歴史の中のウマ娘   作:友爪

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 別作の『蒼きウマ娘 〜ウマ娘朝モンゴル帝国について〜』から、十字教に関する記述を抜粋、修正してまとめました。

 最後に福音記者《マグラダのマリア》について加筆しています。


十字教とウマ娘について

 はっきり言おう(アーメン)。今日あるだけの糧と、愛をウマ娘に分け与えなさい。そうすれば明日の貴方は多きを与えられるだろう。

 

 ──紀元一世紀、エルサレムにて。

 

 

 ◆

 

 

 十字教の黎明期について。

救世主(メシア)》が磔刑に処された後、ローマ帝国内でウマ娘が布教活動に奔走したのは周知の事実である。

 彼女たちは、十字教が国教化されるまで約三百年の長きに渡り、地中海沿岸一帯を駆け回った。

 彼女たちは《救世主》がどれだけやさしい(・・・・)方であったか、懸命に言葉を尽くした。

 

「主は言われました。人間さんとウマ娘は、実は兄妹だったんだよっ」

 

 この布教(?)──の根拠となる《マリアによる福音書》は以下を記す。

 

『主と使徒たちが町を歩いていると、とあるウマ娘が盗み食いの咎で激しく責められていた。

 主は間に割って入ると、怒る人々を丁寧に宥め、騒ぎを収められた。

 使徒は、その親身さを不思議に思って理由を尋ねた。すると、主は澱みなく応えられる。

「私はウマ屋に生を授かりし者。どうして、あなたは私の兄妹について尋ねるのか」

 庇われたウマ娘は、その言葉に感激して罪を悔い改め、一行に付き従った』

 

 太古の昔から、数少ないウマ娘は貴重な労働力・戦力として重宝され、神格化されることもしばしばあった。

 その様に人間と良好な関係を築きつつも──何処か違う人々(・・・・・・・)という無意識の隔たりが確かに存在していた。

 

 しかし《救世主》は、それを打破した。

 ウマ屋(今で言う運送屋)で産まれたという由来を持つ彼は、ウマ娘を兄妹であると断言した。我々は同じ神の下に産まれた子であり、隔たりは存在しないと説いた。

 それは相互認識の革命であった。

 彼の教えが広がるに連れて、ウマ娘はコミュニティの何処か違う人々(・・・・・・・)から、自然な一員(・・・・・)として、緩やかに転換していったのだ。

 

 この教えがウマ娘にとって、どれだけ喜ばしい事であったろうか。大好きな人間さんに寄り添うばかりでなく、寄り添われる存在になれたのだ。

 ウマ娘からして、正しく彼は《救世主》であった。

 

 十字教の黎明期にウマ娘が活躍したという流れを受けて、宣教師はウマ娘とペアを組む、という習慣が何時しか生まれた。

 我々日本人にとっては、宣教師フランシスコ・ザビエルと、お供ウマ娘の肖像画が最も馴染み深いのではないだろうか。

 

 

 ◆

 

 

『さて《救世主(メシア)》に従うウマ娘たちは過越祭のためのレースに向け鍛錬を欠かさなかった。

 しかし、その土地の聖職者(ラビ)に疎まれていた一行は、当日になってレース会場に入れなくさせられた。

 善きウマ娘たちは、ガリラヤ湖のほとりで膝を抱え、大いにしょんぼりとした。

 

 そこに主がお越しになられて、桶に湖の水を汲むと、座り込んだウマ娘たちの足を順に洗うのである。

「先生、とても勿体無い事です」善きウマ娘たちは遠慮したが、主は黙っておられた。全員の足を洗い終えると、感激するウマ娘に主は仰る。

 

よくよく、はっきり言っておく(アーメン、アーメン)。主の命によって、その足は清められたと。善きウマ娘は幸いである。その足の運びが何人に阻まれる事も無い。見よ、前のバ場の広さを。風が吹き、波が打とうと、幸いな者は安らかに歩む」

 

 そして主は凪の湖に向けて進み、その水面を歩かれたのである。

 

「立ちなさい。その両足は既に清められたのです。私が初めと終わりの合図をしましょう。ただ力を尽くしなさい」

 

 善きウマ娘は主を信じて進んだ。どうであろう、皆が水面を歩き、そして全速に駆けた。誰一人、足首までも沈む事は無い。

 さあ、先頭はマルタと後尾はマリアの姉妹であった。ガリラヤ湖のレースを、人々はほとりで見ていた。

 その人々は《救世主》を敬って「確かにあなたは神の子です」と言った』

 

 ──マリアによる福音書より。

 

 

 ◆

 

 

『それは断食行明けの、晩餐の時である。

 主と使徒、また従うウマ娘は大層腹を空かしていた。

 ベタニアのマルタは、皆のため腕によりをかけ料理を作った。卓には次々と芳しい皿が並べられた。

 主が、その日の糧を与えて下さった神に祈りを捧げようとした頃、ふと戸を叩く者があった。

 マルタが応じると、そこに丸々として豊満なウマ娘が居て、糧を分けてくれるように乞うた。

 

