ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「ねみぃ……」
昨日動きまくったからか途轍もなく眠い。
だるい感じはするけど身体は動く。
むしろ昨日の朝よりも軽い。
ただひたすらに精神的な疲労が半端じゃない。
「香月……いねぇし……」
そんなに寝ていたのかと不安になったが窓を開けた先に見えた陽の位置は昨日の朝と大して変わらない。
俺が遅いワケじゃなくて香月が早いのだ。
「装備もないから食事も済んだのか」
カバンは残っていて、装備だけがない。
訓練に行ったのだろう。
「……まあ、別にいいか」
現状俺たちが一緒にいる必要はない。
俺が香月に求めているモノは現状何もないし、香月が俺を頼っているワケでもない。
お互いに無関心。
こっちが利用した対価は訓練って形で返した。
……あれ?
訓練はベアトリクスだよな……。
え~と? まず俺があいつにやったことってなんだ?
パッと思いつくのだと
まあ、普通に考えて重いのは洗脳の方だよなぁ。
向こうにその認識がない以上はしなくてもいいかもしれんが一応洗脳したって考えるとその対価は払うべきだと思う。
宿代の方は……向こうにもメリットあったし、初日の相談でチャラにならんか?
……って、そもそもその相談も洗脳してたなぁ。
しかもその時自信が持てるまで、やりたいことが見つかるまで俺のそばにいろ的なこと言っちゃってるし。
あの時は
「……はぁ、しゃーねぇ」
嫌いなヤツ相手に嘘を吐くならまだしも、そうじゃない相手に自分から言ったことしないなんて責任感のないことできない。
それにそんなみっともない真似をして、これ以上バカやって、マユゲやベアトリクスに見限られるのは嫌だ。
「ちょいと頑張ってやりましょうか!」
これまで変わるのが嫌だった。
嫌だった、というか変わることを恐れていた気がする。
時間をかけて自分が変わって、それが良い方向に向かわなかったら。
周囲はその間進んでいるのに自分だけが停滞し続け、時には後退していたら。
そんな考えがあったんだろう。
けれど今となってはあまり気にならない。
確かに変わる努力と労力と気力が無駄になったら、とは考える。
進んだ先で得たモノが既に持っているモノだったら、そう考えると嫌ではある。
嫌ではあるがその感情は以前ほど大きくない。
昨日あんなことがあったからだろう。
今は変わりたいという気持ちが強いのだ。
「ん? おんやぁ?」
ギルド。
少しだけ馴染んだ受付嬢の姿がない。
ほとんど知らない、視界端に何度も映っていて顔だけはなんとなく憶えた他の受付嬢はいる。
けれど俺と接していた受付嬢の姿だけがない。
今日で四日目、それだけ連続で働いてりゃ流石に休むか?
そう考えたもののそれを言うなら他の受付嬢は最低でも四日連勤だ。
仕方ないから考えるのをやめて見知った受付嬢の代わりに同じ場所に座っている猫っぽい受付嬢のところに行くことにした。
「ご用件はにゃんですか?」
「にゃ……街中でできる安全な依頼はないか?」
「依頼を受ける人数はにゃん人ですか?」
「……一人でできて、複数人でもできるってのが望ましいが」
「にゃら……この辺りが良いんじゃにゃいでしょうか」
にゃ、ってホントにいるのか……。
見た目は人っていうよりも獣寄りだな、けど形とか輪郭とかが人っぽい。
街でラノベ的ほぼ人獣人を見たけどこういう獣寄りもいるんだな、てかよく見りゃギルドにもいたのか。
よく見かけたのは人間に獣の耳と尻尾をくっつけたような、コスプレ感が否めない獣人。
けれど今俺の目の前にいるのは獣度の高い獣人。
さらによく観察すれば周囲の獣人にも獣度の具合は違っていて、ただでさえ良くわからないこの世界の人種の感覚がさらにわからなくなる。
