黒兎隊のお姉ちゃん。 作:minepo
寒い冬は終わり、春が来る。
ドイツの春は余りにも不安定だ。
陽気が降って降りて、昼寝が似合う気候になったかと思いきや。
その夜には1つ前の季節になったんじゃないか、というくらい冷えたり。
その分日本は全く平和だそうだ。
ラウラから送られてきたメールで少しほっとする。
ラウラを送り出して早一週間が経過した。
もう日本の暮らしに慣れ、日本語もちーちゃんの影響で話せるようにはなっており。
まあ私はデフォルトというか、元から言語機能はインプットされていた為に言語は大体全部話せる。
英語から、イスラム地域の言語くらいまでは余裕だ。
それはともかく、私も新しく何かをしなければならない。
そういう得体の知れない使命感に操られ、ふらふらと工厰を出て皆がいる司令部に向かおうとするその時。
空から、飛来物が。
速さはマッハを超えていて尚加速を続けている様だ。
衝撃は周囲に影響を間違いなく与え、私にも第三度の損傷、凡そ1週間の治療が必要となりうる。
形状はミサイルの様な物だと推測し、計算式を頭でたたき出す。
起動コードを片手間に唱え、レッグバンドが応答する。
左手に機体の一部を纏い、着地推測地点に立った。
手の平を上にかざし、もう片手で携帯を取り出し、ある人物へメールを送った。
『壊しちゃダメだよね?』
『もっちろん!この束さんなら修理に3秒も掛からないけど、そうするのも面倒だし!』
『了解、たーちゃん。』
駄目元で聞いてみたが、予想通りの返事が帰ってきた。
携帯を仕舞うついでに左目に手を掛け、眼帯を外す。
火傷痕が疼くが、どうだっていい。
力を少しだけ込め、機体と飛来物に集中する。
誤差は、許されない。
「全く…まあいいんだけどね。」
ごう、と暴風が辺りを覆い、局所的な嵐がその場を包む。
風が砂埃を巻き上げ、吹かれた小石が襲いかかってくる。
春の陽気で軽装にしている脚をピンポイントで攻撃して来ていてそこそこ痛い。
まあそれはどうでもいい。
成功はした。
私の掲げた手の上には人参型のミサイル…及び航空人間輸送機。
マッハで飛行する為にGが恐ろしく掛かる殺人仕様だ。
首が強めに据わってない人間ならまるごとへし折れるか、真っ赤なバターになる。
例え航空及びIS系統訓練を受けている軍人でも最低でとんでもない吐き気、最高で上も下も目の穴も、壊れた蛇口になって発見される。
まあそれに耐えうる人間が乗る訳でその点は問題ない。
しかし問題はその設計である。
一瞬で加速し、空に飛び立ち、着弾地点へ高速で落下する。
それだけならまだ有り得そうな設計だが、その質は段違いだ。
日本からドイツまでに一分もかからないと言う。
恐ろしい物だ。
さて、ISというオーバーテクノロジー気味な近未来兵器が蔓延る昨今、さぞハイテクな世の中になっているのか、と言われたらNoである。
何故か、それはISは『世界』の発見では無いからだ。
それは、どういうことか。
それは篠ノ之 束という存在について語る必要がある。
…が、まあ全人類が分かりきっているだろう。
ISを創り、それを材料に全国と渡り合った大天才。
指一つでISを、国をロックダウンすることも出来る大天災。
あのオーバーテクノロジーが服を着て歩いているような存在なら、そんなミサイルを作ることは厭わないし、なんなら自分が乗っても平気だろう。
しかし、マッハで自由落下している物体が止まる為にはそのまま着地するか、下に向かってエネルギーを放射し、その反動を利用するか。
そのまま着地したならば、衝撃波で辺りが吹き飛ぶ。
そしてエネルギーを放射した場合、そのマッハレベルの速さを打ち消すエネルギーを放射すると、辺りが吹き飛ぶ。
だから、私が丸ごと止めた、という事だ。
やり方は簡単…という程でも無いが、まあこれしか私に止める方法は無い。
AIC。
Active Inertial Canceller(慣性停止機構)の略で、『シュヴァルツァ』シリーズのメインユニットだ。
あらゆる物の『慣性』を殺す機能であり、独特の計算式を利用している為に使用者への負担はかなりの物となる。
まあそこはぶっちゃけどうとでもなるため、よくこの能力を利用しているのだ。
それでこの人参ミサイル及びロケットを止めた、という事。
あの速度から一気にゼロとなった為、中への負担はとんでもない事になっているのだが、まあ気にする事も無い。
どうせピンピンしている。
「ハロハロー!れーちゃん、元気だったー?」
「やあ、たーちゃん。元気だったとも。」
ぷしゅ、と音を立てて人参のヘタの部分が吹き飛び、中から飛び出してきたのは、先程話題に挙げた篠ノ之 束。
天才にして天災、そして私の親友でもある。
出会いは私の部隊にISが配布された頃。
当時私は色々あって天狗になってしまっていたが、コアを見ると全くもって構造が分からなかった。
そして、三日三晩掛けて再構築する事で構造を理解し、試しにコアも一つ作ってみた。
そうしたら次の日、宿舎に見知らぬ人間が居たと思ったら、たーちゃんが立っていたのだ。
『あなたが、コアを?』
『…うん』
『…どうやって、これを…作ったの?』
『どうやってって、バラして…組み上げただけ。』
『…すっごーい!!!!』
『…へ?』
目を爛々と輝かして詰め寄ってくるたーちゃんは怖かった。
しかしそれがきっかけとなり、親友になるまでに仲を深めた訳だ。
