ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

159 / 183
 三日連続、ヤッタネ!


第一五九話 混沌魔導薬

「よっ、と。本当に良かったのか? 見ず知らずの俺を宿とはいえ部屋に入れちまって」

「それはどういう?」

「ん~……まあ端的に言えば、性的に襲われる不安とか、何か盗まれる心配とか」

「私より弱い少年……じゃないか、君が?」

「弱いって……俺一応一般開拓兵だぞ? それにロクに歩けず魔力も操作が不安定な人が言う?」

 

 たしかに開拓兵での全体比でいえば俺は全然まだまだだ。

 けれどこういっちゃなんだがマトモに動けそうになかった彼女にそれを言われたくはない。

 

「外でなら君が私に勝つ可能性もそれなりにある。けれどこの部屋(くうかん)に入ってしまえば私が君に負けるワケがない」

「え?」

「この部屋は私が平気で居られるよう、目を開けても問題がないように限界まで魔を薄めてある。ここでなら外で受ける弱体化が全て失くせる。実力が正しく出せるなら負けるワケがない。当然のことだよ」

「……」

 

 説明になっていない。

 それはあくまでも彼女が無事でいられる理由。

 強さの説明にも証明にもなっていない。

 だが、不思議な説得力と雰囲気があった。

 彼女なら俺に勝てる、と。

 

「まあ、いっか」

「理解が早い奴は嫌いじゃない」

「ははっ、偉そうな」

 

 なんつーか、ホント独特な人だな。

 ま、面白いし記憶に残りやすいから好きだけど。

 

「とりあえずアンタが鎮痛剤使ったら感覚遮断解除して出て行きますわぁ」

「客として残ってくれてもいいぞ」

「客? ああ、薬師の仕事か。……せっかく出会ったワケだし商品見せてもらいますかね」

「助けてくれた礼に安くしてあげよう」

「そりゃドーモ」

 

 助けたっていうほど何かしたワケじゃないけどな。

 ただ歩いてるところ邪魔して、落とした煙管拾って、痛覚遮断して、宿まで送っただけだし。

 

「そうだ。薬見てる間の小話として聞きたいんだけどさ、路地んトコで言ってた“やはりこの街は”っていうの。あれ、何?」

 

 目を抑えて苦しみ出す瞬間。

 彼女はまるでそうなることを理解していたかのような口ぶりを見せた。

 ただ病気が進行するだけなら病気とも長い付き合いだ、そんな反応は見せない。

 察するに、何か普通ではない進行があり、けれどそれは予想の範疇。

 そうなるとわかっていてなお何故この街に来たのか、という疑問が新たに湧くが、やはり気になるのはなぜそれが予想できたのか。

 

「私の病気は周囲の魔の濃度などによって進行速度が変化する。この街は少し魔が濃いうえに特殊だからな、予想はしていたのだよ」

「あ~、そういうことか。斥魔の布は眼球に魔が及びにくくするため、探知は別に目で見てるワケじゃないから探知に影響はなしと」

「そういうことだ。……それは一時的に魔力の回復速度を向上させる薬だ、副作用に一時的な胸の痛みがある。隣の赤いのは自動で身体強化を施す効果があってその分の魔術構築領域が空く、副作用は魔力を使用するありとあらゆる行為における消費魔力量増加」

「一言で片づけられるとムカつくだろうけど、大変そうって感想以外出ねぇや。……やっぱりその病気って珍しいのか?」

 

 病状をロクに知らず、ただ眼球に酷いダメージがあり幻覚が見える、ということしかわかっていない。

 そんな状況で出せる言葉などなかった。

 ひねり出した言葉に重さはなく、何の意味もないと思った。

 

「別になんと言われようと構わんさ。他者からの薄い言葉一つで揺らぐほど弱い心ではない。病気に関してだが、私の知る限り前例がないのだよ。発症原因も治療方法も一切不明、対症療法も自力で見つけた」

「そうか、やっぱ情報材料が皆無だと大変だな。もし似たような症状の人にあったら話聞いとくよ」

「期待はしねえがな」

「おう、俺にそんなモンすんな。ところでコレは?」

「その青いのは防御力を上げる、副作用は魔力の消費」

「副作用そんなんばっか?」

「効果出すには当然だ。アホか」

「辛ッ辣」

 

 たしかにそうだけどね?

 何をするにも対価は必要。

 ゼロから物質を生み出してるように傍目には見える魔術だって魔力を消費してるし。

 魔術的な薬ならそういう使用者の魔力で効果を出す形式のモノがあってもおかしくはないからそこに考えが至らなかった俺がアホではあるけどさぁ。

 初対面ぞ?

 俺初対面ぞ。

 

「こっちは?」

「白いのは探知範囲と魔術射程の拡張。副作用は使用後の魔力回復量減少、魔力回復薬(マナポーション)での回復効率も激減する」

「おぉ~……なかなか悩む効果だな」

 

 射程というのはかなり重要。

 単純な話、“当たれば確殺”の攻撃を持っていたとしてもそれが手に持ったペンのような射程では全く意味を成さない。

 その攻撃手段凡庸な人間だとすれば少し魔術を覚えた程度の幼児にすら負ける。

 

「普通の、普通のをくださいな」

「つまらない。普通のポーション類な。そういえばさっき一般開拓兵って言ってたか、なら下級で十分か」

「ぶっちゃけポーションってあまり使わんのよな。魔力困るほど魔術使わんし、基本」

 

 残り魔力量を気にしたのなんて数える程度。

 まあ記憶がいい加減だから数えろって言われても数えられないが。

 

