転生者影山の華麗なる日常   作:雪見ダイフク

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突撃!隣の雷門中!!(裏)

 side 鬼道

 

「こちらが先日の練習試合の資料になります。総帥」

 

「うむ。ご苦労」

 

 俺が目の前の男、我が帝国学園の総帥である影山零治に手渡したのは、つい先日に行われた雷門中との練習試合についての資料だ。

 昨年のフットボールフロンティアで準優勝という成績を収めた強豪、木戸川清修の元エースストライカー、豪炎寺修也の情報収集を目的に実行されたこの試合は、形式上は俺達帝国の試合放棄という形で幕を閉じた。

 この結果を受けて、一部では帝国が恐れを成して逃げ出した、などという世迷い言が出回っているそうだが、そんな事はどうでもいい。

 

「総帥、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

「何だい?言ってみるといい」

 

 ぱらぱらと資料を捲りながらそう言う総帥の視線は、手の中の資料に向いたままだ。俺の質問に答える程度は片手間で十分という事だろう。いつもの事だ。

 

「雷門との試合の真の意図はどこにあったのですか」

 

「……と、言うと?」

 

 ここで始めて総帥は俺の方へと顔を向けた。どうやら珍しく気を引けたらしい。

 

 さて、俺のこの質問の意味だが、言葉の通りでしかない。豪炎寺の情報収集という建前をつくってまで雷門と試合をした意味を俺は知りたい。

 確かに、中学サッカーの伝説のストライカーとまで呼ばれる豪炎寺の情報には価値がある。ただ、今までの情報であれば昨年のフットボールフロンティアの映像資料からでも読み取れるし、強豪校へと転校したならまだしも、雷門などという無名のチームで埋もれていくであろう存在に、わざわざ時間を割く意味は薄い。

 

 そもそも、総帥ならこんな回りくどい事をせずとも、既に豪炎寺の情報など入手できているはずだ。

 総帥のデスクの上に山積みになった書類の束。あれは本来ならこの人が処理する必要がない物も多分に混じっている。

 中学サッカーの情勢や帝国学園内部からの報告の数々、加えて表立っては話す事ができない内容まで、全ての情報は総帥の元に集まる。

 総帥本人は、この帝国学園から動く事は殆どない。しかし、総帥の部下である帝国の諜報員達は常に日本全国を飛び回っている。恐らく日本の、特に中学サッカー界の事で、影山零治という男が認知していない事実は存在しない。

 

「円堂守、真の目的はあのキーパーだったのではないですか」

 

 それなら、単に事実確認をしておきたかっただけ、というのが一番しっくりくる。帝国最強の必殺技たる【デスゾーン】を止める程のキーパーが居るのなら、その目で実際に確かめようとするのも頷ける話だ。無名の選手の、それもまだ習得できていない必殺技の事まで把握している辺り、恐ろしい情報収集能力だが、総帥なら有り得ないとは言い切れない。

 

「……円堂……守……?鬼道、それは雷門のキーパーの名前かい?」

 

「?ええ、そうですが」

 

 円堂の名を聞き、訝しげな表情を浮かべているが、名前を知らなかったのだろうか。いや、この人の事だ。興味が無かったから名前を覚えていなかっただけだろう。

 

「円堂守……円堂……ああ、そういう事か」

 

「総帥?」

 

「鬼道、キミの質問に答えよう」

 

 何かに納得した様な言葉を呟く総帥に、どういう事か問おうとするも、鋭い声にそれは遮られた。

 

「それはキミが知る必要のない事だ」

 

「……答えになっていませんが」

 

「言い方を変えよう。キミが知るべきではない事だ」

 

「……分かりました。失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺には総帥が何を考えているのか分からない。いや、そもそも理解しようとする事すら、間違っているのか。

 

 初めてあの人にあったのは、もう随分と前になる。

 当時の俺は幼くして親を亡くし、妹と二人で孤児院に世話になっていた。辛い事も多かったが、妹と助け合いながら必死に生きてきた。それはこれから先もずっと変わらないのだと信じていた。

 それが変わったのは、間違いなくあの人の来訪が切っ掛けだった。

 

 その日は、孤児院に鬼道財閥の社長だという人物が訪れていた。なんでも、自分の後を継がせる為の養子を探しているらしいが、自分には縁の無い話だと思った。

 だからその日も、いつもと変わりなく庭でサッカーボールを蹴っていた。すごいすごいとはしゃぐ妹の姿に頬を緩ませつつも、リフティングを続けていた俺は、ふと見覚えの無い人物がこちらを見ている事に気づいた。

 誰だろう?そんな疑問を抱きつつも、そこまで気にはしていなかったが、その人物が徐ろにこちらへ近づいて来たので、俺は妹を下がらせ、その男を睨み付けた。

 サングラスと長髪が特徴的なその男の容貌は、幼い俺にはとても怪しく見えたものだ。

 

「誰だお前」

 

「私の名前は影山零治。キミは?」

 

「……有人」

 

 少し躊躇ったものの、本当に不審者であれば、こんなに簡単に敷地内には入れないだろうと自分も名乗り返した。

 

「有人、キミはサッカーが好きか?」

 

「?うん」

 

「もっとサッカーが上手くなりたいか?」

 

「……うん」

 

