「冬月のプレゼント」と同じ時間軸の短編です。
内容はタイトル通りです。
※2021/12/28 09:28にダイレクトメッセージを頂き、承諾を頂いたので公開させて頂きます。この場を借りてお礼厚く御礼申し上げます。
その日の第三村は12月の下旬にしては最高気温15度と温かいものだった。四季が戻って来た日本で、人々はクリスマス寒波と言うものを体験した。少年少女…だった彼らにとっては初めての体の芯から冷える寒さだったが、冬月と言うサンタクロースの出現で、心はホカホカに温まった。小春日和と言う久しぶりに聞くこの陽気で御用納めも終わった休日とあれば、健全な男女ならば外に出て遊び回りたいところだが、それを阻む老人の存在があった。
「年末の大掃除ですか?」
普段から掃除の行き届いている冬月家では、集まって特別に大掃除をする必要は無いように思えた。冬月が提案したのは、第三村の住民たちの家を戸別訪問してボランティアで大掃除を手伝う事だった。
「アタシはパス。故郷のドイツじゃ暖かくなった春に大掃除はするものよ」
「日本では、すす払いと言ってね。正月準備を始めるための大切な行事なんだよ」
郷に入っては郷に従え。アスカも日本の生活に馴染もうとしなかった時に諭された。ましてや今日は第三村にある其処彼処の家で大掃除が行われている。年端も行かない子供たちも手伝いに駆り出されている。そんな中、大人となった自分たちが遊び歩いていれば嘗て保護者であった冬月への住民の印象も悪くなる。いつも自分たちに目を掛けてくれる冬月に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
「それで僕たちは村の人たちの大掃除を手伝えばいいのかな?」
使徒であった青年の両手にはハンディモップが握られていた。人並外れた身体能力を持つ彼なら、高くて手が届きにくい場所の掃除は適任だ。さらに屋根裏などに住み着いてしまった鼠やハクビシンなどの害獣駆除もお手の物である。
「君は台所周りの掃除を頼む。いつもの事だ、慣れているだろう?」
冬月家での料理経験を活かして、シンジは洗剤や重曹などの掃除用品を見事に取り揃えていた。第三村で暮らす老人所帯も少なからずある。彼らの家には定期的に民生委員が訪問しているが、台所の掃除までは手が回らないのだ。
「私は神棚や仏壇のお掃除をすればいいのね」
「ああ、レイ君。神聖なものだから、よろしく頼むよ」
レイははたきや雑巾など、シンジに比べて簡素な掃除用品でまとめていた。繊細で丁寧な掃除に置いては彼女の右に出る者は居ない。大切な物の掃除を任せても安心だろう。
「何でアタシはモップ掛けなのよ!」
「ちょっと姫、モップを振り回しちゃぁ危ないよ」
冬月は口には出さなかったが、アスカは熱意はあるのだ。しかし少し力が入り過ぎてしまう所がある。何か物を壊してしまっては一大事だから、広い公共施設の清掃などを頼んだのだ。差し詰めマリはお目付け役。
「すす払いをして幸運を呼び込んで、素晴らしい新年を迎えようではないか」
「おー!」
冬月の号令の下、彼らは村へと散って行った。冬月も大掃除に参加したかったが、他にやるべき事がある。NERVやWilleが残した負の遺産を大掃除してしまわなければならないからだ。エヴァの無い世界へと書き換えられたとは言え、変化してしまった日本の地形など、セカンドインパクト前と全く同じとはいかない。
「結界柱もやっと処理が始まったようだね」
「はい、今年のうちに少しでも減らしておきたいと思いまして」
大地のコア化から第三村を守ってくれた功労者である黒と赤の文様が刻まれた柱。正式名称は相補性L結界浄化無効阻止装置。長いので通称は結界柱と呼ばれている。役目を終えた結界柱を文化遺産として保存すべきとの意見もあるが、全てを残す必要は無いだろう。
「君たちは鉄塔の清掃活動かね?」
「はい、大事なインフラですからね」
第三村に電気を送る電線を中継する鉄塔は鳥獣の糞害に悩まされていた。
地球の生態系が回復すると同時に、野鳥たちの数も増えて来ているのだ。
「慎重に行ってくれたまえよ」
冬月は作業員に声を掛けて視察を続ける。定年再雇用で働く冬月は、NERVに居た頃の程の忙しさは無い。しかし彼は休日も第三村に暮らす孫、子供、兄弟のために尽くしている。冬月にとって第三村の住民は家族なのだと言っては言い過ぎだろうか。
~旧公民館~
夕方になり、第三村の住民たちの大掃除の手伝いを一通り終えたシンジたちは、旧公民館のホールで住民たちから歓待を受けていた。大掃除を終えた住民たちは浮かれた顔で飲食や談笑に興じている。初めは空腹を満たすために提供された食事を黙って胃の中に掻き込んでいたシンジたちだったが、腹が満たされると、ホールの隅のパソコンコーナーで行われている作業が気になった。
「無駄話をするな、黙って手を動かせ。これだから最近の若い男は!」
パソコンに向かいながら厳しい表情で部下と思われる男性たちに指示をする彼女だったが、シンジたちの姿を認めると、キーボードを打つ手を止めて昔日のような柔和な顔をシンジたちに向ける。
「一体何をされているんですか?」
シンジたちに尋ねられた彼女は、瓦礫の中から拾い上げられた、風化してしまった写真や手紙、画像データや音声データの修復作業を行っているのだと話した。大地がコア化され、逃げる時に置いて来てしまった思い出の写真や手紙を持ち主の手へと返してあげるのだと言う。
「ほら、例えばこんな手紙とか…」
『おとうさん、おかあさん だいすき』
差し出された幼い少女の手紙を見たアスカとシンジとレイは、自分が親になって、娘からこんな手紙が貰えたら嬉しいだろうなと思った。アスカとシンジの視線がぶつかると、みるみるうちに二人の顔は赤面して行く。
「アンタ、何を考えているのよ!?」
「アスカの方こそ!」
レイもほんのりと頬を赤く染めて行く。
「私も…碇君なら構わない」
シンジたちの様子を見守っていた冬月は、曾孫が生まれるまで、いや、曾孫の成長を生きて見届けてみせると意気込んだ。そのためには何度も年を越さなければならない。すす払いも終わり、正月準備も万端だ。
そんな第三村の来年は、とても良い年になりそうだ。
冬月さんの小説を書かれている5の名のつくもの様の、連載小説の三次創作をさせて頂きました。
原作のリンクは下記に貼らせて頂きます。
原作『ユイ君…本当にこれで良いのかね?』
「冬月のプレゼント」
作者様「5の名のつくもの」様
https://syosetu.org/novel/253960/
三次作品『冬月の年末大掃除大作戦 第三村の煤払い』
作者「朝陽晴空」
https://syosetu.org/novel/276748/
手紙の画像は、
『ようじょフォント』を使わせて頂いています。
たぬきフォント
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※この作品について、私個人が何かお耳汚しとなる発言をして価値を貶める事があってはなりませんので、後書きは書きません。
今後他の方の三次作品を書くにあたっても公平性を重視して、純粋に作品を公開するのみと致します。