ありふれた職業は零でも世界最強 作:うぇいうぇい
「という訳で、今回の作戦について説明するから、みんな席に座った座った!」
てんやわんやの状況から落ち着きを取り戻し、広場に置かれた大きなラウンドテーブルを解放者の中心人物で囲っている。その周りを覆うように、解放者メンバーといった動ける者達が集結していた。
重大そうな話をするのかと思いきや、ミレディはとても明るい様子。
というのも、先ずこれがあるからだ。
「……の前に! 先ずは新しい三人の仲間を紹介しちゃうよ〜! はいっ、ハーちゃんどうぞ!」
名指しされて、立ち上がり、コホンと一つ咳払い。
「皆さんこんにちは。私は南雲ハジメと申します。ちょっとした錬成師をしていますので、気軽に兵器製作などを任せて貰えると嬉しいです。どうぞ宜しくお願いします」
そう、自己紹介だ。新たなメンバーを迎え入れる時にはやはり必要だろう。
しかし、ハジメはと言えば、まるで新卒の新入社員のように、さっぱりとにこやかな笑顔を振りまいた。ここに来て模範的な日本人ムーブである。
ハジメの素の態度を知り得ている者達が見れば、あまりの違和感に、梅干しを口に入れた時みたいな表情を浮かべるだろう。
現に、ミレディやらオスカーやらはそんな感じの微妙な表情をしている。お前に敬語は似合わねぇ!と、その表情が雄弁に語っていた。拍手一つさえない反応の無さと微妙な表情に、ハジメの眉がピクつく。
「……フッ、ハジメが敬語か。なるほど、こんなにも相性の合わない組み合わせは他に──フゴォッ!?」
一人、皮肉たっぷりでそう返したヴァンドゥルの額に、電磁加速されたゴム弾が直撃。椅子ごと背中から投げ出された。いくら武芸に長けていると言えど、シアほどではないので、普通に無様を晒すハメになった。
弾丸のダメージで未だにビクンビクンしているヴァンドゥルを、解放者一同が慄きながら見やり、そしてハジメの方へと視線を向ける。
「んんっ? 何か粗相がありましたか?」
「イエ、トンデモナイ」
カタコトでそう返すミレディを非難する者は居ない。今この状況でまともに反応を返せるのは、それこそ漢女くらいなものだ。
「そ、それじゃあ、次は……」
逸らしていた視線を、おそるおそる別の方向へ。
その視線の先はユエだった。それを受けて、ユエがゆっくりと立ち上がる。
魔法でピカッ!とスポットライトが当たり、キラキラとエフェクトを輝かせて、月に代わってお仕置きする人のポーズが決まる!
「……愛と正義の星! 月を守護に持つ神秘の戦士! セーラーユエ!」
「セーラー要素は? ──うええっ!?」
KY発言を行ったミレディにプチ雷竜が飛ぶ。聞き分けのない子供にはおしおきよ!
「うう、リーダーとしての威厳が、威厳がぁ……」と、扱いが雑になり過ぎて、頭を抱えすっかりしょぼくれている。ユエの登場によって自分の優位性が無くなったのは経験済み。加えて、それによって自分のアイデンティティがまともに発揮できないのはかかり精神にくるようだ。
しかし、ユエやらハジメやらの目の敵にされているのは未来の自分の所業のせいなので、ある意味自業自得と言えるか……
「……ん。ユエです。ハジメの正妻です。ついでに吸血姫もしてます。どうぞ、よろしく」
最初の自己紹介だけカッコつけたかったらしい。そのまま何事もなかったかのようにスチャッと席に着いた。
「ちょ、ちょっと待った。質問いいか?」
声を上げたのはマーシャル。どこか気に入らないところでもあったのかしらん?と内心首を傾げつつ、頷く。
「吸血鬼族って聞いてビックリしたのもあるんだが、それより……〝正妻〟って、そりゃあつまり……」
マーシャルの視線の先が移り、ユエが正妻と言った人物の方へ。
「まあ、大方思ってる通りだろ」
「……ハジメには、私含めて八人の嫁がいる。ただし正妻は私だけ」
「「「「…………!」」」」
唖然するのも無理はない。ハジメ自身は、黒髪黒目の、至って普通そうな青年だ。それがまさか、ハーレムを築いていると。
「……お前、どこかの王族だったりするのか?」
「いや、まあ……」
