異世界はダイアモンドドッグズとともに   作:ユウキ003

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遅くなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。


第4話 遭遇

俺はリンゼから魔法についての話を聞き、彼女の協力の下適性を調べた。更に仲間を町の住人に紹介したりしていたある日、俺は依頼と言う事でエルゼ達と共に馬車を借り、王都を目指した。

 

 

リフレットを出発した日、俺達は一つ目の町を素通りし、二つ目の町までやってきた。そこに付いた頃には日も暮れていたので、今日はここで宿を取る事にした。適当な宿を取り、馬車を預け夕食を取るために街に繰り出す。宿の主の話では、この辺りは麺類が有名らしいが……。

 

「ん?」

歩いていると、前方で何やら騒ぎが起きているな。

「何かしら?」

エルゼ達も気づいた様子だ。

 

興味があるのか、エルゼが真っ先に人混みをかき分けて前に行く。それに慌てて付いていくリンゼと、更にその後を追う俺。

 

そして人混みの最前列に出ると、状況が分かった。何やら木製の棍棒やナイフを手にした連中が1人の少女を包囲している。

 

その少女、と言うのが中世らしいこの世界の雰囲気の中で異質だった。なぜなら彼女の格好が、昔カズから聞いた昔の日本人の姿。つまり『サムライ』のそれだったからだ。そう言えば、東の方にイーシェンとか言う国があるようだが、そこの人間か?確か中世の頃の日本のような国だ、とデータベースに記述があったはずだが……。

 

『……成程。まだ若い少女とは言えそこそこの戦闘経験があると見える』

 

この状況でも物怖じしないところから見るに、戦闘経験はあるようだ。しかも余裕すら見せている。

 

漏れ聞こえる話の限りでは、あの男達の仲間が昼間から酒に酔って問題行動を起こし、その場に居たのであろう件の少女が問題を起こした男達を倒し、町の警備隊か何かに突き出したようだ。……あの連中は、捕まった仲間の仕返し、と言う事か。

 

そしてついに男達は少女に襲いかかる。……だが少女は体格的にも勝る男達を相手に、腰に下げた刀すら抜かずに体術だけで捌いている。成程、よく鍛えている。が……。

 

何やら、唐突に動きが悪くなったな。そして、その隙を突いて後ろから羽交い締めにされてしまう。……このまま婦女暴行を見過ごすのもあれだな。

 

俺は静かに前に出る。多くの者は彼女と男達の戦闘に気を取られていて気づかない。男達も、相手である少女の事しか頭にないのだろう。

 

それ故に、大衆の面前で気配を殺して近づく事は容易だった。

 

「ふん……っ!」

「がッ!?!?!」

 

後頭部への一撃。これだけで少女を抑えていた男は昏倒しその場に倒れ込んだ。

 

「ッ!?な、何だじじぃっ!?」

「邪魔するんじゃねぇっ!引っ込んでろっ!」

男達は、いきなり現れた俺に戸惑いながらも、敵意と殺意をぶつけてくるが、やはり素人か。この程度では話にならん。

 

「……お前達こそ消えろ。それとも痛い目に遭いたいか?」

「ッ!舐めやがってぇっ!」

男が1人、ナイフを手に向かってくるが、甘い。

 

突進を、半身を逸らして避け、がら空きの顎に掌打を叩き込む。

「がっ!?!?!?」

それだけで男は脳を揺さぶられた為に動きを止める。

 

更にその隙をついて男の手首を捻ってナイフを取り上げ……。

 

『グサっ!!』

「っ!?ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」

ナイフを左肩に突き刺した。男の悲鳴が響き、男は肩を押さえながらその場でのたうち回る。

 

その姿に、他の男達は驚き、二の足を踏んでいる。……畳みかけるか。

 

「もう一度だけ言おう。……消え失せろ」

 

俺は本物の殺気と敵意を交えながら、自分のナイフを抜き取る。それだけで、残った男達は顔を青くし、一部に至っては歯をカチカチと鳴らしている。

 

「……今のは手加減をした。だが、次襲いかかってくれば手加減などしない。……命が惜しいのなら、失せろ」

 

もう一段階殺気と敵意を上げる。すると、男達はのたうち回る男を見捨てて我先にと逃げ出した。……情けない連中だ。所詮自分より弱い相手にしか強気に出られない連中か。

 

しかし、何やら入れ替わるように反対側から男達の怒号が聞こえてくる。

 

