ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「ごめん。主犯を取り逃してしまった」
「……」
「犯人見つけて捕まえる、なんて大口叩いてこのザマだ。すまねぇ……」
吉報を知らせてあげたかった。
そうできればどれだけ良かっただろう。
けれど俺が掴み取れたのは勝利とは呼べない。
敗北とすら呼べる結果だけ。
捕まえられたのは核心には何も迫れない雑兵。
核となった二人には勝てず、逃げられてしまった。
「謝らないでくれ。わっしに、わっしらにとっては組織を潰して現況を追い払ってくれただけで充分だ。身寄りもなく、助けてくれる奴もいねえこの街で、アンタは――ヒイラギは守る必要も守る価値もない約束を果たそうとしてくれた。それで充分だ。常人なら死ぬ毒突っ込んだのに助けてくれる時点で充分すぎんだよ」
「……ロザリンドは平気か?」
「どういうことだ」
「あの時……泣いてたから」
「あれは忘れろ、良いな?」
「アッハイ」
「……平気だよ。嘘じゃねえ。ただ……」
ロザリンドは唐突に口籠る。
自分の中のよくわからない、言語化し辛い思考をどうにか言葉にしようとしているのだろう。
「やっぱいいや」
「言えよ、聞くからさ。それに気になるだろ」
「寂しいって言えばいいのか……なんていうかさ、やる気があんまり湧かないんだよ」
「うん。無気力、ね。それは仲間が……死んだから?」
「そうだと思う。……前は一日一日を生き抜くことですら大変だったけどアイツらと、死んでいった奴らと一緒に年下の世話したりして、それが楽しかったんだと思う」
「なるほど。苦しい生活だけど不幸ではなかった、むしろ幸せだった、と」
「けどアイツらが死んでからさ、皆の面倒見なきゃって思ってるのにあまり動けないんだよ。わっしの飯を得るので精一杯なんさ」
「生きるための心の糧を失ったってワケだな」
「そうだと思う」
「よく言えばそれだけ大切だった。悪く言えばそれだけ依存してたってことだな」
「それまでは気付けばいて、それが普通だったからなんとも思わなかった。ヒイラギは一体何をしたくて生きてるんだ?」
「俺か? 俺は――」
美味い飯を食うため。
心躍る未知と出会うため。
死ぬ理由がないから。
理由は色々ある。
どれも嘘ではない。
けれどどれも今のロザリンドに話すには相応しくない気がした。
「――わかんねーや。色々考えたけど……うん、わからん。多分常に理由があって生きてたワケじゃないと思う。とりあえず嫌なことから逃げて生きてた時もあったし」
「逃げて良いの?」
「良いんじゃね? だってそれ言ったら開拓兵じゃない人たちは大体ダメになるぞ?」
「?」
「戦うのが怖いから開拓兵にならず比較的安全にできる仕事をしてるんだし。まあ単純に開拓兵を支えたくてって人もいるだろうから纏めて言えはしないけど」
「なるほど」
「大体それが普通だぞ? 極論言えば皆死にたくないから生きようと足掻いてるだけだし。それは歴史が証明してるだろ?」
「確かに……普通に考えて龍なんて戦っても勝てないし」
「死ぬのを許容すれば敵がいても極論無抵抗だし」
「……」
「ま、難しく考えんな」
ダメだ。
カッコつけてなんか良いこと言おうとしたけどなんも思い浮かばなかった。
無理に言おうとしたら長文つらつら並べることになるし。
それに皆深く考えてないだろ、多分。
「あ、そうだ。飯食ってないならコレやるよ。時間割かせてる迷惑料ってことで」
「え……」
そう言って収納空間から暖かいアラミナを取り出す。
買ったのは数日前だが時間経過がないから冷めても腐ってもいない。
「ありがと……辛ッ!? なんだこれ!?」
「嫌いか?」
「美味いな……」
「だろ? 食いたきゃもっとあるから食え食え」
飯の味を感じられる程度にはまだ平気なのか。
ならまだ深刻ではないか?
心配ではあるが干渉し過ぎて悪化も困るし。
子どもはとりあえず飯でも食わせりゃ良いか?
