ありふれた職業は零でも世界最強   作:うぇいうぇい

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ハジメ&ド変態とリューティリスが出会ったら 2

 

 ハジメが一人悪寒を感じる中、リューティリスが少し早口で、ちょっと頬を赤らめつつ隣の猫人族の老女に言う。

 

「パーシャ。ごしゅ──ハジメ殿に、いえ皆さんに部屋の用意を。わたくしを護衛してくださるというのだから、当然王宮の中ですわよ? 可能な限りわたくしの近くに。間違っても粗相のないよう、女官達への指示を忘れぬよう頼みますわ」

「陛下、それは少々無警戒かつ厚遇すぎるのでは──」

 

 周り人全てが、うんうんと頷くが、何故だかリューティリスはキリッとした表情になった。

 

「異論は認めませんわ!」

「はぁ。承知しました。ですがその前に、まず我々を紹介してはいかがか?」

 

 この猫人族の老女、パーシャ・ミルはこの国の宰相にして、リューティリスの右腕的存在なのだが、とても表情が思わしくないというか、胃痛を堪えている様子で返事をした。

 

 リューティリスはそれを聞いて、どことなく面倒くさそうな顔をした──ように見えた。少なくともハジメは。

 

 宰相のパーシャ・ミル。戦団長兼戦士団戦士長のシム・ガトー、遊撃戦士団戦士長ヴェルフ・ルーガル……といった具合に、リューティリスが雑な紹介をして、重鎮の皆さんが悲しげというか、微妙な表情だった。やっぱり紹介が面倒くさかったらしい。

 

「わたくしはこれより、ハジメ殿に──ではなく解放者の方々に王宮を案内します。個人的に、同じ神代魔法使いとして話がしたいので近衛は距離を取るように。パーシャは一緒で構いませんわ。では参りましょう。ごしゅ──ハジメ様。皆様」

 

 さりげなく、ハジメ殿からハジメ様に呼び方が変わっているが、有無を言わさずミレディ達を案内しようとする。

 

 いろいろ言いたいこと、聞きたいことはあるものの、女王陛下の勅命だ。

 

 クレイド*1とシム達は渋々といった様子であったが、パーシャ宰相が傍にいること、苦笑いを浮かべたバッドが「人質代わりに俺は残るからよ」と提案したこともあって、リューティリスとミレディ達だけの時間に引き下がった。

 

 その様子を見て満足そうにリューティリスが微笑み、ミレディ達を奥へと促して、微妙な空気を置き去りにしたまま、軽やかな足取りで玉座の間を後にしたのだった。

 

 

 

 

 ハジメ一行は、リューティリスのとっておきの場所であるという、大樹の頂上へとやって来ていた。

 

 濃霧による真白のドームに覆われたそこは、まるで切り株のように綺麗な円状だ。しかも、リューティリスが守護杖を振るうとドームが消え去り、見えるのは絶景。雲の隙間から顔を覗かせる月や星々、そして、その月光に濃霧が乱反射してキラキラと輝いており、まるで宝石の海でよ見ているかのよう。

 

「ごしゅ──ハジメ様、いかがでしょう? ここからの景色は中々のものであると自負しておりますのよ?」

「……そ、そうだな。樹海の雰囲気に合ってて幻想的に見える。良いと思うぞ?」

「ごしゅ──ハジメ様が気に入ってくださって嬉しいですわ」

「……なぁ、リューティリス」

「どうされましたか? ごしゅ──ハジメ様」

「なんか距離感が近くないか? 一応国の──」

「まぁ、ハジメ様。同じ神の子なのですから、生まれは違えど、わたくし達は同胞ではございませんか。わたくしの事はリューとお呼びになって?」

「流石にそれは側近が怒り出すだろ。俺の持っている弾は無限じゃない。後始末が面倒だ」

 

 ハジメの表情は引き攣りまくっている。頰がピクピクして、こいつやべぇ……と思っている事だろう。

 

 だが、当のリューティリスは更にハジメに詰め寄る。ただでさえ近かった距離は、今やほぼ密着状態に。

 

