ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一一六話 妖しき狂人来りて笑い去る

「何者だ!?」

 

 気配が、なかった。

 恐らく俺だけではないだろう。

 この場の全員がその拍手と、小馬鹿にしたような称賛を聞くまではその男のことに気づかなった。

 

「“何者だ”? そんなもの見ての通り怪しい男で――」

 

 カツン、カツンと石畳を靴で鳴らしながらゆっくりとヴァーチュに近づき。

 手を翳すとヴァーチュの身体は蠢き立つ陰に飲み込まれてゆく。

 コールタールのような粘稠な影は天に向かって伸び、そして影の触手は押し込むようにヴァーチュの肉体を包み取り込んだ。

 ヴァーチュの姿が消えるのと影が消えるのは同時に。

 そしてその一連は俺の理解が及ぶ速度ながらも俺の理解が追い付かないほど一瞬だった。

 

「――そして貴様らの敵だッ!」

 

 男の宣言と同時に俺たちは意識を攻撃モードに切り替える。

 その男は茨を糸玉のように丸めた小さな球を生み出し、俺たちに向けて大量に放つ。

 回転する茨球がどれほどの威力かは不明だが、当たらないに越したことはない。

 かといってこのまま引きつけて剣で切るのも危険だ。

 切ったからといって茨球が消えるワケではなく、切れば茨球は解放されて周囲に広がる。

 もし切った後も精密操作が可能だとしたら切っても攻撃を受ける可能性は高い。

 

 凍らせる?

 この場の誰にも悟られないほど完璧な魔力操作をできる奴の魔術に干渉できる可能性は低いッ。

 だったら剣で切る方が可能性がある。

 なら飛翔斬撃?

 ダメだ、貯めて打つまでに時間がかかってこの数の対処は――。

 

 その瞬間、指に填めたリングに意識が向いた。

 それはエリナから餞別として貰った“魔力の続く限りナイフを無限に生み出すことができる”という効果を持つ指輪だ。

 俺はそれに魔力を込め、固定魔術で宙に浮かべる。

 探知と固定魔術をリンクさせて茨球に対する座標のみに制限することで照準を合わせる無駄を排除し、ナイフの柄頭からロケットのように空気を噴出させることで推進力を生んで茨球の中心を穿った。

 

「貴様は……ああ、貴様がヴェガの言っていたヒイラギという奴か。話では固定魔術(それ)を学んだのはつい最近のはず。なるほど、魔術の扱い方をよく理解した奴だ」

「……親玉か? そんな奴に知られているなんて光栄だなぁ?」

「くくッ、貴様は二つ勘違いをしている。一つ、貴様だから(・・・)知っていたのではなく、少しでも脅威足り得る、少しでも戦力足り得る存在はどんな雑魚でも調査してある。そう、例えばつい先日鉱山から衛兵団に送られたキースのこと。……まあ奴に関しては違う理由で知っていたがな」

「へえ……もう一つは?」

「私は親玉などではなく、ただの黒幕でしかない。まあ何度か表に出たことはあったが、それだけだ。彼の裏に隠れて彼に入れ知恵をして経済を狂わせ、罪なき罪人どもを実験に利用し、モンスターによって混乱を生み出そうとしたのは他ならぬ私だ」

 

 罪なき罪人……?

 どういうことだ……。

 いや、それよりも実験に利用した?

 モンスターの発生も人為的なモノ?

 おいおいおい、待て待て待て。

 端っから逃がす気はねえがここで片づけねえとマジでヤベェ!?

