百花王学園の支配人 作:匿名P
「ここじゃギャラリーがうるさい。場所を変えてもいいか?」
「えぇ。お好きにどうぞ」
綺羅莉は立ち上がり、アルスの後をついていく。綺羅莉の後ろを五十嵐清華がピッタリとついていく。
ギャラリーは立ち去る2人を眺めるしか出来なかった。多少のザワつきはあったがついていこうとする者はいなかった。
「ここだ」
アルスが部屋の扉を開ける。綺羅莉に「どうぞ」と合図をする。
五十嵐がもう一方の扉を抑える。綺羅莉が一番先に入り、次にアルス、最後に五十嵐が入った。
部屋の中は真ん中に2つの椅子と机があり、机の前に選挙管理委員会の服を着た人間が立っていた。アルスが左に座り、綺羅莉が右に座る。綺羅莉は座る際、選挙管理委員の頭上にあるモニターを見て目を細めた。
「ディーラーはこいつでいいか?」
「えぇ。構わないわ」
アルスが選挙管理委員の肩をポンと軽く叩いた。
綺羅莉は余裕たっぷりに返す。
「ギャンブルはドローポーカーでよろしいですか?」
「あぁ」
「えぇ」
「ですが、通常のドローポーカーと違い5枚の内3枚のカードをオープンしてもらいます」
「なるほど……面白いわね」
綺羅莉は選挙管理委員の言葉にほくそ笑んだ。
通常のドローポーカーは5枚の手札を相手に見せず、役を作り勝負する。
だが、今回はそのうちの3枚をオープンする。つまり相手に情報を与えることになる。
その3枚を頼りに相手の手の強さを読むことも出来るが、オープンされた3枚の情報が必ずしも
例えば開示されたカードが7・8・9だった場合、真っ先に疑うのはストレートの可能性。
あと2枚そろっていればストレートが出来上がる。こうなると相手の手はストレートの可能性が高いと判断して、ストレートよりも強い役が出来なかった場合降りるという選択を高確率でしてしまう。
しかし、実際の相手の手はブタだった。などということもある。
ベット額だけでなく推測するべき要素が増えるポーカーとなる。
「なおカードの交換は1回までです。お互いにカードの交換が終わったところでカードをオープンしてください。その後、ベットタイムに移ります。降りる際はペナルティーとして10枚の票を相手に支払います」
「分かったわ」
「じゃあやろうか」
選挙管理委員が懐からデックを取り出し、慣れた手付きでシャッフルする。
そして、5枚ずつカードを配る。お互いに顔の表情を変えず、カードを1枚1枚確認する。
アルスがカードを2枚チェンジした。綺羅莉は3枚のカードチェンジ。
「カードチェンジが終わりましたので、カードをオープンしてください」
アルスはハートのK・ダイヤのA・クローバーのJ。
綺羅莉はハートの8・スペードの8・クローバーの10。
綺羅莉の手は既にツーペアが出来ている。アルスは何も出来ていない。
「ベットタイムに移ります。アルス様、ベットを」
「ベット、50枚」
「あら、強気なのね」
「お前の番だ」
アルスは余裕がありそうに笑っている。綺羅莉の手は既にツーペア出来ている。
2枚の中にもう1枚、8があればスリーカードが出来上がる。
その可能性を考慮した上での50枚ベット。どんな手が出来ているのかと綺羅莉はほくそ笑んだ。
アルスは何も言わずにただ笑っている。
「桃喰綺羅莉様、宣言を」
「コール」
綺羅莉はほくそ笑んだまま50枚のコールを宣言した。
計100枚いきなり多くの票が移動する。というのに両者は笑みを崩さない。