「側近に関しましては、わたくしがどうにか致しますわ。……それに、わたくしとハジメ様の仲ではありませんか」

「いやさっき知り合ったばっかなんだが……距離を詰めるな。近い暑苦しい! とっとと離れろ!」

「いやですわ! ごしゅ──ハジメ様がリューと呼んでくださるまで離れませんわ! 離れませんわぁっ」

「い、威厳もヘッタクレもねぇ……おい、頼むから玉座にいた時みたいにシャキッとしてくれ」

「無理ですわ。公は公。私は私ですわ。さぁ、リューとお呼びになって?」

「……リュー、これで済んだか? ならとっとと離れ──」

「……嬉しい。では、わたくしもハジメ様をごしゅ──い、いえまだ早いですわ。では、〝お兄様〟とお呼び致しますわね?」

「どうしてそうなった!? おい、助けてくれ、ユエ!!」

 

 ハジメと言えど、シアよりもグイグイ来て、おいそれと暴力を振りかざせない身分の相手には分が悪いらしい。ユエに助けを求めるも、ユエは虚ろな目をしたまま、なにやらブツブツと言っているだけ。

 

 なんか、凄い仲がいい……と、リューティリスの公私の〝私〟の部分に、ミレディとナイズが驚いている。

 

 だがメイルだけ、なんだかちょっと嫌そうな感じ。

 

 しかしそれにしても、『ごしゅ──』はまだ早いとは、どういう意味なのか。

 

「ユ、ユエちゃん!? 早くしないとハーちゃん寝取られちゃうよ!」

「……アレに勝つ術を私は知らない。どんなに叩きのめされようと、邪険にされようと、這い上がってくる」

「え、ええと……?」

 

 焦った様子でユエに訴えかけるも、〝アレ〟とやらの話をされ、何の話かしらん? とミレディが首を傾げる。

 

 一方ハジメとリューティリスのやりとりを見ていたナイズが、パーシャに疑問を呈する。

 

「パーシャ殿。陛下のあれは? 随分と雰囲気が違う上に、ハジメにご執心のようだが」

「う、む。なんというか……これは国家機密というやつでなぁ」

 

 パーシャの語る国家機密を要約すると、〝戦士の士気に関わる〟〝何度も()そうとした〟〝病気〟らしい。

 

「病気、なんだね? それも凄く()し難い。だからメル姉の再生魔法を……」

「メイルの再生魔法なら可能性はある。だろう?」

「え、ええ。どんな病気も根本治療が可能だわ。でも、教えて。女王の抱える問題は何かしら?」

 

 視界の端には、不機嫌そうに顔を顰めるハジメと、グイグイと迫るリューティリスが見える。

 

 一体どんな病気なのだ、とパーシャを囲う三人。

 

 そして彼女は、死んだ腐った魚みたいな目で告白した。

 

「変態なのだ」

 

 取り敢えず、空気が止まった。ミレディとメイルが「ん?」と小首を傾げ、ナイズが耳をほじり、ユエは放心し、ハジメと盛大な冷や汗を掻いた。

 

「変態なのだ!」

 

 変態なのだ〜、変態なのだ〜、変態なのだ〜……と、その言葉は美しく木霊した。

 

「どこでどう育て方を間違えたのか! 苛められたり厳しくされたりっ、睨まれただけで興奮する真性の、ドMの、ド変態なのだ! あぁ、どうしてこうなった!?──」

 

 と、つらつら流れて行き……

 

「──いつまで抱えていればいいのだぁっ! あといくつ! ワシの胃に穴を空ければ気が済むのかぁっ」

「パ、パーシャさんっ、落ち着いてぇっ」

「い、いかんっ。過呼吸になっているぞっ」

 

 ハジメはそう語るパーシャから、ギギギッと錆びたブリキ人形みたいな動きで、未だ自分の腕に抱き付くリューティリスを見た。

 

「ハァハァ。パーシャったら。人気のない場所とはいえ、今日会ったばかりの方々を前でいきなり罵る(ご褒美)なんて──んっ」

 

