黒兎隊のお姉ちゃん。   作:minepo

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第1話

率直に言うと、彼女は人では無い。

 

人造人間(ホムンクルス)の第一号であり、それでいて唯一の成功作である。

 

彼女の概要を語るためには歴史の勉強をしなければならない。

まず、第二大戦は既に終わっている、常識だ。

しかしそれが残した意志や怨嗟はこの世にへばりついている。

ドイツ軍の過激派が進めていたプロジェクトは、ドイツが求めていた事その物であった。

その名を、『パトリオット』。

訳すと、『愛国者』である。

彼らは本国の人民を1番だと信じて疑わず、他の人種総てを自らの劣等と決めつけた。

強い野心と目的の文面だけの偉大さは、かつてそうだったように軍部を動かせてしまう。

『我らゲルマン民族が世界の頂点に立つべきである』と。

故に他の国の人間が、ゲルマンに劣る者共が、跋扈するこの世界が許せなかった。

だから、排斥しようとしたのである。

 

その為の手段が彼女だ。

 

ドイツの化学は時代の先を往く、などと言われていることもあった。

それが災いし、圧倒的に進んだ科学力は、人間のカタチをした者も生み出してしまった。

それは心臓がエンジン、脳がコンピュータとして動くだけの兵器。

欺くには最適な女性形であり、作戦をスムーズに進める為に人語を解する。

喜怒哀楽すら見せず、冷徹で非情で完璧な兵器(・・)

スペックも今までにおける全ての軍人を上回るパフォーマンス。

1人で一個大隊を相手取る事が出来るカタログスペックである。

手始めと云わんばかりに、計画を傍受していた反勢力を一夜にて滅ぼしてしまった。

彼女の輝かしい戦績は、軍部に多数の向上心と更なる野心を齎した。

敵だけを完璧に、無慈悲に、迅速に葬る軍神(ヴォーダン)

彼女は更に数多の戦績を挙げ、無茶な計画に似合いである無茶な作戦を現実とすることに成功した。

だからこそ、その後継を、更に量を。

第二号機、三号機と後継機、または量産機を作ろうとしたが、いすれも失敗、廃棄処分。

そこで、科学者の一人が考案したのが試験管ベビーであった。

彼女の遺伝子を使い、胎児を媒体として量産出来るようにする、というものである。

しかし、思い付きだけのプロジェクトであった為か、彼女自身を量産する事は叶わなかった。

代わりに劣化コピー、いわば『妹』達が生まれたという事だ。

彼女とは違い人間味がある分、冷徹になりきれない。

その点のみが劣化と言われていた。

だがしかし、その劣化である『妹』達はあまりにも優秀であった。

潜入工作、正面切っての戦闘、オペレーター、生産職などなど…。

…だからこそ、科学者達は気付いた。

彼女の特異さと、その脅威に。

もしドイツ軍と単体で対立しても殲滅を可能とするスペックがあり、他の大国と手を結んでようやく殺すことが出来るとんでもない代物だと。

しかし計画の中枢を成す彼女の処理は難しい。

プログラムで従わせようもまだ不安が残る。

そこで思いつかれたのが、彼女の優秀な思考能力、言わば感情を逆手に取るのだ、と。

 

だから、彼女に恐怖を与えて支配出来るように。

彼女のスペアであり、彼女によく似る、元々計画には最低限不要だった『妹』達を処理しようとした。

 

結果だけ言うと、そのプロジェクトは頓挫した。

原因は不明。

恐らくは最近隆起してきたマフィアによる襲撃。

現場に残った証拠は、惨殺され誰かも分からない死体、研究データ全てが荒らされた痕跡と研究者の手記(重要な所が読めない。)のみ。

研究チームは死体が発見されなかった為に失踪、もしくは戦死。

軍部のトップ層がほぼ丸ごと入れ替わる大事件となった。

しかし生き残った者達もいた。

それが、彼女と、その『妹』達。

生き残った彼女らは、新兵器であるISに対し多大なる適正がある事を証明され、処分を免れた。

そしてその優秀さを買った上層部が働きかけ、特殊部隊が設立される事となった。

IS配備特殊部隊、通称『黒兎隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)』は今も尚戦果を挙げ続けている。