「え、っと……どぶさらいと荷物運搬と揚重作業は前と同じだな。で、新しいのが――」
枚数的には前回から三枚増えている。
一枚目が『建物の修理』。
内容はざっくり言えば老朽化した教会を直してくれというモノ。
二枚目は『
ちょっとだけ隠語かと疑ってしまったが内容を見る限りあまりそうは見えない。
そして三枚目は『どぶさらい』。
「ん? またどぶさらい?」
「こっちのどぶさらいはルートヴィヒ旧市街の地下水路清掃」
「うん、普通に
「で、こっちが製錬後の廃棄鉱物の納品」
「どぶって……
「確かに紛らわしいけど依頼書はちゃんと読まなきゃダメにゃんだぞ? 新人だから仕方にゃいけど」
「はい……おっしゃる通りで」
直さなければならない欠点が多く見つかる。
探せば探すほど見つかって、自分には欠点しかないんじゃないかと思いそうになるほど。
それでもそう思い込まずに踏みとどまれるのは二人のお陰だ。
もし仮に俺が欠点の塊で、嫌な奴でしかなければマユゲもベアトリクスもきっと俺とは関わらない。
俺から話しかけても無視され、離れられる。
そうじゃないということは、少なからず俺にも他者に受け入れてもらえるところがあるってことだ。
だから腐らずにいられる。
「て、アレ? 俺、新人って言った?」
「ジドコヴァ先輩から引き継ぐときに聞いたの」
「先輩? それってもしかして愛想がなくて無表情な美人系の?」
「そうそう。ちょっと大変らしくて実家のある街に転勤したらしいの。心配にゃんだけど笑って誤魔化されちゃったんだよね~。……ってごめんごめん、仕事しにゃきゃだにゃ」
あの人そんな厳つい名前だったのか……すげぇな。
意味はよくわからんが、響きが結構強い感じだ。
「ちなみにもう少し詳しく依頼のこと聞いていいか?」
「もちろんっ」
「じゃあまず、街で見かける普通の水路は結構綺麗に見えるんだけど地下ってそんなに違うモンなのか?」
誰がやっているのかはわからない。
そういう専門の職があるのかもしれない。
少なくともそう考える程度には街の水路は清潔に見えた。
もしかしたら澄んでいるだけで大量の雑菌がいるかもしれない、だが少なくとも表面上の不潔さはほとんどなかった。
「それは降星以降に造られた水路だからだにゃ」
「降星?」
「そこからにゃんかい……」
すまんね、こっちのことには疎いんだ。
田舎者と接するとでも思って教えてくれよ。
「龍がいなくにゃったとされる降星元年。それまでの脅威がにゃくにゃったことで人類は一気に発展して数多の技術が開発されたの。だから降星歴以前と以降じゃ同じルートヴィヒって国でも技術力が段違いにゃの。それで、旧市街の、さらに地下ともにゃると造り直しがされてにゃいってワケだにゃ」
「ちょっと素敵ワードが聞こえたけどいないんじゃしょうがないな……。つまりはその新技術で新規の水路は清潔が保たれてるってワケか」
龍がいたというのは興味深いがいないなら何も手出しできない。
どこかの素敵馬鹿がマッドなサイエンティストで龍の復活とかでも企まない限りは機会がないだろう。
残念だ。
「魔道具の技術を使ってるって話」
「へ~、スッゲー」
「よくわかんにゃいけど清潔にするのが大事らしいにゃ」
「そりゃ大事だ」
少し驚いた。
一般には衛生の概念がなくてもちゃんと上の人間はその概念があるということに。
剣や鎧を使っていたりと文明の雰囲気が俺の世界で言うところの中世的で、その時代の衛生観念は劣悪だったと聞いたことがあったからここも同様だと考えていた。
「
「そんだけ汚いと病気とかヤバくねーか?」
「それは大丈夫、この依頼は国からのモノだから普通の依頼よりちょっとだけ評価点高くにゃってるし報酬もちょっとだけ高いから」