 目の前の奇怪な生物が、同じく王族のド変態の駄竜と重なった。否、重なってしまった。

 

 ハジメは確信した。同族であると。もう、頰を引き攣らせる事はない。ただただ無表情になった。

 

 そのままそこにいるパーシャを見据える。

 

「なぁ、宰相さん。こいつ、堅いか?」

 

 宰相さんは、ゆっくりと瞑目して、頷いた。

 

「そうか……あともう一つ聞こう。何しても構わないか?」

「無論、傷は付けないでほしい」

「ならいい」

 

 ハジメがスッとリューティリスを睥睨する。リューティリスは更に呼吸が激しくなって、あつ〜い吐息がハジメの耳元に……

 

「──どきやがれ、この駄エルフが!」

「あひぃんっ!」

 

 思いっきりリューティリスの尻をブッ叩いた。魔衝波付きであり、本来ならばティオ用のご褒美なので、その威力は折り紙付き。しかも、外傷はほぼ無く痛みのみ。

 

 唐突に始まったSMプレイに、またも空気が止まる。

 

「んっ、ハァハァ……あまりにもっ、んっ! お兄様のが強烈過ぎて下着が濡れてしまいましたわ……こんなの初めてぇ……」

 

 口がへにゃり、瞳が潤ませてお尻に手を当ててうっとりしている。そこにはもう、女王では無くただの変態の姿があった。

 

 ミレディの頰の攣り方が尋常では無くなった。ナイズはそっと南の方角へ向き悲しい表情を浮かべ、メイルは「ハジメくんに任せてよかったわぁ」と心底安心している。

 

 リューティリスは、未だ無表情のハジメにしがみつき、ハァハァしながら情熱的な言葉を捧げる。

 

「わたくしの目に狂いはありませんでしたわ! やはりハジメお兄様こそ、わたくしの運命のお人!」

「チッ、姫様ってのはどいつもこいつも変態だな……」

 

 お姫様だけど私違うからっ、お姫様だけど!と、ワーカーホリックな王女様が否定しそうな酷い言い草だ。しかし事実ではある。ティオ然りアルテナ然り。

 

 そうやって、またしてもドSとドMが引かれ合ったらしい。ズリズリと這いずるようにハジメのもとへ。

 

「わたくしっ、わたくし本当はずっと! みんなわたくし〝で〟遊んでほしかったのですわ! でも、5歳の時にはもう昇華魔法に目覚めていてっ、ずっと特別扱いで! 次期国王と敬われてっ。誰も遊んでくれなかったのですわ!!」

「そんなの知るか変態女王。というかさっきから暑苦しい! 褒美はやるからとっとと離れろ駄エルフ!」

 

 歴戦のハジメでさえ余裕が無いらしい。宝物庫から取り出した黒い鞭──〝これは武器じゃありません、専用です〟でリューティリスをベシベシッと叩く。

 

「ゆ、夢にまで見た鞭でのお仕置き! もう、わたくし一生ついていきますわ! お兄様! いえ、ご主人様!」

「そっちの方が呼ばれ慣れてるわ!」

 

 と、ハジメが言い終わると、自分の発言に気付き、ハッとして奥にいる四人を見る。

 

 〝そっちの方が呼ばれ慣れてる〟……つまり、ハジメにはそういう関係の人が居るということになり。

 

 目が驚愕で見開かれ、〝うわマジかよこいつ〟的な視線を感じた。ハジメは崩れ落ちる。

 

 本来なら、ミレディ達は単なる主従関係で言われ慣れていると思っただろうが、今や先の行動から、SMの方に思考が傾くのは仕方の無い事だろう。

 

 ナイズがまた、遠方の友人のいる南に向かって遠い目をしている。友人と思っていた人がまさかのドSという悲しい事実に、助けを乞うような、そんな目を……

 

 ミレディがゆっくりとハジメに近付くと、優しげに微笑んだ。

 

「……ハーちゃん。よ、呼ばれ慣れてなんかないよね? 気のせいだよね? 単に、メイドさんとかが多いだけだよね?」

 

