ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一四八話 モテるとかモテないとか

「たでーま」

「……なンかあったのか?」

「ん? なんつーか……」

「あァ、気が付きゃウェアウルフに勝ってたのか」

「うん……ステイタス封印の魔道具とかない? 風車行った時に間違ってレベルアップしたっぽいわ」

 

 時間戻しを……時間戻しを俺にくれ。

 この街に来た辺りまで時間を。

 ステイタスをその時点まで戻して……。

 

「それは関係ねェだろォが……ずっと経験値遮断してたンだからよォ」

「……ん? あれ? ……ホントだ、指輪の設定経験値遮断率一〇〇%だ」

 

 え、てことは身体能力この街に来た時点と同じ?

 マジ?

 じゃあなんで勝ったのさ。

 

 ステイタスに変化がない以上俺が強くなる理由など皆無だ。

 筋トレはこのレベルになってくるとほとんど意味がない。

 いくら走ろうと重いモノを持ち上げようと、ステイタスで強化された肉体はその負荷をほとんど軽減する。

 レベルアップによって筋肉が増えることがあるらしいが経験値を全く得ていない俺には関係がない。

 勝てるようになる理由が見当たらないのだ。

 

「おめェ……風車でスライム相手にそれなりの時間戦ったって言ってたよなァ? ならそれじゃねェのか? 仲間がいるからある程度方向は指定されるとはいえどこからいつスライムが来ンのかわかンねェ状況で、常に一撃必殺で殺す、を続ける。それ続けてりゃァ相手の動き読む技術と見てから反応する能力、弱点を見つける能力なンかは磨かれるだろォよ」

「なるほど?」

「速度で負けよォがなァ、その能力さえ磨きゃある程度勝てるよォにはなンだ。敵の一手を自分(てめェ)の一手で上書きするっつーのは戦いの基本だがなァ、極めりゃ最強足り得ンぜ?」

「そうなの?」

「あァ。おめェも知ってるアデルはその典型例だ。まァ例が多すぎンだがよォ」

「?」

「まず下手な魔術はロクに効かねェ、圧倒的な防御力が弾くからな。ンで精神に作用したり相手に直接作用したるする貫通力に秀でた魔術も本体の力と装備の力で無効化。斬る刺す殴るも効き目は皆無。単純に防御力が最強格だ。加えて、膨大な戦闘経験でそもそも攻撃が当たンねェし攻撃する前に潰されることだって当然ある」

 

 え、えげつねえ……。

 守りに限定させてソレ?

 物理も魔術も効果なし、挑もうものなら封殺されて返り討ち。

 ……メンタル死ぬわ、ソレ。

 

 改めて国内最強の存在の異常さがわかる。

 最早敵なしとすら感じられる次元だ。

 けれど現実はそうではない。

 領地の拡張は未だ難航。

 それは遠征を部隊でやっているからかもしれない。

 だがアデルにも苦戦する相手はいるという話だ。

 それに龍が今もいたとしたらその勝敗はわからない。

 そもそも龍を相手に勝敗不明まで持っていけること自体が異常ではあるが。

 

 戦いたいけど戦いたくねぇよぉ。

 そんな機会自体ないだろうけどさ。

 

「まァ、最強格であって最強じゃねェ。多分探せばどっかにはいい勝負する奴がいるンじゃねェか? そのうち出るだろォしなァ」

「出なきゃ困る……だろ?」

「? どォしたよ」

「反射的に言ってなんだが、具体的に何が困るのかって考えたらよくわからんくなった」

「旅ができねェとかじゃねェか?」

「それは極論俺が遠征関係なく旅すれば良い話じゃん? 他に最強格が出なくたってアデルが国を護ってれば家とかは無事なワケだし」

「それはそうだな」

 

 何が。

 俺はどうして困ると思ったんだ?

 ただ話の流れとしてなんとなく、そういう常套句というか定型文的に口に出たとか。

 なんとなく漠然とそう思っただけ?

 アデル一人には任せられないと思ったとか?

