ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一二七話 ウェアウルフ 初戦

「台地ってこんな感じなのな」

「ずっと坑道だったからこういう明るくて広い場所で戦うのは違和感があるわね」

「だな。俺は森、洞窟、坑道だったしこういう広くて足場が安定してて高速戦闘の感覚が狂うわ。あと地味に草が脚に絡まるし」

 

 ザラリとした背の低い草が脚に纏わりついてその都度の摩擦を意識しなければ普段通りの身体使いをしてしまって転びかねない。

 さらには先日の雨が直射日光を防ぐ草によって蓄えられており、踏み込む度にヌルリとした感触と靴越しに伝わってくる湿り気が不快感を与えてくる。

 足場が安定している、というのは撤回だ。

 確かに“平坦”で、踏み慣れた“土”ではあるが安定はしていない。

 踏み込めばこれまでとは異なる方向性でストレスがあった。

 

「でもモンスターは基本的に大型で見つけやすいからそこは安心じゃない?」

「いやいや、たまに小型モンスターが出るから要注意ってな」

「蛇とかだっけ?」

「あとはネズミとか」

「でも確か探知できるわよね?」

「そうだけど広すぎて魔力が……って常に探知し続ける必要なかったわ」

 

 これまでは初期の癖で発動する時は常時探知が展開していたがそもそもそんな必要はない。

 短時間だけ探知し、半分まで進んだ辺りで再び探知を。

 それを続ければ魔力消費は少なくて済む。

 相手も流石に目の前でフッと現れることはないのだから。

 

「ようやく気づいたの……」

「わかってたなら教え――なくて良いわ。答えをすぐ欲してたら馬鹿になる」

「わかってるなら良いわ。まあアタシもなんでもは知らないからヒイラギに偉そうなこと言えないんだけどね」

「それはみんな同じだけどな。全部知ってるとかヤベェわ」

 

 全知なんてロクなことないだろうけど。

 

「そいじゃやりますか」

「準備は良い?」

「大丈夫、完璧って感じよ」

「じゃあ、頑張りましょ」

「おうッ」

 

 約一〇〇メートル先を徘徊する人型のモンスター。

 人獣擬き(メミマ)の総称を有する多様な獣のモンスターは俺たちの姿に気付くと姿勢を低く構えて様子を窺う。

 そして上体を起こしたかと思えば落ちていた石を拾って俺たちに向けて放ってきた。

 多少の落下はあるものの地面とほぼ水平な軌道を描いて飛来した拳ほどの石は正確に俺の頭を狙い、続いてクアークの頭を狙う。

 

「速ッ!?」

「でも見て避けられるわよねッ」

「ああ。本体の実力がわからんがなッ」

 

 左右に分かれて相手の意識を分散させつつ俺は【土槍穿ち(ショット)】を打ち込んだ。

 さっきの石とは異なり魔術で飛翔し重力の影響を一切受けない状態にある【土槍穿ち(ショット)】は直線軌道でその鋭い先端を敵の身体へと突き刺す。

 当たったのは左腕。

 貫通はせず一センチほど刺さって終わっただけ。

 

「硬いな――ッ!」

 

 反撃でヘイトを受け、一気に距離を詰めて襲い掛かって来る。

 魔術の連発で迎え撃つものの今までで一番速く、その速度に対応しきれない。

 

「はぁッ!」

 

 胸に向けて斬撃を飛ばす。

 だが二足歩行から四足歩行に切り替え避けられ、更なる加速とともに距離を全て詰められ、獣腕が向けられる。

 

「魔術お願い!」

 

 防ごうとした瞬間に差し込まれた剣。

 なんの魔術を使えば良いのか。

 一瞬そう思ったが答えはすぐに分かった。

 今の攻撃は俺でも間に合っていた攻撃だった。

 それに対してわざわざ割り込み、魔術の注文をした。

 そう考えれば状況と当てはめてクアークの望みが理解できた。

 