 確かに、ハジメが抱えるメイドは多い。間違ってはいなかった。

 

 なので、

 

「あ、ああ。別に、俺にドMのド変態は嫁に居ないぞ? メイドが十人いるだけだ。安心してくれ。俺は至って普通──」

「女王陛下!! ご歓談の中申し訳ございません! 火急の用でございます!」

 

 そんな中、ハジメの言葉を遮って大声を上げて突如現れたのは、翼人族の飛空戦士団戦士長ニルケ・ズークだった。

 

 リューティリスがスパッと素早く立ち上がり、女王モードに変化した。

 

「言いなさい」

「はっ、偵察隊から、突如空より超高速でこちらに落下する未確認飛行物体を確認したと報告が……」

「……場合によって臨機応変に対応を。その件に関しては貴女に一任、遊撃戦士団も動かしますが、一先ずは飛空戦士団で対応を願いますわ」

「御意に」

 

 ニルケが空へ飛んでいくと、場の空気が険しくなった。リューティリスは昇華魔法使っているのか、集中しているように見える。

 

「高速で……? まさか、神の使徒!? 私たちが出なきゃ不味いよ! アレは本当に不味い!」

「自分が外に出て姿を確認してこよう」

「ナっちゃんお願い!」

 

 ナイズが望遠用に眼鏡を掛けて転移すると、パーシャがリューティリスに呼びかける。

 

「陛下、玉座の間に一旦避難を願いますじゃ」

「分かりましたわ。皆様もこちらに」

 

 ハジメ達が再び玉座の間に戻ろうとすると、聞こえてくる音に足を止めた。

 

 何かの声が聞こえてくるような……?

 

「陛下、早く移動を──」

「──あぁぁぁああああーーーーーー!! 誰か助けたもぉっーーーーー!!」

 

 ハジメとユエの口が開いたまま固まった。

 

「魔力がないのじゃあああぁぁぁっーーーーーー! そこの翼人族の者よぉっ! どうか妾を助けて欲しいのじゃああぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 よく響くその声は、ミレディ達をも唖然させた。付け加えると、外の飛空戦士団も固まっており、ただただ落下する物体をボーッと見ている。

 

「アアアァァァァッーーーーーーー!」

 

 ハッ、このままじゃ!? とニルケが思った頃には遅かった。

 

 ──ズガァァァッ!!

 

「うぇへぶぁっ!!??」

 

 月の光に照らされながら降ってきたそれは、思いっきり大樹に叩き付けられ、床を抉りながら枝で出来た壁に衝突。酷い有り様になっている。

 

 更に、ナイズが転移して戻ってくる。

 

「すまん。あれを止められなかった」

「大丈夫ですわよ。これしきで大樹はへこたれませんもの」

「まあ、後で私が直しておくわ」

 

 それよりも……と壁にぶつかったそれを見る。

 

「……なんか、上半身が木に埋まって抜けなさそうだよ? 足がバタバタしてるし」

「なんだか、面白い人が降って来たみたいね?」

「ならば、転移で引き抜こうか?」

「いや、待て」

 

 転移で引き抜こうと提案するナイズを制したのはハジメだ。

 

「これは俺の案件でな。ちょっと手を出さないでおいてくれ」

「そうか……分かった」

 

 いつの間にかニルケも降りてあれを引き抜こうとしていたようだが、リューティリスに止められる。

 

「スイは居ますわね?」

「スイはここですよぉ〜陛下。外周を監視しているうちの偵察隊によるとぉ、地上の方は未だ動きが無いみたいですぅ……」

「報告、ご苦労様ですわ」

「失礼しましたぁ〜……ここまで上がってくるの疲れましたぁ。絶対、これ過重労働ですぅ」

 

 隠密戦士団戦士長のスイが、小さく愚痴を漏らしながら去っていく。

 

 そして、ハジメが和服姿の女性の下へ行くと、その身体を両手で掴んだ。そして、勢いよく……

 