 

「ヒイラギッ! 問答など後でだ! 全ての現況がそいつとわかった以上躊躇する理由などない!!」

 

 ウルがそう言って剣を生み出し、放とうと剣を振りかぶる。

 その瞬間――

 

「『行動の全てを禁じる』」

「!!?」

 

 その場の全員の動きが強制的に封じられた。

 ガチリと。

 まるで固定魔術で全身の位置を完全に決めたように微動だに(ピクリとも)せずにその場に静止する。

 発言すら封じられ、できるのは唯一封じられなかった生命活動のみ。

 動けなくなったことでウルの手からは剣が零れ落ち、カランと室内に音を響かせる。

 

「――話を続けよう」

 

 男は何事もなかったかのように。

 まるで話している最中に鼻がムズついただけかのように元の調子で続ける。

 

「実に愉快痛快だった。どうして他者を踏み潰すというのはこうも心が躍るのだろうな? 貴様らならわかるのかもしれん。己よりも弱きモンスター(そんざい)を狩って愉悦に浸る貴様らなら」

 

 行動を禁じられた俺たちは返答も質問もできず。

 独白が続く。

 そして俺たちの様子をニタニタと笑って楽しむその男は全員のことを確認するために俺たちの前を、横を通り過ぎて行った。

 

「わからぬとは言わせぬ。同期の者よりも早く強くなったことで得られる愉悦と快楽。それはただ単純に強くなったことから得られるモノではない。もちろん純粋に強くなることでの喜びもあろう。だがそれ以上に自分は相手を上回ったという、己こそが上位の存在であるという傲慢。それは私だけではない。それは貴様らだけではない。それは生物たる人間全てに備わった本能。それは強さで己が身の安全を勝ち取りたいという動物的本能と知性が混ざった見下しの快楽。わからぬワケがない」

 

 理解はできる。

 多分それは大小差はあれど誰もが持っている感覚だ。

 本能に起因する以上は否定のしようがない。

 

「ああ、実に愉しかったとも。無垢な人間を生きたまま切り拓き、その力を我が身のモノとするのは。あの万能感は。神にも至るあの感覚は。絶頂的だったとも」

 

 どういうことだ……。

 人間を実験体にして強くなる?

 何かの比喩か?

 それともそのままの意味?

 だとしたら新たな魔術を開発してということか?

 

「奇しくも私と貴様らは同じというワケだ。他人を切り拓き、魔術を切り拓く開拓者。これは“奇しくも”ではなく必然かもしれないな」

「るせぇ……」

「む? 今誰か言葉を……?」

 

 クソが。

 クソがクソがクソがッ!

 ふざけんな。

 嘗めるんじゃねえ。

 バカにしてるのか!

 

「テメェと俺を一緒にするんじゃねえッッ!!」

「なんと!?」

 

 怒りに支配されそうな脳に冷水をぶっかけるように必死に理性で抑えつける。

 そして同時に腕を狙って剣を振り下ろした。

 前に流れたクソ野郎の長髪が回避の動きで持ち上がり、剣が掠めて宙に紫が舞う。

 

「こちとら未知(・・)求めて冒険に命懸けてんだ! テメェの快楽とは根本的にチゲェんだよ! 開拓兵の皆にも研究者の皆にも謝れクソ野郎ッ!」

「ふふっ、アハハハハッ! そうか、根本が違うか。確かにそうだな。そして残念。貴様は最初で最後のチャンスを逃した。ここで手傷の一つでも負わせることができていればあるいは可能性があっただろう。だが怒りに身を任せ、虚実を失った愚鈍な剣ならばいくらそうして剣を伸ばしたところで避けることなど容易い。……ヴェガによってこちらにもたらされた情報のことを忘れていたのが貴様の敗因だ」

「後ろに跳んで剣の間合いから抜ける。……バ~カ」

 

 クソみたいな表情で馬鹿にしてくるクソ野郎に対し、俺は同じように知能を下げて煽り返す。

 そして、ボトとクソ野郎の左腕が落ちた。

 紅が飛び散り、空色の肌に降りかかり、対比を成す。

 

「クフッ……ああ、久々だ。怪我を負ったのは久々だとも。まさか左腕を失う羽目になってしまうとは」

「事前情報を過信してやられる。データキャラの宿命か?」

 

 通じない挑発を向けるとその断面からさっきの影が現れて床に落ちた左腕を拾い上げる。

 ヴァーチュの時のように蠢いて包み込むとその腕は姿を消し、左肩の先には影の腕が残った。

 

