忘れるトレーナーと彼を忘れないウマ娘達 作:気まぐれな富士山
『オラ!バカがイキってんじゃねーよ!』
『チョーシ乗って俺らに突っかかるからだ!』
『大人しくそのパートナーさんお持ち帰りさせてりゃあ許したものをよ〜』
『やめて!嫌!トレーナー!』
··········大丈夫。君は必ず助かる。
さっき、警察に電話をかけておいた。
コイツらが話した内容が全部警察署に流れてるハズだ。
『もーよ、コイツ殺してからその女ヤっちまおうぜ。』
何?それは許せないな。
ダメだ。そんな事させない。
『おいおい、まだ生きてんのかよ。』
『よっしゃ、いくぜ〜』
『嫌!ダメ!トレーナーァァァ!』
鉄の棒が顔に近づいてくる。
このまま当たれば僕は死んでしまうだろう。
ああ、ダメだ避けられない。
体が一切動かない。
··········でも、彼女の三冠を見届けられたなら、悔いはないな。
ごちゃり。
最後に聞こえたあの音が、肉と骨が混ざり、潰れる音が今でもずっと頭の中に響いている。
··········知らない天井だ。
自分は一体何をしていたのだ?
ここは··········少なくとも病院ではないな。
彼女はどうなった?警察に助けられたならいいのだが。
気になる事が多すぎる。しかし··········
見たところ何も無い、殺風景な部屋だ。
テレビ、冷蔵庫、エアコン、電子レンジ、パソコンが1台。
そして、ノートが1冊。
このノートはなんだ?やけに使い古されている。
No.31。何度も変えているようだ。
··········少し読んでみようか。
『このノートは
おや?これはどういうことか。
確かに、西重久とは私の名前だ。
そしてこの筆跡も間違いなく私のものだ。
あの事件、ということは昨日や一昨日の話ではないということか。
しかしそれでは記憶の説明がつかない。
続きを読んでみよう。
『まず、自分はあの時(20XX-12月24日)の悪漢たちに襲われ、前頭系健忘症というものになってしまったため、あの事件以降の記憶が続かない。偶に自分の置かれている状況もわからなくなるため、この様にノートを書くようにしている。』
成程。それなら納得だ。しかし、よくそれで生活できているな。
『生活に関しては、今まで担当した経験と実績で貯まった貯金で生活している。生活費等も毎月引き落とされる様になっている。薬に関しても、病院から毎週送られてくる。』
トレーナーという職業に感謝だ。しかし、それならばトレーナーとしての仕事をこなすべきなのでは?
『自分について、他人には教えないこと。警察の事情聴取等も個人情報を主張すること。名前だけは知られているが、それ以外は全て自分でこなすこと。食事はカフェテリアでこなすこと。職員棟にはあまり顔を出さないこと。(どうせ忘れると相手にされないから)トラックには顔を出しても良い。トレセン学園近辺の地図はコートの胸ポケットに。しかしあまり外出はしないこと。』
おや?これもまた解らないな。
··········いや、なるほど。確かに理にかなっている。他の者に任せてしまえば、騙される可能性は否めないからだ。たしかに個人情報等を管理されてしまえば、困るのは私だけでなく、置いてくれている理事長や、その他の人に迷惑がかかって仕舞うだろう。それを避けるためには自分のことはこのノートで完結させるべきだ。
次の頁は··········
『注意!ここからはかなりショッキングな内容だから、一呼吸おいてから読むように。読んだあとも決して慌てず、適切に対処するように!』
なんだ?このやけに誇張するような表現は?
記憶が無い時の僕に何かあったのだろうか。
気になる。しかし、この次の頁。
何故だろう。とても嫌な予感がする。
ここで開かなければ僕はその不安を受けずに記憶を消せる。
しかし、ここで読まなければ前の僕が残した物が無駄になる。
··········覚悟を決めた。読んでみよう。
『自分は今、謎の者に付け狙われている。』
··········これは予想していなかった。
しかし、付け狙われている?
なぜ、一介のトレーナーである僕を付け狙う必要があるのか。
何かあったのだろう。しかしその何かが思い出せない。
『犯人の名前は解らない。付け狙われている理由も解らない。しかし、自分は狙われているということは、嫌にでも感じるだろう。』
これは少し自意識過剰ではないか。
いや、僕は消して自意識過剰な方ではない。
むしろ、理論だったものでないと納得できない性分だ。
その自分が記した物なら、何かあったのだろう。
··········む。次の頁のこれは··········
『探せ。』(写真が1枚)
何だこれは。
これでは、顔がわかっていてもそれ以外が何も解らないではないか。しかもウマ娘。
しかし··········この者に出会えば何かを思い出せるだろうか。
それに、どこかで見た顔だ。どこだったか··········
いや、なるほど。つまり僕は事件の前にこのウマ娘に出会っている。または何かの拍子に記憶しているのか。
『今現在の自分の予定は最新の頁へ。では、ここまでを新しいノートに写すように。』
··········ここからは今現在の記録が続いている。
このノートは3月28日から使われているな。
もしかするとこの大きい引き出しには。
やはり。今までの30冊のノートが積み上げられているな。
しかし、ここが中央トレセン学園だというのなら。
きっと会えるはずだ。
コンコン「··········?どうぞ。」
「·····おや、今回はもう読んでいる様だね。」
「君は··········?」
「シンボリルドルフだ。この学園の現生徒会長を務めている。今日は私の当番の日でね。君を起こしに来たのさ。」
「僕は赤ちゃんではないのだが··········」
「いやいや、君のためではなく、私たちが忘れたくないのさ。」
「私たち··········?」
「いや、こちらの話だ。」
もしや、何か約束事などあったのか。
ノートを確認する。
『4月18日 ──明日はメイクデビューを生徒会のメンバーと見に行く。』
今日の日付は4月19日。
「今日は約束の日だったか。」
「もうそのノートで確認しているのか。もしかして、覚えているのかい?」
「いや、なんというか、勝手に··········」
「まあ、そういうものという事だ。では、行こうか。」
「わかった。」
まあ、なんとかなるだろう。
だって、何があっても忘れてしまうのだから。
そう考えると虚しいものだ。
しかし、そんなものは人ではない。
取り敢えず、今を人間らしく生きてみようか。
この話題は、『殺人鬼にまつわる黙示録』という小説を元に作成しています。調べてみてね!