ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一四二話 不自然な状態

「……」

 

 スライムが出るようになったのは三週間前。

 当初は広い範囲で同じ種類が二、三体。

 農家の人たちもその時は「はぐれたスライムが迷い込んできてちょっと繁殖してる」程度の認識しかなかったとのこと。

 遠方からのはぐれというのはあるにはあるらしく、それゆえ気にしていなかった、と。

 そして異変があったのはそこから四日ほどあと。

 それまでとは明らかに色も大きさも異なるスライムが出現し始めた。

 特性も大きく異なるスライムが一度現れてからというもの、加速度的に数も種類も増加したという。

 さらなる、第二の異変。

 通常魔石になるはずのスライムがほとんど全身を残して死ぬ。

 確率が逆転したかのように魔石だけを残して死ぬスライムはごく稀であったらしい。

 かくして異変に異変を重ねたこの異常事態は今なお被害を増加している。

 

「とりあえず目撃情報を時系列順に整理したけど……北西寄り。けど北西には何も書かれてない……遠くに山脈があるだけ。やっぱり普通に生息域の変化か?」

 

 もしそうだとすれば個人や少人数パーティでどうこうできる次元の話ではない。

 トリゴの開拓兵の力を集めても太刀打ちできないかもしれない。

 そういう次元だ。

 一応最近のスライム発生云々はギルドも知るところ。

 いずれは調査が入るだろう。

 だが報告されたのは初期のモノ。

 その時点から情報更新がされずにいたとすれば調査は遅くなる。

 俺たちが倒して納品したスライムの死体。

 その解析はギルドも行っている。

 情報の真偽を確かめて、工程を組んで、事に当たる。

 それだけの時間放置した結果どうなるかはわからない。

 

北西(こっち)は二〇〇年以上――降星歴以前から放置されてて誰もなんもないって言うし。どっちかっつーと怪しいのは西(ここ)の廃村……だと思ったんだけどなぁ……」

 

 ため息交じりに瓦礫の山に腰を下ろす。

 手掛かりは一切ナシ、だ。

 手詰まりと言い換えても良い。

 現状は悪いのだが。

 

 流石にキツイ。

 ここに来ればなんか手掛かり掴めんじゃね? ワンチャン解決するんじゃね?

 なぁんて思っていた時期が僕にもありました。

 

「手掛かり一切なしかよ……」

 

 残存する建物はゼロ。

 どこを見ても廃墟廃墟廃墟。

 あるのは瓦礫の山と朽ちかけの低い壁だけ。

 

「探知――も反応なし。魔力反応も空間反応もなしって……まあいいや、ここに手掛かりがないことがわかっただけでも来た意味あった、と思おう」

 

 少なくとも俺が探知できる感度範囲内では魔的な残留物も魔術による隠蔽跡も地下室のような空間も一切なかった。

 念のために各建物の床を蹴って感触や音の鳴り方も確かめたが異常は一切なし。

 正にただの廃村。

 ごく普通の廃村だ。

 

「用事も済んだし、帰ろっか」

 

 好転しないストレスは我ながら勝手だがウェアウルフにぶつけることに。

 帰路の一時間ほど、ただひたすらにウェアウルフを見つけたら戦いを挑むことを繰り返し、必要のない戦いすら挑んでストレスを解消した。

 

 

 

「よぉっす、進捗はどうよ? あ、これ飯ね。食ってないならどーぞ」

「おォヒイラギ……進捗な。一応現段階で判明したことはコレにまとめたぞォ」

「……もしかして寝てた? 徹夜明け? ごめん」

「寝てた、だァ。つまりさっき起きた。飯はまだだ……食う」

「苦労をかけてすまねぇな」

 

 眠そうな目のマユゲ。

 全体的に動きが緩やかで、調査結果をまとめた紙と机に置くとそのまま動きを止めてしまう。

 その様子にカワイイという感想よりも先に申し訳なさで自己嫌悪に浸った。

 

