ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「よう、久しぶりだな」
「えっと……あ~、四日くらい前に一度だけ会った――」
「そうそう」
「クアークを酒に誘ってフラれた人」
「……え?」
「え?」
いやぁ、申し訳ない。
口が滑ってしまった、もうね、ツルッと盛大に。
そりゃこんな憶えられ方してりゃそんな反応もするわな。
「ヴェガだよ!」
「おお、すみませんね。ヴェガさん」
「ヴェガで構わんが……」
「理解した、ヴェガ。にしても無駄にカッコいい名前だな」
「お前、いっぺん絞めたろか」
「暴力反た~い」
でもやっぱ、その名前のカッコよさは無駄だと思う。
俺と交換する?
……やっぱいいや。
ヒイラギって名前はこれはこれで気に入ってるし。
それに髪色とか色々変わった現状、俺が日本生まれであることを示す数少ない要素の一つだ。
俺はこの世界で生きて死ぬが、生まれを否定する気はないし。
「それにしても……お前もここに来たんだな」
「つーか新種ゴーレムを見つけて報告したの俺らのパーティだし」
「そうだったか」
というかやっぱり俺ってこの中じゃ浮いてるよねぇ。
見られることはないけどなんというか雰囲気が全然違う。
いくら参加条件が『一般開拓兵以上』だとしても遠慮するべきだったのか?
……いや、俺はもっと強くなりたいんだ、ここで遠慮なんてしちゃダメだろ。
もっとがめつくならないと。
「ちなみにヴェガは平気か?」
「何がだ?」
「今のこの状況。皆は結構キテるっぽいけど」
「ああ、慣れてっからな」
「そっか」
ちらほらとキツそうな人たちが出てきた。
俺たち三人は少し前に経験したからある程度平気だが、少なくはない人数の体調が変化し始めている。
「大丈夫かねぇ?」
「大丈夫だろ。これで死んだなんて奴見たことねえよ」
「そうなのか」
「気にすんな」
ふ~ん、そういうモノなのか。
乗り物酔いみたいなモノと考えれば良いのだろうか。
非常に辛くはあるがそれで死ぬことはない。
あったとしてもそれは間接的に、連鎖的にそうなるだけだろう。
「……ちなみにさ、その武器って……もしかして蛇腹剣?」
「おッ! よく知ってるな」
ヴェガの背にあるのはピンと張った状態で剣の形を保ったモノ。
いくつもの切れ込みがあり、二次元趣味だった者としてその正体には即座に思考が向かった。
「扱いが難しいから使ってる奴は少ないが慣れれば強い。自由に動かせるし攻撃範囲は最大で五メートルにもなるからな」
「それってワイヤーで伸縮してるようは刃のある鞭だろ? しかも刃がある分刃同士でぶつかる。……実用性ってどれくらいあるんだ?」
「もしかして伸縮以外全部人力操作だと思ってるのか?」
「違うのか?」
「ンなんでマトモに戦えるかよ……」
それは前の世界でも思った。
蛇腹剣というのは
「素材は
「固定魔術?」
「知らねえのか。簡単に言や位置を決めるんよ。だからこういうこともできる」
そういって正面に持ち出した剣をそのまま手放す。
普通なら落ちるはずなのに手品を見ているかのように剣は宙に浮き、歩いているのにヴェガと剣の距離は変わらずまるで止まっているようだ。
「これは俺との相対位置固定。たとえばこの状態から相対距離と高さを維持しつつ横と奥行きの制限を外してそこに多少の操作を加えれば――こうなるワケだ」
「おお~」
太陽と地球のように、剣がヴェガを中心として一定距離を保って周囲を旋回する。
ヴェガも動いているから地球と月と例える方が良いかもしれないが、ヴェガは何かを周回しているワケではなし、気にする必要もない。
「ちなみにこれは色々設定できて、用途が固定だから固定魔術なんて呼ばれてるがその実距離は自由に変えれんのよ。だから
「あ~、数学のxとかy的なね」
「何言ってんだお前」
「なんでもない」
x――縦横奥行きの三方向だからxyzか。
それぞれに対して距離を10≦x≦20とかにするってことだな。
あ~でもそれだとできあがる範囲図形が視覚になって対角線はワイヤーの長さを超過することもあるだろうし、それを見越してゆとりを作るかもしくはxyzだけじゃ表せられないってことになる。
あ~っと、なんだっけここういう球の範囲内のヤツ、数学で……x²+y²+z²≦1的な感じだっけか。
多分そんな感じのイメージで良いだろ。
「それって魔術掛けた後に条件の再設定ってできるか?」
「どういうことだ?」
「例えば剣に魔術を掛けて剣を投げるだろ? で、一番遠くまで行ったら距離を短くして剣を引き戻す、みたいな」
