ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「女将さん、一人部屋二つ空いてる? 隣同士なら楽だからそこがあるならそこが良いんだけど」
「はいよぉっ。えっと、空き――ああ、あった。三階の三と四が空いてるからそこだね」
「んじゃそこで」
「食事はどうするんだい?」
「あ~……金払ってその時々でってのは迷惑?」
「問題ないよ。じゃあ素泊まりで、期間はどうするんだい?」
「ひとまず一ヶ月。それ以上いる場合は延長する」
「なるほど。なら一ヶ月素泊まりで五〇〇〇アスター」
「銀貨五〇か、王都と比べたらかなり高いな。やっぱ離れると危険だし物資も中々届かんから物価が上がるのか」
「理由は色々だけど大まかにはそうだね。……うん、ちゃんとキッチリ二人分。じゃあこれが鍵の魔道具ね」
「了解了解」
ルートヴィヒ西部。
トリゴ地方。
トリゴ。
緑月亭。
約二週間の旅を経た午後四時頃。
ようやく街に辿り着いて部屋の確保に成功する。
鍵もそうだけど結構設備が良いな。
ベッドもワリと広くて。
まあそれはともかく。
マユゲから渡されたのを設置して……と。
「ようやく着いたンだな」
「ああ」
上下側面に魔術刻印の刻まれた六角柱を取り出し、それを部屋の隅に設置して呼び水として魔力を少し流すとその魔道具が起動して空間接続が成され、マユゲが姿を見せる。
「てか思ったんだけどなんでマユゲも来るわけ?」
「嫌か?」
「嬉しいけどさ……俺って好きな人を手に入れたいってよりかは好きな人には幸せでいて欲しいって感じだからさ、もし俺が理由でなんか不自由に思ってたりやりたくもないことを一方的にさせてたら嫌なワケよ」
「詳しくは言えねェがこれはオレが後々楽しむためにやってることだ。だから変に気遣うンじゃァねェよ」
「……良いんだな?」
「あァ」
なら良いか。
来たくもないのに気遣われて一緒に、とかだったら嫌だけど。
「というか長距離の空間転移には大量の魔力が必要なんじゃ?」
「それは汎用型の場合な。オレは昔模倣した固有能力があっから魔力はそこまでいらねェンだよ。そもそも魔道具だしよォ」
「へ~スゲエな、やっぱ」
マユゲの戦闘力バケモンかよ。
色んな固有能力が使えて、頭も良くて。
なんつーか世界征服できるんじゃね?
マユゲの身体はかなり細いから強そうには見えないが魔術は見た目からでは全くわからない。
だが確実に俺以上の実力はあるだろう。
「……オレでも最強ってワケじゃァねェよ。情報がロクにないまま後手にまわりゃ場合によっちゃオレだって死ぬだろォしな」
「マジすか。……守れるように頑張りま~す」
マユゲであっても死にかねないという事実にゾッと恐怖を覚えた。
埒外の存在といえば良いのか。
前にマユゲから言われたように俺はそいつの持つ武器を一切知らない。
その状態で敵に回れば俺は一瞬で殺される。
そんな相手が敵に回る、なんてことはないはずだ。
けれど万が一というモノがあって、それに備えても損はない。
「ところで何目的なワケ?」
「いちいち戻って来ることがねェよォにオレも一緒にいりゃお前は強くなることに専念できるだろォ?」
「ああ、そういう」
「さっさと強くなれってこったなァ」
「了解。頑張ります」
より強い相手との戦い方やら自分の武器の磨き方。
その他様々な経験を積む。
クアークに手助けをして貰いつつちゃんと自分一人でもできるようにならねーと。
「そォいやそのクアークってのはどこいンだ?」
「隣の部屋」
「なるほどなァ。ちょっと呼んできてくれ」
「お? おう……」
話があるのか?
一体何?
知り合い……ないな。
クアークってのは、って言ったし。
接点のない二人。
マユゲが興味を持つというのも少し違和感があり、不思議に思いながらクアークに声をかける。
「クアーク、ちょっと良いか?」
「ええ、どうかしたの?」
「え~……ちょっと来てくれ」
「? わかったわ」
説明できず、そのまま来てくれと頼むとやはり不思議そうな反応が返ってきた。
けどそれなりの信頼関係を築けているのか特に疑うことなくクアークは素直に部屋から出て来てついて来てくれる。
道中での汗を拭いていたのか肌や髪は少し湿り、薄着なこともあって扇情的に感じてしまう。
普段の冗談としての感想ではなく自分の本心から感じたその扇情的という感想は、恐らくノースミナスでキスをされてしまったから強引に意識させられてしまったのだ。
「誰ッ!?」
「あ、いや、怪しい奴じゃないぞ!? 俺の知ってる奴」
「テメェがクアークか。……ふ~ん?」
「え、これってどういう状態なの?」
「ぶっちゃけ俺にもわからん。呼んで来いって言われてな」
ジロジロとクアークを見つめ、周囲をぐるりと一周するマユゲ。
その眼には好奇心と懐疑心、そして珍しく苛立ちが見られた。
「テメェのせいで……」
「えっと、これってどういうことなの? よくわからないけど多分恨まれてる、のよね?」
「恨みというかムカつきというか」
「おい、一度これ着けてみろ」
「睨んでくる人から渡された物って怖いわよね……」
マユゲの取り出した指輪。
宝石は付いてなく、僅かに黄色い金属の輪だ。
そうなのはそれだけで効果が発揮できるからだろう。
ただの輪、というシンプルな見た目なのは試作だからだろうか?