「……それでもポーション使う癖は付けておけ」

「ん? なんでだ?」

「咄嗟の時、ポーションを使うって考えが頭に入ってないと死ぬぞ。ポーションの利点は自前の魔力を使わない、構築領域を必要としない、即効性なんかだ。そこの差は大きいからな」

「たしかにそうだな。普段から繰り返さないと咄嗟の時選択肢にすら出ない、か。……ありがとう、気を付けるよ」

「金を落としてくれれば私はそれで構わない」

 

 目的に素直ね、好きよそういう性格。

 利害関係がハッキリしてて変な気を遣う必要がないし。

 

「んじゃ低級のを二種類それぞれ一〇、下級のを二種類それぞれ四で頼む」

「一二〇〇〇〇アスターだ。値引きのついでに双属回復薬(デュアルポーション)もくれてやる」

「開拓兵証で」

「あ、私はギルドに入ってないから支払いは現金だけだ」

「あ、マジか。そんだけの金持ってたかな~……一応あるわ」

「金貨一二枚、キッチリあるな」

 

 てか、高くない?

 いや、普通に定価くらいだけどさ。

 モノ自体の値段が……。

 これはあれか、初期の金銭感覚がむしろおかしい感じ。

 今考えれば王都の宿屋安いもんなぁ。

 そもそもが安い場所を選んだとはいえあれはやっぱ異世界人のためのヤツだよなぁ。

 

「てか今どこから金出した?」

「これはそういう魔道具でな、借りモンで非売品。容量は知らんが自由に荷物を出し入れできるからデカい荷物持たずに済んでる」

「便利だな。私、というか商人は全員欲しがるぞ」

「だろうな。けど結構金が掛かるっぽいぞ」

「それもそうか」

 

 荷物とか鮮度気にしなくて良いのはそりゃ喉から手が欲しいわ。

 

「さて、そろそろ鎮痛剤が効くころか」

「んじゃ解除しますわ」

「ッ……目がいてえ……」

「もう一回かけるか? それともなんか必要? そこの鞄取ろうか?」

「要らん。久々に痛みが全くない状態で長くいたから振れ幅でいつも以上に、な」

「長くって……一時間も経ってないぞ」

「私にとっては充分だ」

 

 そうかもしれない。

 常に痛みを感じていた人間が一時的とはいえ痛みを忘れることができた。

 それは寝たきりだった人間が立てるようになったのと同じような感動かもしれない。

 

「いや、素直に礼を言おう。ありがとう」

「……どういたしまして」

 

 ここで気にするな、というのはダメだろう。

 一瞬言いそうになったが彼女にとってはとても大事なこと。

 それを“どうでもいい”と捉えることができるように気にするなと軽視するのは流石に失礼だ。

 

「しばらく“銀毛兎”って宿に泊まってる、基本外にいるから来てすぐ会えるワケではないけど感覚遮断が必要になったら来て伝言でも残してくれ」

「痛みは普段であれば堪えられるから問題ないが。その厚意は憶えておこう」

 

 それに……実のところ俺の方が感謝したいんだ。

 この【洗脳(ちから)】は……この【洗脳(ちから)】を人のために使える。

 犯罪にではなく、誰かを助けるために使える。

 それを教えてくれた。

 心が少し楽になっている。

 こんなの俺の醜い自己満足でしかないが、それでもそこにある感謝は本当だ。

 

「私はサイカ。基本は行商の薬師だがたまに小さな店を構えたりすることもある。その時は“金色カラス薬局”という名で開いているから機会があれば金を落としてくれ」

「くくっ、機会があればそうするよ。俺はヒイラギ。三ヶ月ほど前に来たばかりの異世界人で今はさっき言ったように一般開拓兵をやっている。急を要する用事は基本ないから遠慮せず声をかけてくれ」

「なら近いうちに指名依頼を出すから受けろ」

「了解、けどこの街か運河(ルイズギーヴ)で行ける範囲の依頼で頼むぜ?」

「それは問題ない。地龍の通り道(アヴァムギーヴ)で採取できるモノだからね」

「てかなんなら依頼とかなしで良いぜ?」

「何故だ? 開拓兵には実績点があるだろう」

「そういえばそうだっけ。普段気にしないから忘れてた……んじゃ依頼でお願いします」

「自分のことを忘れるとはやはりアホか?」

「言い返せねえっ」




 サイカ:自作の薬煙草がなければ目の痛みで倒れてしまう
     一度それで死にかけた。その時は発症直後に体内の感覚で魔が影響していることを即座に理解、痛みで気を失う前に体内の魔力を一気に放出して一定範囲を自分の魔力で埋め尽くすことで何とか目覚めるまでの余裕を生み出した
     濁った翠玉(エメラルド)の瞳は病気を放置すればダメージで目が使い物にならなくなるほど、対症療法によって進行を減衰させ、なんとか目を維持している
     病気の治療のため各地を旅していて、グラーベンシュタットに来たのもそのためなのだが、特殊な魔や濃密な魔によって採取に行くことができなかった
     研究しようとしている素材は市場に出ない利用価値ナシとされているモノのため困っていたところにヒイラギと出会い、依頼を出すことに
     ヒイラギを弱いと言うだけあって実力は高く、実力だけで言えば遠征開拓兵にもなれる逸材なのだが、期間が不透明で薬煙草を切らしかねない開拓兵の遠征に行く気は一切なく、けれど希少な素材もあるため遠征に行きたいとは思っている
     痛みのストレスを戦いで発散する癖があり、その延長で若干性格が歪んでいる節があったりなかったり


 ちなみに煙草はこの世界でも普通にあります
 ヒイラギが知らないのは交流範囲が基本同業者か店のため
 私生活では吸っている人もいる
 場所によっては日中でも吸ってる人が歩いてたり
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。