ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一一三話 脳筋令嬢とノースミナス最強

「アンタ、剣はいくつ使う?」

「長剣なら一本で、短剣なら二本で使ってる」

「そう……。キィィィィィィィィィィィスッッ!!! 剣三本持ってすぐに来なさい!!」

 

 び、ビックリしたぁ……。

 いきなり大声出すなよ。

 魔力の制御ミスって死んじゃうでしょうが。

 

「どうしたのよ? もしかしてやっぱり臆病?」

「ほざけ。無駄にデカい声に呆れただけだ」

「本当に失礼な奴ね! 身分の違いを弁えて敬いなさいよ!」

「……敬える場所は、どこかね?」

「全力でぶっ叩いてその空っぽの頭に叩き込んであげるわよ。イヤって程ね」

「じゃあ嫌です」

 

 嫌って程やられるんだったら先に言ってやる「嫌です」、と。

 戦うこと自体本位じゃないっていうのに。

 

「訓練中に呼び出すんじゃねえ! ですッ」

「じゃあ戻って良いわよ」

「言われんでもそのつも――あ」

「ん? ――あ……」

「どうしたの? 二人して」

 

 剣を三本抱えて訪れた男。

 ボサボサの髪、ボロボロの身体。

 制服を着ていることから衛兵団とわかる。

 そして鼻筋に真っすぐ大きな傷が伸びていて、片耳が失われている。

 その姿に俺は見覚えがあった。

 

「ヤハハハハハッ! に、似合ってんじゃねえかその格好! ……ぶふっ」

「小僧ッ、テメッ、なんでここに居やがる!」

「おいおい、なんだその常套句は。ちったぁない頭ぶん回して面白いこと言ってみろよ。ちなみに俺がここにいるのはこのクソ生意気なお嬢さんに強制的に戦わされるからだ」

「二人は知り合いなの?」

「ああ、まあ、俺が倒して捕まえた感じだ」

「え……」

「てめぇのせいで俺の計画が台無しだよ」

「はッ、簡単に破綻するのは計画じゃねえよバァカ。そういうのは都合のいい妄想って言うんだ、知ってるかぁ? 言葉の意味ちゃんとわかるぅ?」

「ぶん殴るぞてめぇッ」

「あ、その奴隷紋(オシャレ)も似合ってるぜ」

「ッ……」

 

 あ~、ホント笑える。

 何、お前らコンビで漫才でもするの?

 

「あ~もう! そんなのどうでもいいわよ! 早くあたしと戦え!!」

「……お前は帰らないのか?」

「せっかくだからおめぇがボコボコにされるのを他の人たちと一緒に見ることにするぜ」

「え、そんなに強いの?」

「俺の知ってるお前から大して成長してねーならな」

 

 え~、こわ。

 やっぱ帰っていい?

 

「長剣二本なんてちゃんと使えるのか?」

「アタシの師匠はガーランドさんよ」

「憧れて真似しましたってか」

 

 まあ爺さんの弟子なら強そうだな。

 生意気だが警戒はするか。

 

「行くわよッ!!」

「おお」

 

 

 

「…………」

「もう一回よ!」

「ええ~、まだやるの?」

「当然よ!」

「さっさと負け認めてやめようよ……」

 

 確かに強くはあった。

 だが同時に弱くもあった。

 彼女の中には俺の麻痺した部分があった。

 それを正常と呼ぶのかはわからない。

 こんな世界だ、正常の定義なんて曖昧だし、そもそも人間の作った“虚構の分別”なんて元の世界と比べたら圧倒的に薄いのかもしれない。

 感情ではなくシステムの上に社会がちゃんと成り立っている。

 その上で皆がシステムの上に感情を成り立たせている。

 彼女は、酷く感情的だ。

 いつしか麻痺していた俺の中の何かを彼女は持っている。

 

「君はさ……将来どうしたいの? 衛兵団で働きたいのか、開拓兵として働きたいのか」

「何よそれ!」

「ッ、不意打ちかよ、血気盛んな……。別に馬鹿にするつもりはない。ただなんとなく……俺と戦うのは悪影響を及ぼしそうだと思っただけだ」

 

 俺の中に積まれた強さはコピーばかりで歪だし、精神性も教育上よろしくない。

 

「つか本気でメンドクセエなテメェッ」

「それはアンタが本気で戦わないからよ!」

「はっ、残念だが俺は本気で戦ってるさ! 全力じゃねえだけってなモンよ!」

「ッ……ちゃんと戦いなさいよ!」

 

 ちゃんと、ねえ。

 戦った感想的には「勘が良い」に尽きるし。

 

 まだ一ヶ月と少しとはいえ一応は一般開拓兵のカテゴリー、大人げなく全力で叩き潰すワケにはいかないと手心を加えたのはマズかったか。

 勘の良さで見破られてしまっている。

 多分基礎の違いで俺よりも強くなれる人間だけど、その基礎経験(センス)に対する進歩経験(せいちょう)が全然だから、という風に甘く見てしまった。

 

 仕方ない。

 余計うるさくなるだろうけど一瞬だけ全力でやってやるか。

 

「はぁッッ!!」

「きゃぁッ!?」

 

 彼女の剣に合わせて連続で剣を叩きこむ。

 斜めに振り下ろして一撃、手首のスナップで引き返すように切り上げて二撃。

 双剣を破壊し、俺は剣を投げすてつつ彼女の手首と胸元を掴んで背負い投げをして地面に叩きつけた。

 

「これで満足かよ?」

「……くッ」

 

 何その歯の食いしばり。

 どこの女騎士だよ。

 多分オークとかゴブリンからすればウザいだけだぞ?