「8のスリーカードよ」
「Kのツーペアだ」
「勝者、桃喰綺羅莉」
いきなり50枚の票を失ったのにアルスは余裕たっぷりに笑っている。
さすがの綺羅莉も違和感を覚えた。
「随分、余裕があるのね?」
「お前もなぁ?」
「?」
「さぁ、続きをやろう」
綺羅莉はアルスの言葉に目を細めた。五十嵐も同様だった。
アルスは2人の反応を見て面白がるように笑ったが、特に何も言わなかった。
綺羅莉も特に気にせず、ギャンブルの続きを行った。
「さすがは
「あら?少し手加減したほうが良かったかしら?」
数回行い、全て綺羅莉の勝ち。アルスの票はあと50枚。始める前に比べれば大幅に数を減らした。
それなのにアルスは余裕そうな表情をしている。
「クックック」
「何がおかしいのかしら?」
「見れば分かるさ」
アルスが指を鳴らすと選挙管理委員の頭上にあったモニターの電源が入った。
モニターには屋上で目隠しをされられ、あと一歩で落ちるという状態の人間が立っていた。
さらに後ろにはあくどい笑みを浮かべる男がいた。
「どういうことかしら?」
「こういうことだよ」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
アルスが邪悪な笑みを浮かべて指を鳴らした。
すると、目隠しをされている人間を後ろの男が突き落とした。
生々しい悲鳴が部屋中に響き渡る。どこかにスピーカーでもあるのだろう。
落ちる瞬間を見た綺羅莉は選挙管理委員の方に顔を向けた。
五十嵐はありえない光景に絶句していた。
「……!」
「説明してくれるかしら?」
「外ウマだよ。桃喰綺羅莉が勝ったら1人落ちる。負けたら、落ちない。で賭けてるんだよ」
綺羅莉は選挙管理委員に問いかけたのだが、アルスが勝手に説明を始めた。
アルスはどこか嬉しそうにも見える。
「全く。趣味の悪い奴らがいるもんだよなぁ」
「お前はそんな外ウマに気付かず3回も勝ってしまった。もう3人落ちた。胸糞悪いよなぁ?」
アルスは綺羅莉に邪悪な笑みで笑いかける。
綺羅莉は表情を崩さずにアルスの言葉を受け止める。
五十嵐は口元に手を抑えていた。
「選挙管理委員も容認済みということね」
「そういう事だ。さぁ、続きをやろう」
「……」
綺羅莉は無言で配られたカードを手に取る。
アルスは明らかに雰囲気が変わった綺羅莉を見て口角を上げる。
綺羅莉がカードを1枚チェンジする。アルスはカードを3枚チェンジした。
「カードをオープンしてください」
お互いのカードが3枚ずつ開示される。
アルスはダイヤの3・クローパーの6・クローバーの8。
綺羅莉はハートの9・ハートの10・ダイヤの8。
「ベットタイムに移ります。アルス様、ベットを」
「オールインだ!」
アルスは自信たっぷりにそして挑発的に宣言をした。
アルスの顔には悦びが、邪悪さが見えていた。
「桃喰綺羅莉様、宣言を」
「フォールド」
綺羅莉の手はストレートだった。十分強い役なのだが、降りる選択をした。
それは他でもない外ウマのせいだ。自分のギャンブルの結果で人命が無くなる。
自分が人命を握っているのである。それに既に3人も落としたという事実が綺羅莉に重くのしかかった。
「だよな?降りるしか無いよなぁ?」
「……」
「クックック」
綺羅莉からアルスへ10枚の票が支払われた。
アルスは獲物が罠に嵌った事に悦びを覚える。
アルスの狡猾かつ邪悪な罠がゆっくりと緻密に桃喰綺羅莉を捕らえていった。
