ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
……スライム多くなぁい?!
農家三つ回って合計二〇体近く倒したんだけど?
本人たちは「一部が荒れるよりも放置して全滅する方が~」って言ってくれてるけど農作物荒らすのスッゲー申し訳ねぇ。
そのうち色々買って経済回そ……。
「にしても……まさか倒したスライム全部残るとは。スライムってこういうモンなのか?」
二二体倒して二二体全身
スライムはそういう傾向にあるとは聞いていたけど流石にこれは……。
いや、素人の考えかもしれないし統計するにしてはサンプル数二二は少ないだろうし。
マユゲに解析を任せるしかないか。
「ういーっす、お届け物でーす。……ありゃ? いない。マユゲさんや~い」
マユゲの結界に入るといつもの場所にその姿がない。
入れた、ということは許可が下りたということ。
つまりはマユゲはいる。
けれど姿はない。
恐らくは研究解析中なのだろう。
「これ帰った方が良いヤツ? でも許可は下りてるし。……静かに入れば良いっしょ」
いつもマユゲがいる場所を通り過ぎ、広がる生活感のない生活スペースに入り、いくつかある扉の中から音が聞こえた方向へ歩みを進める。
するとそこには見知った白衣をそのまま黒く染めたような黒衣に身を包んだマユゲの姿があった。
ごちゃごちゃとしつつも整理された端の荷物。
壁には黒や白と彩度のないモノや水色などの淡色の
気づいてない?
訓練するために来たと思ってる?
……心の声が聞こえてない?
もしくは自動許可機能があるとか?
よくわからない魔道具を操作しては紙に何かを書き記すマユゲ。
そこにこちらに気づいた様子は一切なく。
まるでいないかのようだ。
にしても……絵になるねぇ。
普段の無表情だったりニヒルだったり挑発的な感じの表情も好きだけど、こういう凛々しい表情も好き。
賢い人ってホント魅力的だわぁ。
あれか、俺が馬鹿だからないモノねだりか?
……まぁいいや、魅力的には違いない。
キリッとしてて理知的で……ぬはぁっ~、俺の将来の嫁が美人すぎの可愛すぎでツレーわ。
ヘルベルト辺りに自慢したいわぁ。
「ヤメロ。それはマジでヤメロ」
「ありゃ、口に出てた?」
「出てねェよ、普通に気づいたわ」
「そりゃ安心」
「安心じゃねェよ。人の頭にガンガン愛情向けやがって……盛ってンのかァ?」
「マユゲが好き過ぎて……」
「聞いてるこっちが恥ずかしいってンだよクソがァ」
「恥ずかしい? ……?」
はて、恥ずかしいとな?
マユゲが、恥ずかしい、ですと?
「それはこの“聞いてる人間が一人もいない状態”で“俺の言葉”を受けて“感情を動かされた”というワケですかぁ!? なんとぉッ!?」
「…………何が言いたいンだてめェ。……いや、言わなくて良い」
「つまり“不快”ではなく“羞恥”を抱く程度には好意を持ってると!?」
「言わなくて良いっつったよな、オレ。ぶん殴って良いよなァ、オイ?」
「そんな暴力的な愛情表現ッ……軽くなら受け入れられるかもしれない」
「きンめェ」
ああっ、その蔑むような目ッ。
興奮ッ――しねぇわ。
……普通に傷つくし。
やるなら
「はァァァァ……ンで? なンの用だよ」
「新しい素材の提供に来ました~」
「なンぼだ?」
「農家が倒して劣化したのが一〇〇ちょい、俺が今日狩ったほやほや新鮮が二二。俺の方は初めの一個を除いて全部中身入りッ、やったね」
「ほォん。見せてみろ」
「いくつ?」
「全部だ。
「流ッ石ぁ」
思い通り。
そうは言っても全てではない。
可能なのは多能の範疇で全能とは異なる。
例えば“大気中の魔を操作して空間内にいる人間の魔力回復速度を向上させる”は空間能力の範疇だ。
だが“肉体に干渉し、内部の人間をモンスターに改造する”は不可能だ。
そしてそれを踏まえたうえで“劣化の心配は要らない”。
つまりマユゲは劣化原因を突き止めたうえでその阻止すら実現してみせたのだ。
「オレのこたァどォでも良いンだよ。用件が済ンだなら帰ってくれ」
「うい。仕事増やした俺の言うことじゃねえかもしれねえが、頑張ってくれよ。それと無理はしないでくれ。欲しいモノがありゃ買ってくるし出来る範囲でなんでもするからさ」
「……なら今度、この研究が終わって、お前の抱えてる問題も解決したら。その時一緒に二人で酒を飲もうぜ。そろそろ飲めるようになったろ」
