ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

133 / 183
第一三三話 キュリアスとの戦い

「眠い……」

「結局手掛かりはなかったわね」

「モンスターとも全然遭わなかったし。言っちゃなんだがスッゲー暇だったわ」

 

 朝まで待機してモンスターとの接触は驚くことにゼロ。

 近づいてくるどころかそもそも周囲に一切のモンスターの気配がなかった。

 あったのは正体不明の奴のモノだけ。

 異常の一言。

 街の外で何時間もそれは考えにくい。

 だから今回の件が何かしら繋がっていると思ったのだが、その二つを簡単に繋げることは間違い。

 行き過ぎた一般化だ。

 問題が起こっている時に普段ではありえないことが起こっている、だからきっとその二つには何かしらの関連性がある。

 というのは早計が過ぎる。

 偶然同時期に問題が起こっているだけの可能性だって充分考えられるのだ。

 そもそも俺は異世界転移という現象に遇っているのだ、可能性が低いからと捨ておくのは間違いかもしれない。

 

「長期になりそうですね」

「スッキリしねぇ……」

 

 依頼のことを考える中。

 キュリアスは我関せず(ゴーイングマイウェイ)と退屈そうに酒を一気に呷る。

 

「よし、誰でもいいから付き合え」

「眠いしちょっとで良いなら俺がやるわ」

「行くぞ」

「ちょっ、最後に残ってる分飲ませて。てか飯もまだ――」

「吐きたいなら食っていいぞ」

「――クアーク、頼んだ」

「はいはぁい、頑張ってね」

 

 俺のステーキちゃんが……。

 腹減ったよぅ。

 

 首根っこを掴まれて問答無用で運搬される中、タイミング悪く今来たステーキを見つめる。

 焼きたてのステーキ肉と多数のフルーツを使ったソース。

 かけたソースに熱が加わり匂いが拡散。

 ここまで匂いが来ることはないが上がる蒸気は空腹に更なる追い打ちをかけた。

 ぐぅ、とけたたましい腹の轟き。

 一瞬だけキュリアスの視線が向いてきた。

 

「手加減はしないからな」

「わぁい、何秒もつかな?」

「勝つ気でやれ」

「もちろん」

 

 手加減なし。

 加減される方が嫌ではあるが簡単にやられそうで申し訳がない。

 けれど何を言わない辺り俺でも問題ない、かもしれない。

 

「気が済むまで付き合え」

「時間……」

「朝だから問題ないだろ」

「二四時間寝ないことになるんだけど?」

「慣れろ。そこそこで良いなら別に構わないがヒイラギはそういう系じゃないだろう」

「了解」

 

 頑張って起きてます、はい。

 

「流石に普段のあーしの戦い方したらヒイラギには万が一の勝ち目もなくなるからな、使う武器は決着着くまでは変えないでいてやる」

「大剣使えば大剣だけ、大槍使えば大槍ってことか。……変形する武器とかないよな?」

「ん? ああ、持ち運ぶための変形は鎌とかにあるけど戦い方が変わるような変形はしないししても使わない」

「理解。制限は?」

「縛るのは嫌いだから制限はほとんどなし。殺すのはなし、腕がなくなりゃ上級回復薬(ハイポーション)でも勝ってやるよ」

「ガチのガチじゃねえか!? 玉ヒュンした……」

「玉ヒュン?」

「……腕切られる光景想像した恐怖で睾丸が縮んだってこと」

「ああ、そういう。……縮むのか。見たことないから知らなかったな……」

「お、おう」

 

 玉ヒュンの解説とかさせないで!?

 セクハラしてる感じでスッゲー恥ずかしいんですけど?!

 なんか気分的には俺がセクハラされてるみたいな感じだけど……。

 

「知らんで良いと思うわ」

「今度見せろ」

「……ふぁッ!? ヤダよ!」

 

 色々と嫌だわ……。

 単純に見られるのもだし、玉ヒュンしてるってことは何かしら怖いってことじゃん。

 何が悲しくてわざわざ怖い目に遭わなきゃならんのだよ。

 

「そうか。気が変わったら見せろ」

「だからッ、羞恥心ッッ」

 

 セクハラという概念はどこ?

