ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「それで、一体なんの用だ? 前線から退き後進の育成に尽くす老兵と言えど暇というワケではないのだがな」
「ペトラ、奥借りる、同席も頼む」
「悪いけどお袋ぉ、店の方お願いして良い?」
「大事な話なんだろう? 遠慮するんじゃないよ」
「助かる」
この場に揃ったのは七人。
俺、ペトラ、ザフィーアさん、クアーク、ヘルベルト、アイヴィ、
集まったのは当然ながら黒鉄の墓のこと。
俺は知っている範囲内の情報を経緯はぼかしつつザフィーアさんに話した。
「なるほど……二人とも……それにあの者たちの中にも……」
第二位が金に汚く黒に染まりつつあり、第三位が真っ黒というのは組織としては思うところが色々あるのだろう。
困惑しつつもその感情を表に出すまいと抑えている。
そんな雰囲気だ。
「……ところでヒイラギはどうやってザフィーアさんと連絡を取ったの? 昨日軽く手合わせしたのは知ってるけどその時は結局その後すぐ帰ったわよね?」
「それは僕も気になるかな。いきなり声をかけられてくることになったから」
ザフィーアさんの心中を察してかクアークが話題を変える。
そしてそれにウォルトンも乗りかかった。
「その時だよ。俺あの時剣を作って渡したろ?」
「そういえばそうね」
「剣の柄の部分に“プロミネンス工房に来てください”って彫った」
「それが全文?」
「うん」
「でもそれだと場所しかわからないよね?」
「だからその時に今日の夜にでも、とか話したってワケ」
「ああ、あれってそういうことだったのね」
それを聞いて理解したクアークはわずかながら違和感を抱いていたらしく深く、他の皆はそこそこの納得を示した。
そしてそれと同時にザフィーアさんは自分の中の葛藤に決着を着けて俺を真っすぐ見据えてくる。
「はっきり言ってすぐに信じるのは難しい。だがたった今、ヘルベルト君の
「それで……協力はしてくれるんすかね?」
「……無論だ。私の使命は、私の望みはこの街の、この国の安寧。なれば見過ごすことなど到底できまい。友の裏切りで歩みを止めるほど私にとってこの街は軽くはないのだ。護りたいという私情のため、友という私情を切り捨てる覚悟はたった今、決めた」
「経験浅き身。心中お察ししきることなど到底できませんが、微力ながらご助力させていただきます」
「畏まってくれるな。君の、君たちのお陰でこれ以上被害を増やさずに済む。敬意を表したいのは私の方だ」
「なら……俺にも護りたいモンはあるんだ。力出させやがれ」
「私こそ、頼む」
流石というべきか。
半世紀以上を生きているだけあって“大人”だ。
きっと、俺ならウジウジ悩むだろう。
友を、心から信じた友が、裏切ったとしたら。
俺はきっと立ち直れない。
立ち直れても、しばらくは動けないだろう。
この人はそれを短い時間で済ませてしまった。
その絆が浅いということはないはずだ。
ここまで傷つくのだから。
……本当に。
立場とか関係なく尊敬できる人だ。
「逃さぬため。そして何よりもこれ以上被害を増やさないため、攻めるのは今日だ」
「流石に人集めるのキツくねーか?」
「はっはっは。そもそも君たちの用意した図によれば大人数が攻め入る余裕はないではないか。必要なのは少数精鋭。他の者たちは外で包囲させる。さらに言えば衛兵団内部の者たちが反旗を翻せばそれを抑える者も必要になるからある程度人員を残す必要があるのだ」
「あ~、そっちに意識向いてなかったわ」
あ~、ホントダメだ。
さっさと場慣れしないと。
こういう特殊なことに対する即応力がまだ欠けてるっていうか。
安定した時代に生きてた以上仕方がないとはいえ、それを理由に手抜きは許されない。
「でも実働部隊はどう選ぶワケなの? こういったら失礼なんだけど、組織の第三位と第二位が腐ってる以上ザフィーアさんの人を見る目を疑わざるを得ないわよね?」
「確かにそうだな。ザーフィアさんの人柄とか実力はあッチも信じてるけど、話聞いてからは他人を見る目はちょっと疑っちまうよ」
「むぅ……」
「ふむ、必要なのは絶対に敵ではないと断言でき、その上で実力も兼ね備えた人間であるな。ちなみに当然のことだが僕も手伝ってもよいだろうとも」
「それはありがたいが……えっと、現状の戦力を改めて列挙すると。俺、クアーク、ヘルベルト、ザフィーアさん、ウォルトン……五人か」
改めて戦力を言葉にして理解することでその場の全員、幼いアイヴィでさえも重苦しい雰囲気を漂わせる。
だがそうなっても仕方のない状況だ。
一刻も早く状況を打破したいというザフィーアさんの考えはわかるし、尊重したいが、今は機を窺うしかないのではないかという考えが湧いてくる。
ぶっちゃけ五人ってコレ、無理が過ぎんだろ。
衛兵団が誰も信用できない以上は衛兵団が真っ黒と仮定した方が良い。
「一応それなりに戦えるからあッチも手ぇ貸しても良いぞ?」
「戦えるんだな……」
「まあ、武器の試し切りとかやってたら一応……。対人経験ないから期待はするなよ?」
「六人か……やはり後日にした方がよいのではないかね?」
「そうやって先延ばしにしてしまえば無駄な犠牲者が増えるッ! それはいかんッッ!」
「思想は立派だがそれは実現力がなければ意味を成さんぞ」
「……」
信念と現実。
国を支える人材を失うということの意味をわかっているからこの場の全員が強く延期を口にはしない。
だが、全員の思考の中には恐らくその文字は浮かんでいるだろう。
「あ、あの……開拓兵はダメなの?」
「組織的な垣根は俺らが参加したり
「そっか……」
「……呼べるとして誰になるかしらね」
「ウルとガーランドの爺さんくらいか? あと実力的な問題はあるがウルと一緒にいた……なんだっけ?」
「ウルスラちゃん?」
「あ、そうそう、そのウルスラって子」
「入れれて九人、か。難しいのではないか?」
そうなんだよなぁ……。
くそッ、どうする?
