歴史の中のウマ娘   作:友爪

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中近世のマ子さんと戦国大名について

◆マ子(まご)

 バ借とも。律令制崩壊と貨幣経済浸透に伴う、社会のニーズに合わせて出現した民間ウマ娘流通業者。当初は村単位で運営していたが、やがて自然に組織化した。

 組織化したマ子は荘園領主の庇護下で商売をする事になる。そして『腐敗しない』というウマ娘組織のつよつよ特性に目を付け、領主はマ子組織に様々な権益(独占販売権等)や賦役(道路整備等)を課す。こうしてマ子組織の社会的地位は徐々に上昇していった。

 

 マ子は流通業、商業、公共事業に深く関わっている上に、盗賊から荷物を守らねばならないため独自の自衛力を持つに至る。

 室町後期に治安が乱れてくると自衛力も強化され、上記に加えて傭兵業も兼ねる事になった。訓練されるまでもなく、組織構造的にマ子たちは強かったのだ。

 

 土地を持たないながら「マ子の協力を得なければ戦に勝つ事は至難」と言われる程に組織の存在感は巨大化していた。

 マ子から戦費を絞りあげようとした領主がマ子一揆(ストライキ)を起こされ、戦をするまでもなく自壊した──という例がある。

 

 また、マ子組織は社会奉仕活動に積極的という性格から転輪教勢力とも結び付き易く、戦国時代に突入する頃には、何時の間にか下手な大名より強大な力を持っていた。

 それは一国一城の主のような土着に縛られたものではない──社会構造に網目状に張り巡らされた極めて流動的な勢力であった。

 そして、この構造を良く把握し、活用する事ができた戦国大名が拡大していったのである。

 

◆小荷駄隊

 中近世。戦のための兵糧、弾薬、土木用具などの運送買付のためのウマ娘部隊。現代の輜重隊に相当する。平時は置かれず、戦時のみ組織された。

 人員は領内の『マ子(バ借とも、民間運送業ウマ娘)』から臨時徴発される……が、彼女らの機嫌を損ねると一切協力してもらえず、戦どころではなくなる。最悪の場合は一揆を起こされ内部崩壊もありえた。

 まず小荷駄隊の()()()が戦の勝敗を司っていたと言えるだろう。

 

 ウマ娘に突如「戦に参加しろ」は通らない。「なんで?」と言われておしまいである。

 そのため統括役の小荷駄奉行には人柄の宜しい者が抜擢され、平素からマ子と良い関係を築くため心を砕いていた。

 マ子が商売をしやすい環境作りに邁進し、窮するマ子の世話を焼いたり、マ子同士の喧嘩の仲を取り持ったり、いつの間にかマ子と結婚してたりしたという。

 織田信長に有名な『関所撤廃』はマ子の機嫌を取るための施策であったとも言える。

 

◆関所撤廃

 関所を通過する際に徴収される『関銭(せきせん)』は在地領主の貴重な税収であったが、時としてマ子を苦しめる原因ともなり得た。

 真っ当な商家であれば関銭の上下を見つつマ子賃の交渉をしたものだが、あこぎな商家は関銭が上がったのを見つつも賃料を上げようとしなかった。

 

「旦那ぁ……その、言いにくいんですがね。近頃は関銭が上がりやして、運び賃に色をつけちゃあくれないですか」

「何じゃ、そりゃそっちの都合じゃて」

「そうは言いましても、関銭が上がっておまんまの値も上がって……このままじゃ食っていけんで」

「あい分かった分かった。良いんだ、それじゃあ他所のマ子さんを出入りさせるだけだからね」

「そ、そんなぁ……分かりやした。今日の所は飲み込みますがね、その代わり他所の娘なんて絶対入れないで下さいね!」

 

 そんな彼女の嘆願虚しく契約を打ち切られ、他のマ子に商いを取られてしまう。彼女は半べそをかきながら、マ子組合に泣きつく。

 

「よくもウチの娘を、おどりゃ許さでおくべきや!」

 

 バ借組合の親方ウマ娘というのは情に厚い、そうでなくては成れない。酷い扱いを受けた仲間を捨て置く真似など出来ぬ。

 翌日にもクソデカ掛矢(ハンマー)を担いだ手下をわんさと連れてきて、仇の商家を真っ平らになるまでドッカンドッカンしてしまう。

 賃料をケチったばかりに身代を(物理的に)潰した商家は、ぽかんと眺めている事しかできない。暴れウマの集団を止められるものなど世に存在しないから──

 

 このように関銭を巡る悲劇は珍しくなかった。

 かしこい人間さんは考えた──じゃあいっそ関所を撤廃してしまえば、商業が活性化し、民は潤い、ウマ娘は喜び道駆け回るのではないか?

 そう思い付き実行した者は何名か居るが、最も大規模かつ成功を収めたのは『織田信長』であろう。

 関銭を取れなくなる訳であるから短期的に税収は減る。しかし法を整え、武を布くならば、中長期的には確実に儲かる。

 

 そして目論見通り、大歓喜したマ子たちは次々織田領内に活動拠点を移し始めた。マ子が集まれば、自然、商人も集まる。

 先述の通り民間輸送業者のマ子は、背後に絶大な勢力網を持ち、戦時には『小荷駄隊』に早変わりする訳であるから戦力増強にも繋がった。

 織田信長は、関所撤廃によって商業力と輸送力とマ子勢力コネクションを一挙手中に収め、天下布武への道を駆け上がる事となったのである。

 

◆Tips

 現代ウマっ子に「織田信長と言えば?」と聞くと、

 

「わたし知ってる! 関所撤廃したヒトでしょ? 偉いよねぇ」

 

 という感じの答えが返ってくる。

 彼女たちの中での織田信長は、桶狭間の奇襲より、長篠の三段撃ちより、比叡山焼き討ちより、第六天魔王という恐ろしげな異名より──()()()()()()()()()()()という風に記憶されているらしい。

 そんな彼女たちだから、あの信長公とも上手く付き合えたのかもしれない。

 

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