歴史の中のウマ娘   作:友爪

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 思い付いた短編小話を連載にしてみました。
 面白い歴史系アイデアを感想欄に書いて頂くと、作者が喜びます。


江戸時代初期、踏み絵について

 江戸時代初期、長崎奉行は頭を悩ませていた。昨今、長崎では異国の宗教が拡がりつつあり、その取り締まりに追われていたのである。

 奉行所側から捜査を行うにも、こと信仰心の問題であり、確たる証拠を挙げるのは限界がある様に思われた。しかし、このまま対策を講じねば天下国家を揺るがす大事になりかねぬ。

 何か妙案は無きものか──はたと奉行は顔を上げ、膝を打った。「これだっ」彼は効率的に異教の民を炙り出す良策をひらめいたのである。

 

 早速の翌日。

 彼は近場の村人を奉行所に呼び出した。不意の御召に、何やら分からぬ村人は不安げに首を傾げる。

 すると奉行は紙を一枚広げて見せた。痩せ細った男が磔刑にされる絵図である。

 

「ここに描きたるは、天下御禁制の異教の神である。そちらに異教を敬う心無くば、足踏みにしてみるが良い」

 

 村人たちは顔を見合わせて、ほっとした。何か罰せられるのものかと思っていたのだ。そんな事なら朝飯前とばかり、村人は次々に関わりの無い異教の神を踏み付ける。

 しかし──最後に順が巡ってきた村ウマ娘だけが、絵を踏めなかった。えいっ、と掛け声して膝を上げてみるものの、踏み下ろす事がどうしても出来なかったのである。

 村ウマ娘は問答無用でお縄になった。

 

 次の日も、奉行は別の村人を呼び出して同じ事を試させた。やはり、そこの村ウマ娘も絵を踏む事が出来なかった。次の村も、その次の村も同様であった。

 奉行は頭を抱えた、これは由々しき事態かな。

 知らぬ間に長崎のウマ娘は、これほど異教に侵されていたのか。広大な田畑を一生懸命に耕すウマ娘、それを軒並み牢に入れてしまっては、年貢がおぼつかなくなってしまう。

 

 何と、もしや。

 奉行は不意に恐ろしい不安に駆られた。彼は大声を出して、とある部下を呼び出した。彼女は直ぐに飛んで来た。

「御奉行、私をお呼びですか」と耳をぴょこぴょこさせている。忠義に厚い武士の鑑、奉行が特に信頼を寄せているウマ娘であった。

 奉行は徐に懐から絵図を取り出して、武士ウマ娘の前に広げた。ここ数日と同じ様に、これに関わらぬのなら足踏みにせよ、と命じた。

 

 不安は現実となった。

 武士ウマ娘は見るからに狼狽した。目を白黒させ、尾っぽを忙しなく動かしている。「さあ、早く踏め」奉行は半ば祈る様な心地で言った。

 忠義厚い武士ウマ娘は、頑張ってその命に従おうとした。ぎゅっと目をつぶって、足を振り上げる。そのまま暫し固まって、しかし、出来ず。

 ウマ娘は絵図から飛びずさって土下座をした。

 

「どうか御容赦を、こればかりは出来ませぬ!」

 

 奉行は己の血の気が失せていくのを感じた。そんな、まさか、最も信頼した部下でさえも天下に背くと言うのか──武士ウマ娘は、半べそをかいて、正直に白状した。

 

「そこに描かれたるが何処の誰だか存じませぬが、それでも人間さんを踏み付ける(・・・・・・・・・・)なんて……とても可哀想で出来ませぬっ! この不忠者をお許し下され、御奉行」

 

 即日、お縄にされた村ウマ娘たちは放免されたのだった。

 

 




「馬は人間を踏まない」という事から、蹄鉄が交通安全お守りになっている、現実の話が本当に好きです。

ウッカリ踏んじゃうのは除く。
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