「そぉ〜れ!」

「あひぃぃぃんっ!! も、もっと優しく抜いて欲しかったのじゃ…………ふぅ。妾を引き抜いてくれた助かった。礼を言おうぞ、翼人族の者……よ?」

 

 目が合う。女性は目をパチクリ。ハジメはジーッとその女性を見ている。

 

「大丈夫か? 怪我は……無さそうだな」

「ぬおっ!? ご、ご主人様か!? 全く、連絡も無しにどこをほっつき歩いとったのじゃ……割と心配したのじゃぞ?」

「悪いな、ちょいと事情があったんだ、ティオ」

 

 ティオの責めるような目線に、バツが悪そうに頭を搔くと、ハジメの背後から、そろりとユエが現れた。

 

「おお、ユエもおったのじゃな。となると、もしや愛子もおるのかの?」

「……今はいない。別の場所で農業に勤しんでる」

「愛子、あんなに農家はやりたくないと言っておったのにのう……」

 

 またも異世界農業ライフにせっせと精を出す愛子に遠い目をしつつ、むむ? とティオが目の前に現れた人物達を凝視した。

 

「やっほ〜☆ 初めまして! ハーちゃんと仲良くやらせてもらってる、ミレディちゃんでぇす!」

「む? ……なんじゃと!?」

 

 ティオが目の前の金髪美少女をまじまじと見て……心底驚いてか身体を僅かに仰け反らせた。

 

「ご、ご主人様よ、これはどういう事じゃ?」

『あ〜、ちょいと念話で話すがな。ここは〝解放者〟が生きていた時代のトータスだ』

 

 コソコソと話す体を装いながら、念話で現状なども軽く説明する。

 

『なるほどのう。また厄介事に巻き込まれるとは、確実にご主人様の体質故じゃろうな』

『おいこら、人をトラブルメーカー呼ばわりしてんじゃねぇ』

『ふふ、じゃが、来たからには、大昔のトータスで何が起きたのか、それを見ていかねばならん。この時代から、竜人の遺してきた記録が一度途絶えておるのじゃ。それを、後世に伝える必要がある』

『……なら、この時代の竜人の里に向かわないとな』

『そうなると、妾の身の上の説明が面倒くさくなりそうじゃな……』

『まあ、そこんとこはおいおい考えるよ』

 

 念話を切り、改めてティオが〝解放者〟に向き直る。

 

「申し遅れた。妾はティオ・クラルス。竜人族じゃ。ご主人様の第三の嫁をしておる。よろしく頼むのじゃ、〝解放者〟よ」

「うぇっ……うええっ!?」

 

 ミレディが驚きの声を上げたのを皮切りに、その場にいた翼人族やリューティリス達が僅かにどよめく。

 

 この時代では、竜人族は竜王国アストランという、鎖国状態にある国の中にしかおらず、教会も竜人は悪だというイメージを刷り込ませている。

 

 それ故に、こうして外界に出ている事が衝撃的だったのだ。

 

「って事は、ハーちゃんって吸血鬼族とも、竜人族とも繋がりがある……? しかも、五人のうちにも兎人族と海人族の子まで……? ハーちゃん、本当に何者!?」

「まあ、いいだろそこは。気にすんな」

「そう言われると逆に気になるよぅ……」

 

 確かに、と全員が頷いている。しかし、ハジメの出自は未来からやって来た神殺しの魔王さんなので、明かす訳にもいかず。

 

「それで、今は何をやっておるのじゃ?」

「あ、そうでしたわ!」

 

 機転を利かせたティオの話題転換に、ハッと、リューティリスがパチンっと手を合わせて声を上げた。

 

「では、わたくしのお友達を紹介させてくださいまし!」

 

 ──カサカサカサカサカサッ

 

 ──ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ

 

 謎の音が聞こえてくると、ティオはここが一体何処なのかを思い出し、即座に確信した。「あ、墓穴掘った」と。

 

「え、えっとちょっと待って、陛下。あの、なんか変な音が聞こえて……」

「あ、あら? お姉さん、鳥肌が止まらないわ」

「…………」

「これは……まさか!?」

「おいおい……連れてきやがったのか、こんな所まで!」

 