「スネークッ!なんか町の衛兵が来てるわよっ!」

「そうか。ここで捕まると厄介だな。お前も来いっ」

「え?拙者も、でござるか?」

「あんな連中と関わってこれ以上厄介事に巻き込まれるのは不本意じゃないのか?」

俺の言葉に彼女は数秒迷った後。

 

「それもそうでござるなっ!」

 

そう言って彼女は俺達についてきた。……そして俺達は適当な路地裏に逃げ込む。

「……ここまで来れば大丈夫だろう」

周囲を観察し人の気配が無いのを確認する。

「このたびはご助勢、かたじけなく。拙者、九重八重と申します。あっ、八重が名前で九重が家名でござる」

 

「そうか。俺はスネークだ。こっちは俺の連れで同じ冒険者の」

「エルゼ・シルエスカよ。こっちは双子の妹のリンゼ」

「リンゼ・シルエスカです。はじめまして」

「改めて、よろしくでござる」

そう言ってぺこりと頭を下げる九重。ふむ。言葉も身なりなど、見れば見るほどかつての日本の、サムライのイメージそのものだな。

 

「そう言えば、さっき戦いの中で急に動きが悪くなっていたな?どこか悪いのか?」

「えっ!?そ、それはそのぉ」

「こんななりでも軍医としての経験がある。どこか悪いのなら、診てやるが?」

「い、いえっ!決してどこかが悪いとかそう言う訳ではなくっ!」

 

『グゥゥゥゥゥゥ~~~~』

 

顔を赤くしていた九重だが、その腹から響いた音に、九重は更に顔を赤くした。これに驚き目を丸くしているリンゼとエルゼ。

「あぅ~~」

 

「……飯にするか」

 

俺は小さく、そう呟いた。ちなみに、何故腹が減っていたのか話を聞く分だと、路銀を無くしたからだそうだ。

 

 

その後、俺達は九重を連れて適当な店に入って夕食を取る事にした。最初は『見ず知らずの、まして恩人から施しを受けるわけには行かんでござる』などと言っていた九重だが……。

 

「良いから。食えるときに食っておけ。食は人間が生きていく上で最も必要な事だ」

「し、しかし……」

「安心しろ。俺達4人が満腹になっても問題無いくらいの金はある。それに、ここで飯を食わなかったとして、他に食う宛や金を稼ぐ宛はあるのか?」

「うっ」

「食わなきゃ命に関わるぞ?良いから好きなのを頼め」

そう言って俺はメニューを彼女に差し出す。

 

「……よ、良いのでござるか?」

「あぁ」

俺は頷くが、彼女はまだ少し迷っているようだ。やれやれ。

 

「何度も言うが気にするな。……が、それでも気になると言うのなら、これは『貸し一つ』だ。いずれ別の形で借りを返してくれればそれでいい」

「……わ、分かったでござる」

 

そう言うと、ようやく彼女も食事を始めた。…………しかしかなり食うな。1人で何人分平らげたんだ?と思う程、彼女は料理を平らげていった。

 

その後も、路銀が無くなっていたので野宿するしか無い、と言う彼女を『今度故郷のイーシェンについて知っている事を教える』という条件で金を貸し、俺達と同じ宿に泊らせた。

 

ここからずっと東にある『イーシェン』については概要程度の事しか知らないので、現地の人間からの情報は貴重だ。

 

 

ちなみに、八重が元々イーシェンを離れて武者修行をしているのは食事の時に聞く事が出来た。また、王都に父親が世話になった相手が居るらしく、その相手の元を訪れる途中だと言う。なので、エルゼ達の提案もあって、俺達の馬車に八重も同行する事になった。

 

八重と出会った翌朝。俺達は馬車に乗り町を出た。

 

俺達4人が交代で手綱を握りながら、更に北を目指す。その道中、俺は前に購入していた無属性魔法が記された本を熟読していた。

 

無属性魔法は個人魔法と言われるだけあって、様々な物が存在する。例えば『パワーライズ』。あれはエルゼのブーストと似ているが、能力が殆ど被っている。能力の重ね掛けが出来るか検証が出来ていないのでまだ何とも言えないが、覚えるメリットは今の所ない。また、この法律関係の物のように分厚い本に全て目を通すのは難儀である。更に言えば有用な無属性魔法は少ない。大半は覚える意味をなさない物だった。

 

今の所使えそうなのは、小物を引き寄せる『アポーツ』と感覚を強化する『ロングセンス』くらいだろう。聴覚を強化すれば微かな物音にも気づける。アポーツなどは、万が一マガジンなどを落とした時に即座に手元に引き寄せる事が出来る。