王族……っていうか魔王って呼ばれてるし……と心の中で釈明するも、魔王さんは別にいるらしく、王族という訳でもないので曖昧に答えた。
その反応に、オスカーが肩を竦める。
「ハジメはつくづく規格外だからね。詮索はしないよ」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「ハーちゃん凄すぎるよ……」
そもそも、ハジメは未来の時代の人間で、異世界人だ。
説明するのもかなりの時間を要するし、本当に伝わるのか怪しいまである。
「嫁が八人か……すげえ甲斐性だよなぁ」
「あそこまでいくと、逆に尊敬しちゃいますよ……」
ミカエラ、マーシャルという独身コンビにはハジメの存在は輝いて見えるようで、キラッキラした称賛の目をぶつけてくる。妙に鬱陶しい。
そして、次の新メンバーは……と視線が巡り、
「あ、私ですね!」
意気揚々と立ち上がった。テーブルの高さもあって、肩が見える程度にしか体が出ていない。
「えーと、畑山愛子と言います! あ、愛子と呼んでください! 教師をしていて、天職も〝作農師〟なのであまり戦闘には向きませんが、お役に立てれば……」
「うんうん、じゃあアイちゃんって…………えっ、いま、〝作農師〟って言った?」
「え? そうですが……」
いつものように愛称を付けようとして、〝作農師〟という言葉にミレディが少し動揺を見せながら聞き返すと、愛子はそれを肯定した。
馬鹿みたいに強いアーティファクトを持つ錬成師、自分よりも強い神代魔法の使い手……その仲間が、普通な訳は無いと薄々感じていたが、それはミレディの想像以上の力だったのだ。
〝作農師〟とは、人数も多く冷遇されやすい非戦闘系天職の中で、圧倒的な価値が周知されている天職だ。国に一人いれば、その国の食糧事情を一変させることも可能とされ、言うなれば非戦系天職版の勇者みたいなものである。
〝解放者〟の中にも、〝作農師〟の天職を持つベン爺さんなる人物が居るが、後継者を考えなければならない歳になり、その後継者も不足しているという現状だ。
その中で、突然現れた愛子という逸材。これを逃す手は、ミレディには無かった。
「君に決めたぁーー!!」
「ふぇぇ!? な、なんですか!?」
「ベン爺さんの後継者だよ! うんうん、やっぱり小さい方が、何かと叩き込みやすいしねぇ〜」
「それ、どういう意味の小さいですか!? 私はれっきとした大人ですからねっ!」
愛子は、ずっとミレディにこのネタで弄られ続けるのだろう。
ハジメとユエ相手に弄るのは、とりわけ分が悪いと言っていいから、新メンバーの中で最も弄りやすいのは愛子だ。しかも、弄りがいのあるネタを幾つも抱えているので、そういう面でも、ミレディ的に色々と逃したくないのである。
すっかり涙目になってしまった愛子の頭にポフポフと大きな掌が乗っかった。言うまでもなく、ハジメだ。
「……あのなぁ、愛子が小さいのは分かるが、あんまり人の嫁を虐めないでくれ」
「ち、小さいのが、分かるって……ぐすっ」
この構図も、娘を宥める父のようにも見えてしまう。しかし、愛子が小さくて童顔の女の子に見えるのは事実であるので……
「……ちょっと、ハーちゃん。今さ、愛子ちゃんのこと嫁って言った?」
「言ったが……どうかしたのか?」
「うそっ、こんなロリっ娘を!?」
「ロッ!? も、もう!! いい加減にしてくださいよぉ!」
今にも泣き出してしまいそうになるのを、愛子はグッと堪える。
流石のミレディも、今のは失言だったかも……としょんぼりして、おずおずと話しかける
「……あー、いや、本当にビックリしちゃって。ご、ごめんね?」
「……あんまり、人のコンプレックスで弄るのは止めて下さいね。お互いの違う所を貶めるのではなく認める事が、社会の輪において、ひいては人として大切な道徳ですよ?」
「はい、ごめんなさい……」
ミレディの心はズタズタに引き裂かれた。先生に道徳という言葉を用いられては、敵いっこない。
だが、ここでしょんぼりしている暇はない。コホンと一つ咳払い。
「ところで、アイちゃんって神代魔法は……流石に持ってないよね?」
