ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一六〇話 銭失い通り

 空を見上げる。

 そこには月が丸ごと溶け込んだような橙色が乗っていた。

 探してようやく見つかるかけてしまった半月を過ぎた橙の月。

 美しくも吸い込まれるような不気味さを併せ持つ天空。

 面妖な笑みにも見える逆三日月。

 そしてふと思う。

 トリゴからグラーベンシュタットへ向かう旅の最中に起こった橙魔の月。

 望月の日から今日で約一〇日、正確には一一日。

 この国で特別な日、というワケではないがある意味では俺にとっては区切りとなる。

 転移の日を含め、今日で一〇〇日目だ。

 今、溶けるような月を見てそう思った。

 

「滞在日数三桁か……」

 

 少し冷えた風を身に受け、背筋が震える。

 違う。

 風の冷たさが原因ではない。

 

 魔の極端に薄い環境からグラーベンシュタットの風を浴びると……少しサイカの感覚がわかるかもしれないな。

 たしかにこれは……濃い。

 

 酔ってしまいそうなほどに濃厚な、瘴気のごとき魔。

 そしてサイカの言っていたように事実特殊だ。

 魂そのものが圧されるような。

 気づかなければ影響はないが気づけば恐ろしく思えるその感覚はさながら幽霊。

 これを俺が感じられるのは短時間だろう。

 重力から一度解放されたから重力をより強く感じるのと、常に重力を普通以上に感じるのとではワケが違うのだ。

 

「出会ったのは初めてだけど……開拓兵(おれたち)を支えてくれる人間、助けられるなら助けてぇなァ……」

 

 だが悲しいことに前例はない。

 少なくとも素人の俺が簡単に調べられる範囲にその情報はないだろう。

 一〇年。

 サイカはその病気とともにあると。

 調べられることは調べ尽くしただろう。

 そしてその上で対症療法しか見つけられていない。

 進行原因は魔が関わるという酷く曖昧なモノ、発症原因は依然不明で。

 俺ができることは見つからない。

 現状あるのは出されるであろう依頼だけ。

 

 ……一度関わった。

 見た。

 話した。

 だから。

 助けたい。

 何をすれば。

 ない。

 わからない。

 

 悪い人ではなかった。

 たまに口が悪くなるけれども、良い人だ。

 理解されない強い苦しみの中で。

 それでも折れずに立っている格好の良い人。

 少し憧れた。

 俺の不理解を怒らず許してくれる。

 孤独の中で前を向ける人が。

 報われてほしいと。

 そう思った。

 

「世の中……理不尽は平等なんだよなぁ」

 

 それが世の常なのだろう。

 認められない。

 認めたくない。

 サイカのことはロクに知らない。

 サイカが善か悪かも知らないし興味もなかった。

 ただ、自分が好感を持った人間が報われないのは酷く腹が立つ。

 

「神がいるならぶん殴ってやりてぇよ……クソが」

 

 どうしてサイカはそんな病気に。

 サイカだけではない。

 クアークも、望んでいない能力を持って、苦しんで――。

 

 ああ、忌々しい。

 どうにも感情が昂る。

 冷静に……。

 

「魔はウザいし夏が近いくせに風は冷たいし……」

 

 もう今ならなんでも腹立つ気がする。

 箸が転んでも怒っちゃうぞ。

 

「よぅし、一旦ホント落ち着こう。ビィクゥル、カームダウンだ、俺」

 

 ストレス確認。

 躁鬱傾向アリ。

 マユゲのことを考えよう。

 

 ……あ~、イチャつきてぇ。

 膝の上に乗せてのんびりしたい。

 なんかこう……縁側で並んでぼ~っとしたい。

 一緒の部屋で本読んでゆっくりしたりしてイチャイチャして……平和に暮らしたいなぁ。

 

「いかんいかん、欲望に支配されるところだった。これ以上は脳がリラックスし過ぎて溶ける」

 

 ベクトルを変えただけの狂気続投になりかけた思考を両平手で挟み撃ちにして思考を切り替える。

 狂気であってもその内容に関する自分の意思が明確なら切り替えはできた。

 

「頬っぺたジンジンする……適当に街観て帰ろ」

 

 喧噪に惹かれて移動するとそこには夕方にもかかわらず今日一番の賑わいがあった。

 たしか――通称は“銭失い通り”。

 そこそこ広い通りに所狭しと店が並び、それ以上に自らの意思で移動することが難しそうで流れに身を任せるしかなさそうなほど人に溢れたその場所は確かに油断をすれば銭を失う(スられる)――と思いきやそういう意味の名前ではなく。