 なんで?

 アデルは俺より圧倒的に強い、そう思う理由はない。

 もし仮にそう考えてたとしたら理由は……強い弱い関係なく俺もこの国を護りたくなったとか。

 ……ないない、愛国心とか俺の正反対みたいな感情じゃねぇかよ。

 生まれたワケでもなく育ったワケでもない、ただしばらく過ごしただけ。

 そりゃ確かに居心地は良いけど。

 前より居心地は圧倒的に良いけど。

 ……もしかして本当にそうなのか?

 居心地が良いから?

 いや違う、もっと前の感情。

 国を護りたい?

 理由がわからない。

 ……仲間?

 ルートヴィヒにもゼーフルスにもノースミナスにもトリゴ……は現状親しいヤツ皆無だけど。

 仲が良い奴が増えて、その人たちのお陰で変われた部分があるのは確実。

 その全員が強いワケじゃない。

 だから弱い奴らを、その周囲を護れるように?

 

「ヒイラギ。あンま考えすぎなくて良いぞ」

「え……?」

「お前は少し単純に考えるくらいがちょうどいい。お前の中にお前自身気付いてねェ立派な志ってのがあンのは見てりゃわかる。けどお前が頭で考えんのは、少なくとも今は“自分(てめェ)が暮らしやすい場所を作るために全部護る”で良いと思うぜ」

「……だな。俺自身自分の中の感情全部理解できたことなんてなかったわ」

 

 感情なんてモノ、今も昔もこれからも理解しきれる気なんてしない。

 多分それは理解しちゃいけないモンだ。

 それを理解して言語化しようとしたら逆に動けなくなる。

 動く理由を得るために求めた答えが脚を縛る類のモノだ。

 だか、マユゲが言うように。

 今の俺にソレはいらない。

 理由がなくてもわからなくても、動けるのが人間(おれ)の長所で短所だ。

 

「子どもっぽいお前にそれはまだ似合わねえよ」

「はぁ? むしろこういうことで悩む方が思春期(こども)の特権だろぉが」

「成りかけ以前の話だっつゥのォ」

「どんだけ甘く見てんだっての」

 

 笑い合う。

 マユゲの罵倒は悪意のない本心だから話していて楽しい。

 

「とにかくッ、おめェはいつも通りアホやって笑ってろって話だよ」

「ふむふむ、なるほどなるほど。つまり笑っている俺が好き、と」

「まあそォいうこった」

「……否定しないの?」

「お前が笑ってるのは……オレも嬉しいよ」

「ぁ……」

 

 仏頂面ばかり。

 たまに見せる笑顔は基本嫌味な笑み。

 そんなマユゲが見せた本心からの笑みは酷く心を締め付けた。

 経験したことのない類の感覚。

 そして少し不安にもなった。

 どこか遠い目を。

 何かを思い出すような目が。

 胸の締め付け以上に苦しくさせる。

 どうして不安なのか。

 理由はわからない。

 けれどマユゲが近くて遠い、そんな気がした。

 

「も、もう可愛いにゃぁ、このこの~」

「ヤメロ」

 

 モチモチと両手で頬を挟む。

 少し不機嫌そうにするがなんとなくやめるワケにはいかないと思って続ける。

 

「……勝手にいなくなるなよ?」

「あァ?」

「なんとなく、さっきの顔見てそんな気がした」

「なンだ()れ……。オレとしちゃおめェの(ほォ)が勝手に()えそうでこえーよ」

「ん()……なんじゃ()りゃ……」

 

 仕返しとばかりにマユゲも俺の頬を両手で挟み。

 そのせいでお互いの発音が崩れる。

 それが互いにおかしくなってさっきまでの空気は吹き飛び、笑い合い、互いの片手が下がった。

 同時に距離が近づき――マユゲの額が胸元に当たる。

 

