突然だが、俺には前世という物がある。
俺には生まれた時から、前世より引き継いだ記憶と自我があった。何故自分が、そんな物を保持しながら新しい人間に生まれ変わったのか、理解は出来なかった。だが現実はそうだった。
どれだけ非現実的な事であっても、それが現実だった。
幸いと言うべきか。どうやら俺が転生したのは、俺の前世と似て非なる世界だった。
俺の知っている国があった。地理も歴史も、大まかには俺の知っている通りだった。だが、差異はあった。俺が率いた組織も、それが関わった事件も存在しない。
どれだけ調べても、この世界に俺達が存在した形跡は存在しなかった。
……俺の死後、BOSSたちはどうしたのだろうか。そんな疑問が、いつまでも俺の背中にのし掛かった。
だが、俺は今平和な国、日本で生まれた銃も火薬の匂いも、血なまぐさい戦場も知らない、無知な学生だ。だからそれを演じた。
前世の俺と今の俺。それは親子ほど歳の離れた存在だった。だから子供を演じるのには苦労した。
でも俺は、確かに平和に暮していた。
自分がこの世界にとっての『異物』のような。この世界に自分の『居場所』は無いと言う、そんな虚しさと居心地の悪さを感じながら。
毎日、鏡に向かうと映る自分。それが、自分じゃないような違和感を覚えながら。
だが、そんなある日。
「と言う訳で、お前さんは死んでしまった。本当に申し訳無い」
「……………」
今、俺はどこかも分からない空の上に浮かんだ四畳半の畳の上で、『神様』を名乗る爺さんと向かい合っていた。
俺がここにいるわけを簡潔に説明しよう。今目の前にいる爺さん、神様が誤って神雷を下界、つまり俺がいる人間界に落としてしまったと言う。運悪くそれに俺が貫かれ、俺は死亡。しかしそれは神のミスであったため、本来ならば人が来ることは絶対に出来ないこの場所、『神界』まで俺を呼び寄せたそうだ。
「成程な」
説明を聞いていた俺は、落ち着いた口調で頷いた。俺は前世もあるんだ。この世界には、科学では説明出来ないような事があることは、身をもって体験している。今更神が出てきた所で驚きはしない。バカでかい鉄の巨人を動かせる宙に浮く子供だって見た事があるんだ。本当に、神が出てきても今更だ。
「ほう?君はあまり驚きはしないのだな?……流石は、『転生者』と言うべきかな?」
「ッ!!?」
突如として耳に届いた転生者の単語。何故それをこの神様が知っているっ!?
俺は咄嗟に座っていた座布団から立ち上がり、後ろへと飛び退き拳を構えた。
『ズズッ』
しかし、爺さんは何をするでもなく、お茶を飲んでいるだけだ。
ここで、何故と問いかける事は出来るが、はったりか?と俺が思った直後。
「まぁまぁ落ち着きなされ。『天田 英雄』君。……いや、『パニッシュド”ヴェノム“スネーク』と呼んだ方が良いかな?」
「ッ!!」
間違い無いっ!この神様は、俺の前世を知っているっ!?だとしたら尚更、警戒を弱める訳にはっ!
「まぁそういきり立たんでくれ。ワシは君をどうこうする気は無い」
「……」
相手は神だ。恐らくその気になれば、俺の抵抗など無意味だろう。俺は静かに座布団に座り直した。
「それで、俺は今後どうなる?」
「お主はこちらのミスで死んでしまった。なので、こちらが責任を持ってお主には生き返らせる。ただし、こちらもルールがあっての。元の世界で、と言う訳には行かんのじゃ。お主には、第3の世界へと転生して貰う事になるだろう」
「第3の世界、か」
MSF、ダイアモンドドッグズとして戦った日々。平和な日本で育った日々。どちらも俺の前世になるが……。
「なぁ、神様に聞きたいんだが、何で俺は前世の記憶を持ってるんだ?その理由を、アンタは知ってるのか?」
「……」
俺の問いかけに、神様は無言で茶を飲むと、静かに話始めた。
「お主、カルマというものを知っておるか?」
「あぁ。サンスクリット語で言う『行為』。転じて、行為の結果自分に蓄積される宿命の事だろ?善き行いには善のカルマと幸福な転生を。悪しき行いには悪のカルマと悪しき転生を、って所か?」
「そうじゃ。じゃが、正確には少し違う」
「ん?どういうことだ?」
「古来より、歴史に名を残す程の傑物達は殆どが『時代の中心』だった。彼等の存在が時に『時代の転換点』となり、今後の未来を、世界の行く末を決定づけた」
そう言うと、神様は真っ直ぐに俺を見据えた。
「未来を決めるのは他でもない。人間なのだ。お前達の行動が、世界の未来を決めるのじゃ」
俺は静かに神様の話を聞いていた。