「寝癖付いてるぞ」

「あァ……」

「しゃーねえ、直してやる――」

「あァ」

 

 流石に自分のを使うのは汚いかと以前まとめ買いした時の櫛を探して空間を弄っていると、何故かマユゲが俺の膝の上に座って来る。

 

「なして?」

「前もこうだったろォが」

「誰と間違えてんのさ……まあ良いけど」

 

 眠気で幼児退行でもしているのだろうか。

 恐らくは幼少期に親か誰かに髪を梳いてもらっていた記憶と混同しているのだろう。

 だが意識が朧気とはいえ頼られているということだろうから悪い気はしない。

 他人の髪を梳くのはほとんど経験がなく、唯一あるのはノースミナスで汚いからとアイヴィとロザリンドの二人を風呂に連れて行ったときにロクに手入れをしないのを見て教えた時だけ。

 下手だがまあ寝癖直しは自分で毎朝やっていることだ、失敗はしない。

 

「後ろの部分やるからちょっと前行ってくれ」

「ン」

「――もう良いぞ」

 

 水を少量生み出してハネた髪を濡らし、櫛で伸ばしつつ温風で余分な水分を飛ばす。

 そして適度に乾いた辺りで熱を弱めの冷気に切り替え、熱で開いたキューティクルを閉じる。

 先に後頭部の寝癖を直し、マユゲが楽な姿勢でいられるように胸にもたれかからせた。

 とはいえ寝癖を直すために腕を動かすから僅かながらに胸も動き、少しムズムズするかもしれない。

 

 む、甘い匂い……花?

 それと森?

 

 不意に鼻腔をくすぐる独特な香り。

 甘い緑の匂い。

 不快ではない。

 緑の匂いではあるがゴブリンのいたようなルートヴィヒ近郊の鬱蒼とした森のような鼻を刺激する濃厚な臭いではなく、陽光を和らげる幾層もの枝葉と突風を分散させ全身を滑らかに撫でる薫風奔る森を彷彿とさせる優しい緑の匂いだ。

 これが香水か精油かはわからないが、今までのマユゲへの印象――魔術関連にしか興味がなく身だしなみは適当というモノから大きく離れた事実に、認識が改まる。

 

 でも確かにいつも身だしなみは結構キッチリしてたな。

 所作も綺麗だし。

 

「ほい、終わったぞ。理髪師じゃねぇから直しただけ、出来に文句は言う――寝てらぁ」

 

 声をかけるも返事はなく。

 規則正しい呼吸を繰り返すのみ。

 マユゲはいつの間にか寝ていた。

 

「ま、良いや。軽いし小さいし」

 

 軽いマユゲは膝に乗せたところで大した負担にはならない。

 小さいマユゲは膝に乗せたところで視界の制限にはならない。

 調査結果を読むのに支障は来たさないのだから今は寝させておいた方が良いだろう。

 

「――とは言いつつも、専門用語ガンガンに入れてくんのやめてくんない? 翻訳されてても専門用語は専門用語だし、なんなら前の世界に存在しない概念とか用語はそのまま出てくるしでわかんねーんだけど?」

 

 俺が読むことを考慮していないのだろうか。

 子どもでもわかるレベルの難易度にして欲しいものだ。

 

 なんたらかんたらを用いたなんたらかんたら反応のまとめ――なんたら放射による変化――なんたら反応なし……わからんて。

 内部に特殊ななんたらを発見――魔力に対する反応微弱――高濃度魔素(ミスト)下における反応――なんか、調べることって色々あんだなぁ……お疲れ様です!

 

「ンあァ……寝てた。――どォいう状況だこれ」

「髪梳かそうと思ったらマユゲが膝に乗ってきた。まあ別に良いかとその状態で続けてたらマユゲが寝た。以上そんな感じ」

「わりィな」

「いやいや、元は俺のせいだし別に不快ってワケじゃなかったし? なんなら信用されてるって感じで嬉しかったし」

「お前……捻くれてるくせに変に素直だよなァ。そのうち騙されるンじゃねェか?」

「素直? 俺が?」

 

 素直、かねぇ?