元々細かったけど今はもっと細いし。
「流石に俺にはロザリンドの傷を治せるだけの言葉は持ってねえ。けど元気は出せよ? 死んだ奴らはそんなん望まない、なんて根拠のないバカ言うつもりはねえが、少なくとも生きてる奴らは心配すんだろ」
「生きてる奴ら?」
「初めて来たときにお前を心配して俺らに敵意が大量に向けられてた。つまりはそういうことだ」
「……」
俺ってああいう“死んだアイツらが悲しむ”的なセリフ苦手なんだよな~。
人間の本性なんて他人にはわからんし、根拠のないただの推測で相手の生き方を左右するってのは誠実さに欠ける。
第一、俺って死んだそいつらのこと全然知らねーし。
そういうのが許されるとしたら
だったら生きてる人間でどうにか元気づけた方が根拠としては充分だし誠実でもあるってモンよ。
「あ、そうだ。この街の孤児院な。別に犯罪とかには関わってねーってよ。財政的にちょいと厳しいからあまり成熟した子どもとかは受け入れられないけど、ある程度ならちゃんと受け入れられるって言ってたよ。今は色々あって金があるからしばらくの間ここらの子どもを受け入れるくらい平気だとさ」
「え……」
「それと……あと二週間くらいこの街にいるからそれまでなら気まぐれに稽古つけてやるよ。他の人たちにもちょっと話つけたからその人たちに頼るでも良いし」
「え、あ……」
「おにーさんは頑張る人の味方ですよ~、と」
努力の邪魔は俺がトップレベルで嫌いなこと。
年下の奴らが頑張りたいってなら多少の障害物撤去くらいはしてやろう。
あくまでもスタート地点を整えるだけ。
その後は本人次第ってモンだ。
……あれ?
これって誠実さに欠ける?
いや、自主性に任せてるだけだ。
うん。
「あ、あんがと」
「おう。じゃあまたそのうちな」
「また……。うん、し、仕方ねえから会いに行ってやんよ」
「焦らずゆっくりな。お前が子どもたちのことをどう思ってるのか知らねえけどアイツらは頼りにしてるんだから孤児院行く前に倒れんな」
「気をつけるよ」
とりあえずこんなモンで良いか。
……匂い嗅いでたら腹減ってきたな。
なんか食いに行こ。
てかこの街来る前は休みなしで活動する予定だったのに結構な頻度で休んでるな。
するつもりのなかった休息をしているという予定の狂いに少しなんともいえない気分になる。
資金という面では問題はない。
命を懸ける仕事なだけあって収入はかなりある。
装備――武器はそもそも耐久性能重視の手入れの頻度を抑えたモノだし加えていえば武器強化で基本的に保護してるから摩耗もほとんどなくそれによって出る出費もなく、防具は何度か買い替えたり修復したりはしてるけど軽装だから他の人に比べたら出費は少ない。
アンデッドの原因調査やモンスター大量発生の功績で臨時収入もあって金はかなり溜まっている。
問題は強くなれているか、ということだ。
マユゲに「一ヶ月くらい鍛えてこい」って言われてるのに強くなった気がしない。
多少は変わっているだろう。
自分の変化は気付きにくいモノだ。
けど強くなれたかって言われたらそうは思わない。
確かに新しい魔術を覚えたりはしたものの。
「……そぉいや頼まれたモンまだ一部手に入ってねーな。見かけないモンもあるしペトラにでも聞きに行くか」
狩りで手に入る素材なら狩りで……そうだ、どうせだしカーバンクルの素材ちょっとだけペトラにあげてみるか。
礼と先行投資って言ってくれたヤツだけど
勝手に恩を感じて勝手に返す分には別に問題ないだろ。
感謝してますよ、と。
その気持ちに嘘はないワケだし。
地獄への道は善意で舗装されているというように、根拠のない言葉はたとえ優しさであっても相手を苦しめる呪いの言葉だと思います
どれだけ普段立派なことを言っている人間であってもいざという時にそれを実現できるか、普段の顔と本心が一致しているとは限りませんからね
ちなみに多分一二〇話か一二一話で一気に時間が飛びます
流石に二週間分の日常を書くのは変化がなさすぎて……
なのでノースミナスでのエピローグ的なのを書いて、シーンを王都ルートヴィヒに戻そうかと