「え~、今のってキスの流れじゃないのぉ?」

「誰がするか。一年はえェってンだ」

「長ぁいっ。じゃあ最低でもそれまでいなくなるなよ? もっと言えば一生いなくなるなよ?」

「だからァ、てめェの方が無茶した挙句簡単にくたばりそォで怖いっつーのォ!」

「顎ぉッ!」

 

 胸元にいたマユゲが跳ね上がり、顎にダメージを受ける。

 軽く抱きしめていたから仰け反った身体はマユゲを道連れにし、共々床に倒れ込んだ。

 

「クハッ! ハハハハハッ!」

「頭打って余計おかしくなったか?」

「失敬なっ。ただこういうのが嬉しかっただけ」

「ふン、アホめ」

「ひでぇ」

 

 キスじゃなくても良いや。

 マユゲは一緒にいてくれる。

 今はそれだけで充分だ。

 

「クアークも入れてやれ……」

「……マユゲは本当に良いのかよ?」

「あァ? 別に構わねェって何回も言ってンだろォが」

「わからんッ、女心が、わからんッ」

「お前はちゃンと一生愛す、そうだろ?」

「まあ、はい」

「それがわかってりゃァな、なン人だろォがなン十人だろォが構わねェンだよ」

「校長……」

「は?」

「なんでもないです、はい」

 

 流石にそこまで節操ないと思われるのは心外だ。

 てか俺、そこまでモテねえよ。

 そこまでってか、ほとんどモテねえよ!

 クアークのことですらよく理解してないのに。

 遠回しな嫌味ですかチクショー!

 

「……まァ、今はなンでもいい」

「はい?」

「第一なァ……こっち来てまだ三ヶ月も経ってねェ奴が二人相手見つけててそのセリフ真に受ける方がどォかしてンだろォがよ」

「たしかに!? 説得力皆無だわッ」

 

 盲点だった。

 言われて気づいたが、俺の発言には一切信用性がない。

 俺の身に起こった事をただ言葉にすれば“短期間にパートナーを二人”となる。

 はっきりいって、これでモテないと言ってもほとんどの人間が信じない。

 ただ気になるのはやはりマユゲの気持ちだ。

 了承を得ていない以上マユゲと俺はそういう関係性ではない。

 予約状態? だ。

 けれどマユゲは今“二人”と言って、それはつまりマユゲが含まれているということ。

 やはり俺には女心というモノが理解できそうにない。

 

「どォせ数年後にはもっと増えてるだろォよ」

「いや、でも、流石にないっしょ? ただ偶然なんか、モテ期的なのが来ただけでこれ以上は」

「ンなら賭けるか?」

「……やめとく。モテないと思ってはいるけどモテないに自ら賭けるのはツラいし」

「そォか」

 

 涙が出ちゃう。だって男の子だもん。

 モテるってのは男の社会的地位(ステータス)だから本能的に認められない面がある。

 好きなことをやってる方が楽しいからどうしてもモテたい、という感情はそこまでないが少しはそういうモテたい願望もあるにはある。

 とはいえ一応二人いるから最早そういう感情はないに等しいが。

 ただそれは“モテなくても良い”であって“モテない”を許容するのとはまた別。

 ニュアンスが違う。

 

「話が逸れ過ぎたなァ……」

「そうね~、続けるにしたって酒飲んでからじゃねぇと。こんな話素面でするモンじゃねぇや」




 思春期って一度結論出た話題持ち出してうじうじ悩むの好きですよね
 まあやってる側としてはそれが楽しい時もあるんですけど

 感情なんて自分のすら理解しきれるワケがないのにそれに気づかないうちって自分がどうしてそう思ったのか、とか考えちゃいますよね
 まあそれに気づいても考える時はあるんですけど


 心の締め付け=高揚+不安、好きな人ができたことのないヒイラギにとってその感覚はどちらもわからないモノ
 ドキドキと表現することができないっていう

 マユゲの笑顔は普通に本心からの笑みです
 本当にヒイラギが喜んでいるのが嬉しくて、それを想像して笑った
 その本心にどんな感情がどのくらいの割合で入っているのかはマユゲのみぞ知る
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