 別に俺は誰彼構わず信じるってワケじゃないんだけどな。

 仲良い奴を信じるだけっていうか、信じたい奴を信じるだけ。

 付き合いのない奴をいきなり信用したりとか、多分ねぇよ。

 

「……まァ別にどォだって良い」

「さいでっか」

「ンでなンだったか……ああ、スライムの調査のヤツだなァ。読ンでもわかんねェだろォ、お前」

「うん、まぁったくわからん」

「胸張るなアホ」

 

 もうね、全くわかりませんよ。

 チンプンカンプン。

 専門用語だらけで外国語読んでる気分。

 

「お前からすりゃそもそも外界語だろォが」

「まあね」

 

 国どころか世界ごと違うワケですしお寿司。

 ……米喰いてぇ。

 今度なんか作ろ。

 

「……言ってもわかンねェだろォから結論から」

「いいですとも」

「あのスライムはほぼ全て人為的なモンだ」

「――はい?」

「色々調べた結果自然には出ねェ痕跡が見つかったンだよ」

「誰かが造って、バラ撒いたってこと? なんのために? てかそもそもモンスターって造れんの?!」

「目的は知らねェ。だが確実だ。モンスターの作り方はスライムに限れば大したことはねェ。適当な野生のスライム捕獲してひたすら餌を与える。ンで増殖したのを捕まえてそれに色々手を加えりゃ良い話だ。増殖したのを捕まえた容器さえありゃ子どもでもできンぞ」

「子どもでも?!」

「あァ。改造すンの自体に高い機材はいらねェからなァ、結果にこだわらねェなら安モンの魔道具でもできンだよ」

「マジか……超物騒じゃん。てかなら可能性として子どもの仕業説もあるんじゃね?」

 

 そんなに簡単なら誰だって潜在的には犯人の素質がある。

 偶然起こりうる事態なら俺だってやりかねない。

 俺とか特にそういう実験は遊び感覚でやってやらかしかねないし。

 

「それはねェ。言ったろ、それはあくまでも結果にこだわらねェ話なんだよ。今回のスライム、試しにオレが同じか似たようなの作ったらかなり手間がかかったンだ。それは単にやり方が非効率って話じゃァねェ。目的の特性を引き出す、例えば魔石を細かくして全身に分散させるとかは特にかなり高い機材じゃねェと生み出せねェ」

「なるほど。子どもには無理ついでに言えば高い機材だし知識のない奴にも無理ってか?」

「あァ」

 

 なんともまあ面倒な。

 故意の反抗ですかそうですかクソッタレ。

 

 問題を引き起こすなという怒りが沸々と湧き上がる。

 どうして短絡的な馬鹿は自分に戻って来る悪影響を考慮して動けないのだ、と。

 この国は比較的教育がマトモだと思っていた分そういう馬鹿が結局はボウフラのように湧くことが堪らなく悲しくなってくる。

 人間という生き物は世界が変わっても知能レベルが似たような水準である限り似たような状況になるのか、と。

 

「まあ、ありがとうな。それがわかって助かった。こっちも引き続き調べてみるわ。とりあえず今日はもう寝まーす」

「……なンかあればオレでもクアークでも良いから力求めろよ。力くらい貸すんだからよォ」

「――おうっ」

 

 そう交わして俺は去る。

 

「アホが……」

 

 マユゲのその呟きは俺の耳に入ることはなかった。




 よくある「スライムは変質しやすい」設定
 入れるかどうか悩んだ結果少し変えて入れることにしました


 ちなみにスライムの生体利用は現状成されていません
 コストに対してのメリットが少なすぎるというか
 他の方向から同じ結果を求める方がより効率的で安全というか
 改造しても結局はモンスターですからね、一般利用するには恐怖もありますし
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