だが、彼女達だけ生き残った事によって、私には疑問が芽生えた。

彼女達は、彼女達だけが何故助かったのか…と。

 

 

 

『後は、下らない考察が垂れ流されているだけだよ、詮索屋さん?』

 

 

 

報告書、「『パトリオット』計画の最期と疑問」、意図的に破られたページの跡に付随していた付箋より

 

 

 

 

 

 

 

『黒兎隊のお姉ちゃん』

第一話「黒兎の魔物(Rote Augen)

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも寒い。

いくらもうすぐクリスマスといえ、その準備も億劫になる程に寒い。

まあ、キリストなど信仰した覚えも無いのだが。

焼いてからしばらく経った、ピーナツバターが縫ってあるパンを頬張り、完成した設計図に今一度目を通す。

来年IS学園にドイツ代表候補生として日本へ旅立つ我が妹の為、専用機を作っているのだ。

その名も、『シュヴァルツァ・レーゲン』。

意味は黒き雨。

私自らが名付けた名だ、やはりかっこいい。

そして私の手掛けるISとして、《シュヴァルツァ》の銘が入っている。

IS規定がどうこう言われそうだが、そこは階級章がどうにかしてくれるハズだ。

資材面はこの前に突っ込んできた戦争馬鹿(コア持ちの闇企業)のスクラップを一部転用すれば良い。

残りは自腹を切るとしよう。

コアはまだ作った在庫があるから良いが、なんだかんだでたーちゃん(天災)に怒られそうだ。

予め作っておいた拡張領域のデバイスをコアに接続させ、リンクした事を確認する。

丹精込めて作り上げた、私の身長を超える大きさのレールガンをビットに接続させた。

そこでスケールが作業机を遥かに超え始めた為、コアを通じて機体を起動させてフックに吊り、作業を続ける。

…が、今私が作業中である第二工廠、そのシャッター付近に気配を感じた。

戦闘の意思は無くて、どうやら私に会いに来たらしい。

個人的な用か、それとも冬の長い休暇を丸ごと返上で面倒な任務か。

何にせよ、我が妹をこの寒さで外に待たせるのは有り得ない。

防寒対策で二重にしてある扉を遠隔動作で開けた。

冷気がと共に入って来たのはクラリッサ。

我らが『黒兎隊』の副隊長であり、基本的にはみんなのブレインだ。

 

「姉様、朝早くに済まない。」

 

「いいよ。それで、何の用だい?今私はラウラの機体を造っているのだけど…」

 

「私がわざわざ此処に伝えに来る程の要件です。お忘れですか…?」

 

「うーん、特に覚えは無いね。予定は無いと思うのだけど…」

 

「…今日は織斑教官が帰国する日では?」

 

しまった。

すっかり忘れていた、全くもって。

今日はちーちゃん(織斑 千冬)が帰る日だった。

彼女に売っておいた恩を返してもらうために『黒兎隊(うち)』に居てもらったのだが、日本のIS学園で教鞭を振るうらしく、帰国するのだ。

幾ら私が血の通わぬ者であろうが、友人の帰還を見送らないのは恥だし、不誠実だ。

 

「ありがとう、クラリッサ。お陰で恥と貸しを作る事が無くなった。」

 

「どういたしまして、姉様。…ところで疑問なのだが、彼女が乗る便の時間は?」

 

「9時半だね。弟くんの為にお土産を買っていくからこの時間らしいよ。」

 

「…今の時刻をご存知か?姉様。」

 

「9時丁度だね。それがどうかしたのかい?」

 

「ここから最寄りの空港は、」

 

「車で2時間、徒歩で1時間、フルマラソンで40分…そして機体(・・)なら5分で付くね。」

 

「…どうするのです?もしかして…もしかすると…」

 

「考えてる通りさ、私の頼れる副隊長さん。」

 

「…あーっ!やめろ下さい姉様!!私の仕事が増えるのです!」

 

「どうどう。…ともかく、上手くやってくれ。帰ったら報告書纏めた奴見せてねー」

 

