歴史の中のウマ娘   作:友爪

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前話にコメントを付けて下さった方々、ありがとうございます。またウマ娘世界史に興味を持って下さった方々、本当に感謝します。

マレンゴ元帥について、行間を埋めるとても良いコメントがありましたので一部取り入れさせて頂きました。
モンゴルウマ娘に評価された時のマレンゴ元帥です。

※本作は同作者『蒼きウマ娘 〜ウマ娘朝モンゴル帝国について〜』と世界観を共有しております。


【行間】フランスのスブタイ将軍、マレンゴ元帥

 フランス革命によって産声を上げ、ナポレオン&マレンゴが率いた《国民軍》は、ウマ娘朝モンゴル帝国の《国民皆駆兵》以来、軍事領域のメジャーアップデートであった。

 マレンゴ元帥は、それを強く自覚していたと思われる。彼女が提唱し、完成させた《分進合撃》は明らかにモンゴル軍の用兵に学び、発展させたものだった。

 また一命と名誉を賭した敵駆兵の突撃へ向け、容赦無く()()()()をぶち込む──という乾いた徹底性においてもモンゴルウマ娘を仰いでいる節がある。

 

 時代は違えど芦毛のマレンゴ元帥はスブタイ将軍の弟子であった。

 これはモンゴルウマ娘がパリ男(パリジャン)を略奪した事に起因して(遊牧ウマ娘にとっては至って正当な婚姻)、一般フランスウマ娘はモンゴルを憎たらしく思っている──という文化的背景を考えると、マレンゴ元帥の視野が如何に俯瞰的であるか良く分かるだろう。

 ちょっとレイヤーの高さが違う。

 

 ところで、革命フランス内では『誰が仏軍のローランか?』という議論がしばしば盛り上がりを見せていた(ローランというのは、かつてモンゴル帝国と勇敢に闘い主君と共に散った伝説的駆士。みんなのあこがれ)。

 欧州軍バにとって中世以来の伝統であり、大きな関心事だった。ウマ娘の沽券に関わってくる。

 

 そして人々の口に真っ先に挙がってくるのは、マレンゴ元帥 or ミュラ元帥だった。

 多分に気分屋のきらいがあるミュラ元帥は、そういう取り巻きのおべんちゃらに上機嫌だったと言うが(根が素直だった)、マレンゴ元帥は特段喜ばなかった。

 理由を聞くと、

 

「いや、だってローラン死ぬじゃん」

 

 ずばり言い切り、返す刀で気を良くしているミュラ元帥へ、

 

「君は敗北者になぞらえられて実に喜ぶのだな」

 

 と、さらり。

 マレンゴ元帥に言わせれば、駆士ローランは師スブタイに惨敗した敗北者に過ぎなかった。そしてまた『自分が戦っても余裕勝ち』と当然の様に思っていた。

 何たる不遜──自覚が無い分、超不遜である。

 そんな訳だからミュラ元帥とはめっちゃウマが合わなかったし、他のウマ娘、どころか人間さんからも少し変な目で見られていた。

 唯一分かってくれたのはナポレオン・ボナパルトだけだった。二人で組んでいる間は、不世出の天才マレンゴは孤独ではなかった。

 

 

 やがて、その唯一の理解者を見捨ててでも──共和主義の信念を貫き通したマレンゴ(元)元帥はイギリスで教鞭を執った。

 最終的に相棒(ヘボ)がウェリントン公爵に負けたので自分も英国に下ろう──という心境だった様だ。そこそこ真面目に働いている。

 生徒の英国ウマ娘も《ワールシュタットの戦い》戦史解説では、やはり駆士ローラン忠愛の散華ばかりに目をきらきら輝かせて、スブタイ将軍の用兵の冴えに注目する教え子は現れなかった(未だモンゴルウマ娘はならず者集団という一般認識だった)。

 マレンゴも、どうせ理解もされない、孤独を深めるだけの内容をわざわざ教育するつもりはなかったらしい。

 

 しかし、思ってもいない所から評価が来た。

 遥か東アジアの《清》帝国よりである。

 

 時は既に十九世紀半ばに差し掛かっていた。

 よくわからん理由で欧州列強にボコボコにされた挙げ句、立て続けに《太平天国の乱》という大規模宗教反乱で、軍バ人材が払底した中華帝国は《センゲリンチン》という、たまたま清に縁故があったモンゴルウマ娘を大抜擢した。

 宗教反乱、夷狄の採用──という何時もの末期症状セットである。今のところ特効薬は発見されていない。

 そして太平天国(自称)の鎮圧を命じられたセンゲリンチンは、瞬く間に反乱軍主力を壊滅せしめた。つよい。

 幸か不幸か、ヨーロッパの情報が豊富に輸入される様になった清国である。たまたまだろう、センゲリンチンは一昔前の欧州で大暴れした芦毛のウマ娘の名前を知った。

 そして、こう評す。

 

「マレンゴ元帥は、フランスのスブタイ将軍だね」

 

 侮辱である──いや、モンゴルウマ娘センゲリンチンからすれば最上の褒め言葉なのだろう。

 だがヨーロッパ人からすれば、あの大英雄ナポレオンと肩を並べたマレンゴ元帥が、野蛮なモンゴル人と同格にされるのは侮辱に該当した。

 センゲリンチン将軍の()()を口実に、清はイギリスから嫌がらせ(定期)を受けた。かわいそうである。

 

 センゲリンチンの失言はイギリスの蒸気船に乗って七つの海を越え、ブリテン島にまで届いた。

『あろうことかモンゴル人がマレンゴ元帥を侮辱した、謝罪と賠償を求める!』新聞社はこぞって記事を書き立てた。平常運転である。

 無邪気な英国ウマ娘たちは、新聞片手にマレンゴ()()当人へ吶喊した。

 

「直ぐに発言を撤回させましょう!」

「許せません!」

「教官はフランスのローランです!」

「くやしいですっ!」

 

 迫真のウマ耳の林が、ずいずい詰め寄る。すっかり白くなった芦毛の老教官は新聞を一部受け取って、ゆっくり、二度三度と目を通した。

 

「撤回の必要無し」

 

 生徒ウマ娘は、後年こう振り返る。

 あんなに笑顔のマレンゴ教官は後にも先にも見た事がなかった、と。

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