ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一六一話 穴だらけのグラーベンシュタット地方

「はよーっす」

「おはよ。夜更かしでもしたの?」

「ああ、買った本が思ったより面白かった……」

「ちょっと頭下げて」

「ん……」

「これで――よしっ」

「すまんね」

「アタシが気になっただけだから良いわよ」

 

 どうやら寝癖が立っていたらしい。

 言われたように頭を下げると魔術と手櫛で整えてくれる。

 その手は柔らかく、くすぐったい。

 

「お前髪なげーな、邪魔じゃねえか?」

「あ~、一〇〇日……向こうの期間も足せばもっとか。ずっと髪切ってねぇからなぁ」

「切れよ」

「そのうちな。てかそう言うなら姉御も切れよ、俺以上じゃん、倍以上長いじゃん」

「あーしは良いんだよ。まとめてるから」

「……なら俺もそうしよーっと」

 

 指輪の中にしまわれているモノの中から。

 いつだかの、なんだかの買い物で偶然得たような気がする紐を出し。

 適当に結びながら席に着く。

 場所的な理由もあるが単純なサービスとしての理由もあってそこそこ高価なこの宿で、出された朝食はなかなか綺麗かつ美味しそうだ。

 

「それだと髪が痛んじゃいますし絡まっちゃいますよ」

 

 そういうとサースティは乱雑に結んだ髪を解き、慣れた手つきで結びなおす。

 

「本当は髪留めがあれば良かったんですけど……キュリアスさんは持ってませんか?」

「持ってるぞ……これだな。あーしが使ってるヤツの予備、やるよ」

「金属の輪っか」

 

 出た、漫画とかでたまに見るけど実物見たことない筒状の髪留め。

 実在するんだ……。

 

 取り出された金属製の幅の広いリング。

 意匠(デザイン)はシンプルだがよく見れば薄くヘリンボーン状の模様が刻まれていて、色は僅かに異なるがモノは姉御とお揃い。

 そんな髪留めを受け取ったサースティは魔力を流して髪留めを拡張。

 中に髪を通して髪留めを上へ持っていき、紐と重なる位置で今度は髪留めを縮めて固定した。

 

「あ~、首の裏がスッキリした」

「切れば良いのに」

「気が向いたらな。髪の長さはそこまで戦闘に影響なさそうだし」

 

 長髪がワリといるんだし、別に切らんでも良いっしょ。

 面倒だし。

 切って悲惨になったらそれはそれで嫌だし。

 

「ちなみに今日、それ以降の予定はどうする? あーしは予定はないが」

「同じく予定なし。強いて言うなら暇な日に知り合った奴と探索に行ったり」

「ウチは明日から数日依頼などで東に行く予定なので一緒に探索できるのは大体一週間後でしょうか。もしパーティで探索をしたいのであればウチ抜きでも構いません」

「アタシも明日から三日か四日することがあるからその間は無理。それ以降もたまに用事があるけどその時はまた別に知らせるわ」

「なら明日からのことは今日のが終わってからにしようぜ」

「俺と姉御だけならまあ、予定は組みやすいしそれで良いか」

 

 初日に他の人間とパーティ組んだ俺がいうことじゃないだろうけど、やっぱそれぞれすることしたいこととか違ってちゃんと予定あるんだな。

 脳筋に定評がある姉御は単純に戦いたいだけだろうけど。

 それでも適当にやってる俺とは大違いだ。

 ちゃんとしていて、そうじゃない自分が情けなくなる。

 

「んじゃ今日はどうする? 一層? それとも二層?」

「北部、という選択肢もありますね」

「そういえばそうだな」

 

 行ってないから抜け落ちてた。

 なんだっけか?

 点在する穴から地下に潜ったりだっけ?

 昨日本読んだのに忘れてらぁ……やっぱ疲れてる時にするモンじゃねぇ。

 

「北で良いんじゃねえか?」

「その心は」

「期間長いからな、順で良いだろ」

「理解。二人もそれで良いか?」

「異議なし」

「ウチも問題なしです」

 

 

 

 直径三~五メートルの穴がそこかしこに空いている。

 これも全ては地龍やその手下の仕業――というワケではなく、普通にモンスターのせいらしい。

 普段は長い穴の中に住んでいて適当な時間帯に穴から出て周囲の草ごと土を食べたり小動物の死骸を捕食したり、逆に捕食されたりと。

 サースティが調べた情報によると強さの上下が激しく油断できない。

 そして街で割と馴染みのある存在とのこと。

 

「気を抜かないように。丸呑みにされてしまいますので」

「丸呑み……」

 

 人一人を丸呑みにするような大きさのモンスター。

 怖いな。

 二メートルの口?

