ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
これを書いてるのは2022/01/03
残弾は、ないです
「魔術使えるって聞いた。魔術ありで戦って」
「……いきなりだな」
基礎トレーニングのランニングや腹筋などを終えて水分補給をしていると不意に一人の女が声を掛けてきた。
確信はないが記憶が確かなら
特に大事な会話をした記憶はないが波長が合っていたのかたまに会話する程度の仲はあった憶えがある。
「俺が魔術を使うのは良いがそっちはどうなんだ? 流石にそこまでアンフェアじゃやりたかねーぞ」
「私の固有能力は【糸】。魔力を消費して糸を生成、操作する。その流れで使えるようになった」
「魔力の感覚が自覚できる能力は良いな」
俺の【洗脳】は魔力の感覚が全くわからない。
恐らく魔力を消費していないワケではない。
極端に魔力消費量が少ないのか、もしくは俺の魔力感知能力が低いか、あるいはその両方か。
「武器は貸し出しの木剣で良いか?」
「うん」
「固有能力は使っていいからな」
「わかった」
向き合って、構え合う。
両手で剣を構える辰壬に対して、俺は右手で剣を構えつつ左手は魔術を使えるように構えていた。
基礎訓練を続けている周囲の目は構え合う俺たちに集まる。
「一日の長ってことでそっちのタイミングで来て良いぞ」
「……」
返事はない。
けれど目つきが変わり、走り出すためゆっくり腰を低く落とした。
「はぁッ!」
「ほっ」
上段からの振り下ろし。
ステイタスは恐らく俺と同じオール100で、肉体的にも非力。
日数的には二日だが一日の長がある俺にとってプロの動きとは程遠い俺と同じ素人の動きを見切ることは難しくない。
振り下ろされた剣を弾き飛ばすために瞬間的に出せる全力で横に弾く。
けれど俺の未熟な肉体では威力不足だったらしく横に弾くだけで飛ばすことはできなかった。
ちッ。
素人だから叩かれたときに離してくれないかと思ったけどそう甘くはないか……。
弾かれた衝撃で身体が流れる辰壬。
違和感が襲う。
反撃が遅い。
けれどそれはあくまで自分の認識であって、ロクに戦ったことがなくて訓練もほとんどしていない辰壬では仕方ないこと。
そう考えて追撃に移ろうとしたとき、辰壬が衝撃に身を任せ、さらにそこに辰壬の力も上乗せして回転をした。
回転斬り。
ゲームではよくあるが実用性があるのかと疑ったことがあり、一種のロマン攻撃と考えていたそれを目の前で行われ、動きが止まってしまう。
見惚れたのだろう。
気づかぬうちに笑みが生まれていた。
「クハッ。良いなぁ、オイ」
俺の全力もあって加速した回転斬りは避けられる速度ではない。
取れる選択肢は迎撃。
右に払った剣を引き戻しつつ両手で握り、回転斬りが襲い掛かって来る方向へ踏み込みながら辰壬の剣に対して叩きつける。
――ガンッと両手に襲い掛かる強烈な衝撃。
拮抗する剣。
俺はさらに一歩、深く踏み込んで剣の下を潜り抜けつつそのまま距離を取る。
「はぁッ!!」
打ち合いで減速したとはいえ空振りに近い状態のなった辰壬。
そのまま背後から斬りかかってやろうと思った瞬間、辰壬は俺を視認することなく俺の方に腕を突き出し、そのまま炎を放った。
「やべッ!?」
既に一歩踏み込んでしまった脚。
跳んで横に避けることはできない。
かといって野球をしてもファールを連発しまくりの俺ではアニメのように弾を斬るなどできっこない。
ステイタスによる防御性能がどんなもんかはわからないが、ステイタスが同じことを考えると一番いいのは見た目通りの攻撃力ということ。
となると僅かに圧縮されたこの火球は直撃すれば爆発を起こして大ダメージ。
避けるしかない。
斬る?
無理だ、叩くのもちょっと面積増えた程度じゃ成功しない。
殴る?
当たるのとどう違う、腕が大変なことになる。
跳ぶ?
間に合わない。
止まる?
止まったところで直線位置が変わってない以上直撃だ。
脚が使えない以上魔術を……。
脚が使えない?