「ありますよ、〝魂魄魔法〟ですけど!」
「うそぉ!?」
ここでも驚かされる。しかも、魂魄魔法……
「そ、そう言えば、ハジメもユエも、幾つもの神代魔法を持っていたね! 〝魂魄魔法〟は使えるのかい!?」
「……私は使える」
オスカーがいつになく取り乱した様子で二人に尋ね、その答えを聞いてユエの肩をガバッと掴むと……頭を下げた。
「頼みたい事があるんだ……僕の弟と妹に、治療を施してやってほしい」
この隠れ里建設地には魔王国の被験者の他に、ライセン支部*1のメンバーが避難してきている。
そのライセン支部のメンバーの中には、オスカーが育った孤児院の院長、モーリンの他に、コリン*2、ルース*3、ディラン*4、ケティ*5という筆頭四人の孤児と、六歳未満の大勢の孤児達が含まれている。
中でも、ディラン、ケティは〝人工神兵創造計画〟*6の犠牲となってしまった為、魂魄の治療を必要としていた訳だが、新たに加わった仲間は思いがけない能力を持っていた。まさに奇跡と言ってもいい。
会議の場に、オスカーは件の二人を連れてくると、ユエと愛子がそれぞれの魂魄の状態を診てみる。
「……少し時間はかかる。でも、治療は出来る」
「私も同意見です。魂が混ざりあっている以上、慎重な作業になるので、長期的な経過観察も必要だと思いますけど……」
するとユエは、オスカーの脚にしがみつくケティと、その傍に立ったままのディランに触れ、魔力を昂らせた。
「──〝禁域・極天解放〟」
〝昇華〟による擬似限界突破の呪文を詠われ、魂の秘術が現出する。
「……凄い」
ミレディが、呆気に取られながらも、その黄金の輝きに魅せられていた。
揺らめく黄金色の魔力は、月どころか太陽と言っても過言ではない光を放っているが、展開される魔法陣の繊細さと言えば、自分と比べるべくもない。
(これが……〝魔法〟)
自分の目指すべき場所。その頂点を見た気がして、ミレディは、自分に失望してなんかいられないと悟った。
相手の才能に嫉妬する? ならば、その後ろを見て追いつけばいいと。
自分を超える者の存在が、ミレディを吹っ切らせた。
(いつか絶対、泣きべそかかせてやるもんね!)
そう、勝手にライバル視され始めたとは知らないユエは、フッと魔力を霧散させて、オスカーに向き直った。
「……今日はこれで終わり。これ以上の魂魄操作は、魂が馴染まない限りは厳しい。また後日、治療が必要になる」
でも、とユエが続けようとして、開いた口を噤んだ。
理由は……
「……おにぃ」
「……兄、さん」
掠れた声が二つ。オスカーがギョッと横に向く。
意思を宿した瞳が二対、こちらを不安げに見ている。
オスカーの目が、大きく見開かれて、そして直ぐに、眼鏡のレンズに光が反射して、様子が窺えなくなった。
まるで意図されたタイミングのようだったが、二人は気にする余裕も無く、オスカーを見上げ……
そして、ガバッと、二人はオスカーの両手の内に引き入れられた。
「!? お、おおにぃ!? いきなり何するのよ!」
顔を真っ赤にしながら、じたばたともがくケティ。
だが、それが恥ずかしさからの反抗だと分かっているからか、周囲の人々の目は温かい。
「……兄さん、ごめんなさい。僕が、僕がちゃんとしていれば……そしたら、僕とケティが兄さんを襲うことだって……!」
一方のディランは、意思を持って会えた事への喜びよりも、後悔や、合わせる顔がないと、ずっと胸の裡に抱え込んでいたものを吐露していた。
それを聞いたケティも、しゅんと身を縮こませる。二人は戦士の魂に呑まれている間にも意識があり、オスカーに殺意を向けて攻撃した事を悔いて来たのだ。
「ディラン、それにケティも……君達は悪くない。怪しい影はあったのに、先に気付けなかったのは僕の方だ。すまない、二人とも。僕を襲ったことも許す。だから、二人は悪くないんだよ……」
諭すように、自分に非があって、二人は悪くないと繰り返すオスカーに、二人は徐々に涙が溜まって、ついに決壊した。
「……どう? 満足した?」
「……ありがとう。君は家族の恩人だ。……ありがとう」
