ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一三〇話 勝つために常に心がけるべき事

「ほらほらッ、一体の強さはゴーレムとそう大差ないよ! ちゃんとやれば勝てるはずなんだからちゃんとやりなさいよね!」

「わかってらァッ!」

 

 強さはゴーレムと同じ。

 その指摘がプレッシャーをかける。

 自分の武器がほとんどないことを突きつけてくるからだ。

 ゴーレムを相手に勝てたのはゴーレムが鈍重で俺が速度で上回れたからで、ウェアウルフにはそれが負けて武器を失った。

 そもそも脚を武器にしていたのは消去法だったのかもしれない。

 腕力がなく、身体が軽いからと。

 

 ……いや、マユゲは俺の選択にダメ出しはしなかった。

 納得もしてたハズ。

 間違いじゃない。

 

 マイナスに陥りかけていた思考を戻す。

 とにかく、これまで誇っていた最大の武器が通用せず、ゴーレムに勝てたのは実力ではなく相性と運によるモノ。

 まだ全然未熟という現実が付きつけられて精神的ダメージがある。

 

「ッ……キッツ」

 

 二つの意味で堪える。

 肉体的な負担と、力量の勘違い。

 動きを予想してなお追いつかない。

 

 この後の展開が見えるのに間に合わん。

 未来視を活用できない選手権の会場はここですか、こんチクショ―!

 

「ヒイラギが学んだことをその場ですぐ実行できるのはわかってるわ。けど時間が経つと忘れちゃうみたいね。ちゃんと学んだこと思い出して活用して!」

「学んだこと!? そこに打開策あるのか!?」

 

 自分のその弱点に関してはうすぼんやりとではあるが察していた。

 昔から長期記憶が苦手で大事なことでも忘れてしまうことがある。

 だからこれまでは思い出そうとするまでもなく無意識に答えが出るように反復してきたのだが、今は答えが出せないからと諦めかけていた。

 けれどクアークは打開できると言う。

 クアークは下手な慰めはしない。

 事実に沿って本心を言ってくれる。

 だからこそ俺はそんなクアークが好きになったのだ。

 

 これまでに学んだこと?

 なんだ、範囲が広すぎる……。

 いや、期間はクアークが把握している出会ってから今までの時間だ。

 そして状況を打開する手段。

 ……状況を打開、状況を……打開。

 打開……。

 状況を……。

 違う、状況を打開するんじゃない。

 状況を、盤面を操るんだ。

 そうだ、そうだよ。

 最悪の状況を想定することに意識を向けすぎてた。

 

 常に最悪な状況だったらその前提条件上、勝ち目は一切ない。

 勝ち目すら“最悪”によって消し潰されるからだ。

 けれど俺が本来やることは“最悪の状況に陥り”そして“打開”すること。

 閉じ込められたからといって密室で過ごすのではなく、密室から脱出することなのだ。

 

「――愛してるぜクアーク!」

 

 先読みしろ、思考で上回れ。

 搦め手、外道、邪道。

 世界にそんな区分(ぶすい)はなく、勝者が善(バーリトゥード)

 ウェアウルフよりも勝る知能で勝つ。

 

 加速した思考が戦術を組み立てる。

 昨日の予習(たたかい)

 寝ている間の復習(さいげん)

 そしてそれらを合わせた今日の実践と、そこで生じた想定と現実の差の修正。

 得た情報を、ウェアウルフの動きを脳に叩き込んで、勘のレベルまで強引に引き上げる。

 勘で動きを予測し。

 そのままそこに合わせて妨害の一手を投じる。

 嫌がることをとことん行い、相手の動きを封じた。

 

「死に晒せッッ!!」

 

 攻撃を誘発。

 一切見ることなく回避し、迎撃を行い、逆手の短剣で背後のウェアウルフの魔石を貫いた。

 

「ッシャオラァッ!」

 

 毛皮でも肉でも骨でもない、魔石の感触。

 腕に伝わってくるウェアウルフの体重が消滅すると即座に喜びがこみ上げ、気づけば喜びで拳が握られていた。

 

「お疲れ。気づいてからは良かったわよ」

「クアーク、ありがとうな」

「どういたしまして」

 

 ホント俺って一度思考の沼に嵌まると抜け出せないな。

 もうちょいどうにかならんものか。

 

「じゃあ忘れないようにどんどん次、やりましょうか」

「どんだけ記憶力ないと思われてんの?!」

 

 

 

「んじゃ、頼んます」

「わかりました。ではまずはウチの動きをよく見ていてくださいね」

「あ~い」

 

 俺に合わせて同じくらいの短剣を握ったサースティは意識を集中させ、構える。

 ごく自然に、一切の予兆なしに仮想戦闘は始まり、そして乱れのない一連の連技は完成度の高さゆえに一種の肩部のようにも思えた。

 だが俺には明確に、その相手がわかった。

 その相手は、サースティが知ってか知らずかウェアウルフ。

 俺が知っているモノとなんら遜色のないその動きに合わせてサースティも動き。

 美しい流れは事前に打ち合わせていたことを疑うほど。

 