 

「ふぅ」

しかし分厚い本を読んでいると目が疲れるな。俺は読んでいた本を閉じ、指先で目頭を揉む。……ついこの間まで若く健康な日本人の体だったからか、未だに慣れないこともある、と実感させられる。

 

今日で依頼を受けてから3日となる。相変わらず無属性魔法を調べ、有用かどうか確認している。

 

そして、その時俺は、ロングセンスを使って居たのだが……。

「ッ」

 

『その臭い』を、俺は戦場で嫌と言う程嗅いできた。場所は前方。俺達の進行方向だ。

 

「八重っ!」

「は、はいっ!?」

俺は手綱を握っていた八重に怒鳴る勢いで声を掛けた。

「今すぐ最大速度で飛ばせっ!前方の森林から血の臭いだっ!戦闘中と思われるっ!」

「ッ!承知っ!!!」

 

「せ、戦闘ってっ!?どういうことスネークッ!」

「状況はまだ分からんっ!今からロングセンスで確認するっ!」

エルゼの声に叫び返しながらロングセンスによる視覚の強化で、前方の状況を確認する。

 

そこでは人型の蜥蜴の魔物、確かリザードマンという魔物の群れに高そうな馬車が襲われていた。護衛らしき兵士達がリザードマン相手に奮闘しているが、数に押され1人、また1人と倒れていくっ。そして奥の馬車には、若い少女と老執事らしき燕尾服姿の男が見える。

 

「ちっ!」

俺は舌打ちしながらも、すぐに撃てるようD114を取り出し、マガジンを確認するとそれを戻して初弾を薬室に送り込む。

「総員、戦闘態勢を取れっ!前方で馬車がリザードマンと思われる魔物数体に襲撃されているっ!」

俺の言葉に、3人とも気を引き締めた表情を浮かべる。

 

そして、馬車は戦闘が続く現場にたどり着いたっ。既に残っている兵士は3人だけかっ!

 

『パンッパンッ!』

 

すぐさま2匹のリザードマンにヘッドショットを決める。初めて銃声を聞く八重や、兵士達にリザードマン達でさえ驚いているが、好都合だ。

 

『パンッ!パンッ!』

 

そのまま1匹ずつ、確実にヘッドショットを決めていく。が、視界の端に驚いて足を止めている兵士達が映った。

 

「おいっ!ボサッとするなっ!ここは戦場だぞっ!」

「「「っ!?はいっ!!!」」」

「お前達は馬車を守れっ!この魔物は俺達が対処するっ!」

 

「「「わ、分かりましたっ!」」」

戸惑いながらも兵士達は馬車の防衛に戻っていった。

 

そして俺は視線を前に戻す。

 

「『炎よ来たれ、渦巻く螺旋、ファイアストーム』ッ!」

リンゼの創り出した火炎の竜巻がリザードマンを飲み込む。

 

「おりゃぁぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

更にエルゼのガントレットが、八重の刀が。敵を次々と殴り倒し、切り倒していく。

だが可笑しいっ!数が減らないっ!?バカなっ!到着した時、咄嗟に大凡の数は数えたっ!どういうことだっ!?

 

そう思った直後。

「『闇よ来たれ、我が望むは蜥蜴の戦士、リザードマン』ッ」

 

ローブ姿の男が何かを唱えたかと思うと、リザードマンが現れたっ!?

「あれは……っ!?」

「あれは召喚魔法ですっ!術者を倒さない限り、何度でも呼び出されてしまいますっ!」

リンゼの説明で状況は把握出来たが、厄介なっ!

 

だが、潰す相手が分かればこちらの者だっ!

 

『パンパンパンッ!!!』

 

即座にD114でリザードマン数体の足を撃ち抜く。前衛が動けなくなった事で、後ろのリザードマン達の足が止るっ!今だっ!