絶叫するクラリッサをバックに二重のドアをもう一度開け、レッグバンドに軽く触れる。

するとそれは切り替わり、拡張領域から機体とレッグバンドを交換した。

邪魔になる軍服を脱いで、レッグバンドと一緒に仕舞っておく。

ISスーツ姿だと特殊繊維とはいえ、一枚姿だ。

しかし私なら普段通り動けるため、全く問題ない。

そんな事よりさあ飛ぼう今飛ぼうすぐ飛ぼう。

 

「姉様ぁぁあぁぁ!!!!!」

 

あー、あー。

マッハ2で飛行してるから何も聴こえなーい。

 

 

 

 

 

◆◆◇◇

 

 

 

 

 

地下鉄を降りて、空港へ繋がる桟橋を歩く。

今日はよく冷える、海の上なら尚更、肌がひりつく程に。

もう9時過ぎだ、皆起きている時間帯だというのに、余りにも人通りが少ない。

まあ、今日空港から出る飛行機は一便のみ、そして乗客も一人。

流石に防衛過多だと思うが…私がISを持てない時を狙う輩は幾らでも居るのが現実だ。

ブリュンヒルデの称号はやはり返上すべきだろう。

さて、恐らくは私に見舞われる脅威だが、基本的な賊は返り討ちに出来る。

しかしそれも、一部のISパイロットが出張ってくるとなると、空港検査の為に獲物も持てない今だと厳しい事になる。

護衛もいくつか付くと聞いたが、その写真や資料を見た限りその質も怪しい物だ。

例えば…反社会的勢力の一つに、情報を送り付けていたりとか。

もうここまで来たら襲われるのは確定だ。

しかし、空港にはISは持ち込めないし、買収された護衛も仕事をしないだろう。

 

「どうしたものか…」

 

考えているうちに空港に到着してしまった。

表を警備員が見張っていたが、私を見るなり目の色を変えた。

敵で無かったなら労りの一言を掛けることもできたが、生憎敵意を受けて尚味方だと思える神経はしていない。

 

「私だ、通してくれ。」

 

「…かしこまりました…」

 

自動ドアを手動で開け、中に進む。

そこには武装した護衛達4人組が待っていた…が、やはり裏切るつもりみたいだ。

敵意がだだ漏れだ、しかも今にも掴みかかりそうな程の。

しかし武装は貧弱だ、ISには対抗出来ない。

恐らくは私がその武装でISに立ち向かう事を懸念しての事だろう。

 

「織斑様ですね?本日はよろしくお願い致します。」

 

「ああ、よろしく。」

 

リーダー格の女がにこやかな笑顔を浮かべて挨拶してくれるが、目が笑っていない。

しかしそのお陰で思い出した。

彼女はたしか亡国企業の構成員だったハズ。

『あいつ』からもらった要注意リストに載っていた。

後ろに偽護衛を付けながら手荷物検査を終え、武装を別口に預ける。

規定だから仕方ないが、素手で何処までいけるか試してみるのもいいだろう。

飛行機に乗る為に長い通路を通っていた…その時、上から殺気を感じた。

咄嗟に護衛がいない方向に前転した。

その刹那、銃弾の嵐がと質量の雨が周辺の建物を破壊しながら降り注ぐ。

 

「やあやあ!《ブリュンヒルデ》様がおひとり様で旅行なんて!なんて可哀想なの!?さっさとやっちゃうね!」

 

黒がベースで緑のラインが入り交じった機体。

明らかに『あいつ』作のISだ。

銘は確か『シュヴァルツァ』だった。

その中央に亡国企業の幹部が狂笑を浮かべて迫ってくる。

偽護衛はその銃を私に向けて駆け出す。

敵機体が貧弱なのは期待できなくて、なおかつフル装備、数の差も負けているのも間違いない。

機体の獲物は二本のレーザーナイフ、砲門も4門ある。

手数で圧倒するタイプだろう。

手数が多くて一撃は弱い。

だからといって生身で受けたらひとたまりもないだろう。

これで私はきっと詰み…なのだろうが、まだ上空には殺意が迸っている。

だから…私は避難する事にしよう。

 

「邪魔だ、雑兵共。」

 

