百花王学園の支配人 作:匿名P
~支配人室~
「アルス様がギャンブルを始めたそうです」
「そうか」
「今日は私1人で仕事をします。支配人は休んでください」
「え?それは悪いよ。俺もやる」
「明らかに元気が無いです。今はしっかり休んでください」
今の日夜は誰が見ても元気が無さそうに見える。日夜自身もそれは分かっている。
杜和は日夜の机の上に置いてあった書類を全て自身の机の上に置いた。
仕事を取り上げられた日夜は呆然とした顔をしていた。
「自由に過ごしてください。仕事は私1人で何とかなるので」
「悪いな。そうさせてもらう」
「えぇ。お気をつけて」
日夜は立ち上がり部屋を出ていく。杜和は日夜が部屋を出たのを確認してから作業に取り掛かった。
「あ!真君!」
「げっ……るな」
日夜が廊下を歩いていると向こうから小さな女の子が歩いてきた。
日夜はその少女の姿を見ると明らかに嫌な顔をした。
「そんな嫌そうな顔するなんて真君ヒドイ!」
「すまん。そんなだったか」
「真君、何してんの?」
「ただの散歩だ」
「珍しいね」
「そういうるなは何をしてるんだ?」
るなも学校中をあちこち歩いているのでばったり会うのは珍しい。
俺がギャンブルを始めるとどこからともなく現れるが……
「さっきまでディーラーをやってたんだよ。それで君とそっくりな子と会ってさ」
「アルスか」
「分かるの?」
「あぁ。兄弟なんでな」
「だから顔がそっくりなんだぁ」
るなは感心したように首を縦に振る。
アルスと俺は血のつながった兄弟だ。だが、アイツと意見が合ったことはない。
本当に兄弟なのかと疑う時もある。
「君とタイプは違う気がするけどすごいギャンブル強かったよー圧勝だったし。こりゃ一波乱あるねぇ」
「そうか」
「嬉しくないの?」
「アイツとはあんまり仲良くないんでな」
「へぇー」
「ところでこんなところで駄弁っていていいのか?今の時期は色々忙しいんじゃないか?」
「あ!そうだった!じゃ、またねー」
るなはハッとした表情をすると俺の横を通り過ぎて行った。
退屈だ。この学校は常に何か起こっているというのに。
今の俺には何も出来ない。未だに社長の言ったことが信じられない。
そんなに俺が信頼出来ないだろうか。
「……綺羅莉」
「フフフ、退屈そうね?」
「あぁ。退屈だよ」
考え事をしていると綺羅莉が笑みを浮かべて立っていた。今日はよく人に会うな。
綺羅莉は俺の言葉を聞くとさらに笑みを深めた。
相変わらず何考えてるか分からないな。
「少しお話出来ないかしら?」
「別に構わないが」
「じゃあ付いてきてちょうだい」
綺羅莉の後をついていくとだだっ広い部屋に案内された。
ホテルのスイートルームのような部屋だ。
綺羅莉が左のソファーに座り、俺が右のソファーに座る。
「それで話ってなんだ?」
綺羅莉は紅茶をすすり優雅な時を過ごしている。
俺は用意された紅茶に手をつけずに話を始める。
「あなた本当に選挙を降りる気なの?」
「あぁ。何度も言わせるな」
「あら?ご機嫌斜めだったかしら」
「悪かったな。ご機嫌斜めで」
綺羅莉は一切表情を変えず、笑みを浮かべている。
何を考えているかは分からないが、何か企んでいるのは分かる。
「なぜ降りるの?」
「話す義理は無いだろ」
「でしょうね。でも、だいたい分かるわよ」
「そうか」
「上からの命令、でしょ?」
俺は内心ドキッとしたが表情には出さないように努めた。
そういえばコイツは俺の名前を知っているんだった。
「そもそも、あなたがこの学校に来たのは会社の命令。この学校に絡む利権を手に入れるためにあなたは派遣された」
「……」
「あら?違ったかしら?」
「……もったいぶるな」
「フフフ、当たってるみたいね」
どうやって調べたんだか。綺羅莉の言ってることは正しい。
社長は百花王学園の利権に目を付けた。それで俺が派遣された。
俺以外にも派遣されていたみたいだが、全員失敗したようで俺に出番が回ってきた。
「そして、この生徒会長選挙であなた以外に派遣された人物がいる。その人物が生徒会長になり、あなたが支配人でいる。百花王学園の支配を盤石にしたいのよね?」
「あなたが生徒会長選挙に出続けたらいつかは新たに派遣された人物と争う事になってしまう。内紛を避けるためにあなたは手を引くようにと言われた」
「そして、派遣された人物は……」
「分かった。もう十分分かった。それ以上言うな」
「当たってるってことでいいのかしら?」
「……」
「肝心なところは黙るのね」
「分かったよ。もうそれでいい」
あっぱれとしか言いようがない。俺の事情を全て把握している。
この学園に会社のスパイでもいるのか?
