百花王学園の支配人 作:匿名P
「はい?アルスを送ってない?」
俺は生徒会長選挙でなぜ降ろされたのか、アルスの件も含めて確認するため本社に来ていた
社長と対面で会うのは久しぶりだ
社長の口から出た言葉には耳を疑った
「あぁ、アルスを百花王学園に送ってはない」
「でも、確かに電話の声は社長でした」
「それなんだがアルスが偽造したと吐いた」
「私からの着信を装い、私の声とそっくりな声を当てたと言っていた」
アルスの勝手な行動だったのか
アイツとは一生、気が合わないな
「俺の脇が甘かったです」
「そんなに自分を責めることは無い。アルスを制御出来ていなかったこちらにも非はある」
「ただ、これからは私からの着信であっても当人か確認してくれ」
「承知しました」
アルスに出し抜かれたのか。社長が送ったわけではなくアルスが独断でやったことだったか
社長に無断でこのような事をした罰は重いだろう
「社長、アルスはどうするんですか」
「しばらくは”大人しく”していてもらう」
「普通に生活させてやれませんか?」
「なぜだ?お前を貶めようとしたんだぞ」
「確かにアイツは嫌な奴です。それでも兄弟なんですよ」
「たった1人の家族……か」
「分かった。交渉はしてみる」
「ありがとうございます」
アルスが職場復帰したらまた何かをやらかすだろう
会社に損害が出るかもしれない。職場復帰は無理でも表の世界で普通に生活して欲しいとなぜか願ってしまう
こんなことを思う義理はないんだが、兄弟の縁ってのはよほど強いらしい
「生徒会長選挙は上手くいってるのか?」
「えぇ、参加できていなかった分のマイナスは取り戻しました」
再び参加して1週間程で綺羅莉や蛇喰夢子と遜色ないほどの票は集めた
引き離された上位集団に追いつくのは骨が折れた。この時期になると票を持ってる奴は限られている
わざわざ探し出してギャンブルを申し込む。ギャンブル漬けの毎日だった
「現状の1位は?」
「元会長・桃喰綺羅莉です」
「そうか、やはり……奴か」
綺羅莉はアルスとの一戦を終えて完全に波に乗り破竹の勢いで票を集めている
だが、侮れないのは蛇喰夢子。破竹の勢いで票を集める綺羅莉の背後にピタリとついているのだ
「難しい案件だとは思うが頼んだ」
「はい。お任せください」
俺は社長に頭を下げて社長室を出た
窓の外を眺めると太陽が昇って、月もおぼろげに見えていた
2つか……まさかな
――――――――――――
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
百花王学園の支配人室に戻ってくると杜和が紅茶を入れていた
丁度2つ分作っており、この手際の良さには毎度驚かされる
「支配人宛てに手紙が届いていましたよ」
「俺に?」
「はい、こちらです」
杜和が引き出しから取り出した手紙には見慣れた印がついていた。生徒会のものだ
この印、この時期……再戦というわけか。まさかとは思ったがそのまさかが本当に起きるとはな
「いいねぇ。この前は不完全燃焼だったんだ」
「再戦といこうか」
手紙に記されていた場所に向かう
指定場所の扉の前まで来て待っているであろう2人の姿を思い浮かべながら扉を開ける
「リリカ、良い顔になったな」
中には予想通り、桃喰リリカと早乙女芽亜里が待っていた
リリカは俺の言葉に目を丸くしたがすぐに表情を引き締めた
2人の表情は引き締まっていて、緊張感を漂わせている
この空気感、懐かしいな
「私には何もないわけ?」
「早乙女芽亜里、この前はすまなかったな。無粋なことをして」
「今回は逃げないんでしょうね」
「勢いがついて威勢が良くなったな」
「最後まで続くのか見ものだ」
「フン!」
リリカ・芽亜里の総票数は578票
それに対し日夜の票数は626票
日夜の方が票数では上回っている
「役者は揃ったかな?」
すると扉を開けて、るなが入ってきた
そうかこいつがディーラーか。ずっといるな
ちゃんと他のところで仕事やってるのか
「真君、あとで……」
「断る」
「えぇー!復帰祝いのインタビューくらい良いじゃん!」
「この前ので懲りたからな」
「のんきねぇ。ここで負けるかもしれないのに」
「そうだな。でも、どちらが負けるかはやってみないと分からない」
「随分と余裕なのね」
「それに負けるのもギャンブルというものだ」
黄泉月と日夜の会話を不機嫌に感じた早乙女が横やりを入れた
日夜は不敵な笑みを浮かべて余裕の態度で返す
それが早乙女の対抗心に一層火をつけた
「今回のギャンブルは
「楓がやったやつか」
「そう!票を多く賭けた方が強い順か弱い順で勝負するかを選べるよ」
選択ポーカー。掛け金が物を言うギャンブルだ。俺にとって少し苦い思い出のあるものだ
今回は票数の多い方が勝負する方を選べる。出来るのはベットとレイズのみでコールは無い
ゆえに票数が多ければこのギャンブルを優位に進められる
だが、俺と
勝負手で選択権を取れるか、そこがカギだ
