ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一〇七話 嵌合体と自分の使命

「ヒイラギ、お前はその魔術を使って飛び出た針を広い範囲で凍らせろ!」

「この環境下で!?」

「いいからやれ!」

「お、おう!」

 

 ウルの豹変。

 有無を言わさず、質問の間もなく、始まった。

 

「これが開拓兵かよッ!?」

 

 突然の状況に対応して作戦を立て、また作戦の立案ができなくとも飛んで来た指示に即座に従える。

 それが本当の開拓兵なのだろう。

 だとしたら俺は開拓兵として未熟も良いところだ。

 そもそも俺が傲慢すぎるのかもしれない。

 

 この命令に従うことへの抵抗感。

 これは自分が一番だっていう傲慢か?

 それとも他者に対する反発心?

 ……わからない。

 指示に従った方が良いのは聞いていてすぐわかった。

 なのにどうしてすぐ従えなかった?

 さっきの理由じゃないとすれば役に立たない自分がこの場に立つことへの不安感。

 自分のミスで何十人も死なせてしまいかねない、つまり自分が殺すことになる恐怖?

 たしかに俺はこの世界に来て殺しはしたことがあるが殺人はない。

 罪を償わせるという以上に、殺人への抵抗感があった?

 ……どういう理由で…………。

 

「ああもう! ウザったいんだよ!!」

 

 心を雁字搦めにする思考ごと、二〇本以上の針を一気に凍らせる。

 全長の七割まで凍てついた結晶針は凍結している場所とそうでない場所の境目で崩れ落ち、地面に当たって砕けた。

 

「よし、ヒイラギも問題ないな」

「情緒は不安定だけど元気ね」

「……ヒイラギの凍らせた針は再吸収はされないな」

「前ヒイラギから聞いた想像だと変質だったり魔力の上書きがされてるからそれに対する操作権はゴーレムにはもうないって」

「ほう……ならばこういうことか」

 

 クアークの話を聞き、様々な前提条件の下複数の仮説を立てたウルは実験的に周囲の結晶を操作してゴーレム本体ごと結晶針を破壊する。

 そして落ちた結晶針が再吸収される前に操作権を乗っ取り、一つにまとめて手元に引き寄せた。

 

「各々破壊した針は操作を奪え! 熱で変質させることができるならそれでも構わんが効率が悪いから土魔術が得意な者は土魔術でやれ!」

「やること多いぜ、全く!」

 

 肉体に数か所のリザードとスコーピオンの特徴を有したクリスタルゴーレムだったモノは周囲のモンスターを吸収しようと直線的に、曲線的に針を伸ばすが全て俺や開拓兵たちに破壊され、届いて半径一〇メートルほど。

 その範囲には絶対に近づけまいと全力で誘導と位置取りを行う他の開拓兵たちの活躍もあり、次第に吸収量は減って最終的にはゼロになった。

 

「吸収されたのは二三体! その分の強さを持っていると認識しろ!!」

 

 どんどん近場から他のモンスターが遠ざけられ、吸収不可能と理解した合体ゴーレムは無数の針を出すことをやめ。

 そしてその姿を変化させた。

 頭部はリザードのように鋭く細かな牙の生えたモノに変化し、ゴーレム、スコーピオン、リザードと計三対の腕が生え、そしてスコーピオンの尻尾が二本生えている。

 

「こいつぁウアヴァグアヴァメみたいだな」

「ああ、元がゴーレムってわかってる分絶望感は全然マシだがな」

 

 初めて見るようなモンスターを前に俺の知らない比喩が飛び出し、そのまま話が進んで行く。

 そのウアヴァグ何某はゴーレムの一種なのかスコーピオンの一種なのかリザードの一種なのか。

 会話内容的にゴーレムの一種という可能性は限りなく低いが、結局正体は不明。

 

「ウアヴァグなんちゃらって……何?」

「そのままの意味よ。双針竜もどき、昔いたっていう双針龍の成り損ないみたいだってこと。知らないみたいだから一応注意しておくけどブルックリンとかの蜥蜴種(リザードマン)とか角蛇種(リビュア)にアヴァメって言っちゃダメだからね? 意味としては竜の成り損ないとか蜥蜴とか蛇って意味になってるけど基本はモンスターとか動物に対する言葉なんだから、差別用語よ」

「あ~、はいはいそういうことね。理解しましたわ」

 

 要するに昔実在した龍っつーおっそろしいバケモンを想像する見た目で、けど見た目としては成り損ないだし元はゴーレムベースのその他だからそこまでじゃないって気が楽になる、と。

 

「にしてもホント、メンドクセエ相手だ」

「とりあえず下手に突っ込まないように、慎重にね」

「わかってらい。俺は馬か鹿か猪か何かか」

 