「あえて武器強化の魔力制御を手放すことで剣を拡張する。これは一本取られてしまった。文字通り腕を一本、だがな」

「おいおい、随分余裕そうだな。そろそろ他の皆も動き始めるぞ?」

「ああそうだ、そうだとも。このまますぐ皆殺しにしても良いのだが、私の腕を落とした褒美だ。見逃してやろう」

「そんな状態でよく大口叩けたモンだ」

「事実であるからな」

 

 実力的に否定しきれないのも事実だ。

 今の攻撃が当たったのだって嘗めきって油断していたからに過ぎない。

 

「さらば諸君、いずれまた会おう」

 

 その言葉とともにクソ野郎は去って行く。

 それによって拘束が解けたのかその場の全員の動きが元に戻った。

 

「……色々気になることはあるが。まあ、とりあえずは捕まえたこいつらをどうにかするか」

「そうだな。結局主犯の二人を逃がしてしまったゆえに根本的な解決にはなっておらぬが、しばらくの間活動することはできんだろう」

「精神的に疲れた……」

「ねえ、さっきのって……」

「あ? ああ……似てるが違う。わざわざ解除するとは思えないから多分あれは自然消滅。だとしてクアークの知ってる方は距離制限なんてない。それによっぽど加減しない限りは記憶が残るなんてありえん」

 

 恐らくは俺の【洗脳】とは別物だ。

 固有能力という性質上それが被ることはない。

 ただ、あるとして異なる名称の似た効果。

 霜村の【真偽看破】と同じような効果の能力持ちがそれぞれの街にいて検問などで働いているように。

 効果の類似はある。

 だから多分【強制実行】とかの固有能力のはずだ。

 ただ一つ気になるのは精神に作用するような感覚があったこと。

 あれは俺が普段感じている自己洗脳と同じような感覚だ。

 弾きやすかったから弾けたとはいえ、少し気にはなる。

 

「何か知っているのか、ヒイラギ」

「あ~、詳細は流石に省くがさっきみたいな固有能力に憶えがあってな。クアークもそれを知ってるからそれかって聞いて来たんだがまあ知ってるのとは別モンだって話だ。ちなみに俺がすぐ拘束から抜けれたのもそれが理由な」

「ハッハァッ! なるほど、経験が活きたか!」

 

 そもそも固有能力の複数持ちってあり得るのか?

 いや、ウルは二つだけど。

 ただでさえ珍しい複数持ちが、三つ目の能力を持ってる?

 

「なぁ……一緒に飲んだ時にウルは固有能力二つだって言ってたけど。さっきのって三つ……だよな?」

「恐らくはな。だが奴が言っていたように研究によって得た力かもしれんぞ」

「なるほど。高度に発展した魔術は固有能力と見分けがつかない、と」

 

 人体実験で発達する技術があるのは確かだ。

 普通にするよりもその加速は桁違いだろう。

 だが社会に生きながら社会を乱すという狂った考えが理解できない。

 

「スマン、動けたのに逃がしちまって」

「気にするな! あの様子ではまともにダメージも与えられまい! そもそも真っ二つにしたところで死んでいたかすら曖昧だ。それにヒイラギと比べて俺様たちは動けもしなかったのだぞ?」

「……次会うことがありゃぶん殴るわ」

「俺様もだ!」

 

 自称開拓者め。

 謝れ。

 マユゲ、あとエリナに超謝れッ。

 テメェの根本探求心じゃなくてマウンティングじゃねえか。

 探求は目的じゃなくて手段じゃん。

 ふざけたこと抜かすんじゃねえって話だ。




 はい、屈指のチートキャラが出てきました
 チートは主にその頭脳と固有能力
 社会性のぶっ壊れた頭のイイ奴って控えめにいって対処が困りすぎる
 頭悪いからそうなっている、じゃなくて頭いいからそうなってる、だから手が付けづらいというか
 行動原理が常に高度な可能性があるから相手の思考を読むのに苦労して単純に戦うにも面倒だし、その頭脳で戦力強化でもされたらどんどん未知の脅威を生み出しやがるから時間を経るほどに脅威が高まる

 このままではヒイラギたちの寿命がストレスでマッハなんだが・・
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