 なんでもかんでもセクハラにする風潮は嫌いだけど流石にセクハラ概念くらいは存在してもよくなぁい?!

 男勝りが過ぎませんかね……。

 

「姉御ぉ……」

「なんだそれは。いいからさっさと構えろ」

「流石にこっちは二刀流でやりますぜ」

 

 勇ましい発言に思わず“姉御”という単語が飛び出た。

 すぐ訂正しようと思ったものの相手が嫌な顔をしなければ呼び名くらい別に良いかと、戦いに集中することにした。

 そもそも言葉など本質はそこに込められた意味。

 そこに対して俺がまともな認識を込めれば良い話である。

 

「じゃあこの石が地面に落ちた瞬間開始な」

「わかった。距離は適当で良いか」

 

 キュリアスの速度的に距離があってもさほど関係ない。

 見て、反応できるだけのそれなりの距離があればそれで充分だ。

 

「準備は良いか?」

「おうよ」

 

 浮き上がる石。

 朝日に照らされ、黒く見える石が最高点に到達。

 地面に近づくにつれて意識が加速し、石がゆっくり落ちる。

 そして直前で探知を発動、キュリアスに目を向けたまま石と地面の距離を把握。

 あと数センチというところで一気に腰を落とし。

 カツ、と二つが接触した瞬間にキュリアスが大剣を片手に接近してきた。

 

「流石に初手でやられて堪るかッ!」

 

 地面を操作、圧縮、硬質化させて大量の石柱を斜めに生やす。

 硬度は恐らく鉄骨を上回る。

 だがキュリアスは飛び回し蹴りで一気に石柱を砕き倒し、そしてほとんど変わることのない勢いのまま回転斬りを繰り出す。

 剣身に込められた魔力と圧倒的な回転によって円形の斬撃は繋がり、飛翔斬撃は直線状を伸びるように広がった。

 

「ス――ッ!!」

 

 スゲェと口から出そうになり、即座に後退する。

 飛ぶ斬撃も回転斬りもロマンだ。

 そしてそれが組み合わさって円が広がるような斬撃は興奮対象でしかない。

 けれど今は戦いの時。

 意識を戦闘に引き戻し、すぐに斬撃の広がる直線上から逃げた。

 

「【炎爆(フレア)ッ!】」

「【旋風(ブラスト)】」

 

 手元から一方向に指定されて放たれる爆熱。

 高火力による白光を伴って圧倒的熱量と場快適な風がキュリアスに向かって伸び。

 そして迎え撃つためのキュリアスの魔術が放たれる。

 原理的には似たような魔術。

 見た目としてはまさしく横向きの竜巻が一気に俺に向かって伸び、計ったように中間地点で二つの魔術がぶつかり合った。

 

「一気にッ!!」

 

 似たような、であって同一ではない。

 ある程度の持続は可能だが圧縮したのちの開放という構造上、長期運用は【炎爆(フレア)】には不向きである。

 最大火力の持続時間は現段階では約一〇秒、正確には一二秒。

 だからこそ狙ったのは短期決着。

 幸い込められた魔力量は僅かに俺が上。

 出力で勝った。

 

 もっとッ。

 強くッ。

 

 勝っているという認識によって調子の上がった炎。

 俺の魔術は熱が上がり、キュリアスの魔術は込められた魔力量は変わらない。

 ジリジリと、俺の魔術で自爆的に肌を焼く熱が――勢いを増した。

 

「なッ!?」

 

 膠着、優位、からの押し負け。

 理解できない状況に一瞬思考が原因解明へと向かってしまい、対応が遅れる。

 もう既に回避は不可能。

 風壁とバリアの多重防御。

 そして腕を交差させ、身構える。

 ゴウッ、と熱と風が俺の周りで燃え盛っていた。

 嵐の一夜を思わせる暴風とそれ以外の音を感じない荒れた静謐。

 一層、また一層と防御が破られる。

 【炎爆(フレア)】の残り火がキュリアスの【旋風(ブラスト)】で加速し、防御を突破して肌を焼く。

 