「フォールド」
「フォールド」
「フォールド」
綺羅莉は降りるしか出来なかった。これで16回連続のフォールド。
あと一歩のところまでアルスを追い詰めたが息を吹き返してしまった。
綺羅莉とアルスの票の差は僅か20枚。アルスが綺羅莉の票数を上回ると綺羅莉の負けが現実的になる。
勝負手が入ったとして票数で負けていればその勝負で決着がつきかねない。一発勝負になってしまうのだ。
「何も出来ないよなぁ?何も出来ずただ票を減らされる」
「どんな気分だ!?」
「……」
綺羅莉はアルスの問いかけに応じずただ黙っていた。
アルスはそんな綺羅莉が面白くなかった。
「続きよ」
「いいのか?もうそろそろ、首にギロチンが落ちるぞ?」
「……」
「フッ、まぁいいか」
アルスは自分の勝ちは固いとそう思っていた。
負けが近づいている綺羅莉の無反応さには拍子抜けしていた。
もう少し動揺したりしてくれれば面白いと思っていた。
「3枚チェンジだ」
「1枚変えてくれる?」
アルスが3枚のカードチェンジ。
綺羅莉は1枚のカードチェンジ。
「カードをオープンしてください」
アルスはハートのQ・ハートのA・クローバーのQ。
綺羅莉はダイヤのQ・ダイヤの10・ダイヤのA。
「ベットタイムに移ります。アルス様、ベットを」
「ベット、50枚」
アルスは余裕たっぷりに宣言した。
その目には「負け」の二文字はどこにもない。
「桃喰綺羅莉様、宣言を」
「コール」
「いいのかぁ?人が落ちるぞ?最悪死ぬかもなぁ」
綺羅莉の宣言にアルスは邪悪な笑みを浮かべた。
内心、覚悟を決めたかとそう思っていた。
「あなた、なめてると痛い目見るわよ?」
「……!」
綺羅莉の刺すような視線、言葉にアルスは一瞬固まった。
気を取り直してあくどく笑う。
「ロイヤルストレートフラッシュだと?」
「勝者、桃喰綺羅莉」
「だが、これで人が落ちる!さぁよく見ろ!お前のせいで苦しむ人間を!」
アルスは嬉々としてモニターを見つめる。
綺羅莉は表情を変えずにモニターを見つめた。
五十嵐はこれから起きることに耐えられずモニターから目を逸らす。
「はぁ?どうなってんだ?」
「……」
「チッ、早くしろよ」
人が落ちない。想定外である。綺羅莉が勝ったため外ウマで人は落ちるはずなのだ。
落ちるどころか落とす人間すら写っていないことに気付いた。
アルスは苛立った様子でスマホを取り出し電話を掛けた。
「何してんだ?早く落とせ」
「もしもーし」
「お前!真!?」
アルスが掛けた電話に出たのは日夜だった。
想定外の人物にアルスは目を丸くする。
その様子を見ていた綺羅莉はほくそ笑む。
「なんでお前が!?」
「なんでって、お前こそ人が落ちるなんて派手なことやっておいて俺の耳入らないと思った?」
「どうなってる!?お前の耳には入らないように隠していたはずだ!」
「うちの杜和は優秀なんでね」
「クソがッ……!」
アルスは苛立ったようにスマホを投げ捨てる。
綺羅莉は挑発するようにアルスに笑いかける。
「あなたの知らない外ウマがあったとしたら?」
「はぁ?」
「例えば、あなたが勝ったら人は落ちない。負けたら落ちる。で外ウマがあれば?」
「それだったら2人落ちるはずだ!」
「そうよね。じゃあ、落ちる人数が1人なら落ちる。2人
「なっ!まさか!?」
「フフフ、面白くなってきたわね」
「お前ッ!?」
「私は知らないわ?
