・王の財宝
・無限の剣製
・直死の魔眼
名前なんてない、と言い捨てた登と同じエメラルドグリーンの目を持つ魔人の不機嫌そうな様子に対し、蜘蛛の怪人は焦りを隠せずにはいられなかった。
自分が食い物にするつもりであった少女と一緒に
悪魔は空に右腕を伸ばすと、再度、紫電を奔らせる。
やがて口を開いた髑髏に刃が挟まったようなデザインの
「俺の
「だから、俺は誰でもねェ。お前に名乗る名前なんてのは持ってねぇんだよ、クソ虫野郎が。お前は俺が潰すべき虫だ」
その異形のハサミで手斧を受け止めるも、かえって気を悪くしたように悪魔は蜘蛛の防御をはじきながら、手斧を霧散させたあと、足を踏みつけて喉笛に食らいつく。
ぶちゅっ、と悪魔の中で鉄の味が広がる。
人間の時はスプラッタが苦手な登だったが、この姿になってみると不思議と
やられたらやりかえせ、という養父の教えをこんなときでも思い出しながら、噛みつくのは少しやりすぎたか?と少しばかり感じた。
がちゃり、と捕食目的ではない、ただ単純な殺戮を目的とした行為は蜘蛛の怪人に先ほどまで自分がいたぶっていた相手だと思えるだろうか。
悪魔の扱う
ならば、ならば、この
――ありえない!!!!
魔人に嚙みつかれたことによって血を垂れ流しにしながら、足もとに這いつくばるさまを魔人は冷たく見下ろす。
不機嫌な様子でしゃがみこみながら、蜘蛛の怪人の頭を掴む。
「とっとと玲花の毒を解け。解毒の方法は?なにかあるだろ?」
「だ、だずげでぐれ゛……」
しかし、要領を得ず、命乞いをするばかりで解毒の方法を教えるどころか、蜘蛛の怪人の姿が解けて魔人――登より年上の軽薄そうな頭髪の色素が薄い顔が腫れ上がった青年の姿に変わった。
「……やめだ。
「い゛や゛だ!し゛に゛だぐな゛い゛!!!」
いやなことを思い出したのか、妄想コスプレ野郎と口にする登はため息をつく。
これでも破格の条件だと思うんだけどな、と頭を掻きながらも、変身ヒーローよろしく変身したにしてはえらくあっさりした怪人との戦いに拍子抜けするも、ずるずると足もとにすがる青年を引きずりながら、気を失った玲花の元に向かう。
彼女の前でしゃがみ込み、優しく手を握る。
蜘蛛の怪人を戦闘不能にさせてはいるが、顔色も先ほどよりはマシになっているようには見られない。
「玲花……」
怪物としか表現ができない、いまの自分を玲花が見たとき、気を失う前と同様に彼女は自分を気遣ってくれるだろうか?
――ずっと、あーちゃんのことを見てるよ。
あの言葉をまた言ってくれるだろうか。
自分のその力が彼女の身体を壊してしまわないよう、しゃがみこんだままで玲花の身体を抱きしめる。
ふと、足もとが軽くなったことに気づく。
「ふ、ふははは!隙を見せたな、クソガキがぁ!こっちが下手に出てりゃあ、いい気になりやがって!お前の女、れーかちゃんだっけか?いい女だよなぁ?化け物には勿体ねえよっ!」
青年はまるで自分の傷など意にも介さないといった様子で室内に落ちていたのだろうか、ビール瓶らしきもので魔人に変貌した登の頭を背後から殴る。
青年は仲間内でもケンカ慣れしたほうで、狙った女を見つければ、彼氏と同伴であっても背後から男のほうの頭を思いきり殴打し、気絶している間に女を攫うといった定石めいた流れを作る切り込み隊長であった。
登と玲花を狙ったのも、玲花が美貌の少女であったことから、その身体を貪り犯すことを目的としており、仲間がいない今、
だから、男のほうをいたぶって絶望した顔を拝んでやりたいところだったが、訳も分からないうちに自分と同じような力に目覚めるとは思わなかった。
しかし、化け物であっても、
己のエゴを反映させた、ケージをもまともに
わざと変身を解いたのだって、どこか突っかかりたくなるような少年なら油断してくれるという自信があったからだ。
少女の上目遣いにさえ、ビクッとしてしまうようなウブな少年なら、漬け込む隙はあるとみたから、背中を見せる怪物の背後をとるのは、こと自分の精神世界を反映――つまり、自分の世界の中なら悟られないことなんて簡単だった。
もちろん、ビール瓶は青年が普段から得物にしていることが反映して手にしていた武器である。
「困っている人がいたら助けろ、むやみやたらに暴れるなっておやっさんは言ってたけどよ」
玲花を優しく寝かせた後、ゆっくりと振り返った怪物は青年の手にあるビール瓶を掴む。
青年が振りほどこうにも、まるで万力にでも挟まれているかのようにビール瓶は動かない。
「ハンザイミスイ?ボウコウミスイ?細かいことはわからねえけどよぉ、玲花を傷つけるなら黙ってはおけねえんだ」
ビール瓶を握力で砕く。
怒りのあまり、登の身体は震えていたが、青年の恐怖は伝わってくる。
不意打ちのためとはいえ、変身を解除した自分にここまで容赦がないとは思っていなかったし、悪魔の力を
「やめ……、やめろ!やめてくれ!俺にも家族がいるんだ、なぁわかるだろ!?」
紫電を放つエネルギーで再度手斧を構成した登が自分に何をするのか、すぐに青年は察知し、後ずさりする。
「わからねえ。勝手にこんな世界に連れ込んで、玲花を傷つけようとしたんなら。情けなんかかけらんねえよ。なんだっけか?
「やめ――」
言い終わるより先に登は手斧を青年に向け、振り下ろす。
振り下ろされた手斧から放たれる紫色の閃光により、青年の断末魔が聞こえ、雑居ビルの一室のような空間が掻き消える。
変身ヒーローのデビュー戦にしてはあまりにも呆気なさすぎるし、行動はほとんど敵サイド側のそれだ。
頬を夜風が撫でると、いつのまにかもと来た道に戻ってきていたようだ。
パックの卵は全部割れているし、これでは養父に怒られること間違いなしだろう。
自分の今の姿に少しばかり意識を集中させると、不思議なことに元に戻ることができた。
オンオフが可能なようでありがたいところだが、すぐに玲花のほうに意識を向けて駆け寄る。
呼吸が荒い、もしかしたら、あの青年を倒してもなお毒が解毒できていないのかもしれない。
携帯電話に手をかけて119に通報しようとしたところ、気配を感じて振り返る。
「お困りのようだね。良かったら、その子のこと。お前に代わって私が助けてあげようか?」
声の主はどこか怜悧な雰囲気の女だったが、その夜のことを登は忘れることができないだろう。
「その代わり、私のためにその力を使うんだよ」
なんて、なんでもないことのように彼女は――年が変わらないことが見て取れる、制服の女性は煙草をふかしながら笑う。
中学二年生の、夏の夜のことである。
呪術で結構高専時代の硝子さんも現代の硝子さんも好き。
高専時代の硝子さん、ノリがすごく悪友で好き