 

俺は即座にD114をホルスターに戻すと、ポーチからグレネードを取り出し、ピンを抜き、召喚者目がけて投げつけた。リザードマン達の頭上を、放物線を描きながら越えていくグレネード。そしてそれが奴の足元に転がった直後。

 

『ドォォォォォンッ!!』

 

グレネードが起爆した。皆が突然の爆発音に驚く中、ローブの男はボロ雑巾のようにズタボロになりながら吹き飛び、動かなくなった。すると、リザードマン達が蜃気楼のように消えていった。……召喚者を倒したので、存在を維持出来なくなったのだろうか?だが油断は出来ない。俺は再びD114を抜き、周囲を警戒する。

 

「……クリア」

しかし敵影は無い。

 

「皆大丈夫か?」

「えぇ。大丈夫。……さっきの爆音には驚いたけど」

「拙者も大丈夫でござる。……ちょっと耳が痛いでござるが」

「わ、私も大丈夫、です」

「……すまん。念のために警告してからグレネードを使うべきだったな」

俺は彼女達に謝罪をしてから、護衛たちの方へと向き直る。

 

「あ、あなた達は?」

「タダの通りすがりの冒険者だ。それより、被害状況は?」

「……護衛は、10人中7人がやられました。残ったのは、我々3名だけですっ」

「そうか。護衛対象は?あの馬車の中か?」

「はい。そうですっ」

 

そう、3人の内の一人が頷いた時だった。

 

「誰かっ!誰か居らぬかっ!爺がっ!爺がっ!」

馬車の中から聞こえる悲鳴にも似た叫び。俺はすぐさまD114を抜き馬車へと近づくと周囲を一瞥してから扉を開いた。

 

中に居たのはまだ10代の金髪の少女と、胸から血を流し苦しそうに呻く老人だった。

「だ、誰か爺を助けてやってくれっ!む、胸に矢が刺さってっ!」

すぐさま周囲に視線をめぐらせる。すると見つけた。折れた矢の後半部分だ。……となると前方部分はまだ体内か。

 

「何してるのよっ!こういう時はぱ~っと回復魔法でどうにか出来ないのっ!?」

しばし沈黙する俺に、エルゼから急かすような声が聞こえる。

 

「……ダメだ。矢の前半部分が体内に残っている。このままでは処置が出来ない。可能ならまず、外科手術で矢の部分を取り出すしか無いが……っ」

 

目の前に居るのは老人。しかもかなり消耗している。もはや命は風前の灯火だ。かといって摘出手術用の道具も今は手元には無い。今から要請しても、到着まで確実に1、2分はかかる。……更に麻酔無しで手術をした場合、この老人の体力が保つかどうか。

 

「お、お嬢様っ、どうやら、私は、ここまでの、よう、でっ、ごほごほっ!」

「爺っ!爺ぃっ!」

 

クソッ!時間が無いっ!どうするっ!今の俺に出来る最適解は何だっ!考えろっ!思考をめぐらせろっ!

 

ふと、その時思いだした。アポーツ。小物を引き寄せる無属性魔法ッ。一か八か、やってみるだけの価値はあるかっ!

 

「悪いが場所を空けてくれっ」

「え?」

俺は呆ける少女の傍に立ち、退くように促す。

 

「こいつを助けられるかも知れないっ。一か八かだが、やってみる価値はあるっ。早く……っ!」

「う、うんっ」

泣きながらも場所を空けた彼女に変わって、老執事の前に膝を突く。顔色が悪いっ、もう長くは保たないっ!やってみるか……っ!

 

「『アポーツ』」

静かに詠唱をした直後、手の中に引き寄せられたのは、血でべったりと汚れた矢だった。

「ッ!?上手く行ったっ!!」

傍でエルゼの喜ぶ声と、他の奴らの驚嘆の声が聞こえる中、更に魔法で畳みかける。

 

「確か。……『光よ来たれ、安らかな癒やし、キュアヒール』」

一瞬、文章が合っていたか心配になったが、次の瞬間には白い光と共に老人の傷が瞬く間に塞がっていく。

 

「う、うぅ。……うっ?い、痛みが、消えて……?」

すると、まるで老人は狐に化かされたような顔でむくりと起き上がった。

 

「爺ッ!!」

その老人に、先ほどの少女が抱きついた。

「ふぅ」

俺は息を付きながらも、老人の様子を確認する。……今治療した矢傷以外に目立った外傷や出血の様子は無い。……ここでは精密機器も無いからちゃんとした検査は出来無いが、今の所は大丈夫そうか。

 

彼が大丈夫だと分かると、俺は馬車を降りた。

「どうだったスネークッ」

「大丈夫だ。矢は魔法で摘出して、傷口も魔法で処置した。流れた血の補給までは出来ていないから、当面は安静にしておいた方が良いだろうが、今の所命に別状は無い」

「そっか~~。良かった~~」

エルゼの言葉に答えると、彼女は安堵したように息をついた。他の2人もだ。

 

