界で支持を集めていた。ウルの町では、ハジメという〝女神の剣〟による蹂躙劇が行われ、最終決戦ではヒュベリオンを操って使徒を撃退しながら、兵士の士気上げの担当だった。

 

 最早世界で知らない者のいないレベルで知れ渡った〝豊穣の女神〟愛子は、新たに宗教でも作られる勢いで民から信仰され、王都には女神愛子像まで設置されているのだが……

 

『残念だがな、ここはトータスであってトータスじゃないんだ』

『!? そ、そうなんですか!?』

 

 魂魄魔法で語りかけられると、反射的にビクッと肩を跳ねて、魂魄魔法で聞き返す。

 

 そして、ハジメから簡潔に、時代が違うことを説明されて、愛子はその場に蹲ってしまった。

 

『……死にたい』

『いや、まあ、うん……心をしっかり持て、愛子』

 

 愛子の挨拶を聞いて反応してくれる人がいるなら問題無いが、今みたいに誰も反応が無ければ、それはまるで、自分のネタがスベったみたいな羞恥に襲われる。

 

 そんな愛子の目の前、何も無い空間に突然それは転移した。

 

「……む? 愛子?」

「あ、ユエさん!」

 

 ハジメの様子を見る為に転移してきたユエを見つけて、パァッと顔を輝かせる。

 

 ハジメ以外に、他の嫁〜ズがいた事に安堵したようだった。

 

「……愛子も転移してきた?」

「あ、そう、それなんですよ! いきなりの事でビックリしちゃいまして……ハジメくんが来なければ、今頃私は地面にベシャッ!ってなっていました……」

「ん……何はともあれ、無事でよかった」

 

 愛子自身の戦闘能力は、アーティファクトの補助が利くとはいえ単身ではかなり限られている。この広大な神代のトータスではどうなるか分からない。

 

 運良くか、はたまた人為的か……どちらにしても、ハジメやユエの手の届く範囲に転移出来ていなければ、危なかっただろう。

 

「……もしかして、皆来る?」

「そりゃあな。クリスタルキーの利便性からして、ずっと使わないなんて事は無いだろ」

「……でも、どうやって帰ろう」

「そこは、後で考えるしかないな……」

 

 概念魔法が通用しないレベルの事態が起きている以上、ハジメでもどうこうする術はない。ましてや、未来へと転移する魔法でも作ったとして、タイムパラドックスやらによって何かしらの影響が出てしまっては本末転倒だ。

 

 作為的なものであれば、当事者をとっ捕まえれば済む話だろうが……

 

「おっ、ハーちゃんが元に戻っ……てぇっ!? ハーちゃんがロリっ子捕まえてるぅ!?」

「あら? 知らない子が二人も居るのねぇ」

 

 もう追い付いていたらしく、ユエに先に転移され置いていかれたミレディとメイルが空から飛来し、ハジメや愛子の前に降り立った。

 

「あれっ? この人って、何でもかんでも水に流すあの人……」

「水に流すのは得意だけどぉ、何でもかんでもって酷くないかな!? 最近ロリっ子のミレディちゃんへの当たりが強い気がする……」

「ろ、ロリっ子じゃないですよ! れっきとした二十七なんですから!」

「……二十七? 十四の私より小さいよ?」

「ひ、人の見た目で判断しちゃダメですっ!」

 

 ミレディが珍妙な生き物を観察するみたいにぼへぇ〜と愛子の全体を上から下まで見た。

 

「……うん、どう頑張っても十三歳だねっ☆」

「うるさいですよぉっ!! そんなの自分でも分かってますからぁ!!」

 

 愛ちゃんがいつもに増して食ってかかっている。ミレディのウザさも相まってか、普段はポカポカと力のない打撃が心做しか強い。

 

「……うーん、小さい子が戯れるのも悪くないわね。あ、ナイズ君みたいじゃなくてね?」

「おい、そこで何故俺を引き合いに出した」

「え? だってナイズ君はロリコン──」

「それ以上口にしたら、二度と帰れない空の旅を経験することになる」

「メイル、そこまでにしておいてやってくれ。ナイズはいま心を抉られているんだよ」

「ふっ、クソ眼鏡も同類の癖に……」

「なんか言ったかクソマフラーァッ、それと眼鏡を揶揄するのはやめてもらおうか!」

「マフラーを貶すな眼鏡が! この芸術美が分からんのか!」

「表に出ろ! そのマフラー叩き切ってやる!」

「良いだろう、その眼鏡を捻り潰してやる!」

 

 メイルはナイズの気迫にやられ、オスカーはヴァンドゥルと共に里の外で戦闘を始めた。

 

「……空が青いなあ」

「……ん」

 

 ユエとハジメは、空を仰ぎながらひっそりと、解放者に入ったことを不安に思った。後悔だけはしていないと思う……多分。

 

 

 

 

*1
神に操られていた魔王ラスールが主導していた、対神代魔法使い部隊〝キメラ〟を創り出す実験。変成魔法により、魔人族や吸血鬼族に神代魔法の性質を埋め込ませて、神代魔法を中和しようと試みていた。黒衣部隊と灰衣部隊の二種類が存在する。

*2
始まりの漢女。魔人族だが魔法が使えない事を理由に迫害され、筋肉を鍛え男を捨てた結果、今では魔人軍の一個大隊を潰せるようになった可憐な漢女である。服飾担当であり、ミレディの服は彼(?)が作った。

*3
寡黙で気遣いのできる〝解放者〟唯一の常識人。苦労性。ただ、引き籠もり生活が長く、大人数のいる都市などでは恐ろしく怯える。また幼女に好かれる体質なのか、とある姉妹に求婚されている。ナイズに幼女趣味は無いが、周りからはすっかりロリコンと看做され、頭を抱えている。

*4
竜人族と魔人族のハーフ。魔王の弟。天職は芸術家だが、武術の天才。本人曰く武芸も芸術らしい。その為芸術性にうるさく、実用性を重視するオスカーとは反りが合わない。ナイズによると、オスカーとヴァンドゥルの不仲の最たる原因は、性格的な〝同族嫌悪〟らしい。

*5
海上都市アンディカに軟禁されていた海人族の少女。再生魔法の劣化版のような固有魔法〝復元〟を持っている。小さい頃、今は亡き母にメイルの事を聞かされ、一度会って以来〝姉さま〟と慕っている。

*6
ナイズに求婚してくる姉妹のうち、姉。天職は詩や物語の創作に才能のある〝創作師〟。物静かで、おっとりと包容感がある性格。十二歳にしてメリハリのある身体と、妖艶な雰囲気を兼ね備えている。また、酒場を通して情報操作したり、ナイズに寄る女の気配を探知したり、色々と規格外。ヤンデレ。

*7
スーシャの妹で、七歳。天職は楽器の演奏に天賦の才を持つ〝楽法師〟。いつもニコニコ元気だが、意外と毒舌系。少しも悪気無く、さり気ないが容赦の無い口撃が飛び出すこともあり、ミレディがその毒牙に掛かっている。ナイズには、会う度「結婚しよ!」と迫ったりと、恋愛にはかなり突撃系の幼女。




まさかミレディが〝くん〟付けしてるのがオスカーだけとは思わなんだ……
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