「――驚いたな。まさかそっちからそういう類の誘いがあるとは。ならその時は適当に良い感じの酒とつまみでも探して持ってくるよ。……それじゃあな」
マユゲと酒、か。
酒とか飲むんだな、マユゲも。
どれくらい飲むんだろうな。
やっぱあの
けど意外と強いって可能性もありそうだな。
色んな酒、用意しておくか。
「あ? ヒイラギか、はえーな」
「早い……まあ今の依頼に合わせた起床時間なら早い、か」
適当な酒場に入るとそこには偶然キュリアスがいた。
八の鐘前、つまりは午後六時前。
普通の生活リズムで言えば過ぎるほどに遅いのだが夜の見回りに合わせた起床時間の俺たちには確かに早い起床である。
ただし俺の場合は寝ていないだけであるが。
「隣使っても?」
「ああ」
「とりあえず弱めの果実酒、あと味濃いめのステーキ適当なので」
「は~い」
頼んで一分もしない、それどころか三〇秒もかからないうちに出てきた果実酒を口に含む。
炭酸の含まれた、つまり発泡酒であるそれは飲めばわかる程度にはアルコールが含まれているにもかかわらず酒臭さがなく、甘さと炭酸が喉を刺激する感覚はビールを飲まない俺にとっては数ヶ月ぶりの感覚で酷く懐かしかった。
「酒場なのに結構静かだな……落ち着いた騒ぎって感じで」
「ああ。立地がそこまで大通りに近くないからな、知ってる奴しか基本来ない。ヒイラギは誰に聞いて来たんだ?」
「俺? 俺は自力で。最近この街に来たばかりだからな、散策途中に見つけて気まぐれに入ったんだよ」
確かに小路もいいトコだ。
それに看板がなかったら外観からじゃ酒場とわからなかったし。
「やっぱ異世界の奴には街一つとっても珍しいモンなのか?」
「そうだな、うん。意匠とか材質一つとっても異世界って感じがする。俺のいたところって人間は数えられる程度にしか人種がいなかったしそれも肌の色くらいしかパッと見違いはない、てか学術的には同一種って考え方もあるくらいだったから色んな人種がいる光景観るのって楽しいしさ。文化、街並み、人種、色んなのが混在しててスッゲー楽しい」
「……今、楽しいんだな」
「ああ」
「そりゃよかった」
?
「キュリアスにも自分のいる国が好かれて嬉しいとかあるんだな」
「あ? ああ……嫌われて亡ぼされたかねえからよ」
「おおう」
思ったよりシビアな理由。
でもまあ、そういうモンか。
「結構そういう“異世界人恐ろしい”みたいな考え聞くけどさ、よく“異世界人滅ぶべし”みたいな短絡的結論に至らないよな」
「そいつは軽視し過ぎだろうが。個人が恐怖対象なのと種族全体が排除対象なのは別の話だっての。個人は既知でも全体は未知、種族と敵対するってのはそういうことだ。簡単に街がいくつも亡びかねないし国すら亡びかねない。社会っつー根底概念そのものに反するアホでもわかる頭のおかしい話だ」
「あ~、“みんなで集まって生存確率を上げる機構”ってのをそもそも崩壊させる基地外思想ってことか」
「そもそも協力するのが効率的だってのに敵対するのが頭おかしいんだよ」
「まあな」
人道とかそういうくだらない倫理観を抜いても可能性だけで種族を滅ぼすのは合理性に欠けすぎる。
もはやそれは“見た目が似てる”って理由だけで怨敵以外にもケンカを吹っ掛ける単細胞の域だ。
「なんつーか」
「あ?」
「いいよな。こう……店の雰囲気というか、内装が全体的に統一されてて、落ち着くというか。……魔石灯とかの意匠も結構好きだわ」
「魔石灯? ……ああ、ありゃ“アエジ様式”つってな、太陽の光を表現に用いたとかなんとかだ。一日、つまり光の当たり方の変化を利用して一日の中で雰囲気を変化させたりっつーのがアエジ様式は好むらしい。中は……流石にもうわからねえが外出た時、来た時と比べてみりゃなんとなくわかると思うぜ」
「おっ、楽しみだ」
なるほど、明るくても薄暗くても暗くても見栄えのする建物か。
結構面白い。
限られた範囲の中で娯楽を生み出す逞しさもあるし。
良いね。
実に良い。
世界観、というか龍がいたりモンスターが居たりで遊戯的な娯楽が発展し辛い反面そういう部分の遊びが発展するってのはワクワクする。
アエジ様式:その立地における日照の角度や時間を計算することが重要なためアエジ様式で建造するのには少しお金がかかる
用いる建材も陽光を活かすための少し特殊な材質のため建材にもこだわればお金はさらに必要
その様式は建造物だけではなく魔道具や家具など多岐にわたる
僅かではあるが鍛冶にも手を出している