黒兎隊のお姉ちゃん。   作:minepo

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第3話

「ふう…」

 

しかし疲れた。

工廠に篭もりきりでロクに使わない舌の根が悲鳴を上げている。

普段も任務や部隊の状況をクラリッサから聞く時くらいにしか声を発していない。

また今度ボイストレーニングや質問へのスムーズな回答を練習するとしよう。

その時はクラリッサにどうにかしてもらおう、どうにか。

今日はクラスの生徒による自己紹介祭り、私の制服や眼帯に対する数多の質問、挙げ句にはスリーサイズまでも聞かれた。

慣れない制服よりはマシだ、とカスタムして来た軍服ベースの制服はやはり人の目と興味を引くみたいだ。

…何故だかちらほら敵意も感じたが、特にそう(暗殺目的)でも無かった様で直ぐにそれは消えた。

更には、代表候補生と男子達が集って行われる個人訓練にも誘われてしまった。

その誘いは口調的には優しいものの、その言葉の裏には侮りもあった。

揃って立派な体型の皆は私の体型を見て本当にISを動かせるのか心配していたようだが。

まあ、一国のIS代表がまるで中等生の如く小さいのだから、仕方ないと言えばその通りだ。

だが外見で人を決めてはいけない、という事をみっっっちりと教えてやらねば。

主にオルコット。

 

更衣室でスーツに着替えて(着替えるというよりは服を脱いだだけだが)、訓練場に足を踏み入れた。

綺麗な闘技場(コロッセオ)、というのが率直なイメージ。

何故そんな造形に拘るのか、とも。

しかし直ぐに、構造的に戦い易く肉弾戦に特化した練習が可能だからだ、と合点がいった。

そこではもう既にISの機体がぶつかり合っている。

白い機体が一夏くんで、そうでは無い機体が…確か中華国の凰だ。

私から見たらお互いにISは素人、見れたものでは無い戦いではある。

がまあ、磨けば光りそうだ…という玉虫色の感想しか出てこない。

今どき珍しいアナログな階段を使って観客席に行くと、練習に参加している代表候補生や一夏くんにひっ付いてきた篠ノ之箒がいた。

私が階段を上がりきった音で皆振り向き、鍔釣り合いで火花を散らしているISに変わって一躍私が会話の主役だ。

もう勘弁してくれ。

 

 

 

 

◆◆◇◇

 

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

 

「甘いわよ!」

 

スラスターで一気に詰めて『零落』で決めにかかるが、避けられてしまい思い切り蹴られた。

吹き飛んでいく最中、リカバーしている時にサブモニターに映ったのは大砲。

不可視の砲撃は熱を伴い、俺のシールドを大きく削る。

空中に居た俺は、衝撃で抑えも効かずに吹き飛び…それを勢いに変えた。

 

「やああぁああ!」

 

頭の中でこだまするのはシャルルに教わった機体コントロール術。

片方のスラスターだけを全開にして、弧を描いて勢い良く鈴に向かって旋回する。

よく言えばカウンター、悪く言えば苦し紛れのテレフォンパンチ。

だがしかし、この軌道は確実に鈴の機体を攻撃できるルートだ!

 

「こんのぉ!」

 

勢い良く突撃する俺に合わせた大振りの一文字が目の前に迫る。

そのまま突撃すれば電車にぶつかる小石が如く粉砕されるだろう。

だが、反撃も予想通りだ。

ブーストを一旦切り、スラスターの角度を調節する。

そして一気に点火した!

 

「ここで『二連加速(ダブルイグニッション)』!?」

 

地面スレスレの軌道から飛び上がるように上空へ移動した俺を鈴は追いきれていない。

薙刀は俺が通る筈の場所を素通りして行く。

 

「やあぁぁぁ!」

 

鈴の上空、もう一度ブーストを起動して叩きつけるように剣をぶつける。

剣が当たる直前、鈴はギリギリで反応できたが、もう遅い。

そして『零落』を纏った白式の剣がシールドにモロに当たり、試合終了のブザーが鳴った。

やった、初めて鈴に勝った!