 巨大化した全身。

 各腕がその胴体と並ぶほどに大きくなり、それらは尻尾も含めて全方向を包囲する開拓兵たちを襲うように今か今かと構えている。

 まずはこの六腕二尾をどうにかしなくてはならない。

 

「はッ!?」

 

 通常生物とは異なり全身が鉱物、つまり筋肉ではできていないからだろう。

 一切の予備動作なしに虚なく最短距離で襲い掛かってきた尻尾に俺も、そして周囲の開拓兵たちも虚を突かれた。

 そして第一の標的は何故か俺で、バリアを張るも容易に突破され、短剣で攻撃を受け流すもあまりの威力に受け流すだけで手が強烈な痛みに見舞われる。

 

「なんで真っ先に俺なんだよッ!!?」

「針を壊したからでしょ」

「なるほどな!」

 

 実力と優先順位が釣り合っていないことに弱い相手からまず優先する性格なのかと考えたが、クアークの声で納得した。

 たしかに針の破壊率でいえば魔術の相性の問題で俺が最上位。

 つまりダメージを多く与えた敵の一人なのだから、当然狙われる。

 

「右手イッテぇ! 治りも悪いし! ハハッ、なんだこれ」

「笑ってる場合?」

「おうよ! 笑ってる方が良い作戦も考えつくってモンだ! バカだから策ねえけどな!!」

「ダメじゃないの……」

 

 ダメージのせいか、それともこの環境のせいか、もしくはゴーレムが特殊な力を持っているのか。

 やけに回復に時間がかかる。

 右手には全体的に、右腕には限定的に存在する違和感。

 魔力の操作が乱れるというべきか。

 受け流しの瞬間に右腕に込めていた魔力が吹き飛ばされて空白になった腕にゴーレムの魔力か大気の魔力かが入り込み、流れを邪魔している。

 そんな感覚だ。

 

 腕は痛いし武器は落とすし、散々だっつーの。

 てか単純に考えてニ〇体以上のパワーを持った相手に俺が勝てるワケねーわ!

 一対一ですら正面から力のぶつかり合いしたら余裕で圧し負けるっつーの!

 

 治すのにコツが必要だったダメージをなんとか治し、落とした短剣を蹴り上げて回収する。

 そして状況が一切変化していないから標的はやはり俺だ。

 

「ヒイラギ、攻撃どれくらい耐えられる?」

「……正面から今みたいにやるって条件だと持って一分。それ以上は多分死ぬ」

「もう少しお願い」

「……わかったよ! やれば良いんだろやれば!? 断りゃどうせお前がやるんだろ?! だったら俺がやるっつーの!」

「任せたわ。ごめんね」

「謝んな。俺がやりたくてやってることだ」

 

 悔しいが俺は雑魚だ。

 ワガママを言って攻撃に加わってもどうせ何の役にも立てない。

 だったら盾にでもなんにでもなってやる。

 仲間にそれを押し付けて、その上で役にも立てないのが一番イヤだ。

 

「よう。災難だな」

「ああ、全くっすよ」

「こんなジジイ頼りねえかもしれねえが老い先短い寿命燃やして少しでも早く片ぁ付けてやっから手前も踏ん張りやがれよ?」

「俺のためにンなことすんなっすよ、爺さん。くたばるならその技術と知識を俺にでも伝承してからくたばりやがれ」

「ファッファッファ、ほざいたな小僧。ジジイの熟し過ぎて干乾びたサイコーの技を手前なんぞが身に着けられるわけがなかろう」

「爺さん。だったら今度教えやがれ」

「なら訓練でくたばる前にここでくたばるなよ!」

「どっちでもくたばる気はねぇッ!」

 

 せいぜい足掻いてやる。

 ブルックリンも言っていた。

 結局何があろうと、命に勝る勝利なし。

 だったら俺は最高の勝ちを掴んでやるだけだ。




異世界語解説

 ウアヴァグアヴァメは『ウ・アヴァグ・アヴァメ』もしくは『ウアヴァグ・アヴァメ』とされます。後者のウアヴァグの方が一般的
 クアークは双針龍と言いましたが、正確にはウアヴァグ・アヴァメの基となった『ウアヴァグ・アヴァム』というのは『双針龍(ウアヴァグ・アヴァム)』もしくは『双角龍(ウアヴァグ・アヴァム)』となっているワケです
 つまり何かしらの特徴的な尖ったモノが二つ(・・)ある龍は『ウアヴァグ・アヴァム』になるというワケですね

 もしこれが一角龍の場合は『ダ・アヴァグ・アヴァム』となり、三角龍の場合は『オアヴァグ・アヴァム』になります
 双角竜の場合は『ウアヴァグ・アヴァモ』です

 以上、役に立たない異世界語解説でした
 恐らく本編で活きることのない要素なのでここでやりました
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