 勝って殺すか、負けて掴まるかを覚悟して戦いに挑んでるはずなのにいざ負けたら「殺せ」と来たモンだから頭がおかしいとしか思えないだろうし。

 そこに含まれてるのは「私が負けるはずはない」「相手は取るに足らない雑魚だ」「万物の支配者たる人間様が愚図で愚かな魔物に劣るなど断じてありえない」って意識的にしろ無意識的にしろクソみたいな前提認識だ。

 まあこの世界のゴブリンとかオークって人間は普通に殺すだけだって話だし。

 そういうのがあるとしたら時代が変化して、モンスターが生物的に進化して他種族との繁殖を可能にするか、そういう類の異世界くらいだろう。

 うん、関係ないな、色々。

 

「……悔しいけどあたしじゃ勝てないわ」

「うん。それ普通は最初の数戦で気づくことだからな?」

「アンタはいちいち嫌味を言わないと気が済まないの!?」

「ま、強かったと思うぜ。流石は爺さんの弟子――って言いたいところだが普通にお前自身の実力がメインだな。感覚が強すぎてアレンジが強すぎるっつーか。上からに聞こえる……というか勝った立場だから上から言うけど、強くなれると思うよ。――ホラ、手ぇ出せ」

「ホント、上から目線でムカつく。……ありがと」

 

 剣を握ってばっかの手だな。

 脳筋令嬢め。

 

「いや~、弱すぎて不完全燃焼だわ~」

「アンタっ、ホント殴るわよ!?」

「はッ、一回も掠りすらしなかった奴の拳なんて当たるワケねーだろォ?」

 

 それを承知の上で殴りたいのか、それとも彼女なりのじゃれあいなのか、軽いパンチや回し蹴りを放ってくる。

 

「そういえば名前なんつったっけ?」

「ジューンよ! ちゃ、ちゃんと憶えておきなさいよね!」

「ジューンか。まあ憶えて意味あるかはわからんがな」

「今度食事に行くんだから憶えておきなさいよッ。それと今度また手合わせしなさい!」

「え~、良いよ」

「言ったわね!? 次こそ倒してやるんだから!」

「あ、次って年単位で後なのね……」

「……無意識?」

「何が?」

「いや、いいわ……その反応でわかったから」

「?」

 

 はて?

 誰か詳しい解説をプリーズ!

 

「にしても……ホント不完全燃焼なんだけど? どうしてくれんだよ」

「うっ……」

「はっはっは、それなら私が軽く手合わせをしてやろう」

「え? ……ザフィーアさん!?」

「流石にわかるかね」

「まあ……はい」

 

 特徴聞いてたしさっき見たし。

 ……うぉぉ、ホンモンだぁ。

 近くだと本気でプレッシャー半端ねぇ。

 

「というか手合わせって……本気っすか?」

「はっはっは、たとえ衛兵団の一員でなくとも若者を育てるのは大人たる私の務め! 遠慮する必要は一切ないぞ!」

「……ならぜひ遠慮なく」

「む、だが剣は今しがたお主が壊してしまったしな! 仕方ない、私は素手で相手をするとしよう!」

「……たしかに僕の実力じゃ当たることはないでしょうし仮に当たっても傷は一切ないでしょうけど……今後の糧とするべく、ぜひ剣で戦っていただきたい」

 

 これはチャンスだ。

 そう考えて俺は剣を二本生み出す。

 同じ剣を二本、一本は俺が、もう一本はザフィーアさんに渡した。

 

「……これは?」

「ははは、勝つもりで戦うとはいえ勝てないのは理解してますよ。流石に剣に細工なんて卑怯な真似はしませんしそれで仮に勝ててもその経験は一切身に着かない。今日の夜にでも、捨ててもらって構いませんよ」

「はっはっは! ただ生意気なだけかと思ったが理解すべきところは理解しておるか! ……不要なモノを処理するのは今日ではないからな、明日の朝にでも処分するとしよう」

「では、早速手合わせを」

 

 見合い、剣を構える。

 鋭い目つきで睨まれて一瞬根源的恐怖が刺激されるがすぐに振り払い、ジッと隙を窺った。

 だが実力が桁外れすぎて隙など一切ない。

 時折見える隙すらも恐らくは意図的に生み出された誘い出すための(フェイク)