「凍れッ!!」

 

 武器を雪華に持ち替え魔力を流し、クアークとタイミングを計ってから地面に氷の道を生み出す。

 調節を間違えて過剰に凍らせてしまった氷の道は相手の足を取って転ばせた。

 クアークは転んだその首に向けて剣を振り下ろし、その命を奪う。

 

「周囲の敵ッ――はいないな。コイツはウェアウルフか?」

「さらに言えば雄ね」

「あ~、なんだっけ? 雌は雄よりちょっと小さいんだっけか? あと爪が短く若干丸くなる」

「そ。見た感じ爪丸いからね」

「どれど――」

 

 視線を爪に向けようとした瞬間。

 ウェアウルフの命が完全に尽きて死体が霧散した。

 

「……牙一本と魔石か」

 

 残ったのはそれだけ。

 モンスターが遺すモノと言えば基本は魔石のみなため充分といえるのだが、やはり自分を優に超える大きさの存在が死後たったこれだけになるというのは少し虚しい。

 よく見れば毛が散乱しているが毛だけがあってもなんの役にも立たないだろう。

 

「とりあえず足を奪えば倒すのは簡単ね」

「常に有利に運べるかはともかくな」

「万が一の時確実に勝てる手は準備しておくのよ。勝負はまずはそれからよ」

「そうだな」

 

 勝てるかもわからないのに高効率を狙うのは、基礎理論も構築できていないのに改良品を造ろうとするようなモノだろう。

 ロクなデータもなしに求めた効率は却って低効率になるだけだ。

 

「じゃあ次。次は二体にしましょう」

「流れは?」

「基本はそれぞれで一体ずつ。狭い範囲でそれぞれの範囲をその場に応じて変更するための慣れ、ね」

「あ~、はいはい。坑道ン中でやったなァ。感覚若干忘れたかも。まあやりゃ思い出すっしょ」

 

 周囲を見渡し、近い中で条件に合うウェアウルフ二体を右手側北方向に見つけた。

 視力を強化して眺めると血で汚れているのが見える。

 トリゴ台地には草食獣や草食モンスターも多数存在しているから恐らくはそれを襲って食べたのだろう。

 

「じゃあ俺は左側やるわ」

「アタシは右。ゴーレムよりも知能が高いから連携させないように気をつけましょ」

「ほいほい。きっちり一体引き付けますよ、と」

 

 右手に蛇腹剣、左手に黒鍵を握り、駆け出す。

 もちろんこの草原でサバイバルをしているウェアウルフに気配消しの杜撰な俺の移動が見つからないワケもなく、耳をピクリと動かし反応を見せ、即座に身構えた。

 

 流石に反応されるか。

 なら未知と騙しで基本戦術を構築する。

 

 大きな【炎投(ボム)】が真っ直ぐウェアウルフに襲い掛かった。

 一度に込められる魔力量が以前よりも増えたらしくその熱量は一瞬で増大し、炎を圧縮しているにも関わらず抑えきれなかった熱で陽炎が生まれ景色が歪む。

 大きさを見紛わせる陽炎にウェアウルフは過剰と思えるほど早く横に逃げた。

 だがウェアウルフには攻撃が当たった。

 【炎投(ボム)】の裏。

 そこには【土槍穿ち(ショット)】が潜み、左右どちらに逃げても良いようにと二方向へ分けられていたそれは陽炎によって背景へ溶け込んでしまっていたのだ。

 避ける最中、無防備な腹部に受けた魔術。

 ウェアウルフは反射的に身を硬直させてしまい、それによって回避行動が阻害。

 軌道上にはいないからと油断したのだろうか。

 無防備に直撃したにもかかわらず浅い傷程度の威力しか出なかったことを挑発するようにウェアウルフは俺に向かってニヤリと笑みを見せる。

 ただの火球にしか見えずともその正体は【炎投(ボム)】だ。

 