「そして、そうやって時代の中心にいた傑物の情報や記憶、存在は『世界に焼き付けられる』のじゃ」
「世界に焼き付く?どういうことだ?」
「善悪の違いなく、どのような形であれ歴史に名を残した傑物たちじゃ。歴史の教科書に名前が載るような英雄ともなれば、その『存在』は、『功績』は、文字となり、言葉となり、データとなり、どれだけ時間が流れようと、『情報』として人々に受け継がれるのじゃ。その世界の、大多数の人間の記憶の中に、『過去の偉人』として情報が保存される。つまり、お主が死んでも『お主の情報』は生き続けると言う事じゃ」
「成程。俺が死んでも、俺の情報は世界に残り続ける、か」
「左様。そして、ごく希に自らの情報、つまり前世の記憶を持ったまま輪廻転生を果たす者達がおる」
「その1人が、俺だと?」
「そうじゃ。特にお主は大規模な組織を率いていた。多くの人間に存在を、情報を認識されている人物ほど、転生後に前世の記憶を保持している者がおるが、お主は特にな。伝説の傭兵、『BIGBOSS』の影武者として、『BIGBOSSのサーガ』の一翼を担ったのじゃ。どれだけの人間に認識されていたのか、分かるじゃろう」
「そうだな。……自分がどれだけの事をして、仲間に慕われ、敵に憎まれたか。それは自分が良く分かっている。……そして、だからこそ俺は前世の記憶を持っていると言う事か」
「左様」
「それで、俺は第3の人生を歩む事になった訳だが、その世界はどんな世界なんだ?」
「簡単に言えば、お主の前世と比べて発展途上の世界じゃな。基本的な文明レベルは、お主に分かりやすく言えば中世レベルじゃな。まぁ、魔法がある分、完全に同じという訳ではないがな」
「なに?魔法があるのか?その世界は」
「あぁ、あるとも。しかし地理などはお主の世界とは全く別物じゃ。当然歴史、言語もな。お主にはその世界に転移して貰う」
「転移?転生と何か違うのか?」
「うむ。転移は今のままの年齢や肉体のまま、その世界で誕生すると言っても良い。対して転生は、その世界で赤ん坊からやり直すと言う事じゃ」
「成程な」
「それで、何か望みはあるかの?」
「望み?」
「こちらの不手際でお主を死なせてしまったんじゃ。それくらいはせんとな」
「成程」
しかし、望みか。俺はしばし考えたあと。
「よし。じゃあ二つほど頼みがある。構わないか?」
「もちろんよいぞ」
「じゃあまず一つ目だ。俺の体を、ダイアモンドドッグズ時代のそれに替えてくれ」
「ん?となると50代の肉体という事になるが、良いのか?」
「あぁ。……元々、この体には違和感しかなかった。まるで、他人の皮を被っているみたいで、ずっと気色悪かった。だからこそ、戻してくれ」
「分かった」
と、神様が言った直後、俺の体は光に包まれ、あの時の、あの姿へと戻った。もちろん、頭に刺さった『角』もそのままだ。左腕も、バイオニックアームとなっている。この機械の腕こそ、ある意味俺が、ファントムだった証。この幻肢痛もそうだ。
「これで良いのか?それはお主の正確な姿ではないぞ?影武者としての姿だ。望めば、お主がメディックとして、あの男の元で働いていた時の姿にも出来るが?」
「悪いがそれは良い」
どうやら肉体が変化した事で、声も、あの時の物に変わったようだ。
「この姿になった時から、俺はボスの影武者、ファントムになった。だからこそ俺は、ボスのファントムとして生き続ける。それが俺の『意思』だ」
「そうか。……ならば止めはせん。……それで、もう一つの願いは何じゃ?」
「それは、かつて俺が率いていた組織、ダイアモンドドッグズの力を俺がもう一度、使えるようにしてほしい」
「と言うと?」
「俺1人では出来る事にも限界がある。だからこそ、仲間達の力が必要なんだ。俺がもう一度、『BIGBOSSのファントム』となるためにな」
「……良かろう」
爺さんはしばし迷ったのち、静かに頷いた。
「ならば、これを持って行くと良い」
そう言って爺さんは何かを俺に投げ渡した。咄嗟に受け取ったそれは……。
「『iDROID』っ?何故これを爺さんが?」
「ワシは神じゃからな。過去にあった物を模倣し生み出す事など簡単じゃわい」
そう言ってほっほっほっ、と笑みを浮かべる神様。
「かつてのように、その端末、iDROIDから様々な事が出来る。武器、弾薬、防具に補給物資の投下指示からマップとしての機能。あらゆる機能に加え、こちらでも色々付け加えておいた」
「と言うと?」
「簡単に言えば投下出来る物資の数を増やした。今言ったように補給物資、医療品や携行食料などをな。まぁそれ以外にも追加したものはある。あとは自分の目で確かめてみよ」