 このウマ娘を町で知らぬ者は無かった。地方レースで活躍した彼女は、この町の大商人に見初められ、連れて来られた途端、朝から晩までパクパクして止まらなくなった。

 商人の屋敷で出される食事に飽き足らず、こうして町の人々に乞うて回っては、追い払われているのだった。

 

「私たちは断食明けで、とても分けられる食べ物はありません。大方、先生のお優しい評判を聞いたのでしょうが、何でも聞き入れられると思ったのなら間違いですよ」

 

 マルタが、この図々しい同族を退けようとした時であった。奥で見ておられた主が語りかけられた。

 

「マルタよ。どうしてその人を入れてあげないのですか。可哀想に痩せて、今にも飢え死にしそうな、その方の姿が見えないのですか」

 

 皆は驚いた。主の言葉の意味が分からなかったからである。

 皆は、身体の形を見ていた。しかし、主は魂の形を見られたのである。

 

 急な客人を、主は自分の隣席に招かれた。そして、手ずからご自分のパンを半分に割き、またご自分の葡萄酒を差し出される。

 肥満したウマ娘は、分けられたパンを一口食べ、杯に一口付けた。それで手が止まった。

 

「先生、どうしてでしょうか。もう一杯で、食べられないのです。不思議な事です」

 

 そのウマ娘は酷く震えていた。

「安らぎなさい」主は、優しい眼差しで怯えた人を宥められる。

 

はっきり言いましょう(アーメン)。あなたは今を境に、飢える事も、また渇く事もありません。あなたが今居る場所で、山盛りの皿を何枚平らげ、壺ごと葡萄酒を干しても、また直ぐにお腹が空くし、喉も渇くでしょう。

 しかし私が与える糧は、あなたを永遠に満たし、潤し続けるものなのです。さあ、あなたが本当に居るべき場所に走って戻りなさい」

 

 彼女は両目からそれぞれ一雫の涙を流した。ものも言わず立ち上がるや、直ぐに主の言葉通りにした。

 故郷まで走り帰ったのである。町の人や、かの商人ですら誰も後を追わなかった。

 

 翌年、エルサレムで行われたレースに、大差で勝利したウマ娘がいた。その細身が麗しいウマ娘が何処の誰であるか、初めは皆気が付かなかった。

 

「ただ私は一杯に満たされたのです」

 

 勝利の秘訣を答えたウマ娘の声で、皆はようやく正体に気が付いた。

 この様に《救世主(メシア)》は、たった一口のパンと葡萄酒によって、飢えたウマ娘を満たされたのである』

 

 ──マリアによる福音書より。

 

 

 ◆

 

 

 聖遺物紹介《聖マルタのかわらけ》

 

 上記の場面で、マルタが料理を盛り付けた食器セット。

 この食器を用いた料理は、何でも絶品になる上、食べても食べても無くならないという伝説がある(曲解感が否めない)。

 この食器を巡ったウマ娘たちの熾烈な戦い(ウマファイト)を経て、尽く散逸。

 現代では、その一部と伝わる破片が世界各地に点在するが、殆ど真偽不明。

「破片を繋ぎ合わせて復元しよう」と、あるウマ娘女博士が熱心に主張したが、当然却下された。

 

 

 ◆

 

 

 十字教聖人紹介《マグラダの聖マリア》

 

 福音記者。救世主の母親と同名だが別人なウマ娘。

 儀式用の供物を盗み食いして怒られていた所を救世主に助けてもらい、それ以降、主と使徒の一行に従う様になる。

 

 マルタの妹。瞬足で料理上手でしっかり者、しかもドラゴンをぶっ倒したりする姉マルタとは違い、のろまで食いしん坊でおっとりしていていた。

 しかし不思議な愛嬌があり純真だったので、姉や使徒、特に救世主からは可愛がられていた。

 

 救世主が磔刑に処される瞬間、他のウマ娘は余りにも辛すぎて直視する事が出来なかったが、マリアは号泣しながらも目を逸らさなかったという。

 処刑後三日を経て、救世主が墓から復活を果たした姿を初めに発見し、その事を走って使徒たちに伝えた。余りにも現実離れした話に「でもマリアの言う事だから」と信じてもらえたらしい(それだけ信頼されていたのだろう)。

 

 救世主の昇天後、福音記者となる。

 主との思い出を想起しながら身体中インク塗れになって書き上げた福音書は、文章表現が余りにも独特だったらしく(原本未発見)、使徒ヨハネに校正してもらった。

 これは福音書冒頭に『著者マグラダのマリア、校正者ヨハネ』とはっきり書いてある。因みに使徒ヨハネは、洗礼者ヨハネと区別するために"校正者ヨハネ"と呼び習わされている。

 

 ヨハネの助力もあり仕上がった《マリアによる福音書》は、救世主とウマ娘との関係を生き生きと描き出し、大切な十字教の正典として聖書に収まっている。

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