その声と共に、『あいつ』が空から偽護衛をクッションに落ちてきた。

無論何人かが原型を留めず肉ミンチになる。

残り3人が身の丈以上の槍による横一文字で、真っ二つの残骸に変わった。

 

「なんだ!貴様!…おお、そのステッカーは!さては黒兎の隊長か!お前は絶対に殺せと皆に言われているんだ!お前ら!やるぞ!!」

 

建物をを突き破って他のISが乱入してくる。

その数合計で5機。

形状から見て、量産型のゴーレムシリーズだ。

武装は無論フル武装。

幾ら量産型とはいえ、ISに囲まれて人数不利なのは変わらない。

普通のISと、そのパイロットだったらお陀仏だろう。

だが、それは…普通のパイロットだったら、の話だ。

『あいつ』の名はレイティア・ボーデヴィッヒ。

特殊IS戦闘部隊、通称『黒兎隊』の隊長。

右目を眼帯で隠し、美しい銀髪を揺らし、無表情で獲物を握る。

ドイツ…いや、世界でも最高峰のISパイロットだ。

 

「6対1だぞ!お前の勝ち目は万に一つもない!しかもこの機体はお前の妹から奪ってやった機体だ!高性能で使い易い!持ち主は最期までお前の名を呼んでたぞ!」

 

「…」

 

「お前ら!構えろ!!家族一人守れないようなクソ雑魚隊長を!!蜂の巣にしてやれ!!」

 

掛け声と同時に、マシンガンを取り出すゴーレム達。

煽りも効いたのか、レイは俯いて顔が見えない。

しかし、私は知っている。

ここからは、ただの殺戮だ。

彼女の異名は数え切れない程にあるが、その中でも分かりやすいのは、《戦神》。

 

「死を懇願しているのならそう言えばいい物を」

 

彼女は表情を無から終始一切変えぬまま、腕を拡げ、拡張領域がその場に展開される。

そしてそこから取り出された108本の槍を文字通り操り、隊長格以外の5機を無惨なハリネズミに変えた。

とんでもない物量の為に、シールドは弾け飛び、絶対防御も意味を成さない。

ゴーレムだった筈の残骸達の隙間から見えた紅はきっと中身のそれだろう。

 

「…なん…」

 

「よくまあペラペラと話してくれたものだ。その礼に素直に殺してあげよう」

 

4本の槍が飛来し、機体のシールドごと手足を固定する。

じりじりと槍はそれぞれ違う方向へ動くと共に機体とリンクしているそいつの四肢がミシミシと音を立てる。

そして、電子部品と金属、そして何らかの液体が弾けた音と、悲がその場にこだました。

少なくとも、素直なやり方ではないだろう。

まだ息をしている分、もっと。

 

「…レイ。」

 

やりすぎだ、と声を掛けようとしたが、遮られた。

やはり、顔色は何一つ変わっていない。

だが…心中は容易に想像できる。

妹達。

レイの後継になる筈だった物で、13人居る。

いや、いた、と言うべきか。

軍、といういつ命を落としても仕方ない職業柄、やはり犠牲は出てしまう。

今は8人。

9人目は、つい最近まで行方が分かっていなかった。

私も話したことがある。

明るい、絵本が好きだった子だった。

 

「そうだろう?だから…こうするんだ。」

 

そういうレイの目からは何も感じない。

怒りも、悲しみも。

だが、心まではそうではないだろう。

少なくとも、流れ落ちた雫が、そうだと言っている。

 

「…そういう所が実にお前らしい。」

 

他人を心配させず背負い込む所も、自分を度外視する事も…悲劇に慣れている事も。

一目で救急だと判る近未来的な車が到着し、そこに寝ていた達磨を中に入れ、去っていった。

 

「所で…時間は、いや、帰るのはどうするのかい?」

 

そう言ったレイの顔は、もう元に戻っていた。

いや、最初からそうだったが…まあいい。

現在時刻はもう10時を過ぎている。

空港は風通しがかなり良くなっており、人も皆避難していて機能していない。

…頼むしか無いか。

 

「…レイ、すまない、送って貰って良いか?」

 

「お易い御用さ。」

 

 

 

 

 

 

 

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