「ッッゥ……!!」

 

 吹き止む暴風。

 前腕の感覚が鈍り、頬が痛みを訴えていた。

 

「おらぁッ!」

 

 痛みキュリアスのことが意識から外れ、気配で思い出す。

 振り上げられた大剣をバリアと腕で何とか防ごうとし、バリアによって攻撃は逸れた。

 だが逸らしきれずに攻撃が当たり、腕で防ごうとした結果防御力は打ち負けて左手の小指と薬指が繋がったまま宙を舞い、中指の先が切り落とされ、握っていた黒鍵が手から零れ落ちる。

 

「痛ッッ」

 

 痛い、痛い痛いイタイ。

 指がッ!

 わかってたけどキュリアスは本気だッ。

 下手を打てば死ぬッ!

 

 断面の痛みと幻肢痛。

 ないにもかかわらず明確に残る指の感覚。

 油断から来た怪我を、逆恨むような感情のまま殴りかかった。

 

「おらぁッッ!!」

 

 舞う紅の雫。

 キュリアスの頬に血がかかる。

 振るった拳は見切られ、ギリギリで躱される。

 なんとか攻撃を、と開いた手すら爪が僅かに掠る程度。

 決着となる一撃が首に迫る。

 首が刎ねられる想像と恐怖が一気に全身を駆け巡り、その最中俺は右腕を突き出した。

 握った蛇腹剣。

 一気に伸長して最大六メートルほどの突きが放たれる。

 

「悪くはないが弱いな」

「完敗か……」

 

 突きは握り止められ、大剣は寸止めののち冷たい感覚が首筋に触れた。

 

「根本的な攻撃力不足。咄嗟に武器強化できる程度には技術(うで)磨いてろ」

「それは良いけどとりあえず先に手ぇ治させてくれ。話に集中できん」

「ああ、ちょっと手ぇ貸してくれ」

「これで良いか?」

「――ほらよ、治った」

「んん?!」

 

 ずるりと生える指。

 取れた指はまだ地面に残っている。

 つまり新たに指を生み出した。

 

「指ぃ……」

「流石に短時間で何度も使ったらヒイラギの方に反動が来るからあまりこういう怪我するなよ」

「ういっす! 姉御ぉッ!!」

 

 普通は断面を合わせて治すだけ。

 俺も切った指を繋げて綺麗に治すのが限界。

 こうして新たに生やすのは無理だ。

 けれど姉御はそれを可能としている。

 それが可能な者は少ない。

 道具としてなら上級回復薬(ハイポーション)高級回復薬(エクスポーション)があるがその効果の高さだけあって流石に高価だ、具体的には上級回復薬(ハイポーション)ダース買いで魔術種(エルフ)奴隷が購入可能、高級回復薬(エクスポーション)は一つで大きな城が建つ。

 姉御の戦闘での万能さが窺い知れる。

 

「指切れて頭おかしくなったか?」

「それは前から」

「そうか。なら安心だ」




 上級回復薬(ハイポーション)は指や耳などの小範囲の部位再生に用いられます
 高級回復薬(エクスポーション)は腕全損などの範囲
 後者はそれに加えて一定期間までなら治療済みで古傷となった怪我も治すことができます(期間は不明)

 少なくともベアトリクスの顔の傷は治りません
 キュリアスも同様
 年単位、モノによっては一〇年以前からの古傷ですので


 ちなみにこんなぶっ壊れな治療アイテムがあってもこの世界にはちゃんと医者はいます
 ポーション頼みだと金がかかりますし、そのあたりのアイテムでは治せない病気も存在するのでそういうのを治すために医者は現存している感じですね
 膨大な知識が必要で、そのうえでちゃんと資格を取らなきゃなので医者はこの世界でも高給取り
 ただ大きな図書館の医学書コーナーおよびその周辺知識や人種ごとの免疫特性、ルートヴィヒ内の植生分布、モンスターの知識を全てもしくはある程度以上暗記して即座に思い出して活用できるレベルの知識量が必要なので努力量を踏まえると当然な金額
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。