魔法使いの夜、■の夢 作:no w here
青年―――仲冨君は此方の案内の最中に最低限の質問すらする様子はない。興味本位で軽く見まわし、小さく首を横に振った後に『次の場所に頼む』と返すだけ。此方としては都合よく―――学校に来て1時間程度で全ての案内が終わった。
「…以上で設備の案内は終わりだけど、何か聞きたいことはある?」
「…蒼崎について聞きたいことがある」
「なに?」
首を傾げつつ、仲冨君へと問い返す。―――言葉にしようと口を動かし、言葉となる前に口を噤ませる。…その一拍を置いた後。
―――蒼崎は寝不足か?
思わず高身長の青年へと目を向ける。視界の青年は何処か、居心地悪そうにしながらも此方へと見返してくる。その表情は、先程までの
「…えぇ、そうね。何故そう思ったか、聞いてもいい?」
「…初めは雨による気圧の低さによる不機嫌だろうと見ていた。だが、そう言うには何処か攻撃的な雰囲気だった。俺の偏見だが、青崎は天候等による嘆きは然程意味がないという理由でしないんじゃないかとも」
「…続けて」
「そうなると俺の初めの謝罪については"然程気にしないつもり"じゃないのかとも。蒼崎は"あなたが謝る事ではない"と言ったのもその一環ではないかと踏んだ」
沈黙を以て言葉を続けさせる。
「そうなると蒼崎当人が何らかの不調を抱えていると見た。時折かみ殺していたが、
「だから、寝不足ってみたわけね…
少し考えて「それもある」と彼は頷く。続いて
「だが、それ以上に"
「…いいわね、そこまではっきりしている人は嫌いじゃないわ」
朝の電話を受けて嫌々ながらに来たが、此処まで明瞭に過ぎる性格は好感が持てる。初めは何処か無機質な人形だと思っていたが、その実自身及び相手に忠実であろうとする姿勢及び努力。何処か
「そう言ってもらえるなら何よりだ。…後は生活しながら、覚えられる」
「ん、それならいいわ。それじゃ、仲冨君。また明日ね」
それに、小さく戸惑いを覚えながらも「…また、明日」とその身に反して小声だったのは少しだけ笑えた。
「…」
降り続く雨中、昇降口で待ち続ける。…4時間前、「山城教諭に話を通したから、後は依頼通りにこなすだけ」という言葉を思い返す。どうやら他にも、彼女が遺した依頼があるらしい。
どこに行くのか、そう返したところ「君の親戚に話を付けに」とのことだった。…正直に言うのであれば、俺自身に心当たりがあるのだとすれば―――
―――え。
その言葉は、どちらの物だったのだろうか。自身の口からかもしれないが、言葉は雨音にかき消されている。ならば、
どう反応すればいいのだろう。混乱しそうになる頭を、軽く振る事で強引に意識を戻す。…正面にいた彼女もはというと、それよりも先に意識を現実に戻し直していた。
「…何年振り?」
「…10までは飛ばず、然して8よりは飛ぶ…ぐらいか?」
「…なんというか、変わったね。仲冨は」
何処か嬉しそうな彼女の言葉に、思わず首をかしげる。…変われなかったからこそ、未だに数日前を引き摺り続けているのに。その想いを黙殺した後、
「…綺麗になったな、金鹿は」
此処から少し、時間をさかのぼる。
―――何時か、都心で一緒に暮らそう。
電気すら通らない、田舎の隠れ里。わたしと少女が遥か未来を夢想していた。少年は"―――がそう望むのであれば"と恭しく。わたしはそれに対して一緒に過ごしてほしいと願って、彼を困らせる。少女はその様子を嬉しそうに眺めている。
彼は父と遠縁の息子―――即ち従兄と呼ぶべき相手だった。男性でありながら実の兄や幼馴染とは違い、何処か浮世離れした空気と自他ともに大して忠実であろうとする性格、そして数少ない外部との交流―――わたしや兄達の夏休みの宿題や、都会への下見を行う彼女の付き添い等―――だけで、世間一般へと追い付ける知見。それと比べてしまうせいか、世間一般における男子が落ち着きのない馬鹿と評価を下したのは間違いではないと思う。
ああ、夢か。
そう自覚しながらも、私の中の予定では珍しい休日。友人にして戦友との約束事も無く、寒さによって布団が極楽である―――そんな中。
―――金鹿、手紙だ。
嫌いな声と共に、此方へ1通の封筒が投げ渡される。…手紙には宛名も無く、ただ「久万梨金鹿様へ」という言葉が連ねられていた。封筒にあけられた形跡はない。
端の糊の方へペーパーカッターを当てて開ける。中には簡易的な要件と、一枚の広葉樹の葉らしきもの。
「えっと…」
―――13時、三咲高校昇降口に願う
たった、その一文。…その一文だけであり、詳細などは一切ない。然し、
ある程度の服装で、傘をさしてすたすたと歩いて行く。途中、赤い傘をさす制服の少女が見受けられたが…流石に、創立記念日まで彼女は高校へと向かわないだろう。見間違い、そう思って通い慣れた道を通い慣れぬ日に進む。
そして、夢の中の少年がそのまま成長したような彼と再会したのだった。