ウマ娘を政府官僚に就けた場合の最強特性『腐敗しない』に着目して全く新しい国家体制を作り上げようという試みこそ、ソビエト社会主義共和国連邦であった。
二十世紀初頭、ロシアの労働環境というのは全く悲惨なものであった。旧来の皇族に搾取され、新興の資本主義者に搾取され、そして追い討ちをかけるように世界大戦が勃発し生命まで搾取されるのである。
民衆は貧困に喘ぎ、そして支配階級に対する憤怒は爆発寸前であった。
とある革命家、ウラジーミル・レーニンは思った。
世に蔓延るブルジョア共は、プロレタリアウマ娘から搾取するばかりで、彼女たちが可哀想だ。
「ならばいっそウマ娘に経済を計画させてしまえ。万国の同志ウマ娘よ、団結せよ!」
いや、そうはならないだろう。またぞろウマ娘愛好を拗らせたお兄様が現れたぞ──と当初こそ世間の目は生暖かかった。ところが知っての通り、民衆の怒りを味方に付けたレーニンは共産主義革命を成し遂げてしまったのである。
ここに、ソビエト社会主義共和国連邦が爆誕した──それは『ウマ娘官僚による計画経済』という史上最大規模の社会実験の始まりでもあった。
それはマルクスの『資本論』に、共産主義国家の素晴らしさが説かれていても、肝心の作り方が書いてなかった故の苦肉の策とも言えたが、ある意味、レーニンは正鵠を射ていたのだ。
ウマ娘たちには『他者を苦しめて私腹を肥やす』という発想が希薄だったからである。二十世紀初頭の資本主義体制下で、ウマ娘が資本家に良い様に食い潰されてしまうのも同様の理由であったろう。
さて、アメリカ合衆国がずっこけたのを発端に世界中が大恐慌に喘ぐ中、ソ連だけは逆に経済を飛躍させていた。
一番には、官僚ウマ娘に計画させた『集団農業』が大成功したからである。
「これからは皆平等で、誰かがお腹を空かせなくても良いんですか? やったー!」
と、ソ連全土のウマ娘は勤労意欲に燃えていた。初期のソビエトは、間違いなく全世界の労働者階級の理想国家であった。
ウマ娘は決して賄賂を取らなかった。取るとしても、収穫期の畑からカゴいっぱいのニンジンをちょろまかす程度で(それも農家さんに持たされていた感がある)、腐敗とは無縁であった。
また官僚ウマ娘は『計画』に幻想や欺瞞を持ち込まなかった。現実に則した無理の無い持続可能な経済成長──それは実際に、ロシアで凍死と餓死を激減させるという効果を上げた。
彼女たちの『計画』は常に理想国家を実現するためのものだったのだ。
そう、レーニンが生きている間と、その後暫くは良かったのだ。
だがレーニン亡き後の権力者に登ったのが、ミスター猜疑心、鉄の男、筆髭おじさん──ヨシフ・スターリンである。
本来、レーニンの跡目として有力視されていたのはトロツキーというウマ娘であった。
彼女は熱心かつ優秀な共産主義者で、先の革命時の内戦では赤軍を創始し、同時に指揮者としても活躍するというソビエト連邦の立役者である。
そんな革命の情熱に胸を焦がすトロツキーであったが、同志レーニン亡き後、すっかりしょんぼりして全く熱意を失ってしまった。
そして「港が凍らない温かい所で暮らすね」と同志ウマ娘に言い残し、メキシコに移住してしまったのである。
そして、労せず最高権力を掌握したのがスターリンであった。
その男はとにかく恐れた。何を? と言えば、ソ連の官僚がウマ娘で占められている事である。彼は疑った。
『このままではウマ娘に人間が支配されてしまうのではないか?』
『力で敵わないウマ娘に権力まで握られたら、人に反抗する術は無いのではないか?』
これは歴史上の最高権力者がしばしば取り憑かれる猜疑である(例、始皇帝)。
疑心暗鬼に陥ったスターリンは徐々に官僚を人間に置き換えていった。ソ連建国を支えた古参のウマ娘たちの解任は、確かに別の手段を以てする組織の『粛清』であった。
しかし、強制的に解任されたからといって、ウマ娘は特に権力に拘泥する素振りもなかった。敬愛なる同志レーニンが亡くなって気分が落ち込んでいた事もあり、さっさと田舎に帰ってしまったのだ。
こうしてソ連は『腐敗しない官僚』という最大のアドバンテージを、自ずから投げ捨てた。その後のソビエト連邦の末路は、皆様知っての通りである。
トロツキーが跡を継いでいれば、スターリンが官僚ウマ娘の粛清を行わなければ、ソビエトは未だ健在であったろう──とは、ソ連崩壊直後のロシア人の言葉である。
ソ連崩壊時、多くのスターリン像は引き倒され、打ち壊された。対照的にレーニン像のほとんどは健在であり、今なおロシアの各地で理想国家設立の夢に破れた後の祖国を見守っている。
コンセプト。人間がやった共産主義は失敗したけれど、ウマ娘がやったら割と成功するんじゃね?