ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「おいっ、ちゃんと周り見て動けっ」
「サーセン!」
「俺らはガキのお守りをするためにいるワケじゃねえんだぞ!」
「うっすッ!」
ゴーレム、そしてスコーピオンの混ざった戦場。
雑魚処理に身を投じる中、何度もそんなダメ出しを受けてしまっていた。
くそっ、このキツイ中で状況把握すんの忙しいッ。
アンタらだってすんなり倒せるってワケじゃないだろ!?
なんでできるんだよッ。
全力でやっているのに全く役に立てず、むしろ連携を乱して足を引っ張ってしまっている。
周囲を見ようとすればモンスターの対処が間に合わず、モンスターに集中すれば邪魔になるというどう足掻いても上手くいくビジョンの見えない現状が腹立たしい。
「でも単純な討伐数で言えばアイツが一番なんだよな」
「甘やかすな、それは討伐数だけだろ。固有能力かは知らないがアイツはこの中で一番こいつらに合ってる
「そういうお前も甘やかしてるじゃねえか」
「……若い力は異邦の民だろうが宝だ。俺はそれを壊したくねえし無駄にしたくねえだけだ」
「ま、俺も同感ッ」
どうする。
今何ができる。
探知で他の人たちの居場所は大まかに把握して。
同じようにモンスターの居場所も大まかに把握可能だ。
それを手掛かりに他の人たちの動きを予測すれば良いのか?
近くにいるだけで七人いるんだぞ、どうしろって……。
近くに限定してもそれだけの人間がいる。
その動きを全て把握し、脳内で瞬時に判断して自分の位置取りを決め、時には他の人の補助もしなくてはならない。
荷が重すぎてぺしゃんこだ。
「……ちっ、仕方ねえ」
「お、甘やかすねえ」
「ちげぇよ……ヒイラギ! 一度肩の力抜けっ!」
「えッ!? お、おうッ!!?」
唐突な指示に困惑しながらその言葉の意味を考える。
ただ本当に脱力しろというワケではない。
他に意図があるはずだ。
肩の力を抜く?
楽にしろってことか?
何を?
戦線を?
いや、まさか。
どうすれば……。
肩の力を抜く……普通に強張るなってこと?
出せる力も出せないぞってか?
……ああ、なんとなくわかった。
唐突に理解ができた。
近づきすぎなのだろう。
前のめりになっても一部が見えるだけで全体は見えない。
力を抜いて、適度に余裕を持って、冷静に挑めということだろう。
「邪魔! ぼさっとしない!」
「あ、はい!」
余裕を持つとは言っても止まって良いワケねえだろうが。
しっかりしろ、俺。
自戒しながらゴーレムを連続で倒し、周囲の情報に意識を向ける。
視点を変える。
自分のモノではなく、俯瞰した視点で。
探知で得た情報を脳内で立体図として形にし、箱庭を眺めるように全体を。
「こうじゃない……こうでもない……ああ、こうだ。こうだこうだ」
視点変更に苦戦するもののなんとかやり方を理解し、周囲を広く眺める。
そうしたことで状況を理解するのがさっきまでよりも圧倒的に楽になった。
得ている情報量は変わらないはずなのにより状況判断ができる。
空いた思考リソースが状況を分析することに向けられているのだろうか。
「どい――」
「えっと、こっちに行って……で、次はこっちで……」
この乱戦の中でも少しずつ自分の動くべき方向がわかってきた。
前のゴーレムとの戦いが役立っている。
その場の直感でなんとなく道筋が見える気がする。
見える、というか戦いの中に一つの流れがあって、それを感じるような感覚だ。
やること多いな……。
いや、そう感じるだけで後の展開を予想して時系列と優先順位で並べたらやりきれないほどじゃない。
だから怒をこうして、こうした後に……でもそうしたらタイミング的に……だから先にこっちを片付けて……その後にこっから順番に……。
「理解したみたいだな……」
「ヒュー、優しい」
「だから違うッつーの」
「てかアイツ飲み込みはえーよな」
「無駄に素直そうだからな」
「普通もっと反発するよな」
「バカなんだろ」
「ひでぇな」
いや、二人とも酷いわ。
笑っちゃって。
素直でイイでしょーが。
こちとら疑い疲れたっつーの。
探索の時くらい信じても良いでしょーに。
……あ、ヤベ。
ンなこと考えてたせいで地味にミスった。
集中集中。
大きなミスではなかったが着地のタイミングを間違えてしまって戦闘テンポがズレ、それを元に戻すために無駄に体力を消費してしまった。
少し上手くいったからと慢心しかけてしまったがその些細なミスのお陰ですぐに立て直す。
「このままだと向こうに行くからアイツはこっちに引きつけて……誘導して並べて一気に……」
威力皆無の魔術でモンスターを誘導し、並ばせ、その間を駆け抜けて魔石を凍らせることで一気に倒す。
