ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一〇九話 雨垂れの僅かな力

 急転を迎えた戦い。

 その攻防は非常に高度なモノで、俺には完全に理解しきることはできそうになかった。

 ウルが攻撃を跳ね上げ、クアークが直後に攻撃し、それによって刻まれた傷にウルが追撃を行う。

 対して、爺さんは二人で一本の腕を相手している反対で一人その体躯とは不釣り合いな双剣を振り回し、宙を駆け、ゴーレムと渡り合っていた。

 

「はッ!? 今のうちに他の――」

 

 戦いに見とれている場合ではないと気づき、俺はすぐ背後を振り向いて周囲で他のモンスターを抑えていた開拓兵たちに加勢しようとする。

 だがもう既にその戦いは全て終わりを迎えており、この空間には三人と一体の戦闘音だけが残っていた。

 

 もう片付いてたのか。

 だったらこの戦いさえ終わればもう……。

 

 元居た方に何かしらの事故が起こっていない限りはいずれ収まるはずだ。

 

「……あれ? ヴェガがいる」

 

 ゴーレムを挟んで反対側少し横。

 そこにはここにはいないはずのヴェガがいた。

 少なくとも俺たちのあと、クアークたちが来た時にはいなかったはず。

 元の場所で戦っているはずだ。

 

「……」

 

 大気中の魔の影響でヴェガは俺の視線に気づくことはない。

 そしてそれと同時にもう一つのことにも気づく。

 それは人数が明らかに増えていること。

 何故か、と考え。

 すぐ答えに気づいた。

 その増えている分の開拓兵たちは寝ているところを起こされ、連れて来られた人たちだ。

 証拠に呼びに行った足の速い人たちが戻ってきている。

 

 なるほどそういうことか。

 たしかに追加の人は全部知らない顔。

 だから周囲のモンスターが片付くの早かったのか。

 

 状況に理解のいった俺は再び視線を戦いに向ける。

 腕を減らし、全体的に縮小させて硬度が上がったからか、環境がクリスタルだからか、せっかく付けた傷もすぐに治されてしまっていた。

 クアークたちの攻撃によって散る結晶の欠片。

 それは周囲の結晶がレフ板のように光源から出た光を乱反射するこの空間でキラキラと輝き、三人の戦いを煌めく白で彩る。

 

「やっぱ……スゲェな……」

 

 普段を知り、俺に合わせて手加減をしてくれているから忘れそうになるクアークの本当の強さ。

 戦っている時とも、訓練の時とも異なる、圧倒的な実力。

 流れるような洗練された動きはまるで剣舞のようだ。

 

 三人とも力も技術も高い。

 けどそれだけの実力があってもここまで苦戦するモンなのか?!

 

 誰もが力強い。

 それはたった一撃で圧倒的強度を誇る装甲を僅かとはいえ削っていることからわかる。

 誰もが高い技術を持っている。

 それは寸分違わず同じ場所に連撃を入れていることから見て取れた。

 だが、それにもかかわらず膠着状態が続く。

 この場の誰しもが加勢したい。

 そしてそれは誰も叶わない。

 ゴーレムとは思えない、もはや合体によってゴーレムとはかけ離れた実力になり、圧倒的な力と敏捷を手に入れている。

 その凶爪による振り上げ振り下ろしは非常に強固な地面の結晶を易々と切り裂いた。

 その尻尾による叩きつけは直撃すれば破城槌を生身で受けるのと同義。

 合体と圧縮にとって強化されたゴーレムの動きに着いて行けるのはこの場の三人だけ。

 俺も、俺よりも強い人たちも。

 ただ見守るしかできることがない。

 

 右に行って、叩き切って、突きに繋げて、突いて、速攻で意識(ヘイト)を反対から惹き付けて、動かして……なんであんな連携できるんだ?

 前からの仲間じゃないだろ。

 昔仲間だったとしても最近はそうじゃなかったはずなのに。

 なんでだ?

 他二人の動きと敵の動きを全て把握して。

 そのうえで見て反応(・・・・)ができるくらいに余裕があるのか?