「爆ぜろッ!」

 

 大量の熱を圧縮していた圧力を反転させ、内圧を開放。

 ウェアウルフの真横で爆発を起こす。

 熱は肉を焼き、衝撃波は炭化した肉を抉り骨を砕く。

 【炎投(ボム)】を威力をまともに受けたウェアウルフはそのまま吹き飛び、地面を転がった。

 

「とどめ――」

 

 殺そうと剣を握る手に力を込めたところ。

 ダメージが限界に達したのかウェアウルフは魔石になって消滅した。

 

「クアークは……終わったか」

 

 魔石を回収し、燃えたウェアウルフから移った火を空気操作で酸素供給を完全になくして消化しつつクアークのもとへと向かう。

 

「どうかしたか?」

「ん? 珍しく血が素材(ドロップ)として落ちたなぁ、って思ったの」

「あ~、たまにあるよな。血って剣に付いたままだと消滅まで時間かかるからそれかな~って思ったら普通にドロップだったっていうの。実際モンスターの血って利用されたりすんの?」

「ないと思うわね。基本的に地面に落ちるからそうなった時点でダメになっちゃうし」

「でぇすよねぇ……」

 

 覆水盆に返らず、溢したミルクを嘆いても意味はなし、落とした血に価値はなし。

 なかなか難しそうだ。

 まあ機会があれば頑張って回収してマユゲにあげよ。

 

「ところでさっきのは?」

「さっきのって……なんの話だ?」

「さっきのって【炎投(ボム)】よね? その剣で増幅したの?」

「? ……ああ、威力のことね。さっきのは基本を【炎投(ボム)】とした俺独自の改良版。通常なら消去する内部方向への圧力を反転させて熱と衝撃を加速させただけ」

「なるほど、後押ししたっていうことね。でもそれならどうしてその程度のことが広まって――って、バカにしてるワケじゃないから!?」

「え、ああ。今まで思いつかなかったことにアタシが簡単というのはおかしいかもしれないけど理屈としては単純で、そんな単純なことを研究者が発見できないワケがない。ってことな。うん、ちゃんとわかってますよ?」

「ならよかったわ。……もしかしてあれかしらね、魔術区分」

「ああ、魔術を教えるために難易度で分類したアレね。まあ多分そうだと思うぞ。術式消去なら構築は皆無だけど反転にするとその分構築する能力が必要になって低級区分の【火球(ボム)】が下級区分に上がっちまう」

 

 言葉にすればたった一言の“反転”だが、術式に組み込むとなるとそれなりの構築が必要になる。

 そうなると難易度も構築時間も上がり、経験のなさで耐久が難しい初心者という存在には難易度が上がってしまい、死亡率が跳ね上がるのだ。

 だから圧力消去ではなく、圧力反転を【炎投(ボム)】の基礎系としてしまうと途端にゴミ魔術に成り下がってしまう。

 実用性は教科書に求めるモノではなく、そこの内容を自力で発展させることで得る自分に求めるモノなのだ。

 

「ていうか相手の力について聞くのはダメでしょーが」

「え~、将来の旦那なんだから良いじゃない」

「……意識の方を攻められないからって無意識の方から攻めるの止めてくんなぁい?! 昨日マユゲに言われたでしょうがっ」

「手を出すのは禁止されたけど手を出させるのは禁止されてないわよ? 早く好きになってほしいもの」

「洗脳するみてぇに意識植え付けるのは手出しに入らんのか……」




 トリゴ:小麦の栽培を主産業とする街
     比較的モンスター被害の少ない地域であり大規模な小麦畑やその他畑を有する
     街としての歴史は短く約一〇〇年ほど
     それ以前は小さな村であったが一つのきっかけによって発展した

 トリゴ地方:西部の龍壁山脈によるフェーンによって乾燥した土地が広がる
       温暖、乾燥、肥沃かつ様々な要因によって安定した気候
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