……ああ、そうか。
咄嗟に思い付いた対処法。
こんな動き、したことなんてないから避けられる避けられない以前に上手く動けるかもわからない。
けれどするしかなかったからすることにした。
肺の中の空気を一度に全て吐き出して、膝を少し曲げてから一気に全身の力を抜く。
すると慣性で身体が前に動きながらも身体が後ろに倒れ、地面とすれすれまで近くなった。
両膝と足の甲が装備越しに地面と擦れる感触を耐えながら頭が地面に当たる前に腹筋に力を込めて上体を引き上げる。
眼前を火球が通り、上体が完全に起き上がり、そのまま上体の慣性を利用して立ち上がる。
「膝が痛いッ!」
完全な自業自得なのだがその痛みを八つ当たりで発散するように剣を振りかぶった。
辰壬の視線が剣に向かう中、俺は左手から術構築をしていないただの圧縮魔力弾を放つ。
工程はただ魔力を貯めて放つだけ。
膨大な魔力を込めたワケでもないから発動まではほぼノータイム。
「うッ!」
額に向けて放った圧縮魔力弾。
注いだ魔力のほとんどを速度と、僅かな衝撃に回したため威力は低いがそれで充分なほど頭が仰け反った。
不意を打ったから何の抵抗もなく頭は大きく仰け反り、俺は振りかぶった剣をそのまま軽く上に向けて投げる。
反射的に頭を元の位置に戻そうとする辰壬の視界に剣の切っ先が移ると辰壬はそれを俺の攻撃だと認識して剣と自分の間に自分の持つ剣を挟み込むように移動させた。
だけどその剣を俺は持っておらず、その剣は俺の攻撃でもない。
「オラァッッ!!」
辰壬の手首を強く掴み、そしてそのままうろ覚え柔道の技を使って地面に倒す。
足が地面から離れ、抵抗がなくなり、俺は押し倒すように地面に叩きつけながらとどめの一撃として額に拳を近づけ、そっと当てた。
「俺の勝ちぃ」
「負けた……」
……ワリと危なかったな。
流石に素人に毛が生えた程度の俺の実力じゃ同じ素人相手じゃ危なっかしくなるか。
にしても、辰壬強くなぁい?
あそこから回転斬りにつなげるとかお前ホントに初心者かよって言いたい。
言ったらなんか負けな気がするから言わんけど。
「強いね」
「いやぁ、改善点の多い戦いだった。ベアトリクスから見りゃ泥仕合も良いとこだろ」
「そう……」
なんかハッキリしない反応だな。
まだ何か言いたいのか?
「何?」
「別に……。ただ変わったと思っただけ」
「変わった? 俺がか?」
言っていることがよくわからなくて、どう反応をすればいいのかわからない。
変わった自覚はそこまでない。
人間、良くも悪くも一日二日で変われるモンじゃない思う。
俺の行動原理は転移前から変わらず、自分が楽しく思えるかどうか、つまり快楽主義。
もう少し言えば自分にメリットがあるかどうか。
そこが変わってないんだったら変わってないと思う。
「前は……そんなに笑わなかった。前だったら薄ら笑いを浮かべてた」
「あ~、それは……確かに」
悩んでる俺を見かねてか、辰壬はどういうことか説明してくれた。
その説明はなんとなく理解ができた。
思い返せば確かにそんなシチュエーションはよくあったハズ。
そのどれもが軽い笑いで返していた記憶。
ただそれは
「どっちかっつーと
「剥がれた?」
「被ってた猫? 化けの皮? が剥がれた。元々俺はワリとひょうきんだぜ? ただ周りが面倒だったから適当に受け流してただけ」
「面倒?」
「うん。だってそうだろ、言って理解できると思ってないんだから、言うだけ無駄と思ってるんだから。相手する労力がもったいない」
言ってわかり合えるのなんて希望は小学校に入って速攻で消え去っている。
こっちから歩み寄っても向こうが理解する気がないんだから相手をするだけ無駄ってもんだ。
適当にあしらう方が楽だし精神衛生にも良い。
変に期待しないから裏切られてもダメージが少ない。
「……変なの……」
「知ってるだろ」
「うん」
「なら今更だ」
素直だった少年時代の柊
とはいえ第八話の後書きで書いた通り三つ子の魂百まで
根っこの部分がそこまで変わってないんですよねぇ
ストレスで他人に対する攻撃性が少し高まったものの一度身内と認識したら親身になってくれるっていう
まあ身内認定までが中々大変なんですけどね