 ……違う。

 経験だ。

 たとえ行動を共にしたことがなかったとしても、開拓兵って同じ畑に存在する絶対の共通点。

 全ての戦いに存在する戦いの流れ(・・・・・)

 それを理解してるんだ。

 

「ヒイラギ!」

「う、うぇっ!?」

 

 突然のことに反応して間抜けな声を漏らすと一瞬だけウルと視線が交わる。

 

「お前の魔術使う準備しろ!」

「ぬぇっ、お、おう!? でも多分表面の装甲に弾かれっぞ! それに威力出すには触れた方が良いけど近づけないから威力落ちるし!」

「道は俺たちが作る。ヒイラギは胸狙ってさっきの魔術込めた剣刺せばいい。なぁに安心しろ、俺様を信じろ! お前の何十倍も凄い俺様たちがやるんだ。ドンと構えて全力ぶっ放しやがれバカ野郎」

「……じゃあ準備できたら言う、その後合図くれ」

 

 どうしてこんなことに。

 そう考える暇もなく。

 俺は魔術の構築に取り掛かった。

 必要なのは攻撃力ではなく突破力。

 壁は三人が破ってくれる。

 だったら俺がするべきは魔石を突き穿つ最強の一撃。

 今必要なのは疑念ではなく慢心。

 俺ならば三人にはできなかったことができるという。

 

 疑うな。

 信じろ。

 俺ならできる。

 思い上がれ。

 このままじゃ勝てないと考えたからウルは俺を呼んだんだ。

 こんな強い三人でも俺の持っているモノを持っていない。

 俺は特別だ。

 装甲さえ突破できればこんなヤツ豆腐みたいなモン。

 

 自分に言い聞かせて強さを植え付ける。

 俺の中の俺を強固にして、魔術の核を強化。

 そうして体内で構築した魔術を短くした剣身に収める。

 一度構築を完成させてしまえば構築領域(リソース)はほとんどいらず、必要なのは維持のための魔力だけ。

 何重にも剣身の中に魔術を重ね、そして束ねる。

 

「準備完了! いつでもイケる!」

「ならすぐだ!」

「おう!」

 

 ウルの指示に従って瞬時に進む。

 三人が道を切り拓いてくれる以上進むべきはひたすら直進。

 身体強化で身体が壊れるギリギリまで力を強めつつ足場を操作して加速に適した形状にし、剣を強く握り込む。

 緊張で開かない右手がより一層硬くなった。

 

 クソッ、近づけば近づくほど動きが見えねえッ。

 信じるからなお前らッ!!

 

 近づき、視野が狭まる。

 すると相手の動きは見えず、初動から動きを予測できなくなってそれは何も見えないに等しくなる。

 探知はゴーレムの重圧でまともに機能していない。

 右から迫る爪を爺さんが防ぐのも。

 左から襲い掛かる爪をウルが止めるのも。

 上から降り注ぐ尻尾をクアークが弾くのも。

 すべて信じて突き進むしかない。

 

「狙いを合わせろヒイラギ!」

「ああ!」

 

 瞬間、顔のすぐ左を大槍が通った。

 当たりそうなほどに近く、巻き込まれれば挽き肉になりそうなほど速い一撃はゴーレムに刻まれていた傷に正確に重ねられ。

 六センチほど突き刺さる。

 

 ここに。

 合わせる!

 

「るぁああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 蓋を閉じようと表面から再生しようとする胸の穴。

 そうはさせじと短剣を突き刺す。

 再生の余地を失くし、装甲の奥へ切っ先を進めた短剣から一気に魔術を解き放つ。

 それと同時に左手で短剣の柄頭に掌底を打ち込み、さらには短剣の柄頭をその場に固定し、短剣に魔力を流し込んだ。

 かつての姿を取り戻すべく必死に再生しようとするゴーレムと、かつての姿を取り戻そうと伸びる黒鍵。

 固定された柄頭によって反発は封じ込められ、無反動ハンマーのように注ぎ込んだ全ての膂力と黒鍵そのものの伸びる力を全て威力にする。

 切っ先から奔る冷気は結晶を凍らせ、穿ち、さらに凍らせ、さらに穿つ。

 圧倒的防御を雨垂れ石を穿つが如き微小な破壊で突き進み、やがて魔石へたどり着き、最後は呆気なく砕き、戦いは終わった。

 

「勝っ……た?」

「ハッハァッ! よくやったなヒイラギ! お疲れさまだ!」

「お疲れというか……魔力と精神力以外ほとんど減ってないけど」

「そうではないわヴァカめ! 全体を通してだ」

「まあ、それは確かに疲れたな」

 

 昨日から続き、ずっと戦い続けていた。

 もしかしたら疲労で空腹に気づいてないだけで昨日じゃなくて一昨日かもしれない。

 

「少し惜しいが勝鬨はくれてやる!」

「え、惜しいなら別に……」

「いいから行け!」

「ぬおッ!?」

 

 ようするに勝利宣言。

 けど注目を浴びるのはまだ得意じゃないし、別にやる気はなかったんだがウルのせいでやることになった。

 おのれウルめ、覚えてろ。

 

「この戦い、俺たちの勝ちだ!!」

「うおぉぉおおおおおおおッ!」

「勝ったぞぉおおおおッ!」

「終わりだぁあああああッ!」

 

 ……これで良かったのか?

