その御方は、ウマ屋に生を受けた。
居合わせた運送ウマ娘たちはワッと喜んで祝福した。
「赤ちゃん産まれた〜っ!」
「ほんと?」「まじ?」「見たい」
「え〜、ワタクシは東の方から来た占星術師ですけどね……この子はすっごく良い星の下に産まれてますね!」
「かわいいね〜」「いいこ」
「なんかあげられるものある?」
「お香とか薬ならあるよ」
「おバカ! 赤ちゃんにあげてどうするのよ」
「とにかくおめでとう!」
『おめでと〜っ!』
◆
生来、その御方はウマ娘を兄妹と見なし育った。
都で迷子になった時は、荷役ウマ娘に神殿まで案内してもらった。家業である大工をしている時も、匠ウマ娘と共に働いた。
兄妹はいつも共にあり、助け合っていた。
ところで、当時の六芒教ではヒトとウマ娘の間に細々とした戒律の差があった。
祈りの所作であるとか、体を清める作法であるとか、料理の仕方であるとか、卓の席順だとか──実に様々なやり方で神の法が分かたれ、古い掟を守る事を学者たちは誇っていた。
かの御方には、それらが不可解であった。
兄妹たるヒトとウマ娘を、どうしてわざわざ分けてしまうのだろうか? それこそ我が父の教えに反するのではないか?
そのお気持ちが十全に高まった時、その方は洗礼を受けに赴かれたのである。
◆
それほど裕福ではないけれど、優しく敬虔な村ウマ娘が、めでたく結婚式をする事になりました。
新婦ウマ娘はとても周囲から好かれていたので、隣の隣の村からも出席するという友人ウマ娘が大勢いました。
「とっても有り難いけれど、そんなに食べ物もワインも用意できないよ……せっかく祝福しに来てくれた皆を腹ペコにさせておくのは忍びない」
新婦ウマ娘がションボリしていると、招待客の一人が親身に話しかけます。
「なにも心配いりません。
新婦は彼の言葉を不思議に思いましたが、素直にそうしました。
すぐに招待客がぞろぞろやって来ました。
地域で一番の愛されウマ娘の結婚式ですから、皆も嬉しそうです。また、反対にものすっごく落ち込んでいる男などもいました。
とにかく大変な人数が、次々に祝福の言葉を述べに来ました。新婦ウマ娘の弾けるような笑顔が徐々に心配の色に曇ります。
しかし、席についた参列客は大いに驚き、口々に新郎新婦を褒め出したのです。
「こんなに山盛りのご馳走と、上等なワインでもてなしてくれるとは!」
ずらりと並ぶ大皿に盛られたご馳走と、大瓶一杯のおいしいワインで、皆は上機嫌です。友人ウマ娘たちは喜び、大いにパクパクし、また飲みましたが、もてなしの料理は無くなるという事がありません。
底無し胃袋の怪物と、もっぱら謳われるウマ娘がお腹をぽんぽこりんにして食い倒れる程でした。
「あれれ?」と新婦ウマ娘は首を傾げ、その方を見ました。
その方は、酔って号泣している大の男を慰めておりましたが、新婦の視線に気が付くと優しく微笑み返しました。
その御姿を見て「嗚呼この方は本当に聖なる人なんだ」と彼女は信じるようになりました。