ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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アッブねえ!
10分前!


第一五話 ガキ

「……空間、空いてねぇか?」

「来るなり発するセリフがそれですかァ? 一体何様のつもりなンですかねェ、ヒィラギィィィ」

「寝てた?」

「いィやァ? 研究だァ」

 

 なるほど、確かにそりゃ怒るわな。

 俺だって調べモンしてるときに邪魔されりゃ腹立つ。

 

「第一テメェにオレの空間(ばしょ)使わせてやってなンの得があるンだよ」

「もう交渉とかする関係じゃねーから簡潔に、俺の持つ情報を全て提供すっから持ちうる限りの俺の欲したモノをくれ」

「……テメェ、は、どこの、暴君だッ!!」

「ははは」

 

 時間的には午後一〇時過ぎ。

 眠いけれどやりたいことがあったから寝る前にすることにした。

 けどやっぱり眠いからあんまり頭が動かない。

 

「……そォか、誓約(ギアス)で縛りはしねーが約束破ンなよ」

「それはもちろん」

 

 口約束とて大切な人間とのモノなら破る気はない。

 くだらないことなら冗談で破ることはあってもこんな重要なこと、流石に破れん。

 

「じゃあちょっとこっち来い」

「おう」

 

 言われるまま近づく。

 マユゲの小さく柔らかな手が触れた。

 どれだけの時間を独り、ジッと過ごしていたのだろうか。

 触れた指先はとても冷たい。

 いっそ硬さを感じてしまうほど、柔らかな氷のよう。

 見た目が子どもで、未だに俺の感覚が以前のままだからか。

 その手はずっと温めてあげていたいと思うほど。

 

「……行動可能な空間を増やした、つーより封印を解いただけだがなァ」

「そうか……」

 

 行こう。

 そう思ったが手が離れない。

 マユゲはどれだけ相手の心を読めるのだろうか。

 もしかしたら俺が普段認知している表層心理よりも……俺すらわからない深層心理を読んでいるのかもしれない。

 だからか、マユゲは俺に対して何も言わず。

 研究に戻らず。

 ジッと俺に手を包まれ続けてくれていた。

 

「……スマンな。忘れてくれ」

「いィや、構わねェよ」

 

 小さく「ふっ」と笑ったその表情が初めて見せた自然な笑みに見えた。

 別にこれまでの表情が嘘くさかったワケじゃない。

 馬鹿にしたような笑みも、腹を立てたような顔も、どうだと言わんばかりのしたり顔も、ごく自然のモノ。

 そう見えるように計算された演劇のような笑みでもない。

 その表情は自然なモノとして存在する。

 決して偽物ではない。

 けれどずっと雰囲気がミスマッチだった。

 一瞬はその表情と雰囲気が同じで、けどすぐに雰囲気だけが凪いでいたように見えていたのだ。

 なのに今の一瞬だけは、ずっと同じようで。

 素直にいえば見惚れてしまった(・・・・・・・・)

 

「ほら、さっさと行けよ。時間、ねェンだろ?」

「お、おお……」

 

 時間がないというか、時間をかける気がないというか。

 まあ急いでいる理由を聞かれたら多分俺なら時間がないっていうだろうけど。

 マユゲも同じような言い方をするんだと少し親近感が湧いた。

 

「ダメだなァ、気ィ抜くと引っ張られちまうゼ……」

 

 空間を移動する瞬間、辛うじて聞き取れた最後の部分。

 何が引っ張られるのだろうか。

 恐らく眠気だろう。

 少し目元に疲れが見えた。

 アレは見覚えがある。

 ゲームのしまくりで二、三日寝てない時に見た鏡に映ってた顔と似ている。

 

 ……帰る時、まだ辛そうだったら肩でも揉んでやるか。

 ついでに腰とかも。

 

 とはいえこの世界でそのあたりの苦痛はどうなのだろうか、という疑問がある。

 治癒魔術などで簡単に治りそうに思えるが。

 

「ま、いいか」

 

 今考えても仕方のないことだ。

 重要なことではあるのかもしれない。

 けれど優先順位が違う。

 考えても変わらないことを今考える必要はない。

 

「さぁて、と」

 

 軽く体をほぐし、動きやすいように最低限の服に脱ぐ。

 動き辛い服を着て動いたら服が無駄になるかもしれない。

 

「『意識、身体の感覚を完全に残したまま動きの模倣をしろ。模倣する動きは想起したベアトリクスのモノだ』」

 

 自分の耳元で指を鳴らす。

 対象は、自分。

 自己洗脳。

 まだ何も起きない。

 けれど意識を集中させて、今日幾度となく味わったベアトリクスの動きをイメージした途端、俺の身体は俺の意思とは関係なく動いた。

 