観客席をちらと見ると、今日クラスに入ったレイティアさんがいる。

いい印象を与えることが出来ただろうか。

しかしその目はコロッセオのような訓練場の真ん中に立つ俺達には向けられていない。

何処か遠く…いや、訓練場の入口を見ていた。

その先には、誰かが、いた。

 

「…!」

 

「誰だ…?」

 

それは、ISだった。

黒い機体に、赤いラインが映える。

操縦しているのはつい先日にクラスへ入ってきたラウラ・ボーデヴィッヒさん。

手にはレーザーブレイドが赤く輝いている。

しかし、それよりも目を引き、更には危機を感じさせたのは肩部分に付いた大きな主砲。

形状は大砲と言うよりも余程近未来的で、アニメやゲームで見るようなレールガンだ。

いや…それはレールガンそのものだ!

それは俺の方に向いていて、今にも炸裂しそうな程紅く輝いている!

先程まで訓練していて反応は出来たが、何故俺達を狙うのかは分からない…いや、待てよ。

そうだ、彼女は何故か昨日から俺に殺意を抱いている!

間違い無い、撃ってくる!

 

「う…!」

 

そこにダメージ過多でしばらく動けない鈴を連れて逃げようとしたが、今さっきトドメに使った『零落』の影響でスラスターに回す分のエネルギーがまだ準備出来ていない!

せめて鈴だけは、と未だひれ伏す彼女の前で両手を広げた。

 

「死ね!織斑一夏!」

 

極光が俺達に襲いかかり、焼き焦がすのを幻視し…

 

影が、舞った。

 

何かが俺達の前に着地し、襲ってくるはずだった極光を黒が呑んだ。

それは、いや、『それも』ISであった。

今電磁砲を撃ったラウラさんの機体によく似た黒い機体。

シンプルな灰色と金のラインが走り、悠然と目の前に立っている。

その周りにはふよふよと浮くボットが2体。

 

「…『死ね』、は言い過ぎだよ。命のやり取りでもあるまいし。」

 

そこには、さっきまで観客席に居たはずのレイティアさんがIS姿で立っていた。

まるで何も感じていないかのような眼に、整った容姿。

しかし、その感情は何となくだが分かる。

…姉が、バカな弟を折半する時の雰囲気に似ていたからだ。

 

「…姉上。」

 

「うん、今日は辞めといて。また、力を示す時があるだろう?」

 

「…。織斑一夏。貴様、覚えていろ。次は無いぞ!」

 

入口付近で、構えていたレールガンを降ろし、襲撃者は帰って行った。

レイティアさんが振り向き、浮いていたボット達が俺と鈴のISに光る管を差す。

そうすると、シールドエネルギーが半分ほど回復した。

鈴もまともに動けなかったのがマシになったようで、浮かんで立ち上がる。

 

「うん、二人とも無事みたいだね。じゃあ、訓練を続けよう。今の対応を見るに、観客席に居た皆も交えて訓練をすべきだね…彼女に負けたくは、無いのだろう?」

 

ISをレッグバンドに格納したレイティアさんが手袋を付け直しながら、そう言った。

その姿は…やはり姉に酷く酷似していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゅう、と油をが跳ねる音。

うん、上手い具合に焼けてきた。

フライパンを振り、ひっくり返すと綺麗な茶色が見える。

誰もいない食堂には私と…

 

「レイ、どうだ?上手く返せて…いるようだな、流石だ。」

 