アルスは綺羅莉の知らないところで外ウマを結んでいた。
これにより綺羅莉は何もすることが出来なかった。
だが、この2つの外ウマがあればアルスの罠は無効化する。
「そんなものは無効だ!そうだろ!ディーラー!?」
「え、えぇ。その外ウマは認められません」
「私が認めるよー」
突如扉が開いた。入ってきたのは選挙管理委員会委員長・黄泉月るな。
思わぬ来客にアルスは再び目を丸くする。
綺羅莉は想定内といった表情を浮かべる。
「君さー」
るなはテクテクとディーラーの方に向かっていく。
ディーラーは小柄なるなの圧力に押され1歩、また1歩と後退する。
「選挙管理委員会の人間じゃないよねぇ?」
なめている飴を向け、するどい目つきで睨んだ。
ディーラーはるなの言葉に固まった。
「生徒会長選挙は
「連れて行って」
「い、いや!やめてぇー!」
るなが合図すると選挙管理委員会の服を着た大柄な男2人組がディーラーを連れ去った。
部外者がいなくなったのを確認するとるなは笑顔を見せる。
アルスは頭を抱えた。自身の策がことごとく潰される。とても不快だった。
「続きはこの私がやるよー!」
「さぁ続きよ」
綺羅莉はアルスの目を見て挑発的に笑った。
アルスは歯ぎしりを立てて綺羅莉の方を睨んだ。
「このギャンブルは部外者がディーラーをやってたから無効にも出来るけどー?」
「続けて構わないわ」
「一番の被害者がこう言ってんだから、いいよねぇ?」
「あ、あぁ。構わない」
アルスはるなの刺すように鋭い視線と圧に押された。
アルスは内心、穏やかでは無かった。穏やかであるはずがない。
「だが、その外ウマには弱点がある。お前が勝ち続けなければいけない」
「それに!俺が降りれば人も落ちる!」
「なら、こんな外ウマがあったらどうかしら?」
「なんだと?」
「あなたが降りれば人は落ちない。降りなかったら人は落ちる、なんて外ウマが結ばれたら?」
「……!」
「フフフ、
外ウマのバーゲンセールである。
だが、元はといえばアルスから始めたことである。
結果的にアルスは自分の首を絞めることになった。
策に溺れるとはまさにこの事だろう。
「それでもお前がずっと勝ち続けるなんて出来るか?」
「次で終わるかもしれないわよ」
綺羅莉はほくそ笑んだ。
アルスにはその笑みが煽情的に見えた。
アルスの目が血走り、綺羅莉だけを見ている。
「にゃはは、カードを配るよー」
綺羅莉は余裕の表情でカードを1枚1枚丁寧に確認し、上品にカードを交換する。
アルスは対照的にガサツにカードを見て投げ捨てるようにカードを交換する。
アルスは1枚のカードチェンジ。
綺羅莉は2枚のカードチェンジ。
「カードオープン!」
アルスはハートのQ・ダイヤのQ・クローバーのJ。
綺羅莉はハートのK・ダイヤのK・スペードの10。
お互いにツーペアが完成している。
「ベットタイム、会長からだよー」
「オールイン」
「……!」
「にゃははー会長の方が票数は多いからアルス君は勝負手が来ても
「るな、私はもう会長じゃないのよ。その呼び方は相応しくないわ」
「でも、会長は会長だよ。今更変えられないよー」
アルスなんぞ蚊帳の外である。
アルスからしてみれば憎たらしくてたまらない。
だが、アルスはチャンスを見出していた。
なぜなら、手はフルハウス。十分に強い。
綺羅莉が油断している今なら勝てると。
笑みがこぼれそうなのを必死でこらえる。
「アルス君の番だよー」
「オールイン」
「おっ!決着がつくかもねぇ」
「
アルスは自信満々に2枚のカードをオープンする。
手はフルハウス。この手を見たるなはうなった。
だが、肝心の綺羅莉は余裕を崩さず笑みを浮かべている。
「さすがは
「でも、これで終わりよ」
「ふぉ、フォーカード?」
「勝者、桃喰綺羅莉!」
綺羅莉が開示したカードを見たアルスは固まった。
場の状況を理解できなかった。
「まけ、た?のか……?」
「お前はまだまだその程度だってことだ」
「ま、まこと……!?」
「お、お前が仕組んだのか?」
「仕組む?何のことやら?俺は人命を賭けるなんてくだらないギャンブルを止めさせただけだが」
「お、おれが、こ、こいつに……あぁぁ、あぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
アルスは突然発狂すると猛ダッシュで部屋を出て行った。
俺は綺羅莉の方に向き直る。綺羅莉は相変わらずの笑みを浮かべている。
「これで首輪が外れたわね」
「礼なんか言わないからな」
「礼を言われるためにやったんじゃないわ」
「そうだろうな。全く、はた迷惑なことをしてくれたもんだ」
「フフフ、それはごめんさいね」
全く反省していないように綺羅莉は笑った。
これでまた俺に役目が回ってくるだろう。
「存分にやって頂戴」
「そうさせてもらおうか」
綺羅莉の煽情的な笑みに俺も不敵に笑って返した。
駄文お付き合いありがとうございました。
真相は分かりません