「ッッ!!」

 

 直後、俺は気づけば地面に倒れていた。

 そして襲い掛かって来る全身の激しい痛み。

 特に筋肉と筋の間辺りが猛烈に痛みを訴えている。

 

「バカかァ、てめェ?」

「マユ、ゲ?」

「ロクに身体できてねェ奴が動き真似たところで出来るワケねェだろォが。だからこそてめェは腕輪の力で強引に回し蹴りしたンだろォがよォ」

 

 いつの間にかそこにいたマユゲが倒れた俺の頭上からそう語り掛けてきた。

 呆れ、ため息を吐きながらマユゲは魔術で軽く治療してくれる。

 

「同じ軌道で動くなら筋力関係ないかな、って……」

「能力的実現可能と身体的実現可能は違うのがわかンねェかァ? そんなにてめェのお(つむ)は残念なンですかねェ?」

「……スマン」

「謝ンな、クソが」

 

 言われてようやく理解した。

 戦いにおいて関節可動域、柔軟性は重要であることを。

 理解した、というより思い出した。

 漫画なんかでよく言われていたことだ。

 

 ああ、異世界に憧れる一方であるワケないって思ってたんだな、俺。

 

 幾度となく異世界に憧れた。

 けれどそれは心のどこかでありえないと決めつけていた。

 本当に信じていたならそれに備えて出来る限りのことを尽くしていたはずだから。

 

「さて」

 

 だからといって諦める気はない。

 出来ないなら出来る範囲のことをまずはやるだけだ。

 

 ベアトリクスの動き全てが俺には不可能、ってワケじゃあねえ。

 その命題が仮に真だとするのなら、極論呼吸すら俺には不可能だ。

 自論を思い出せ。

 ミクロをマクロに、マクロをミクロに。

 一点集中し、俯瞰し、一方から見て、多角的に見る。

 ベアトリクスは物理法則に反した動きをしたか?

 してないだろ。

 だったら俺が出来ないのは限界だからじゃねえ。

 

「すぅぅぅぅぅ……ふぅぅぅぅぅ……」

 

 呼吸を止め、一気に動く。

 全身に激痛が走るが今度は成功した。

 

「あはッ」

 

 次へ。

 次へ。

 さらに。

 激痛が激痛と認識出来なくなってくる。

 激痛が自分の壁を壊す感触に思えて、楽しいと、心地よいとすら思えた。

 

「あははははッ! いいねいいね! いいじゃん、コレッッ!!」

 

 一時的に、一種の全能感に浸った瞬間。

 ばつん、と。

 聞いたことのない大きな音が聞こえた。

 それは近くから。

 いや、自分から聞こえた気がして。

 気がつくと俺は再び倒れていた。

 

「……耐えきれねェ負荷に身を投じすぎたなァ。腱が千切れたってことだァ」

「腱……って、こんな音するのかぁ」

「あァ。聞きなれたらなンともねェがなァ」

「物騒すぎん? お前の感覚」

 

 腱の切れる音が聞きなれているというのはちょっと怖い。

 

「これに懲りたらもうちょい加減しろォ」

 

 そう子どもに言い聞かせるように呟くとマユゲは俺の足に手をかざし、治してくれた。

 治ったときの感覚は内側から肉を引っ張られるような、そんな感覚。

 痛くはなく、未知の感覚にとりあえずムズムズした。

 

「ごめん」

「……本当になァ」

 

 ため息を吐くとマユゲは立ち去ってゆく。

 恐らくはこの結果を見越していたのだろう。

 俺が無茶をして、身体を壊すということを。

 

 痛みの伴わない教訓には意義がない。

 確かにそうだ。

 たとえ事前にマユゲから注意されていたとしても俺は恐らく同じことをしただろう。

 治してもらえるから壊していいじゃない、かぁ。

 考えてみればそれってガキの言い訳、だよなぁ。

 何かに依存して生きる。

 つまり自立してないってことだよな。

 

 省みて。

 ちゃんと理解した。

 同時に羞恥と悔しさが激しく沸き上がる。

 さっきのマユゲの言葉は子どもに言い聞かせるようなモノではない。

 正しく子どもに言い聞かせていたのだ。

 この世界だと成人している、なんて関係ない。

 子どもとは、大人とはその精神の在り方だ。

 そして歳だけ重ねて成長のない精神をガキ(・・)という。

 俺はガキだった。

 

「ちくしょう……これじゃあ惚れられるどころの話じゃねえよ……」




 ガキにはなりたくないものです

 まあ実年齢と精神年齢の乖離を考えたら作者は充分ガキかもしれません
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