誰が仲間にできる?
そこそこ親しいあの二人か?
判断材料が頼りなさすぎて信用しきれん。
悪い人たちじゃないけど盲目的に信じることができるほどじゃない。
ヴェ……。
ブルックリンか?
いや、でも、あの時会っただけだから……ってそれはウルも爺さんも一緒。
交流した感じだと良い人だけどやっぱり……。
くそ……やっぱり俺の【
「ヒイラギ……大丈夫よ、そんなに思い詰めなくても」
「……スマン。ちなみにクアークはブルックリンについてどれくらい知ってる?」
「ああ、ブルックリンを仲間にってことね。信用できるわよ」
「そうか……」
俺の心中を察した、というワケではないだろう。
だが少し気は楽になった。
思い詰めなくても良い、つまり俺一人で全てを背負う必要はない。
荷物が重ければ仲間が一緒に背負ってくれる。
「ジューン……は実力的に入れたとしても外での包囲に……いや、衛兵団の方で抑える役か」
「流石にあの娘を巻き込むわけには……」
「だよなぁ……」
いよいよ本当に策が思い浮かばなくなってきた。
二か所に対して信用できる人間を配置するなんて……。
「あ……そもそも衛兵団の方を俺らで護る必要はある?」
「ふむ? つまり何か考えがあると?」
「俺、開拓兵のことまだ把握しきれてないし負担が衛兵団に掛かるんだけど……。依頼で開拓兵を衛兵団の方に連れて行けば良いんじゃねーかな、って。アイヴィの言葉聞いてふと思った」
「…………なるほど、直接“黒鉄の墓を壊滅させるため衛兵団の守備を頼む”というのではなく、何かしらの理由をつけ依頼という形で開拓兵を衛兵団に引き込む、と。つまりはそういうことだな? ヒイラギ」
「正解。詳しい場所を詰めるのは俺には難しいが、例えば“衛兵団の訓練のために開拓兵の力を借りたい”って感じで連れてくることができると思う。実際王都にある学園じゃそういうことをしてるからモノとしてはおかしくないはずだ。それに昨日俺がジューンと戦って、ザフィーアさんも戦ったからその辺と絡めて依頼にこじつけることができる。報酬なりを弾めば結構な数が釣れるんじゃないか?」
「そのあたり、どうなのだ? 二人とも」
話を振られた二人。
クアークとザフィーアさんは悩んでいた。
悩む、ということは何かしら問題があるということ。
やはり駄目だったのだろうか。
だが悩むということは逆に考えれば全くの不可能というワケではなく、些細な問題を解決してしまえば作戦として実現可能なのだろう。
「まず開拓兵の方は多分大丈夫よ。対人戦は基本的に専門外だけど場合によっては盗賊と戦うこともあるし、依頼外とはいえ街を護る衛兵団の重要さは皆わかってるから裏切りが出ても状況さえ理解できればすぐ対処できる。ただいきなり起こって、何も理解出来なかったら動きたくても動けなくなっちゃうから念のために誰かしらに、例えばジューンにある程度話をしておいた方が良いと思うわ」
「依頼の方も恐らくは問題ない。私は元々開拓兵だったから開拓兵に依頼を出したからとておかしくはなく、私の権力ならば即座に依頼を出すことができる。……だが――」
「依頼発注にかかる時間が問題、か?」
「そうだ。早くても明日になってしまう」
今日中に片づけたいザフィーアさんとしてはそれは呑み辛い話だ。
けれど現状これ以上の策がないのもまた事実。
理詰めで考えるとザフィーアさんは心中に犇めく“かもしれない”と葛藤しているだろう。
「奴らが狙っているのは人気の少ない場所。スラムだ。そこがわかっていれば対処も容易」
「何を言っているんだヒイラギ君」
「ウルたちに話を通すついで、スラムの方に顔出して護ってやんよ。伊達とはいえ活躍もして顔は知れてるだろうし、近くに俺がいりゃ動き辛くなんだろ」
「……」
「だから。最低限、我慢してくれ。頼む」
「これは私の我がままだ、君が頭を下げるのはやめてくれ……。…………わかった、決行は明日だ」
「……アイヴィ、お手柄だ」
「え?! ボ、ボク!?」
「策を考えたのはヒイラギだが、ヒイラギに閃きを与えたのは少女――アイヴィよ、貴様だ。その言葉がなければ生まれなかったかもしれない策。誇るがよい」
「う、うん……」
「ありがとうな」
「どういたしまして」
ん~、照れちゃってまあ。
素直で癒されますなぁ。
……あれ?
俺って子ども苦手じゃ……そのあたりも変わったんだな、俺。
ペトラは対人戦闘の経験が皆無です
あるのは幼少期に親と一緒に衛兵団のところに行って試しに剣を振った時の一回だけです
その際は二〇年くらい前、ザフィーアに軽く教えて貰った程度で
剣の技量もほとんど我流
その他の武器の扱いに関しては完全に我流
実力的には、力はウルスラよりも強いが経験の少なさを理由にウルスラと接戦した結果ウルスラに負ける感じです