「へぇ」
流石にそのあたりの徹底はちゃんとしてるのか。
ていうか素直に凄いな。
衛生の概念が一般レベルじゃ曖昧な段階で国費で清掃活動させるって。
下手したらワケわからんことに貴重な金を使ってるって非難されて地位すら危なくなるだろうに……。
どんなカリスマと決断力があればそんなこと出来んだよ。
端的に、化け物だ、
国民の理解が及んでいない状態で政策、施策してそれが問題となっていない。
つまりそれが意味するのは
文明が未熟だから下に見える、なんて馬鹿な考えは持ってはいけない。
文明レベル関係なく、圧倒的強者だ。
「それで、具体的にすることは詰まった下水を新下水道に流すこと」
「……旧下水道と新下水道は繋がってるのか」
「当然だにゃ。ただ旧下水道は新下水道と違ってボロボロだし魔道具技術も使われてにゃいから詰まりやすいの。だからその詰まりを人の手で
「なるほどなるほど。ちなみに下水って……要はアレ、だよな?」
「ウンチとかだにゃ。あとは鍛冶とかの工業で生まれたばっちいのもだにゃ。だからそのまま触れるのはお勧めしにゃい」
「うん、そのつもりは始めっからない」
てか濁したのに普通に言っちゃうのね。
女の子がそういうこと言っちゃいけませんッ、って……今時これも性差別とかになるのか?
まあそもそも世界が違うから前の世界の感覚って役に立たんだろうけど。
「下水はその後どうなんだ? 川か?」
「昔はそうだったらしいけど今はちゃんと処理してるらしい」
「ちゃんと?」
「分離させたり分解したりするって聞いたにゃ」
「下水処理すげぇッ」
魔術使ってやってるとしたら元の世界くらいスゴイことやってる可能性がある。
病気が流行したのかどうかはわからないが、一般的な衛生の概念レベルを考えるとかなりスゴイことをやっている。
「……ちなみにもう一つのどぶさらいは?」
「こっちは簡単。まとめられたカスの中から魔力が多く残ってるヤツを見つけて探すって依頼」
「どうやって探すんだ?」
「知らんにゃ。勘じゃにゃいのかにゃ?」
勘て……。
嘘だろ、おい。
「冗談だよ。カスに魔力流した時の反応で確かめるって
「よかったわ、冗談で」
笑えん冗談だが。
「てか気になったんだが……口調そっちが素?」
「途中でうっかり間違っちゃったから取り繕うの諦めたの。意図して切り替えたワケじゃにゃいから今は口調が愉快ににゃってるんだにゃ」
「ま、別に気にせんから好きに喋って良いぞ。俺的には好きだし」
種族的なヤツか単に舌足らずなのかはわからんがかわいいし。
第三話でどぶさらいのことを書いた時はそれで良いと思ってました
けど改めて思い返してみると「コレ、ちゃんと伝わらないだろうなぁ」と
ラノベで街の清潔感とか描写されないから多分魔術でどうにかしてるんだろうなっていうのが作者の捉え方で、けど個人的にはゴブスレなどで描写された『どぶさらい』という仕事をちゃんと描写してみたいと思ったワケで……
それをなんとなく書いてたらこんな感じに
降星っていうのはまあ、大体は作中で描写の通りです
昔は龍がいて、龍がルートヴィヒに襲い掛かってきて人類圏滅亡ってなったときそれを撃退したのが空から降ってきた巨大な隕石
それによって第二話で描写した星の神という存在が人間の意識に登場して『神星教』という宗教画生まれました
神星教には入っていなくてもその【星】の影響は大きく、この時代の魔術というモノは五芒星と円をベースにした魔術陣が用いられています
転移してきたときの足元の魔術陣にも五芒星が刻まれてました
ちなみに今は降星歴の二世紀です
ざっくり一五〇年~二〇〇年くらいかな~、歴史の細かい調整とかしたらぶれるからぼかしておきます
ぶっちゃけ現時点じゃ細かい数字に意味はないですし