モンスターの消滅で空いた戦線に新たなモンスターが雪崩れ込むが、その前に他の人たちが上手く戦線を拡張することで短期のモンスター対人間の陣取り合戦に打ち勝った。
「今、援護したな」
「ああ」
「まだお粗末ではあるけどやることはわかってるっぽいな」
「視野の問題だったんだろ。アイツぁ臆病すぎんだよ。根本的な能力はそこそこあんのにアイツは自分で安全だと判断した領域でしか動けねぇ、もちろんそれが悪いってワケじゃねえがそれでテメェの可能性唸ってできるはずのことできなくなってテメェの首絞めてりゃ世話ねえよ」
よし。
上手くいけるようになってきた。
ダメ出しもないし、このままこの流れに身体と頭を慣らして。
そう考えた時、気づけば戦線が縮小しているのがわかった。
自分の周囲ではなく、全体の戦線。
特に新種と戦っている部分が押され気味なのがわかる。
「なあ!? 押され気味だけどどうすんの?! 撤退?!」
「その選択肢もあるにはある。しばらく戦って少しずつ全員の体力が落ちてきてるのも事実。ピンチってわけでもないから戦線縮小して戦力集中、時間当たりの討伐数を減らして戦闘継続能力を選んだろ」
「なるほど!? でもこの終わりの見えないこの状況でどれだけもつワケよ? 長時間戦ってるんじゃそのうち体力切れるぞ!?」
「そん時はそん時だ! この数のモンスター放置して街に向かわせる方が問題だろ!」
「ははッ、確かにな!」
体力は辛いがこれを放置する方が危険だ。
逃げるにしてもギリギリまで敵戦力は削った方が良い。
その方が後に繋げられる。
「ところで大丈夫かヴェガぁ……動き悪くなってんじゃねーの?」
「はッ、これは余裕の表れってモンよ。そういうヒイラギこそ呼吸荒いんじゃねーのか?」
「これはこういう呼吸法だ。この方が長く動けるってモンよ」
「……ちッ、若いのに気張られたら先輩の俺らが気張らねぇワケにゃいかなくなっちまうだろうが」
「ふんッ、簡単にへばったら全力で笑ってやるわ!」
互いに叩く軽口。
本当なら体力温存のために会話などするべきではないのだが、長期の戦闘にあたって気力が体力を下回っていて、多くの者の動きが悪くなっていた。
だからこそ虚勢でもなんでも活力を生み出すのが大事なのである。
肺がイテェ……。
頭も……。
明らかに酸欠だな。
魔力は……まだいける。
触れて凍らせるからか思ったよりも魔力の減りが少ない。
にしても、こうも視覚的に減ってる気がしないと気力って落ちるモンなんだな。
これはキッツイ。
痛む身体。
元々の疲労もあって思うように動けない。
この場のほぼ全員がそうだ。
ほとんどが俺たちのように一日の探索を終えて休んでいた者たちで、そこからいきなり再び戦闘になったのだから動きが悪くて当然。
戦力集中のための圧縮陣形も徐々に破られてきている。
「おいおい、ヤバくねーか!?」
「ああ、新種も少しずつ増えてきて。新種一体倒すのにも人員と時間が掛かる。雑魚どもも無意味に思えるくれぇに追加されやがる」
「もう……ダメなのか?」
「バカ言うんじゃねえッ。俺らが諦めてどうするよ!」
「スマン……」
だがそんな意思とは関係なく、前線が押され、他所の雑魚処理も間に合わず、新種と戦う前線が包囲されて孤立する。
「クアークッ! ヘルベルトッ!」
「持ち場動くなよ!」
「だがッ!!」
「それをして、お前一人で何ができるってんだ! お前のワガママで戦線全部崩す気か!? 犠牲は少ない方が良い!」
「アイツらを見殺しにしろっていうのか!? ふざけるな!!」
どうにかして助けられないのか!?
こんな終わり認めてたまるか!
理性を優先して仲間殺すくらいなら感情を優先するッ!
けど今の俺じゃどう足掻いても勝てねぇッ……。
魔術も剣も、今の俺じゃ道を切り拓くには不充分だ……。
クソッ、何が開拓兵だッ。
仲間助ける道の一つも切り拓けないで……何が……。
「俺は……俺はッ……俺はぁッ!!――」
感情的に、前線に向かおうとした瞬間、突然何かが戦線の中央を駆け抜け、前線を包囲していたモンスターたちを一気に吹き飛ばした。
爆発地に突き刺さっていたのは一本の大槍。
「ハッハッハッ!! お前たちッ、この俺が助けに来てやったぞ! そうッ、この俺! 夜の帝王とは俺のことッ! 世界に名を轟かすアーリック・ユリシーズとは俺のことだッッ!!」
六〇話以降はくよくよさせるつもりなかったのにこの主人公は作者の意に反してす~ぐくよくよしやがります
いい加減にして欲しいものです
突如助けに現れたアーリック・ユリシーズ
戦犯に済んだよ、やったねヒイラギ
ちなみにこの時点で既に一時間以上ぶっ続けで戦っています