オスカーが喜色満面で、ありがとう、ありがとう……と何度も感謝を述べると、ユエは鷹揚にうむうむと頷いた。
実はこの時、ユエの後ろにいたハジメが、「しめしめ、オスカーに恩を売れたぜ」と非常に悪い顔をして、少し愛子に引かれていたりする。
その後、孤児院のコリンやルース、子供達も集まってきて、てんやわんやになってから、少し時間を置いて会議が再開された。
ミレディが、リーダーらしい真剣な眼差しでもってこの場のメンバーを見渡す。
「……紹介はここまでにして、みんなには、今回の作戦がかなり切迫した状況下で行われるものとして捉えてほしい。事態は急を要するかもしれないからね」
と言うのも、つい最近になって、解放者の副リーダーであるバッド・ヴァーチャーズ*7からの手紙が届いた。
その内容は、教会によるハルツィナ共和国への宣戦布告。
仲間の危機だった。それに、教会には亜人と呼ばれ蔑まれている獣人族の国に教会が攻め入り、教会が勝とうものなら、どんな大虐殺が繰り広げられるだろうか……
「それで、具体的にはどう動くんだい?」
問題点は山積みだ。
ミレディ達は一ヶ月程前に、イグドール魔王国……現代のガーランド魔王国に相当する国で、神代魔法の使い手ヴァンドゥル・シュネーを助け出す為に戦ってきたばかり。
神の洗脳を受けていた魔王ラスールが正気に戻ったはいいものの、解放者は、魔王国が神代魔法使いに対抗する為に打ち立てた、〝人工神代魔法使い創造計画〟の被験者であるキメラ部隊百人以上を全員救出し、抱え込んだので、なんと言っても人数が半端ではない。
ジングベルが作ったこの拠点では、その人数を抱え込むだけの規模はないので、新たにを作らなければという所で、先のバッドの救援要請が届いたのだ。
「……まず、私とメル姉、ナっちゃん、それから、ハーちゃんとユエちゃんだけで先行する」
ミレディがそう言うと、少しざわめきが広がった。
一刻も早い救援のため、最高戦力たる神代魔法使いを送らなければならないのは承知だ。
しかしそこに、今し方〝解放者〟入りしたようなハジメとユエが送られるとなると、やはり不安にもなるだろう。
それに疑問を抱くのは、ハジメとユエも同じ。
「なぁ、その重要な役回りにどうして新参の俺やユエも居るのか聞いていいか?」
「え、だってユエちゃんの〝天在〟とか神代魔法が強過ぎるし、ハーちゃんの火力なら教会ごと吹き飛んじゃいそうだし……殲滅力トップクラスなのは私の目から見ても確実だからね」
確かに、二人共に〝強い〟なんて言葉では片付けられないほど破格の能力を持っている。
何なら、サクッとと大樹の下まで転移すれば、移動時間なんてあってないようなものになり、教会の本部に〝ロゼ・ヘリオス〟とか言う太陽光爆弾を落下させれば、あっという間に更地だ。
普通なら、ハジメやユエとしては「えー」と凄い面倒くさがりたいところではあるが……
「……郷に入っては郷に従え、と……仕方ない。私の力、存分に使うといい」
「わーい! ありがとうユエちゃん! ついでにハーちゃんも!」
「おいおい、ついで扱いは酷いじゃないか。まあ、良いデモンストレーションにはなりそうだ」
ミレディに勢いよく抱き着かれ、ユエがぎゅむっとなる。純粋な好意故に、ミレディだけど何か気恥ずかしい。ハジメはさらりとスルーされた。
スリスリしてくる頬を押し退けて、ミレディが我に返った。リーダーの顔に戻ったらしい。
「ハーちゃん、早速頼むようで悪いんだけど、転移系のアーティファクト……それも、大規模で運用出来るものはある?」
「あるな。空間魔法でゲートを作り、そこを渡るものなら」
「使用に何か制限は?」
「条件は、向かいたい場所に据え置き型の端末が無いと使えない。距離の制限は……試してないが、無いと思っていいな」
オスカーとナイズの目が見開かれた。ゲート機能のあるアーティファクトをナイズと協力して製作しており、実用性は高いのだが、ここでボトルネックとなったのが距離だ。未だ、輸送に適するほどの長距離転移に至っていない。
〝錬成師〟として、恐らく……いや、間違いなく、ハジメの技術は卓越している。それこそ、自分なんて歯牙にもかけないくらい圧倒的に。