たーちゃんが訪ねて来た理由が分からない。
彼女は…拠点型の生活をしている。
わかり易く言えば反社会的な出不精だ。
『妹』の一人が彼女の助手をしている。
たーちゃんの世話はとても大変と聞いた。
主に料理面が、とも。
そんな彼女だが、わざわざ拠点から
何かあるに違いない。
「それで、要件はあるかい?」
「うん、お願いが一つ。ズッバリ、れーちゃんにはIS学園の生徒になってほしいんだ!」
「遠慮しとくよ」
第二話 『
「えー、なんでー!?」
「なんでって…あそこで教わる事なんて無いし…私にメリットが無いじゃあないか。」
メリットが無いのは本当だが、真意は別にある。
日本からドイツは遠いのだ。
一度、ちーちゃんを輸送した時。
負担軽減のためスピードを殺していたのもあったが、片道で3時間くらいかかったのだ。
もしもの事があっては、危険が過ぎる。
「うーん、確かにそうなんだけどねー?」
「理由がありそうな顔だね…何か裏があるのかい?」
「理由なんだけど…護衛だよ。」
たーちゃんの顔が笑顔になる。
この顔は何か企む顔だ。
大抵ロクな事は考えていないが、よくある事。
「…へえ。」
「IS学園は、天才の集いだ。だから、狙われる。箒ちゃんも、ちーちゃんも、一夏くんも、…ラウラちゃんもね。」
「…!」
私は揺れた。
たーちゃんはまだ笑顔を崩さない。
「だから、皆を守ってほしいんだ。報酬は弾むよー!」
「…良いよ。その代わり、緊急の時は、皆を…お願い。」
「ありがとう!れーちゃんなら受けてくれるって信じてた!」
IS学園は寮があると聞いたし、暫くはこの工厰に帰ることが出来なくなりそうだ。
仕事は…クラリッサが何とかしてくれる。
しかし、解せない事がある。
「でも…たーちゃんが直接やればいいんじゃないの?」
「私はちーちゃんと同い歳だよー?」
そういえばそうだった。
◇◆◇◆◇
「…えー、今日は新入生がいまーす…。」
山田先生が申し訳無さそうに切り出した。
教室がざわつき、直ぐに静まる。
ザワつくのも無理は無い、これで3日連続で新入生が来ているのだ。
一日目は良かった。
数少ない…というか二人しかいない、男子のISパイロットが来たからだ。
シャルル・デュノア。
絵本から飛び出てきたかのような容姿は様々な生徒に『ウケ』た。
元からいた織斑 一夏も人気であったが、二人もイケメンがいるとなると女子は皆喜ぶ物だ。
しかし問題は二日目。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
ドイツの代表候補生であり、軍人であると聞かされた。
前日のシャルルの事もあり、歓迎ムードであったが…彼女は禁忌を犯したのだ。
一夏へのビンタ。
彼女の蛮行は様々な生徒を怒り狂わせた。
立ち上がる者、悲鳴を上げる者、止める者。
その場でも更に怒り狂ったのは、代表候補生達である。
室内だと言うのにISを展開し、攻撃。
生身なら死に至る可能性もある、とてつもない行動であった。
しかし、またラウラも代表候補生。
突然彼女の紅い眼が爛と輝いた瞬間、弾丸は勢いを失い、落ちた。
その後直ぐに模擬戦があり、2対1でラウラを倒そうとした代表候補生組は軍人の力量の前に敗北。
とどのつまり、男子を殴った挙句謝らず、しかも強い。
彼女は全『一夏推し』を敵に回した事になる。
そして三日目だ。
また転入生が来る、と聞かされた時、教室の空気が変わった。
ピリピリした視線や威嚇の意はもう来る転入生に注がれる。
そして、この教室の女生徒全員に浮かぶ思想。
『守護らねば』。
全く同じ、『シャルル推し』も『一夏推し』もが手を取り合い、何かあった時には必ず守る、と皆が思った。
…だが、高校生とはいえまだ子供。
下心がないと言えば嘘だ、完全に嘘だ。
昨日の事に若干のトラウマを植え付けられた一夏、少しだけ怖がっているシャルル。
彼らを守る事が出来たのであれば、好感度は上昇する。
間違いなく。
それはお嬢様で代表候補生であるセシリアにも、
中華の代表候補生である鈴にも、
一夏につんけんした態度を取る箒にも、
同じ思想が過ぎったのである。
まあ女子高生生だしね、しょうがないね。
教室の大きな扉から足音と若干の会話が聴こえてくる。
それは千冬との会話だった。
内容こそ聴こえないものの、彼女らを警戒させるのには十分。
そして、足音は扉の前にまで来た。
教室の緊張はピークに達し、遂に扉が開かれた。
黒と白の基調に、紅いラインが入った軍服がモチーフであろう制服。
美しくたなびく灰のロングヘアに何人かの目が奪われる。
美しく整った顔立ちには眼帯が付いており、それでラウラを想起し身構える生徒も増えた。
教卓の前まで歩き終わり、止まる。
警戒。
完全な静寂が訪れ、彼女に視線が注がれた。
刹那、光。
教室の窓から今まで隠れてた太陽が顔を出し、教室に日が当たる。
その光はまるでスポットライトが如く、彼女を照らす。
白い手足が動き、描いた軌道は、一礼。
それは余りにも綺麗で、優雅な一礼だった。
まるで、時が止まったかのような錯覚に陥る。
そして、綺麗なソプラノボイスで紡がれた。
「初めまして。レイティア・ボーデヴィッヒ、です。これから宜しくお願いします。」
100点。
誰ががそう呟いたその瞬間。
教室は歓声に包まれた。
ある昼下がりの事である。