魔法使いの夜、■の夢 作:no w here
1 雪が雨だった頃
時計を確認する。此処で待ち始めて経った時間はだいたい三時間。着替えた衣服は大人が無理に着込んでいるかのような窮屈さを覚えながら、降りしきる雨脚を軸にたった数日前を思い返していた。
部屋は初めの10分で全て確認済み―――長方形の長机が中央に4つ、窓の手前にそれぞれ1つずつ。中央の長机にのみパイプ椅子が複数並んでいるだけの部屋。入り口の横開きの扉からすぐに見えたのは4つの長机が連ねられて大机になったものと、ホワイトボード。「室内のストーブを付けてもいい」その言葉を聞いてだいたい30分後につける程度には、雨という天候に関わらず冷えた。
然してそのかいあってか今では十分暖かい。温まったその部屋は、この学校の教諭方からは会議室と名されている。
雨の日は、正直に言うと苦手だ。数日前のあれを思い返してしまうから。雨音とともに脳裏に蘇る、里の様子。
「―――」
叱咤するように頬を叩く。
カツカツ、と響く2つの音。
少女―――蒼崎青子は職員室から会議室までに向かう間、教諭から此度創立記念日にも関わらず登校した理由である、転入生のプロフィールを聞いていた。
「電気がないって……村に行き渡ってないだけで、公衆電話位はあったんですよね?」
先ほど聞いた"電気の通ってない山村からやってきた"に対して少しばかり腹を立てながら、朗らかな笑みを浮かべる教諭―――山城和樹へと問いかける。
「無かったそうだよ。あぁ、でも。祝日とかに、姉と共に都会へと向かうことは多々あったみたいでね。そのおかげかある程度の知識が彼にはあるね。ただ、学校は山村という立地上通ったことが無いらしいんだ」
そこまで遠いとなると、随分な田舎だったのだろう。脳内で電気の無い生活をシミュレートしても、全くと言って思いつかない。教師たちが諸手を挙げて降参したのも頷けた。
ああ、でも―――都会とその環境を比べれば、少しばかり浮かれているかもしれない。一瞬、なんと無しにそう思った。
雨音を背に、2つの足音が響く。一方はきびきびと、もう一方は何処かゆったりと。会議室迄、最早十数歩に迫っていた。
寝不足である為か攻撃性は一割増し。それにあてられてか山城教諭が扉の前で、彼女へと言葉をかける。
「…いや、蒼崎くん?君を信頼してる僕だけど、念のため確認しておくよ。なんていうか、優しくね?出来れば笑顔とか作れないかな?」
「作り笑いは苦手です。一応、努力しているつもりですが」
「あ、そうなんだ。それはよかった。……いやあ、ほんと良かった。蒼崎くんにも苦手なものってあったんだねぇ……」
山城教諭が肩を落とした直後、がらりと蒼崎が横開きの扉を開けた。
―――その時に見た、一瞬の驚きの顔。そして即座に失われる何かを隠すような能面にすら近い表情に2人は気付かない。
物理的に顔が高すぎて、見えなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
「…」
数日前に世話になった面向きに似ていたために、一瞬驚き。それを隠すようにすぐに表情を隠す。隠すことは下手であれど、
「紹介するよ。彼が転入生の
「…紹介された仲冨だ。知人に編入をしてもらっていたら、創立記念日に編入手続きをする事になってしまった事、誠に申し訳ない」
苛立ちに対して、なんと無しに心当たりが付いた。―――学校というものは、生徒が沢山いる場所と聞いていたが、何故生徒がいないのか。紹介をした山城教諭に問い返したところ、どうやら創立記念日というのは生徒にとっては休みの日なのだとか。
値踏みする様子から、何やら少し驚きが見えた。たぶん、苛立ちの要因の一つは其れだったのだろう。
「…あなたが謝る事ではないと思うのだけど?」
「結果として俺は生徒会長の手を煩わした。過程はどうであれ、この結果に対して俺が意図しなかったものであっても主因となった以上、謝罪しなければ礼節に欠ける」
「…改めて蒼崎青子よ。こっちは仲冨君でいい?」
その問いかけに頷く。…ふと、朗らかな男性のいる方へ眼を向ける。いつの間にか山城教諭は姿を消していた。
「…あー…」
蒼崎が何処か納得と…諦観の声を上げる。どうやら、このように唐突に姿を消してもおかしくない教諭らしい。
「…生徒からしたら、親しみやすいのかもしれないが…模範としては、どうなのだろうな?」
「そうね…それについては、何も言えないわ…」
そう言いつつも、廊下へと彼女は向かっていく。…学校案内だろう、問いかけは少なく済ませて時間をかけないようにしなければ。