しかし、その時俺の視界に入った者があった。護衛連中の死体だ。そしてその一つの前で、生き残りの1人が茫然と立ち尽くしていた。……態度からして、兄弟か家族か、それほどまでに親しい相手だったのだろう。……やむを得ないか。

 

「リンゼ、お前は念のためあの2人の傍にいてやってくれ。老執事の体調が悪くなったら、治癒魔法を掛けるなり、俺を呼ぶなりしてくれ」

「は、はいっ」

「八重とエルゼは馬車の周囲で警戒を。敵が彼奴らだけとは限らない」

「承知したでござる」

「分かったけど、スネークはどうするの?」

 

「…………彼等の墓を作ってくる」

 

そう言って、俺は残った護衛3人と共に7人の墓を作った。彼等の遺体を持ち帰る事は出来ないし、ここに放置したとしても動物や魔物に食い荒らされるのがオチだ。だからこそ、小さな所持品をいくつか形見代わりに回収した後、彼等を埋葬した。

 

しかし、埋葬が終わっても1人は墓の前から動こうとしない。……兄さん、と漏らしていた辺り、兄が居たのだろうが……。

 

「おいっ」

「ッ」

「兄が死んで悲しいだろうが、今は気持ちを切り替えろ。ここはいつ敵が襲撃してくるか分からない、戦場だ。……どれだけ辛かろうとも、生き残ったのなら生き残った者としての責務を果たせ。お前にはまだ、守るべき人がいるはずだ。……違うか?」

「い、いえ。仰る、通りです」

 

俺の言葉に彼は涙を拭うと、すぐに真剣な表情を浮かべるのだった。

 

その後、改めて俺は馬車に乗っていた少女達と対面する。

 

「改めて、此度の救援、なんとお礼を申し上げてよろしいか。おかげで私の命もこうして無事に」

「気にするな。たまたま通り掛かっただけの事だ。……それより、失った血までは回復出来ていない。貧血を起こす可能性があるから、必要以上に動かず休んでいろ。良いな?」

「はい。分かりました。……そう言えば、まだ名前を伺っておりませんでしたな。貴方様は?」

「生憎、様なんて付けられるほどのモンじゃない。俺はスネーク。しがない冒険者だ。こいつらは俺の連れだ」

「エルゼ・シルエスカ、です」

「お、同じくリンゼ・シルエスカと言います」

「拙者は九重八重と申します。以後、お見知りおきを」

ん?なんだ?3人ともいつになく表情が硬い気がするが……。と考えていると……。

 

「スネークにエルゼに、リンゼ、八重じゃな?此度の助力は誠に大義であったぞっ!お主等4人は、爺とわらわの、命の恩人じゃっ!」

子供らしからぬ言葉使い。しかし身なりの良さに10人の護衛。恐らく良いとこの令嬢なのは確かだろうが。

 

「スネーク様。申し遅れましたが、私の名は『レイム』と申します。オルトリンデ公爵家にて、家令を務めさせて頂いております」

家令。確か貴族などに使える給仕たちのまとめ役のような存在だったはず。しかし……。

 

「公爵家の家令、と言う事はそちらの少女は?」

「はい。オルトリンデ公爵家ご令嬢、スゥシィ・エルネア・オルトリンデ様にございます」

「うむっ!妾がスゥシィ・エルネア・オルトリンデであるっ!よろしく頼むぞっ!スネークとやらっ!」

 

やはり公爵家のご令嬢だったか。更に言えば、彼女が名乗るとエルゼ達3人がその場に膝をついた。俺も即座にそれに倣う。が……。

 

「む?待て待てっ、皆顔を挙げてよいぞっ」

「よろしいのですか?」

「うむっ!公式の場ではないのじゃっ!何より、皆妾達の恩人も同然じゃっ!楽にしてほしいのじゃっ!」

……ここは、彼女の厚意に甘えさせてもらうとしよう。俺は周りの3人に目配せをして、立った。他の3人もそれに続く。

 

しかし……。

「レイム、一つ聞きたいのだが構わないか?」

「はい、何でございましょう?」

「……俺たちが倒したあの男、単なる盗賊だと思うか?」

 