 ユエは無言だった。たとえその時の記憶を失っていようと、そもそものハルツィナ大迷宮で負ったダメージは覚えているから、想像がついてしまった。

 

 ハジメとナイズはしっかり覚えているので、顔を青ざめさせていた。

 

「わたくし、昇華魔法の他に、天職も持っておりますのよ」

「いや、だから陛下、今それどころじゃ──」

「特別に皆様にお教えしますわ。だって、お友達ですもの!」

「いつから貴女の友達になったのよ!?」

「お、おい、リュー。今すぐ、やめてくれ。頼む」

「まぁ! 遠慮なさらないでご主人様! わたくしの天職は〝蟲心師〟──虫類に関しては無類の観察力と理解力を発揮し、また虫にとても好かれやすいという希少なものなのです。そこに昇華魔法を合わせれば……ふふ、わたくしには百万匹の友達がいますのよ?」

 

 ミレディとメイルの記憶の蓋が開けられようとして、それを必死に押さえつけるが、既に冷静ではいられなくなった二人はただ立ち竦む。

 

「わたくし、特別ですから……」

 

 幼少から友達の作り方が分からず、次期女王として対等に扱ってくれる存在もなく、自分から会話をすればなぜかみんなの表情が引き攣るし……と、悲しいことを笑顔で語る、とても見ていられない女王様。

 

 そんな女王様の心の慰めは、いつだって人ではない〝お友達〟だった。

 

「紹介致しますわ! 彼こそわたくし自慢の、初めてのお友達! いいえ、親友!」

 

 リューティリスが両手を広げると、どこからどう見ても黒い奴等の集団である黒い霧が噴き出し、大樹の幹から登ってきただろう奴等も雪崩のように殺到する!

 

「深森統べる至上の覚知者、遥か尊き漆黒の賢王──蠢動暗黒のウロボロスくんですわ! 親愛を込めてウーちゃんと呼んであげてくださいませ」

 

 リューティリスの手に乗ったウーちゃんが、皆の者! よろしく頼むぞ! と言いたげに、触覚をピンッと立てた。

 

 まず始めに、明らかにリューティリスがつけたであう厨二病な名前に、しかもそれがゴ◯ブリであることも助けてか、ハジメが精神を抉られて倒れ、ユエがピンッと触覚を立てるそれを見て記憶の蓋が開放。バタリと地面に倒れる。

 

「ご、ご主人様!? ユエ!? わ、妾を置いていかないで欲しいのじゃあああ!!」

 

 一人置いていかれたティオが二人を必死に揺さぶって起こそうとするも、ハジメは「うっ、俺の左手がっ」と呻き、ユエは「バカオリ〜、許さん〜!」と、ここには居ない宿敵を相手に、夢の中で格闘していた。

 

 ティオの顔が絶望に染まる。

 

「うぼぁっ」

「ミレディーーーっ、メイルーーーっ!!」

 

 Gの集団にひどいデジャブを覚えたミレディとメイルが、記憶の蓋を開けてしまったらしく、仲良く揃って現実を放り投げ、ナイズが顔面往復ビンタで叩き起こそうとしている。

 

 ゴ◯共に包まれながら、ティオが二人の介抱をし、ナイズは二人を子の現実に二人を巻き込むべく叩き起こしにかかっている。もはや、その様相はカオスの一言だ。

 

「た、頼む、誰か来てたもう! 来て早速これとか、ちょっと有り得んのじゃあ! シアか香織でもいいから、誰か来てたもぉ〜〜!!」

「オスカーッ、ヴァンッ、自分はもう限界だ! 早く来てくれぇーーっ!!」

 

 百万匹のお友達に囲まれながら、魂の叫びを上げるティオとナイズ。

 

 それを見て、リューティリス*2はウーちゃんと揃って小首を傾げ、パーシャ宰相は溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 翌朝。

 

 ハジメは目の前の奴らに何だか憤りを感じていた。

 