 単純に魅力的な商品が多すぎて油断をすれば買いすぎて財布が軽くなる、というだけだがそれ故に恐ろしい場所だ。

 

「そこの兄さんっ、暇なら見ていきな!」

「お、おう……何屋?」

「よくぞ聞いてくれた! 東の金属西の飯北の珍品南の知恵、何から何まで揃っているが仕入れ先は聞いてくれるなッ! アリウム万屋此処に在りッ!! ってな」

「ビックリした」

 

 万屋って言ってもこの規模だからそこまでだな……品揃えというか種類はそこまで。

 商品が特別なのか?

 

「これは?」

「それは精製した魔石だ。錬金術未使用、だから魔石の変質は一切なし」

「……用途は?」

「変な魔力の影響を受けてない魔石が欲しいって人向けだな」

「興味ねえや」

 

 一般人にも開拓兵にもメリットねぇよ。

 なんだその超特定の層に向けた商品、万屋ってそういう感じだっけ?

 

「こっちは?」

「研磨した魔石」

「え、研磨した魔石って丸とか六角柱とかじゃなかったっけ?」

「それは魔道具とかに使う魔石だ。これは内部で反射させた魔力で~ってヤツだ」

「……売れる?」

「たまにな」

「……」

 

 なんだ、ただのマニアック万屋か。

 商品見る目ないんじゃないか、コイツ。

 

「わかったよ……兄さん開拓兵だろ? たしかこっちに――ああ、これだ。これはどうだ?」

「なんだこれ」

 

 出されたのは組み機パズルのような、小星型十二面体の魔道具。

 半透明な板で構成された魔道具の表面と内部には回路が――いや、板の内部にすら回路が刻まれていてそこの回路は三重構造に。

 そして内部の魔石が浮いていることに気づいてどうなっているのかとよく観察した結果、内部には細い回路の線が大量に張り巡らされていることに気づいた。

 基本的な平面の回路とは異なり立体的な回路。

 それが一体何の役に立つのかはともかく、それが一体何の意味を持っているのかはともかく、構造の面白さゆえに俺の関心を惹くには充分だった。

 

「回転式魔力攪乱魔道具。これをちょいと起動してみれば……兄さん、ここに手を翳してみな」

「ん? ……なんだこれ、気持ち悪ッ!? 流れが……鳥肌立つわ」

 

 掌に伝わる魔の感覚。

 それは普段感じ慣れた規則的なモノではない。

 不規則に、出力すら適当な感覚に襲われる魔の流れ。

 まるで掌を触手に這いずられるかのような、そんな怖気だ。

 

「国立ルートヴィヒ第二学園のある学術都市。そこで手に入れた最新の魔道具だ、というか今持ってるモンそっから仕入れた。流れる魔力やら周囲の環境によって自動的に内部の回路が組み変わって、その状態で回転することで周囲の魔力をぐちゃぐちゃにして魔術の妨害をするんだとよ」

「対人戦前提かよ。犯罪者の捕縛用? とりあえず一つくれ」

「一〇〇〇〇〇アスター」

「開拓兵証は?」

「使えるぜ」

「ならそれで」

 

 おほほぉ、良いモンかいましたわぁ。

 乱魔とかワクワクするじゃん。

 良いモン売ってんなァ。

 

「あ、先に行っておくが分解はすんなよ。学術都市の魔道具は基本技術盗まれないよう分解したら自壊するようになってる」

「何その自爆装置……まあうん、わかったぜい」

 

 テルミットとか入ってる?

 もしくはファンタジーらしく呪いでも?

 

「他になんか買うか?」

「とりあえず見るだけ見る。面白そうなの頼む」

「それは兄さんの感覚次第だ。そうだな……魔導義手(これ)とかどうだ?」

「なぁにこれぇ、面白そうじゃん」

 

 出されたのは二種の腕。

 一つは人の腕を精巧に模したような、生身の人間から切った腕に防腐処理を施しましたと言われても信じそうなほど、断面以外はそっくりなモノ。

 外見は生身だが、断面から見える中身は正に機械。

 そしてもう一つが擬態を捨て、唯一残ったのは腕としての基本的な構造だと言わんばかりのメカメカしいいかにもな機械の義手。

 断面も機械。

 見たところや俺に勧める点から察するに戦闘用の魔導義手なのだろう。

 