 仕掛ければまず間違いなく速攻でやられてしまうが、やらなければ後手に回ってしまって。

 そして後手に回れば俺とザフィーアさんの実力差的に何もできずにやられる。

 だからやるべきは隙を突くことではなく、タイミングをズラすこと。

 

「――シッ」

 

 短い呼気。

 肺の中の空気を火薬にするようにして一気に加速し。

 切っ先がギリギリ当たる程度の間合いで首を狙って薙ぐ。

 

「躊躇はないその意気は良し。しかし甘い」

「くッ」

 

 すぐ反応された結果、切っ先を弾かれ、連続して間合いを詰められ足払いを掛けられた。

 体勢が崩れる中、俺は体勢を立て直すのではなくあえて崩し、地面に向かって加速。

 左手を地面に突いて腕を蹴る。

 

「ほう、開拓兵らしく型に嵌まらぬ自由さを持っている。だが自由になりきれていないな。枷の付いた自由。自由というのなら地を歩くだけでなく空も駆けねば」

「余裕なことで!」

 

 蹴りの勢いを利用して体勢を直し、剣を握りなおす。

 そして即座に剣を振るった。

 

「存分にかかってきたまえ」

「……」

 

 剣は逸らされ、受け止められ、その意図を理解し、その意図に合わせるようにして剣を振るう。

 突いては弾かれ、剣の勢いを利用して回転斬りを行うが受け止められた。

 

 ……ちッ。

 たしかにコイツはウザッてぇな。

 自分のやったことを理解しろってか?

 

「それに自由、ね……」

 

 だったらやってやんよ。

 どんくらいできっかはわからんが、自由気ままに、好き勝手動いてやる。

 

 剣を片手で持ち、体勢を極端に低く構える。

 片手が僅かに地面に着き、まるで獣のようだ。

 そしてそんな見た目通りに獣のように接近する俺は低空から飛びかかり剣をあえて防がせる。

 

「ふッ!」

 

 剣を流して地面に突き刺し、突進の勢いを回転力に変換してザフィーアさんの背後に向かって飛び、そのまま背後から切りかかった。

 だが、俺の動きを見ずとも予測できたとばかりに、単純な奴だ、と言わんばかりにこちらを一切見ることなくその攻撃は防がれてしまう。

 

「思いつきにしては良い動きだったな」

「がッ!?」

 

 襲い掛かる首への攻撃。

 流石に加減をされて柄頭での打撃だったが、威力が桁違いすぎて意識が奪われかけた。

 その衝撃によって視界は一瞬で白み、同時に地面に叩きつけられて額を地面に強打する。

 

「…………」

「少し強くなったからと言って自分よりも弱い相手に偉そうにするものではない。君が身に着けた力はモンスターに向けたまえ」

「うす……」

 

 あ~、ホント、全然だわ。

 チキショー。

 もっと強くなってると思ってたのに思い上がりじゃねーかよ。

 

「ジューンも悪かったな。上から目線で言っちまって」

「……別にそれは良いわよ。あたしが嫌だったのは弱いからって手を抜かれたこと! けどアンタは最後にちゃんと全力を出してくれた! もう気にしてないわよ!!」

「そうか……大人だな」

「一四歳なんだから当たり前よ。もう子どもだって産める歳なんだから」

「お、おう……」

 

 こえー。

 この国たまに予期せぬ発言飛んでくるからこえーよ。

 一四歳って年齢的に中学生じゃんッ。

 てかそんなこと誰も聞いてねーよ!!

 

「むしろ無理やり連れてきた挙句お説教まで、ごめんなさい」

「ん~、むしろ感謝してるよ。事実思い上がってたところはあったし、変に曲がって手遅れになる前に曲げなおしてくれて助かった」

「そう……」

「ま、さっきも言ったようにそのうち手合わせくらいだったらするよ。確かに俺よりは弱いけどだからって意味ないかって言われたらそうじゃないし。同じ相手と戦ってばっかで飽きたってんなら気分転換に戦ってやんよ」

「あ、ありがと。……じゃあまた今度ね」

「ん。また今度」

 




 ちなみに一応書いておくと、この時点でヒイラギの頭にハーレムはあまりないです
 この時点というか、六〇話時点で興味を失いつつあり、最低でも一一〇話の時点ですでに興味はなくなってました
 理由としては自分の中で整理がある程度ついて、靄がちょっとだけ晴れたからです

 そもそも恋愛感情をまともに理解していないヒイラギは同世代の男子が教室で話す煩悩まみれのバカ話だったりラノベなどを読んで「自分の年頃はそういうことに興味を持つのが普通で当然」と勘違いをしていて
 異世界に来て一夫一妻という要素がなくなったのならそれを目指すものではないか、という根底勘違いが起こり、ハーレムハーレム言っていたワケです

 自分が異常であることを理解しつつ社会で暮らす以上は【普通】に合わせなくてはならない
 だけどこの世界に来て、マユゲを筆頭として色々な人と接する中で自分らしく生きることへの肯定感、自己を否定して平凡に偽装する必要がないという理解
 それらによってハーレム欲が薄れ、現状に至ります
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