「まさかここまでとは……おみそれしました」

「多分これは普通の人にとってはとても稀有な流れだと思います」

「というと?」

「ウチは本当に弱かったので勝てる流れを作ることに意識を注いだワケです。つまりその場における一切の状況判断はなく、事前にこうと決めた動きをなぞるようにして戦います。言い換えれば戦いにおける“我”というモノをウチは完全に殺しました。そうしなければ勝てなかったので。けれどヒイラギさん含めて他の方はそうではありません。それが悪いことではなく、むしろ気色が悪いと思われる戦い方をしているのはウチなのですが、少なくとも“我”のある戦いをする普通の方にはできないのですよ」

「我を殺した戦い方……。普通はできない……」

「やろうという意志の強さとは関係なく、決まった命令に従う魔道具のような戦い方は少なくとも自我を尊ぶ現代では到底受け入れられるモノではありませんし、仮に受け入れられるとするならそれは人間らしさやその人らしさの失われたおぞましい世界でしょうから」

「なるほど……」

 

 たしかに機械的な人間は嫌われる傾向にある。

 実際そうして嫌われた人間を俺は知っているのだ。

 ルールには一切反していない。

 むしろ反しているのは周囲の者たちだけ。

 けれど疎まれたのはその子だった。

 

「なので今回教えるのはこれを少し劣化――というと聞こえが悪いので、汎用性を高めた動きです」

「なるほど。教えてもらうのは“筋書き”だけ。必要な“内容”の部分は自分の経験を使って補え、ということっすね」

「簡単に言えばそうですね」

 

 教える時のこういう姿勢。

 そのうち俺が同じような立場に立った時に仕えそうだしこれも憶えておくか。

 

「どうだっけ……こうして、こうっ? あっれぇ? なんかしっくりこないな。……こう、こうっ、か」

 

 腕の角度や刃の角度、何が少し狂っても崩壊するであろうサースティの動きは模倣が困難だった。

 何かが少し狂えば崩壊する、ということは、全てを再現しなくてはならない。

 見える全てを理解し、再現できる全てを身につける。

 ただ言葉にするだけなら“模倣”の一単語で終わり、けれどその内容は酷く厳しいモノだった。

 

「ええと、前に出した脚を抜きつつ後ろに残った脚で地面を蹴って下さい。そしてその次に一瞬だけお腹に力を込めて力を貯め、攻撃の時に一気に解放するんです。拍子がズレると威力が激減するので頑張って適切な拍子を覚えてくださいね」

「あ~、あ? こんな感じ、か?」

 

 指摘された点を思考での合理性ではなく肉体が動きやすいかの合理性で受け入れ、再現を試みる。

 すると想像よりも圧倒的に動きやすいことに気づいた。

 技――合理性を突き詰めた動きは力のロスをほとんど生まずに動いた通りに力を活用する。

 

「その動き、さっきのウチですよね。別に真似をせずとも良いんですよ? ウチの動きを見て自分の動きやすいようにして貰えれば」

「ん~、ワリとしっくりきますけどね。コレ」

「そう、なんですか?」

「別にやりづらいとかはないっすよ。ワリとやり慣れた感はありますし」

「こういうと違う意味に聞こえるかもですけど……変ですねぇ」

「まあ異世界人ですし」

 

 というか実際は多分【洗脳】が原因だろう。

 自己洗脳をしょっちゅうやってるからこういうのには慣れてるし。

 てか誤魔化すには異世界人って便利だな。

 

「そういうコトなんですかね? でもそういう精神的な部分は世界が異なっても個人差がありますし……ヒイラギさんだからということで納得しますね」

「そっすか」

 

 まあ、あまり深くは言うまい。

 変に否定しすぎても怪しいだけだ。

 

「それで続きですけど、ヒイラギさんはウェアウルフと戦っていますしウェアウルフを想定した動きを、まずは一対一でのものをお見せします」

「了解です」

「たとえウチの動きを違和感なく真似できてもそれだけではダメなので、とりあえず教えた動きを思い出しつつなぜウチはそうすることにしたのか、考えてください。その答え次第で次教える内容を決めるので」

「わかりました」

 

 サースティは戦い始め、そして俺はあることに気づく。

 動きが想定している相手によって違うのだ。

 爪を多用するウェアウルフ、牙を多用するウェアウルフ、攻撃のタイミングも回避のタイミングも異なる。

 

 気づかなかったな……でもたしかにそれぞれ性格があるって認識した上で思い返すとそう思えるな。

 単にその場の最適を選んでると思ってたがそういう理由だったのか。

 なら相手の性格を把握する必要もある。

 難しくは考えずに。

 相手の反応を見て、パターン化すればできるはず。

 

 サースティの戦いを観察し、サースティの動きを覚えながら可能な範囲でウェアウルフの動きも分類。

 それを何度も繰り返す。

 スパルタではないが中々。




 ヒイラギがサースティの動きを真似していられる理由は一つが本文で出したように【洗脳】による他者の動きを我流に改造しないまま受け入れる力と経験です
 そしてもう一つは身体的理由です

 サースティは体格という意味で完璧に近いモノを持っています
 つまりサースティの技術は完璧に近い体格で生み出されたもの
 そしてその動きを模倣しようとすれば崩すことになる
 ヒイラギは後天的に歪みのない骨格を手に入れたのでサースティの動きを完璧に模倣できます

 全てマユゲのお陰です

 多分大体必然です
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