「こっちは基本的な魔導義手だ。生まれつきない奴、失ってその時に金がなくて治せなかった奴、あるけどもっと欲しい奴、色んな目的で着ける奴がいる」

「あ~……」

 

 ふとマーリンが思い浮かんだ。

 正確にはマーリンと同じ鳥人種。

 マーリンは腕も翼も持って生まれてきたが中には翼だけの人もいる。

 翼だけの人の中でも腕と一体化したような指の使える翼の人はともかく、それすらない人は不便……かもしれない。

 不便と感じていなくても手が使えれば細かな作業もできるから便利にはなる。

 たしかにそういう理由で腕がない人も欲しがるだろう。

 

「こっちは戦闘用魔導義手。圧縮した空気が肘から出たりついでに掌やら肘から火が出たり武器強化もできるからそのまま殴れたりするぞ」

「感覚の再現も魔術があればできるのか……」

 

 以前の世界ではその部分はできていなかったはず。

 それを再現できるというのは実に進んだ技術だ。

 

「ん? 流石に感覚の再現はまだできてないらしいぞ」

「ありゃ、興奮して損した」

「たしか……魔力の反発とかなんかで触ってるモンの硬い柔らかいとかあと熱もある程度感じれるって話だな」

「普通に凄かったわッ!」

 

 そりゃスゲエ。

 魔力を使って疑似的に再現……もうあと数百年あったら前の世界の文明抜かすんじゃねえの?

 

「ちなみに基本のだけでも最低二〇〇万、戦闘用はその五倍が必要だ」

「買えねえわ。てかなんでただの万屋がそんなん持ってんだよ」

「面白いからだ。そいつには金を払う価値がある」

「その通りだが……」

 

 俺の所持金合わせても全然足らんわ。

 それを半ば趣味の域でパッと出せるのが軽く狂気だし。

 

「他は……これなんかどうだ? 異世界人の持ち物」

「!?」

「金が欲しいから買わないかって言ってな。向こうからの話だし初めは吹っ掛けてやろうって買い叩いてやったら何故か喜んでたっけ」

「……そうなのか」

 

 異世界人の持ち物。

 そう言われて途端に目の前の男が危なく感じた。

 だが実際には正しく売買された結果、ということで安心した。

 

「異世界のモノは珍しいから高く売れるのに……まあ成立した商談だから文句を言われても返してやらないけどな」

「間抜けなそいつらが悪い。……ちなみにどんな奴らだった?」

「どんな……偉そう? あとアホ野郎?」

「もう大丈夫だ」

 

 なんだ。

 心配して損した。

 ただのアホ陽キャじゃん。

 興味な~し。

 使えなくなったスマホ売って、ただの板に値段がつけばそりゃ嬉しいわな。

 うん、低能乙!




 久々に出たアホ陽キャ、というかヒイラギ以外の異世界人
 そのうち出そうと思っているキャラが複数いるのにそこまでストーリーが進んでいないから出せない辛み
 というか一〇日近くクアークやサースティ、キュリアスを書いてないから口調を忘れつつあるという……そこに愛はあるんか?(ある。自分の作品だから全キャラ大小はあれど愛してる)

 「もう数百年――」は、ぶっちゃけそうはならん
 モンスター被害があったり、今後加速したりで技術発達にかなりの時間を要します
 達成をさせうる人材が死んだり死ななかったり
 ある程度の発展をしつつ一〇〇〇年以上は似たような文明観が続くんじゃないですかね?
 正確には技術を飛躍させる理論をマユゲやら敵やら他の人やらが構築したりしますが急速な発展は経済崩壊を招く、ということで封印されたりもする


 回転式魔力攪乱魔道具:最新の魔道具
            作ネヴィル(未登場キャラ)
            実際には作者不明として販売されていたが学生の製作
            魔術によって全てのパーツが一つになっており、無理に分解をしようとすれば自壊するように仕込まれている
            魔力での探知や観察で構造を理解すればいいのではないかと考えるかもしれないが、鏡面虚現金属(ミラーマテリアリウム)の使用によって多次元回路となっているため表面だけを再現しても無意味
            もしも素人考えでそれを実行して発動した場合爆発するような回路に仕込まれている実に嫌らしい作品
            プロが見れば複製が不可能であることを即座に理解するため作品からの複製を試みる研究者はド素人
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