オスカーに、脂汗が滲む。
「それじゃあ、共和国へ救援に来る時は、そのゲートを使うように。移動時間をなるべく減らしたいからね」
「……となれば、僕達は隠れ里の方に専念する、ということだね?」
「うん。オーくんは、新しい隠れ里の環境を一刻も早く仕上げて」
オスカーにも、少しくらいは含むところはある。ハジメという、道すがら出会い仲間となった強力な錬成師を、ミレディが主戦力として樹海に連れていくのだ。自分より強いと言えど、やはり納得と言うのはいきづらいもので……
だが、ハジメの妻……ユエには家族を救ってもらった恩がある。そして他ならぬ
故に、
「ハジメ、ユエ。ミレディの事を、しっかり頼んだよ」
「任せろ。あいつの扱い方には慣れてるからな」
「……言わずとも」
目指すべき目標である彼に、ひとまずはリーダーを託す。彼なら……彼らなら、きっとリーダーの助けとなってくれる。
そうすれば、自分は安心して自分の仕事が出来るのだから。
「了解した。最速で仕上げよう」
決意を新たにして頷くと、ミレディも頼もしげに笑顔で返す。
「それだったら、ヴァンちゃん! 魔物達の育成に力を向けてくれる? 輸送にはゲートが使えそうだからね」
「ああ。統率種の育成が終わってない現状では、戦力としてはまだ不安が残っていた所だ。……が、心配は要らん。間に合わせよう」
ヴァンドゥルが直接指揮せずに自立行動を可能とする従魔──〝統率種〟は、変成魔法をもってしても新たに生み出すには時間がかかる。現時点でヴァンドゥルが擁する統率種は、スライム執事バトラム、飛竜ウルルク、氷雪狼クオウの三体。
この三体は、戦争に勝つ為には重要な力だ。しかし、だからといって連れて行けば、隠れ里の護衛が居なくなってしまう。その護衛として、新たな統率種が必要となったのだ。
心配は無用だと、ヴァンドゥルが肩越しに振り返る。そこにいるのは、黒メッシュの赤髪の魔人族の女戦士、マーガレッタを始めとするシュネー一族が片膝を突き、敬意を表した。
彼らは、シュネー雪原……この頃は黒の大雪原と呼ばれた南大陸の豪雪地帯を住処とする魔人族の一族で、元々は魔王国が教会に対する即戦力として、種族の特性を物理的手段によって獲得させる実験を受けさせられていた最初の被験者達なのだ。
ヴァンドゥルを助け出すことによって、彼らも仲間となった。解放者の実働、及び後方支援のメンバーとしてこの上なく優秀な人員であるので、今回の新たな隠れ里作りではミレディも頼りにしている。
「向こうの状況は追って伝える。隠れ里の状況を鑑みて、どの程度の戦力を里の護衛に残すかはマーシャルの判断に任せるね。あ、でもミカエラは来て欲しいかな」
「おうよ。任せろ。向こうにも実行部隊はいるからな。少なくとも俺とミカエラは行く」
「はい、必ず。戦場でこそ私の〝魂の眼〟は本領を発揮しますからね」
「うん。二人とも頼むね」
その他に、魔王国の調査と細々としたこと、ミレディ弄りやナイズロリコン疑惑、オスカーとヴァンドゥルの喧嘩、どよ〜んとしたミカエラとそれを慰めるマーシャル……
いざ樹海に出発しようと思えば、このカオスぶりである。
広場のあちこちで何かしらが起きていて、ハジメらは完全に置いてけぼりだった。顔もピクピクと引き攣ってしまっている。
「俺、もう帰ろうかな」
「……駄目だこいつら、早く何とかしないと」
「〝解放者〟って、意外とこんな感じの人達なんですね……」
結局このカオスは、オスカーが暮らしていた孤児院の院長さんにして、〝皆のお袋さん〟のモーリンお母さんによって、
「いつまでも遊んでないで、お仕事しなさい」
と、妙に迫力のある笑顔をでメッされてから、それぞれ広場を飛び出していった。
「……こういう時、シアがいたら早そうだよなぁ」
「……ハジメ、何でもかんでもシアに頼りすぎ」
「そうですよ。ハジメくんは、もう少し限度を覚えた方がいいと先生は思います!」
「……うっす」
そしてこちらも、いつもメッしてくれる存在に頼りきりな事に気付いてしまうのだった。