「基本的なルールはドローポーカーと同じだよ」
「始めるけどOK?」
「あぁ。問題ない」
「こちらも大丈夫だ」
るなは懐からデックを取り出して慣れた手付きでカードをシャッフルしてプレイヤーに配る
この前のギャンブルでは外ウマを結んでいた。今回はどうだろうか
事前に何か策を講じてはいるだろう。だが、現段階ではそれが何かは分かるわけがない
やらなきゃ分からない。相手の罠に掛からなければ分からないのだ
と色々と考えてしまうが、この裏を掻いて何もしてこないということもある
思考がまとまらない。厄介な相手だな。ゆえに面白い
「カードを3枚変えてくれ」
「1枚変えて」
「5枚」
「はぁ?5枚チェンジ?」
リリカが3枚のチェンジ、芽亜里が1枚
俺はオールチェンジ。芽亜里は案の定の反応をしてくれた
あちらが策を講じるならこちらも仕掛ける
俺は何もせず喰われる餌じゃない
「日夜、お前が何をしようと私たちが勝つ」
「リリカ良い事言うじゃない!」
「クックック、言うようになったな。リリカ」
これも芽亜里のおかげか。綺羅莉はこれを見越して組ませたのか
だとしてもリリカがここまでになるとはな
「じゃあベットタイムに入るよ!リリカちゃんから」
「11枚ベットだ」
「芽亜里ちゃん。レイズは?」
「6枚」
今の俺の手はブタ。5枚チェンジをしたのだから当然な部分もある
だが、このゲームの性質上ブタでも勝つことが出来る
俺の手が2人よりも弱いかどうか
芽亜里は1枚しか変えなかった。ということは既に役が出来ている可能性は高い
ブタであるとするならリリカの方だろう
ブタの強弱はお互いの一番強いカードの強弱で決まる
俺のブタはJが最大。リリカにJより強いカードが入っていれば俺は勝てる
リリカが捨てたカードは3、6、2。強い数字で役を作ろうとして弱いカードを捨てるのは道理だ
セオリー通りに考えるなら強い数字の2ペアや1ペアを狙いに行ったと捉えられる
ここは試しだ。セオリー通りに行ってみるとするか
「真君。レイズは?」
「30枚」
「リリカちゃん。レイズは?」
「しない」
「芽亜里ちゃん。レイズは?」
「4枚」
芽亜里の手はよほど自信があるんだろう
早乙女芽亜里のレイズというのは信頼出来る。彼女は自分の手に見合った額を賭けるからだ
強い方か弱い方かは分からないがいずれにしても勝つ自信があるということだ
先ほどの思考通りにいくなら芽亜里の手は俺の手より強い
おそらく2ペアは固いだろう。あの1枚でフルハウスになった可能性もある
ここで選択権を取られれば確実に負ける
取られないためにもレイズをしなければいけないのだが
外ウマの存在。これを前回同様結んでいるのだとしたらこのレイズが本気なのかが分からない
まんまとレイズ合戦に乗せられて外ウマにハマる可能性もある
思考が鈍る。こんなに情報が多いギャンブルは初めてだ。面白い
「真君。レイズは?」
「100枚」
「芽亜里ちゃん。レイズは?」
「しないわ」
「真君、選択は?」
「弱い方だ」
「じゃあいくよ
3者の手が開かれる。
俺はJハイのブタ、リリカがQハイのブタ、芽亜里が2ペア
俺の勝ちだ。今回は降りてくれたからいいが外ウマの存在のせいでレイズ合戦にしづらいな
このゲームは少額レイズをするレイズ合戦になるはずなのだ
レイズ合戦に持ち込みづらい以上、一気に勝負を片付けるしかない
――――――――――
~リリカ~
「ドンマイだ。芽亜里」
「気にしないわよ。次よ」
私が声を掛けると芽亜里は余裕のある笑顔を見せた
私もつられて笑顔になる。このギャンブル、勝機はある
本来、レイズ合戦になりやすいギャンブルなのだが日夜は一気に勝負をかけた
前回戦った時の外ウマの影響だろう。日夜相手だろうと私たちの作戦は通用する
「じゃあ次配るよー」
黄泉月が変わらぬ調子でカードを配る
配られたカードはAが2枚と2、5、8
既にAのワンペアが出来ている
「3枚変えてくれ」
「2枚変えて」
私が3枚のチェンジ。芽亜里が2枚のチェンジ
新たに配られた3枚はA、9、2
これでAのスリーカードが出来上がった
十分な勝負手だ
「……」
「真君。チェンジは?」
「あぁ、4枚変えてくれ」
日夜が何かを考えこむようにカードを真っすぐ見つめていた
既に私たちの作戦は見透かされているのではないかと思ってしまう
一挙手一投足が不気味な人間だ
「真君。ベットは?」
「50枚」
「芽亜里ちゃん。レイズは?」
「しないわ」
日夜は既に私たちが外ウマを仕組んでいることに気付いているだろう
だが、その発動条件はまだ分からないはずだ
ゆえに一気に勝負を決めるしかない。私たちは少額のレイズで少しでも賭け金を上げる
ようは細かな駆け引きに持ち込めれば日夜の動きは制限できる
とはいえ私の手はAのスリーカード、どこかで勝負に出たい
「リリカちゃん。レイズは?」
「6枚だ」
「真君。レイズは?」
「20枚」
「リリカちゃん。レイズは?」
「しない」
「真君、選択は?」
「強い方だ」
「じゃあいくよ!
