黒兎隊のお姉ちゃん。   作:minepo

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第4話

一夏くん襲撃事件から数日が経ち、トーナメント当日。

私は試合を見に行く為、人通りの少ない裏経路を使って会場に向かおうとしていた。

天気は晴れ、しかしそれが荒れるのは直ぐだろう。

トーナメント表をホログラムで展開して、何時から誰と誰が戦うのかを確認。

 

「ふぅん…ラウラペアと一夏ペアが初戦、ねえ…」

 

いきなりのビックカード同士だ。

ラウラも急ピッチではあるが私と違ってペアは作れたらしい。

所詮は試合、あまり『戦闘力』向上には繋がらないが、『戦う為の力』は身につく。

姉、もしくは上司としてこの試合は大歓迎だ。

チーム戦の経験、またはそれによる挫折は誰もが通る道であり、経験としての質も良い。

歩を緩めて、なるべく会場へ着くのを遅らせながら、そう思った。

 

「昼ご飯は何にしようか…」

 

考えるフリをして、状況を整理しながら歩く。

後ろには3人、間違いなく何かで武装している。

今私は学園経路、しかもあまり知られていない裏経路を歩いている真っ最中。

間違っても道に迷ったなどの戯言は通らないだろう。

確実に尾けられている。

 

「売店の物も悪くは無いんだけどなぁ…」

 

懐に隠し持っている武装以外にもISは携帯していると考えていいだろう。

しかも敵意はダダ漏れ。

暗殺か誘拐が目的だろうか。

私の本職を知っているのならばそんな無謀な事はしない筈。

毎度ほっそい勝算ありきで突っ込んでくる亡国企業が何かしら企んでる線は薄い。

つまりどっかのバカが行事に合わせて、基本的に裕福な家庭出身IS学園生徒を誘拐しようとした…といった所だろうか。

しかし学園のセキュリティは甘すぎやしないだろうか。

監視カメラはあるが侵入出来てしまうならば意味は無い。

せめて警備員くらいは雇った方が良いと思う。

IS付きの。

 

「…」

「…」

「…!」

 

なにか会釈らしきものを交わしたと思いきや、急に襲いかかってきた。

得物は3人ともワイヤーブレード、光子剣とも。

光子である為にガードは無謀、受け身は使えない。

しかし光子では無い部分はそんな鋭く無い為、光による熱さえどうにか出来れば対処可能。

凶器としての証拠が残らない為、暗殺に向いているのも特徴だ。

つまりは強盗、もしくは暗殺だろうか。

 

「ふ」

 

左手だけにISを纏わせ、呼び出した円錐槍で三太刀とも受け止める。

完全耐熱の加工を施しているが為に一切のダメージは無い。

…しかし、想定より強い。

金目当てで脳足らずな強盗の範疇では決してない。

もし亡国企業の襲撃ならば私を警戒し、戦力を判断して幹部以上が出張ってくるだろう。

幹部の顔はよく知っている。

三人にISを配れる程『コア』を持ち合わせている、私とやり合ってメリットが存在する組織。

つまり…

 

「またか、名無し(アンネイムド)。」

 

その名を呼んだ瞬間に3人の力が強ばった。

鍔釣合をを弾かれ、距離を取った後に来た、流れる様な連携攻撃を力づくで弾き飛ばす。

その先で全身装甲(フル・スキン)のISを瞬間装着した様だ。

3機とも同じ機体、しかし頭に機体番号がある為に個体判別は可能。

機体名は《ゴーレムⅢ》。

全国的に使われている量産型のISで、耐久に優れている。

他に特記すべき事は特にない、良くも悪くも量産型のISだ。

しかし実に面倒な事になった。

アメリカの亡霊程度を相手にする事に抵抗は無いし、慈悲もくれてやらないがとにかく面倒だ。

このまま連絡無くISを展開し処理しようものなら本部にどやされるのは確実。

しかし無抵抗で殺られる訳にも行かないし、逃げれば学生に被害がどう出るか分からない為に却下だ。

 

「一斉射撃」

「了解」

「了解」

 

隠す気も無くなったのか無線で連携を取り始めた。

傍受可能な簡易回線程度なのも一般兵、といった所か。

私もISを一部装備し、円錐槍を横に構え…胸ポケットの振動に気付いた。

銃弾をAICでいなしつつ、左手で槍を振るい、右耳に当てた端末に神経を集中させる。

 

『レイ!緊急だ!ラウラが一夏ペアに敗北した後暴走している!確実に''VT''を使用している!このボイスを確認次第会場に来い!繰り返す!ラウラが…』

 

まさか。

 

「第二目標、疲弊確認」

「作戦移行」

「掃射」

 

弾丸の雨が降り注ぐ。

ほぼ全てがISの結界に弾かれ、エネルギーはどんどん消費されていく。

AICで補足する事も難しい程の量だ。

エネルギーは直ぐに尽きる。

だが。

 

その一切がどうでもいい。

 

邪魔な眼帯を引きちぎり、投げ捨てる。

久々に左目に空気を感じた。

そして、開く。

空の左目を、ゆっくりと。

 

aktivieren(起動)

 

私は、レイティア・ボーデヴィッヒ。

私は、特殊部隊黒兎隊隊長。

私は、戦神。

私は、…お姉ちゃん。

 

『妹も守れない姉がこの世にいるもんか。』

 