「……助かる」
「それと、最後にこれだけは言っておこう」
「ん?」
「お主が今後、どのような事をしてもワシはお主に干渉出来ぬ。神は例外を除いて下界に干渉出来ぬからな。……じゃが、お主の今後の生き方次第で、お主の次の人生が決まると言う訳じゃ。心しておくように」
「……そんなもの、既に決まっている」
「ん?」
「ひとたび銃を手に、暴力で何かを訴えれば人は皆地獄へ落ちる。俺は一度、それを転生という形で免れた。だがそう何度も幸運が続くとは思って居ない。だからこそ、次は地獄へ落ちると、覚悟は出来ていた。あの、平和な国に生まれながらも前世のしでかした事を知っている俺はな」
「そうか。……じゃが、それを決めるのはお主ではない。お主の起こした行為、カルマがお主の未来を決めるのじゃ。達者でな、毒蛇よ」
「あぁ。神様もな」
その言葉を最後に、俺は意識を失った。
~~~~
「うっ」
そして、次に気づいた時、俺はどこかの草原で目を覚ました。すぐに体を起こすが、周囲に人影や人の気配は無い。それを確認すると、自分の格好へと目をやった。それは俺がダイアモンドドッグズ時代に着慣れたオリーブドラブの迷彩服だった。更にホルスターや装備に目をやる。
ホルスターには『ウインダージャ サイレントピストル』が入っていた。単発式の麻酔ハンドガンだ。こいつにはたくさん世話になった。だが、俺がダイアモンドドッグズの初期時代に使った、ほぼ無改造の物だ。腰のポーチの中などを覗いても、マガジンが予備の2つ。あとは中に入っている7発。計21発だ。更にホルスターにはナイフ。ポーチにはグレネードが4個。あとは水と簡易食料、医療キットなどだ。
さて、これから俺はどうするか。とりあえず町に行く、か。この世界の概要は神様の爺さんから聞いたが、詳細は何も分からない。
だがまずは、こいつの機能の確認だ。
俺はiDROIDを取り出し、起動した。すぐさま空中にディスプレイが浮かぶ。それからしばらく、俺は端末で今俺が投下物資で受け取れる物や情報を閲覧していく。幸運だったのは、このiDROIDに新しく、俺の前世に存在したネットへのアクセス権が与えられていた事。書き込みやメールなどは出来ないが、ネット記事の閲覧やアクセスが出来るのはありがたい。
更に、端末の中には分けられたカテゴリがあった。
それが、『戦闘班』、『警備班』、『研究開発班』、『支援班』、『医療班』、『拠点開発班』、『諜報班』の7つの部署の事だった。
どうやらこれらのレベルに応じて開発出来る武器やアイテムが揃うらしい。神様のじいさんのおかげなのか、今はどの班もレベル20となっている。
それらを確認し終えた俺は、端末の中にあった、恐らく諜報班が揃えたであろう情報を見ていた。加えて、少しだがこの世界の文字の事を学んだ。まだ迅速な読み書きが出来る訳ではないが、端末にデータがあれば大丈夫だろう。
また、現在俺がいる場所も分かった。俺が現在いるのは、『ベルファスト王国』と呼ばれる国の領土内部だ。更に、近くに町があるのも発見した。まずはそこを目指すところだが、目立つな、この格好は。
流石に迷彩服では悪目立ちするだろう。何か替えの服になりそうな物はないか?と端末の中を探すと、あった。レザージャケット。まぁ迷彩服よりはマシだろう。
俺はすぐさまこれの投下要請を出した。数十秒もすれば、どこからとも無く、パラシュートに括り付けられた緑のダンボール箱が落ちてくる。パラシュートが消滅し、ダンボール箱が落下する。
俺はすぐさま中に入り、着替える。それともう一つだけやっておくことがあった。
俺は迷彩服の袖口を破くと、バンダナにして額に巻いた。これで少しは角も目立たないだろう。
「さて、いくか」
俺は、誰にいうでも無く、ぽつりと呟くと遠くを見据えた。
この世界で何が俺を待つのか。
そして、ファントムの俺に、この世界に居場所があるのかを考えながら。
一つ前の、日本人としての前世は違いすぎた。俺の生きてきた世界と。だからずっと場違いさを感じていた。
さて、この世界にとって俺は場違いな異物か、そうじゃないのか。とりあえず、しばらくは旅をしてそれを判断するとしよう。
俺は端末でマップを確認する。そして、歩き出す。
そうして、俺、BIGBOSSのファントム、もう1人のBIGBOSS。『
第1話 END
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