 フラーとか、ウラーとかそういうのだっけ勝鬨って。

 エイエイオー?

 万歳?

 ……わからんて。

 

「よう、お手柄だったな」

「ヴェガ……。お手柄っつーかお膳立てっつーか……三人がいなきゃ無理だったからスッキリしねえな」

「謙遜すんなって。んなこと言ったら俺らなんて何もできなかったし、それにあの三人だってお前がいなかったら勝てなかったかもなんだぜ? 活躍して、勝利したなら胸張って誇れよバーカ」

「なるほど……尊敬しても良いのよ?」

「調子乗んなバカ」

 

 あ~。

 笑い合えるってサイコー。

 気がスッゲー楽だわぁ。

 別の理由で若干気が重くもあるけど。

 

「てかよ。最後のって何だったんだ? やっぱヒイラギの固有能力か? だとしたらどんなんだ?」

「あ~、違う違う。普通に魔術で凍らせただけ、固有能力とは違うよ。剣が伸びたのはそういう剣ってだけ、貰ったんだよ。お礼と先行投資にって。俺の実力と不釣り合いなのはそれが理由」

「……そうか」

 

 ホント、勝てて良かったなぁ。

 

「なぁに黄昏てるのよ! さっさと向こうも片づけて美味しいご飯食べて柔らかいベッドでグッスリするわよ! そのためにはだらけてるヒマなんてないんだからね」

「ああ。そうだな!」

 

 クアークは元気だなぁ。

 流石に実力も体力もチゲーや。

 けどま、元気は貰えたや。

 

「……ありがとうな」

「さっき守ったこと? 勝つための流れとして必要だったワケだし気にしなくて良いわよ」

「そうじゃなくて。それもあるけどそうじゃなくて。改めてさ。クアークとの実力差感じてよ。こうして一緒にいてくれるのってホントありがたいことだなって改めて思ってよ。やっぱそういう優しいトコ、好きだわ俺」

「それを言ったらヒイラギだって昨日助けようとしてくれたじゃない。ただの仲間なのに命まで懸けようとして」

「結局助らんなかっただろ。それにただの仲間じゃねえ、ちゃんと自分の目で見て、信じて、仲間になったから命懸けるんだよ。俺はオメーほど優しかねーんだ。基本は見捨てるだろーよ」

 

 世間一般で褒められるような優しさだの、できた人間性だのは俺にはない。

 なんせ俺はクズだ。

 ……香月たちちゃんと元気でやってかなー。

 仲間ではないとはいえ一応面倒見てやったワケだし。

 状態がわからないとわからないで微妙に気になるな。

 知らないところで俺の苦労が無駄になったらイヤだし。

 ……ついでに三藤、あと超ついでにアホ陽キャどもの行方も気になるな。

 下手に事件起こされて風評被害喰らっても困る。

 

「守ろうとしてくれただけで嬉しかったわよ。関係性的にも、アタシの強さ的にも守るなんて思ってくれる奴はいないから」

「そぉかよ」

 

 感覚の違い、かねぇ。

 前提条件が全然違うだろうから簡単には言えないけど。

 

「ま、なんだ。お互いお疲れさん」

「お疲れ様」

 

 お互いの拳を合わせ、安心感から笑い合った。




 長かった~
 一〇話以上もやってるとか長いですね

 露骨すぎる表現を入れちゃいましたが流れとして仕方ないので諦めました
 ぼかす技術は持ってないですし

 ちなみにウルことアーリックのメイン武器は大槍です
 基本どんな武器でも使える激強マンですが慣れと、大槍が魔術を刻んだ槍ということでそれをメインで使ってます
 晶洞内の暑さを軽減させる指輪をヒイラギに出した時しかり、内部的に複雑なのは作れません
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