私の手はAのスリーカード。芽亜里はブタ
日夜もAのスリーカード。だが、私はスペードのAを持っている
「勝者、桃喰リリカ!」
「やった!リリカ!やるじゃない!」
「あぁ!」
「…………」
芽亜里が満面の笑顔を浮かべた。私も安堵の笑顔を浮かべる
勝負手で勝てたのは大きい。この調子でいければきっと勝てる
日夜は場のカードを黙って見つめていた。このまま勝たせてくれる相手では無いだろう
でも、最後に勝つのは私たちだ
――――――
数戦が終わり、両者の票は差がほぼ無くなっていた
リリカ・芽亜里の総票数が598票、日夜が606票
「じゃあ次配るよー」
黄泉月は日夜の事が気になっていた。さきほどから一言も発しないのだ
黙ってカードを見つめているだけ。これほど真剣になっている日夜を見たのは黄泉月も初めてだった
「この調子で行こう」
「えぇ!」
票の差は僅差になってきた。あともうひと踏ん張りで日夜の票数を超えられる
あの日夜が今のところ何も出来ていない
これは大きい。アイツの動きを制限出来ればおのずと勝機はやってくる
黄泉月からカードが配られる
A含みのブタ。だが、これは使える
「チェンジはしない」
「2枚変えて」
芽亜里が2枚のカードを変えた。私は1枚も変えない
日夜は私の宣言に目を細めた
これでアイツの思考を乱す事が出来ていればいいが
こちらの一挙手一投足に反応してくれればその分、こちらの思う壺になる
「1枚」
日夜は絞り出したような声でカードを変えた
声色は厳しそうだが顔色は1つも変えない
一体何を考えているのか
「じゃあベットタイムに入るよ!リリカちゃんから」
「31枚だ」
「芽亜里ちゃん。宣言は?」
「4枚レイズするわ」
日夜ほどの人間であれば私たちの法則に気付いているだろう
私たちは事前に手が強いなら偶数票、弱いなら奇数票と賭ける際のルールを決めていた
これにアイツは既に気付いているだろう。だが、私たちにはまだ
「真君。宣言は?」
「150枚」
日夜が勝負に来たこの時がチャンスだ
ここで勝負を決める
「リリカちゃん。宣言は?」
「200枚だ」
「にゃはは、面白くなってきたねぇ!」
「芽亜里ちゃん。レイズは?」
「しないわ」
「真君。レイズは?」
「いやしない」
私たちは強い手なら偶数、弱い手なら奇数と賭ける際に決めている
が、200という数字を宣言した時はそれが
強い手なら奇数、弱い手なら偶数になる。そしてそれはその200の宣言から発動する
私の手はブタだ。つまり、偶数だが弱い
日夜はその切り替えのスイッチの事を知らない。アイツは偶数で強いと読んでいるはず
ここで私が弱い方を選択するとは思ってもない
「リリカちゃん、選択は?」
「弱い方だ」
「⁉」
日夜は私の宣言に目を丸くした
これなら勝てる!
「じゃあいくよ!
「私の手はブタだ」
「……」
私はブタ。芽亜里はKとJの2ペア
日夜は驚いた表情のまま固まって動かない
私たちは勝ちを確信した
「クックック、アッハッハッ」
突然日夜が笑い出した
あまりに唐突過ぎて私たちは困惑する
黄泉月ですら困った表情を見せていた
「早く見せなさいよ!」
「
日夜の開かれたカードを見て私は固まった
日夜の手はK含みのブタだった。私のブタよりも弱い
なぜ負けた?私たちの作戦に気付きようも無かったはずだ
200が切り替えのスイッチだと気付くことは出来なかった
いや、私たちは2を使った宣言を今ここで初めてしたんだ
日夜なら2が何かしらの合図だと気付いたのか
だが、2だけで確証は持てない。2なのか、20なのか、200なのかそれはアイツでも分からないはずだ
違う……それすらも天運に任せたんだ。すると賭けは日夜の勝ちと出た
狂ってる。いや、狂ってて当然なんだ
私は日夜真という人物を見誤っていた。あの綺羅莉よりも上にいる人間が狂っていないはずがない
「勝者、日夜真」
「クックック」
日夜は未だに笑っている
その笑みは下衆な笑いや嘲笑いなどではない
純粋な笑みそのものだった
日夜真という表面だけで私は考えていた
内面まで見えていなかった
「さぁ続きをやろう」
日夜は未だに笑みを浮かべていた
これが日夜真。この学園の支配人
生粋の賭ケグルイだ