「着けたけど……説明して貰っても良いのかしら?」
「そいつァテメェの固有能力を指輪を着けてる間封じる魔道具の一種だ。つまり勝手に相手の精神を侵すことがなくなったっつーことだなァ」
「え……」
「へぇ、固有能力って封じられんのな」
「モノによンがなァ。この好感度を上げる固有能力は“特殊な魔を外部に放出してそれの通った相手の精神に作用する”っつー仕組みだ。だから勝手に放出される“特殊な魔”さえどうにかしちまえば無効化できる、ってェ話なワケだ」
「あ~……つまりはフェロモンが放出してるけど根元で消臭したから平気、ってことか」
「ま、ざっくりそォいうこった」
はいはい、認識的にはそういうことですかぁ。
理解したわ。
「……クアーク困ってたし良かったじゃん。これからは普通に恋愛できっぞ。適当に好きな人でも見つけて、頑張れぃ」
「本当? 本当に封印されたの?」
「あァ、この程度なンてこたァねェ」
「うおぉ……マユゲさんマジパネェ。惚れ直しそうなくらいカッケーっス」
言ってみてぇわ。
ずっと苦悩してたことに対する解決策を一切恩着せがましく言わずに当然のように提示する。
……俺の将来の嫁が俺には本当にもったいないレベルで偉人レベルな件。
あ、ゴメンッ。
脛痛いッ、蹴らないでぇッ。
「あ、ありが――」
「まだやらン。これをやるには条件があンだよ」
「――な、に………」
「
「え……」
何そのオレの宣言。
嫉妬?
キス先に奪われて嫉妬した?
カワイイッ!
あ、ゴメンナサイッ。
踏まないで。
「諦めなくても良いの?」
「あァ?」
「てっきりもう諦めなきゃって……」
「別に構わしねェよ。ただオレに対して散々言って来てた奴が他人に先越されンのがムカつくってだけだ」
「わかったわ。貴女の許可なしに勝手にヒイラギに手を出したりはしないわ」
「なら良い。
なんだろうこの疎外感。
俺が話の中で結構重要な立場にいる感じなのに……。
一切絡めねぇ。
「ヒイラギ、ありがとう」
「俺何もしてねえわ……てかお前まだ俺のこと好きだったワケ? 普通に振った感じの流れだったしもうそういう感情ないと思ってたわ」
「この機会はヒイラギのお陰でできたんだから。……ずっと好きよ」
「ふ~ん。てかどっちも普通に一夫多妻容認なのな」
「全員普通に稼げンのに否定する必要あっか?」
「愛情が薄れる、とか?」
「愛し合う時間が減るだけで愛は減ンねェだろォが。愛はゼロから個別に上がるモンであって全体に定数を分配するモンじゃねェだろ」
「なるほど!」
複数人を愛するからといって愛が薄いワケじゃない、というのはちょっと認識の違いがあった。
そもそも愛というモノがわかっていなかったが、日本の感覚でハーレムは不誠実という認識があったがこの国ではそういうワケではない。
一夫多妻が珍しくないこの国ではそれも誠実。
そもそも誠実という言葉の意味が真心を持って臨むこと。
全員に対してきちんと愛情を注げばそれは誠実と言えるだろう。
てかそもそもなんで一夫多妻がイコール不誠実って認識だったんだ?
日本史だと普通に有名武将とか一夫多妻だし、元々は一夫多妻問題なかったはず。
……明治維新か。
てかぶっちゃけ宗教か。
宗教がざっくり元になって一夫一妻が良しと……。
そこに合理的理由はなし。
俺もマユゲもクアークもそれぞれ幸せと感じて一夫多妻に不快感がなければまあ、法律に反していない以上は問題ないか。
同郷の奴らにはなんか言われるかもだけど異世界のルールを受け入れられない奴に言われたかねえし。
「ま、俺もそこ受け入れるわ。まだクアークのこと異性として好きかはわからんが……好いてくれる人間を拒絶したかねえよ、できるかぎり」
「これから惚れさせてあげるから安心しなさいっ」
「はっ、楽しみにしてるよ」
優柔不断な主人公め
でも国のルールに対して認識を適応しようとしてるし柔軟と言った方が良いのか……
一夫一妻に対する合理的な理由って「遺伝的作用性」ですかね?
一夫多妻に対する合理的な理由って「優れた遺伝子」ですかね?
多夫一妻だと繁殖スピードが遅すぎて生物として全体数が減るような気が
多夫多妻は……集団の統一性?
一夫一妻も一夫多妻も多分どっちも現代だとただの感情論な気がします