「無理だろ」
「そっかぁ……」
できたら剣六本使って赤い弓兵ごっこしたのに。
「その固定魔術って俺でも使える?」
「そりゃ普通の魔術だしな」
「ならやってみっか」
さっき見た魔術陣を思い出し、組み上げつつコッソリとゴーレムの欠片を取り出して右掌に載せる。
ゆっくり意識を集中させ、欠片に魔術を込めた。
すると欠片は掌の上を滑るように俺へと向かってくる。
咄嗟に左手を挟んで受け止め、握り込むと同時に魔術を解除したお陰でどうにか助かった。
「あ~、あるある」
「使うと結構な数がやるよな」
「俺もやったわ」
「私も」
「俺一度実戦でやらかして自爆したっけ」
「あの時のお前笑えたよ」
「うっせえ」
「ふぁッ!?」
なんとか腹に欠片がめり込まなかったことに安堵していると周囲から一斉に共感の声が飛んでくる。
そして遅れて視線が向かってきた。
恐らく視線を短剣に向けることで俺に感知されないようにしていたのだろう。
「やるならまずは掌にくっつけるのをイメージしたら良いわよ。その方が安全だから」
「あ、どうも。助言ありがとうございます……」
「緊張してるの?」
「えっと……まあ、はい」
予期せず声をかけられたこと、初対面なのに距離が近いこと、相手が異性であることなどが原因でテンパってしまってロクに思考が走らない。
そんな俺を見て周囲もゲラゲラと笑う。
「開拓兵続けるなら慣れとけよ?」
「そうそう。国の中心近くなら定期的に村とか街とかがあるから平気だけど外に行きゃ野営だってあるんだから」
「そうなったらいちいち反応してたらもたないわよ?」
「野営で慣れてっから俺らはこいつが全裸になろうと一切動じないからな」
「ちょっと! 私が痴女みたいな良いかたしないでよ!? そんなのクアークだけよ!」
「アタシも流石にいきなり裸にはならないから!?」
おおう……。
マジすか。
たしかに開拓兵は男女間の距離が近いと思ってたけど……そういうことかぁ。
言われて考えれば野営とかあるし当然だけど……。
しばらくは無理そうだよ、それ。
「とにかくっ、手にくっつけるイメージでまずはやってみると良いわよ」
「了解です」
確かにそれなら簡単にできそうだ。
くっつける……そうだ、武器強化の時のあの一体感。
あれを応用できるんじゃないか?
武器強化のイメージ。
何度も繰り返し、その感覚は憶えている。
それを想起し、固定魔術を発動させる。
変わった感覚はない。
魔術が発動している感覚以外の変化は一切ない。
だが、試しに左手のうえで右手を反転させてみると、右手に載った欠片は落ちなかった。
「成功した……」
「ならそこから掌に対する垂直方向の縛りを外してみろ」
「垂直方向……こうか?」
条件を変えた魔術を重ね掛けし、初めの魔術を解除する。
そうすると欠片は掌を離れて落下した。
なぜか咄嗟に右掌を上に向けると欠片は弧を描くように移動し、そして上から落下する。
欠片の向かう先には左手があったから別に気にしなくてもよかったのだが、ついやってしまった。
「そうそう、垂直方向以外は縛ってるからそういう風になるんだよ」
イメージ的には掌に生えた真っすぐな棒にリングが通っているイメージといったところか。
棒があるからリングはその範囲内でしか移動できず、棒が下に向けば下に落ち、横に向けば棒に引っ張られて横に移動し、上に向けば棒と重力に従って掌に戻って来る。
「そこから距離の指定をすりゃ宙に浮かすのもできる」
「なるほど」
「ま、その辺はまた今度だ」
「……俺は雑魚狩り頑張りますか」
「そこは、俺が親玉を倒す、とか言えよ」
「ははは、俺に振られた役割から外れてんじゃん。命令違反はダメだろ」
「じゃ、俺らはお前の分も頑張ってやろうじゃあないか」
……悔しいなぁ。
俺ももっと強かったらもっともっと活躍できたのに。
クアークたちに任せるしかないのは、本当に悔しくてならない。
多分この世界でなら大抵のロマン武器は実現できます(……いいなぁ)
まあそれはリアリティによって失われた実用性を取り戻すだけで、そもそも元ネタに実用性がなければ流石のこの世界でもそういうロマン武器は生まれません
蛇腹剣は実現できて実用性を持たすことができれば普通に強いと思います
いやぁ、にしてもしばらくやらないと本当に忘れますね
一瞬x²+y²+z²≦1をx²+y²+z²=1ってやりそうになりましたもん
それじゃあ球の範囲内じゃなくて球の表面しか移動できないクソ欠陥魔術になっちゃいますね(笑)