俺の問いかけに、レイムはしばし沈黙し、周囲の面々も冷や汗を浮かべている。

「……質問に質問を返すようで申し訳ありませんが、スネーク様の見立ては、いかがでしょうか?」

「十中八九、単なる盗賊ではあるまい。魔法でリザードマンを襲撃してまで襲ってきたんだ。それも、完全武装の護衛が10人もいる中で、だ。これは立派な襲撃だ。目的は彼女の暗殺か誘拐か、そんな所だろう。……念のため先ほど、奴の遺体を調べたが、奴の素性などが分かる物は何一つ無かった」

 

「そうですか。……確かに、これは単純な盗賊ではありません。スネーク様の見立て通り、スゥシィお嬢様を狙った襲撃の可能性が高いと私も考えております」

「だろうな。……しかし、なぜ貴族の、それも公爵家の令嬢がこんな所を通っている?王都に戻る途中のようだが?」

「それは、妾のおばあ様の所に行っておったからじゃ」

俺の問いかけに令嬢、スゥシィが答える。

「成程。つまりそこからの帰り道を狙われた訳、か。……その情報、家族以外で知っている者はいるか?」

 

「え?」

「オルトリンデ公爵家に仕えている者ならば知っているはずですが、何か?」

首をかしげるスゥシィに変わってレイムが答える。

 

「そのおばあ様の所はどれくらい滞在していた?」

「でしたら一か月ほどです」

「……」

レイムの答えを聞き、少しわかって来た事がある。

 

「あの、スネークさん。それがどうかしたんですか?」

「あぁ」

リンゼの言葉に俺は答える。

 

「もし、仮に、という前提付きで話すが、俺がもし彼女の暗殺や誘拐を画策しているとすれば、まず情報を得て作戦を練る。そして情報を得るために、目標となる存在、この場合はオルトリンデ公爵家に諜報員を送り込むか、人を使って目標の動きを監視、状況を逐一報告させる」

「ッ、ではスネーク様は、公爵家に仕える我々の中に間者が居ると……っ!?」

 

「そこまでは言わん。あくまでも可能性であり、諜報員が居なくてもどこからか話が漏れ出た可能性もある。それに彼女たちは一か月、祖母の家に居たのだろう?ならばその一か月、黒幕に時間を与えた事になる」

 

「どういう事?」

「簡単だ。一か月もあれば準備期間として事足りる。俺だったら、まずその祖母の屋敷の周辺に人を配置して状況を監視させる。その間に彼女たちが王都へ戻ろうとするルートを下調べし、襲撃に適した場所、この場合待ち伏せに適した場所を選んでおく。更に自分への証拠を残したくない場合、カットアウト、つまり仲介人を介して暗殺者などの汚れ仕事を請け負う人間を雇い、待ち伏せ場所に配しておく。そして、馬車が王都への帰路に付いたのを確認すると、早馬か、伝書鳩などを使って報告させ、雇った人間に待ち伏せをさせる。……この程度、一か月もあれば用意に準備出来る、と言う事だ」

 

皆、俺の言葉を聞き、驚いた様子だった。

「つまり、妾は狙われているのだな」

 

すると、彼女はシュンとした表情を浮かべている。怯え切っている訳ではないが、やはり恐怖を覚えているのかもしれない。……しまったな、言葉を選ぶべきだったか、と今更ながらに後悔してしまう。

 

……ここは、俺の立場を生かすべきか。

 

「レイム」

「はい、何でございましょう?」

 

主を心配する彼に声を掛けると、こちらを向く。

 

「この先も襲撃が無いとは限らない。そこで提案がある。俺を雇う気はないか?」

「え?」

 

俺の言葉にスゥシィが反応する。

 

「俺は冒険者をしているのとは別に、大規模な傭兵組織を率いている。必要があれば、今すぐ完全装備の部下を呼び寄せる事も可能だ。どうする?」

 

「……見たところ、スネーク様は数多の戦場を生き抜いてきた豪傑とお見受けします。ですので、護衛を申し出ていただけるのはありがたいのですが、よろしいのですか?」

「問題ない。依頼があるのなら受ける。それだけだ」

「分かりました。ならば、スネーク様たちへ護衛の依頼、出させていただきます。どうかよろしく、お願いいたします」

 

「了解した。……その護衛依頼、俺たちダイヤモンドドッグズが受けよう」

 

こうして、俺は何の因果か貴族令嬢の護衛をする事になったのだった。

 

     第4話 END




感想や評価を貰えるとやる気につながるので、よろしくお願いします。

それと、私情なのですが現在仕事の関係で執筆時間が減っており、全体的に遅い投稿スピードが更に落ちてしまっています。なにとぞ、ご容赦いただきたくお願いします。

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