Schwarz Ernten(シュヴァルツ ハールバルズ)…起動」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

黒兎隊からの報告書

 

専用機第7号機が破壊工作により暴走、これを破壊。

専用機第7号機の大破、学園施設一部破壊以外の被害はゼロ。

IS学園特記生徒による活躍により考えうる限りの惨事は回避された。

なお主犯と思わしき部隊に特殊部隊隊長が専用機第1号機を使用し交戦、これを直ちに壊滅。

それらのコアは回収不可能であり、特殊特記人物1に本部隊隊長が直接交渉、結果としてコア2基の回収に成功した。

なお報酬として、本部隊にISコア2基を要求する。

 

 

 

本部からの返信

 

専用機第7号の消耗は今週中に修復を完了させること。

なお報酬については任務外戦闘の懲罰と合わせて打ち消しとし、無しとする。

学園にも戦闘による被害規模の詳細を報告する事。

 

追記

亡国に動きがあった。

捜査を続けているが詳細は掴めていない。

十分警戒に当たるべし。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、私の部屋に誰かが入って来た。

鍵は元から掛けていない。

誰かと勘ぐったが、ラウラだったらしい。

寝巻きのまま枕を抱いて私のベットの向かいに立つ。

意を決したような顔をした後、目を閉じている私に近づいてきた。

 

「姉上」

 

「なんだい、ラウラ。」

 

「わたし、わたし…」

 

何かを言い淀んでいる感じだ。

話しづらいことでも話そうとしているのか。

 

「…落ち着いて、ゆっくり。」

 

「…。」

 

「ほら、これでも飲みなよ。」

 

落ち着かせるために常備している牛乳を火炎放射で一瞬で温める。

少し砂糖を入れて、ホットミルク完成だ。

ついでに私の分も作ってベットに座らせる。

 

「姉上。私は、あなたの事を…上官としか見ていなかった。」

 

「…うん、それから?」

 

「本部から聞いた。VTシステムを組み込んだのは星条旗の連中だ、と。」

 

「そうだね。」

 

「でも私、わたしは…姉上だとおもったんだ。」

 

「…というと?」

 

「姉上が、私のISにシステムを組み込んだのだと、おもったんです。」

 

「…。」

 

「姉上は、いつも強かった。部隊の他の連中も、その強さに心酔しているのだと勝手に思っていた。」

 

ラウラは静かに眼帯を外した。

露になる統合手術の証。

金色の瞳。

 

「私は、それに比べて弱かった。精神的にも、肉体的にも。だからそれを見かねた姉上が、VTシステムを使って無理やりにでも私を強くしようとしたのかと、思った。」

 

「…そうなんだね。」

 

「…でも、違った。姉上は私を、守ろうとした。犯人を倒した後、直ぐに駆けつけてくれた。」

 

「頑張ったよ。でも一夏くんが救ってくれた後に着いた。」

 

「…今まで姉上が私にくれた物。全てが力を授ける為の物だと、そう思ってた。でも部隊から外されて、学園に来た時、私は捨てられたんだと、…そう思った。」

 

「それは」

 

「違う。違った。」

 

ラウラはしかと私の目を見た。

金色の目が私を射抜く。

その目は決意に満ちていた。

月光が部屋を照らす。

 

「私、今まで私を、力を与えられ、それを奪われた。ロボットだと思っていた。」

 

「…」

 

「でも違う。姉上。」

 

「勿論。貴女は…」

 

「家族だから、人間。そうでしょう?」

 

そう言ったラウラは、ひどく優しい顔をしていた。

彼女は、今まで張り詰めた顔ばかりをしていた。

追い詰められた、後の無い人間の顔だ。

でももう違うのだろう。

確かに今、彼女は笑ったんだ。

 

「ラウラ…」

 

「やっと、私誤解を解けました。姉上は、本当にお姉ちゃんだったんだ。」

 

「…うん、良かった。」

 

そう言うとラウラは抱きついて来た。

急だったが、何とか受け止めた。

手に持っていたマグカップをベッド横の机に置いて、抱き返す。

優しい、温もりを感じる。

 

「姉上。私は、姉上にとって、家族ですか?」

 

「…勿論。元からそうさ。」

 

「…なら、良かった。ようやく、とどいた。」

 

胸に埋められた顔から、湿り気を感じた。

パジャマが汚れてしまうが、まあいいだろう。

夜は、更けていく。

 

 

 

「…ところで姉上。」

 

「どうしたの、ラウラ。」

 

「私、織斑一夏、あいつの事が頭から離れないんです。」

 

「…というと?」

 

「真っ二つにされた時、奴の顔が見えて、その顔がずっと脳裏に…」

 

「ほうほう、それは…面白いね。」

 

「変、でしょうか…」

 

「うんうん、変は変だね。…えーっと…」

 

『急に電話掛けてきてなんですか、姉様。』

 

「副隊長!?」

 

「ごめんね、クラリッサ。でも、ラウラが…」

 

『ほうほう…それは…』

 

『「恋では!?」』

 

「な、な…」

 

「そうそう!どうすればいいのか、クラリッサならと思って!」

 

『心配ないさ姉様!このクラリッサがラウラの恋路をサポートする!』

 

『まずは…』

 

 

そう、夜は、更けていくのさ。

 

 

 

 

 

 

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