「そうか、ならば────」

 

 その時差し出された手を、言葉を、忘れた事はない。

 

「私と共に来るがいい。キミに知恵を与えよう。技術を与えよう。誰にも負けない力を与えよう。────私がキミに、全てを与えよう」

 

 怪しく思っていた気持ちが、全て吹き飛んでしまった。完全に、その男の放つ雰囲気に飲まれていた。目の前の存在が、まるで神様の様に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、俺はその男の提案に乗った。

 俺の了承を得た男は、鬼道財閥の社長を俺と引き合わせ、養子にする様に進言した。社長、後に俺の養父となる男はその言葉を受け入れ、俺を養子とする事を決めた。

 

 妹と離れ離れになる事を思えば心苦しい選択ではあった。だがそれは同時にチャンスでもあった。

 このまま孤児院にいつまでも居られる訳ではない。どちらにせよ、いつかは別々の家に引き取られる未来が来る。ならば、俺は自分の可能性に賭けたかった。

 結果を出せば妹を自分と同じく、鬼道家の養子として迎え入れる事を条件に俺は鬼道有人になった。

 

 しかし、俺が自身の行く末を定めたのは、何も妹の事を思ったからだけではない。俺はきっと、純粋に見てみたくなったのだ。影山零治という男について行った先に見れる景色を。その世界を。

 

 

 それからは目まぐるしく日々が過ぎて行った。鬼道家の跡取りとなるべく、学業や習い事をこなす傍ら、総帥とのサッカーの訓練に明け暮れた。

 

 そんな日々がずっと続き、長年の努力が実り、俺はフットボールフロンティア優勝の偉業を成し遂げた。

 この結果には養父も納得してくれており、もし三連覇を達成した暁には、妹を養子として正式に迎え入れる事を約束してくれた。

 

 あの日、総帥が言った言葉は間違っていなかった。俺は色々なものを手に入れた。そしてそれは、総帥が居なければ成し得なかった事だ。総帥には感謝してもし切れない。

 

 ………だが、総帥とそうして長く接すればする程、俺は総帥の事が分からなくなってきた。

 

 あの人は、俺を含めて帝国学園というものに、恐らく興味を持っていない。俺が何を達成したとして、その表情が変わる事はなく、サッカー部員達への指導も、的確ではあるが言葉に熱はない。校内で何か揉め事が起こった時なども、そうかの一言だけで聞き流して報告資料にも見向きもしない。

 

 時に飄々として掴みどころの無い一面もあれば、一切の容赦無く敵を叩き潰す苛烈な一面もある。

 

 先日の雷門との練習試合の時もそうだ。あの時、俺達は豪炎寺を引き摺り出すべく、雷門中を圧倒した。

 だが総帥はその程度では良しとしなかった。総帥から通信が入っていると聞き、俺は嫌な予感を感じた。だからできれば何かを言われる前に通信を切りたかった。結局、それを見越した総帥に阻まれた訳だが。

 

 総帥は言った。もっとやりようがあるだろうと。このままでは相手が潰れるぞ、と。

 

 これだけ聞けば相手選手の身を案じている様に聞こえる。だがそうではない。総帥はそんな生温い考えを持って発言した訳では無い。総帥の言葉の真意はこうだ。

 

この程度で済ませるつもりか?どうせ潰れるのならもっと容赦を無くせ。

 

 総帥は試合前に俺に言った。どれだけ実力差があろうと手は抜くなと。潰れる様ならそれは仕方ないのだと。わざわざそんな事を言ってくると言う事は、つまりそういう事なのだ。

 豪炎寺修也、円堂守。可能性は低くとも、いずれ帝国の脅威になり得る可能性を持った二人。それを今のうちに潰しておくのがあの試合の目的だったのだ。

 試合放棄をした理由は分からないが、あの展開が総帥の理想とは違ったものであったのは間違いない。俺にも何か罰があるかと思ったが、試合の報告資料を提出する様に言われただけで他は何もなかった。

 

 諦めたのかと言えば、それはないだろう。総帥の苛烈さは、帝国の四十年の歴史が証明している。

 

 四十年間連続の全国大会優勝。世間はそれを、前人未到の偉大なる記録として褒め讃える。

 しかし、それは本当に可能なものなのか?選手の質、数、才能、人間関係。年代毎に全く異なるそれを掌握し続け、日本一の座を維持し続けるなど、それは人間の所業ではない。

 

 そういった前提を持った上で調べれば、帝国の優勝の歴史にはいくつもの疑念が浮かび上がる。時折、明らかに帝国に都合が良い様な出来事が起こるのだ。それも、決まって予選や本戦の決勝といった大事な試合の前に。帝国の脅威となり得る選手の身に。

 

 例を上げれば、昨年の豪炎寺の件もそうだ。気になって調べてみれば、全国大会決勝の当日に妹が事故に遭ったらしいが、いくら何でもタイミングが良すぎる。

 もちろん証拠は無い。だが有り得ないと否定する事もできない。

 

 もしそれが本当だとするなら、そんな勝利には何の価値も無い。けれど、総帥はきっとそうは思わない。

 

「俺はどうするべきなんだ……。総帥、貴方は何故───」

 

 

 貴方は、俺を信じてはくれないのか?




これ裏というかただの別視点では……?
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