…天下のブリュンヒルデ様だ。

まさか22時半に学園の食堂で、チャーハンと餃子を生徒に要求しているだなんて、弟君ですら思っていないだろう。

教員である織斑千冬は忙しい。

やはり元世界最強のISパイロットは引っ張りだこらしく、先程まで書類にまみれていた。

晩ご飯もまだな状況、『これが終われば休憩』という素晴らしき謳い文句の下働いた結果がこれだ。

そしてようやく晩ご飯…だが、もうラストオーダーも過ぎた。

彼女自体は炭や食材本来の味がするものしか作れない為、こうして私がコックの代わり、という訳だ。

だが中華を求めてくるのは違うだろう。

わざわざ餃子を包む所から作ったが、とてつもなく面倒だった。

2分で終わらせたが。

 

「はい、餃子おまち。」

 

「ああ、ありがとうレイ…うーん、美味い…毎日作ってくれたりは」

 

「しないね。私を使いっ走りだと思ってるのかい?」

 

「いいや?だけども私は教員で今の君は生徒だからな…くくっ。」

 

「フン…」

 

わざわざ生徒という身分でこの学園に来ているのには訳がある。

というか訳が無ければ来賓や新任教師とでも偽って来るだろう。

まずは年齢。

一応これでも16歳なので、教師ではなく生徒、と上に決められたのであった。

次にスパイ活動。

男性のISパイロットは貴重極まりない。

デュノアはともかく、織斑くんは二度とないような存在だ。

もし彼の協力の元、男もISに乗れる技術が確率されたとする。

各国も無駄な『女』という元々は男より弱かったモノを使う必要など無くなり、核兵器に勝る超兵器を量産可能と出来る。

まあ、これはやる気が無い。

私に利点が見当たらないからだ。

最後に…

 

「くくく、くくっ…」

 

この絶賛珍しい笑顔を浮かべて私を馬鹿にしているこの女の要望だ。

こんなナリでも私は彼女の本性や部屋の汚さを知り、私の様々な秘密を知る、数少ない気の知れた仲である。

つまり言うところ、嫌がらせだ。

私としても、絶対に無理とまではいかなかった為に受け入れたが、納得はしていない。

 

「いやまさか、あの、《戦神》様が学園の生徒ねぇ…くくくっ。」

 

「もう、そんなに馬鹿にするのなら二度とご飯作らないぞー?」

 

「すまないすまない、しかしあまりにも…な?」

 

そう、似合わない。

仕事は色々とやってきた。

酸いも甘いも体験したし、修羅場を何度もくぐってきた。

夥しい犠牲も、輝かしい成果も挙げてきた。

だからこその《戦神》。

しかし、今では学校の生徒である。

私にはまるで、似合わ無い。

 

「しかし…レイ。」

 

「ん?」

 

「お前、トーナメントのペアはいるのか?」

 

「…ぺあ?」

 

「…SST、聞いていたか?」

 

「寝てたね、会話責めで疲れて。」

 

急にちーちゃんの顔が暗くなってきた。

トーナメント戦があるのは知っていたが、ツーマンセルを組むとは。

IS戦は多対多が最も多い。

ペアを組んで行動するのは重要になってくるだろう。

 

「…お前、多分ソロだ。」

 

「…へ?」

 

私は《戦神》と呼ばれている。

一騎当千で、一個大隊くらいなら余裕だ、と自負できる。

しかし、こんなことで一人寂しくマッチすることになるのは想定外である。

なんたって、私には一般代表生という外面が出来てしまったからだ。

無双してしまって変な噂が広がっても面倒だ。

今日みたいな質問責めはもう嫌だし。

 

「…うーん、どうしようか…」

 

取り敢えずは一夏くんがいるチームには負けてあげよう。

 

 




多分レイティアさんは天災みたいな人類のハイエンドモデルなのでヤベー奴です。




兵器紹介
※ここで基本的にオリ機体の解説をするぞ!

【フギン】・【ムニン】
BTシステムをレイティアさんがイギリスからパクって作り上げたボット二機。
二つで一つの性能をしており、要救助者への援護や、光学兵器へのカウンターを担う。

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