そのレベルだ。桃喰綺羅莉、底が知れない。
さすがはあの百喰家の当主と言うべきか。
「で、そんな答え合わせをするために俺を呼んだのか?」
「それもあるけれど、大事なのはここからよ」
「まだなにかあるのか?」
「ここからの話は私がさっきまで言った答えが合ってないと意味が無いわ」
「どういう意味だ?」
話の先が見えてこない。思わず目を細める。
首を傾げる俺を見て綺羅莉は口角を上げる。
「あなたの首輪を外してあげるわ」
「は?」
「選挙にあなたを誘ったのは私よ。せっかく誘ったんだから参加してもらわないと困るわ」
「お前が見たいのは俺のギャンブルじゃない。俺を
「フフフ、どうかしら?」
綺羅莉は微笑むだけで一切の感情が見えてこない。相変わらずポーカーフェイスが上手い。
綺羅莉自身、俺とギャンブルしたいというのもあるのかもしれない。
でも、それ以上に俺という存在がこの
「首輪を外すのはどうやってやるんだ?」
「それは秘密」
綺羅莉はそういうと目を細めて微笑んだ。
肝心なところは教えてくれないのか。
まぁ、何となく想像つくけども。
「あなたがいないと面白味に欠けるわ」
「そりゃどうも」
「あなたが存分やれるように余事は排除しないとね」
「そうかい。勝手にしろ」
「フフフ、悪いようにはしないわ」
俺は紅茶の入ったティーカップを手に取る。
すっかり冷めてしまっており、味も落ちている。
「じゃあ、私はこれで。紅茶のおかわりはそこに置いてあるから好きに飲むといいわ」
「あぁ」
「また会いましょう」
綺羅莉は最後まで笑顔を崩さなかった。
ここまでくるとわざとじゃなくて本心で笑ってたんじゃないかと思う。
いずれにせよ、最奥で何を考えているのかは分からなかった。
今後数日は色々起こりそうだ。退屈な日々も案外早く終わるかもな。
残った紅茶を飲み干して俺は部屋を後にした。
――――――――
「そんな……!バカな……!」
「じゃあな。そこそこ楽しめた」
アルスは等々喰定楽乃とのギャンブルを終えた。
結果はアルスの大勝。たったの一日でアルスはランキングに名を連ねるほどの票を集めた。
一方の等々喰定楽乃は票を失ったわけではないが、大幅に数を減らした。
「この程度ならアイツにも届くな」
アルスはギャンブルをしていた部屋を出るとあくどい笑みを浮かべた。
そして、次なる賭場を求め学校内を歩き始めた。
「お?人が集まってんな」
人だかりが出来ている賭場を見つけ近づいてみる。
そこでは強者が弱者を喰らっていた。
「いけるっ!Qのスリーカードだ!」
「おお!これは勝ったんじゃないか!」
「あの桃喰綺羅莉に勝てるのか!?」
人々の視線は元生徒会長・桃喰綺羅莉のギャンブルに向いていた。
圧倒的な強さで挑んでくるものを返り討ちにし、票数を稼いでいた。
誰もが勝てないのかと絶望していた時、ある挑戦者が綺羅莉の首元にナイフを突きつけた。
Qのスリーカード。かなりの強さである。これなら!と聴衆とプレイヤーの誰もが思った。
「なっ……!Aのスリーカード……!?」
「あちゃーダメか」
「誰が勝てるんだよ……」
綺羅莉の手が開けられた時、全員がため息をついた。
これで桃喰綺羅莉の38連勝目。負けなしである。
勝ったというのに綺羅莉の顔はつまらそうだった。
この程度では強者はいくら喰らっても満たされない。
「いいねぇ……やりがいがありそうだ」
アルスは綺羅莉を見ると獲物を狩るかのように目を光らせ、邪悪な笑みを浮かべる。
そして、一歩一歩綺羅莉の元へと向かっていく。
「俺とギャンブルしろ」
「……フフフ、ようやく釣れた」
綺羅莉は顔を上げアルスを見ると表情を一変させ笑顔を見せる。
アルスは綺羅莉の可憐さと不気味さを兼ね備えた笑みに刺激され自身も笑みを浮かべる。
「えぇ。やりましょう」
「楽しめそうだ」
両者笑みを崩さず着席する。このギャンブルが今後の生徒会長選挙を大きく動かす事になる。