「……おい、お前ら。いや特にお前」

「ヒッ……ス、スイ*3に何の用ですかぁ?」

 

 目の前の奴らとは、そう。兎人族達で構成された戦士団こと、隠密戦士団のことである。

 

 何故か、ティオと再会してからの記憶が曖昧になっていたので、何だったかと思い出そうと散歩していたところ、いつの間にか隠密戦士団の兵練所というのに来ていたのだ。

 

「生物はあまりに気にしていないのが、まあ今との違いか……だが、覇気とか殺気が足らんな」

「……いやあの。そんなのスイ達に必要ないです。気配隠して毒吹っ掛けるだけですし」

 

 ごもっともである。そもそもあのハウリアが異常になっただけであって、兎人族は本来温和な性格なのだ。

 

「……リューに確認を取ってみるか」

 

 そして赴いた先は玉座の間。リューティリスが少し欠伸をしながら玉座に座り込んでいた。

 

「ごっ──ほん。ハジメお兄様、どうされたのですか?」

 

 お兄様!? と、リューティリスの呼び方に周りにいた近衛兵や僅かにいた重鎮達が目をひん剥いた。

 

 取り敢えず、公で〝ご主人様〟と言いかけたことも、〝お兄様〟呼びも気にしない事にした。

 

「ああ。まあ、戦争を手っ取り早く終わらせる為に、ここの戦士団の強化を図りたいんだが、隠密戦士団が最弱だと聞いてな。俺にはあいつらのポテンシャルを最大限に発揮できる方法を知っているんだが、軍曹……じゃなくて、教官に任命とかして貰えないか?」

「ええ、構いませんが……まさか、あのスイをどうにか出来ると、そう仰っているわけですわね?」

 

 リューティリスをして、そこまで言わせる人物……それが、隠密戦士団戦士長のスイだ。

 

 女王に忠実ではあるし、しっかり仕事もしてくれるが……素行がアレだからか、手を焼いているようだった。

 

 にわかに重鎮達や戦士達がざわめく。「まさかあのスイをか?」「無理だろう、あれが更生するとは思えん」「だが、あのスイがウザくなくれば、我々の心労は癒えようぞ」「賭けてみる価値はある」などなど、いかにスイの存在がある意味大きいかが判る。

 

 そんなにか……と顔を引き攣らせつつ、リューティリスに頷いた。

 

「大丈夫だ。まあ大船に乗った気分で任せてほしい」

「では、お兄様を隠密戦士団の指南役とします。スイをよろしくお願いしますね?」

「任された」

 

 ハジメの中のハー◯マンが、再び動き始めた……

 

 

*1
近衛戦士団戦士長。知的な豹人族の男。知的そうな雰囲気を崩しながら、さっきからリューティリスに異議を訴えようとしていたが、陛下が全然話を聞いてくれない。結構悲しい。

*2
簡潔に言うと、〝見た目詐欺〟〝天然〟〝ドMの変態〟〝ぼっち〟〝友達は虫だけ〟〝ネーミングセンスが痛々しい〟女王様。属性が多過ぎて大混乱になっている。メイルをお姉様と慕う。〝守護杖〟という代々共和国の王に受け継がれるアーティファクトを用いる事で、大樹に干渉、白霧の操作、樹海の再生、日光の取り入れ、日照時間に関係なく作物が育つ土壌の生成etc……といった権能を行使できる。現代トータスの森人族の姫様、アルテナの超強化版的な存在。

*3
隠密戦士団戦士長。非常に怠惰な性格をした兎人族の十六歳。気配遮断はお手の物。更に固有魔法〝曲光〟で物理的に身を隠せる。敵に謝罪したりヨイショしたり、責任転嫁は当たり前、保身に余念が無いなど、色々と情けないクズウサギ。〝人を苛つかせる天才〟〝なのに敵に回したらやべぇのが本当にむかつく〟〝でも結果は出すからなんとも言えない……ってところがもう本当に腹立つ〟と仲間に言われる始末であり、有能なのに嫌われている、戦士団きっての問題児。

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