 ああ、縦に呑めばそんなには……でも最低でも肩幅分の四〇センチ以上の口があるのか。

 それに長さは二メートル以上。

 草食寄りの雑食……強くはない?

 でも油断はできない。

 イマイチ姿が想像できんな。

 

「アイツか?」

「そうですね、あの丸くて長いのがそうです」

「……ミミズ?」

「のようなモンスターです」

「マジ?」

「ええ」

 

 ミミズというかユムシというか。

 てかアレが襲い掛かってくるの?

 メンタル的にいやだし、そもそもミミズって他の動物襲ったっけ?

 ミミズにしろユムシにしろデトリタス食者じゃなかった?

 襲い掛かってくるのはモンスターの宿命なの?

 

「こえー」

「あ、本来敵になるのはアレではありませんよ」

「そうなの?」

「襲い掛かってくるのは防衛のため、らしいです。外で遭遇した場合はこちらの存在を感知し次第一目散に逃げるとのこと。我々が穴に侵入した場合に敵とみなされ襲われる、と」

「ほほう! でも結局穴に入るんだろ?」

「はい。本命は黒殻蟻ですね、一つの穴における出現数が多いので効率よく稼ぎと戦闘経験ができます」

「なるほど」

 

 蟻の巣ってどれくらい蟻いたっけ?

 昔蟻の巣に溶けたアルミ流し込むヤツ見たな……。

 結構蟻逃げてたっけ、ついでに巣もデカかったっけ。

 あ~、でも種類によるんだっけか?

 蟻の種類で振れ幅デカいって。

 うん、わからん。

 まあ通常生物の蟻と同じなら最低数十匹いるだろ。

 モンスターだからわからんが。

 

「穴の中身は入って確かめるのか? あーしそろそろ戦いたいんだけど」

「確認方法はそれくらいです。どちらも地中における魔的擬態能力が高いので」

「よし、行くぞ」

()らあんな敵いやだ」

 

 ミミズってなんであんなにキモく感じるんだ?

 ほとんど紐なのに。

 ……ウネウネ?

 あのウネウネか?

 クソッ、蛇は平気なのになんでだ!

 

「あ、外れだな」

「……辛」

 

 穴に踏み入って数歩したところで小さな揺れが足裏を叩く。

 すぐに全員が穴を脱出し、出口付近で構える。

 どうやら一度敵と認識されてしまうとよほど穴から離れない限りは襲い掛かってくるらしい。

 

「あーしにやらせろ」

「良いですよ、と」

「ちったぁ楽しませろよッ!」

 

 構えた大鎌を片手でくるくると回し、柄の一番下を握りしめて一度後ろへ回してからそのままタイミングを合わせて振り下ろした。

 大鎌はこれ以上ないタイミングで出てきたミミズ状のモンスターを切り裂き、強化された斬撃は飛翔していないにもかかわらずその威力を真っすぐ伝播させて一直線に切り裂く。

 ミミズモンスターは断裂し、何もできないまま地面に倒れる。

 

「弱ッ」

 

 実に拍子抜け極まる。

 顔にはそんな思考がダダ洩れ。

 だがそれも仕方がないこと。

 探知の偽装によって実力が測れないだけかと思ったが、穴から出たことで地形バフのようなモノが失われその実力がわかった。

 油断するつもりはないが、もしも今のがこのモンスターの実力ならば俺でも簡単に倒せる。

 とはいえ流石に一撃で、というのは難しい。

 できないことはないがそれは万全の状態で強化を最大まで高めた場合だけ、姉御のようにアッサリとは無理だが。

 

「……」

「黒殻蟻の方は強いですよ、多分」

「もうそうじゃなかったら姉御帰っちまうんじゃねぇか?」

「帰っていいのか?」

「ダメ」

「だろうな」

 

 ぶっちゃけ気持ちはわかるよ?

 戦っててつまらん作業みたいなのは嫌だし、見た目がメンタルくるもん。

 

「まあ、とりあえずその二つに分かれたガラグウェを回収して次のところへ向かいましょうか」

「へ~、このミミズってガラグウェって言うのね。結構そのままね」

「時代的にはかなり初期からいたらしいですから」

「うへぇ……触りたくねぇよぉ――」

 

 ふと。

 回収しようとした手が止まる。

 何か、引っかかる。

 まるで箱の蓋を閉めたら服を挟んでいたような。

 

 何か……思い出しそうな気が。

 なんだこの感覚。

 嫌な予感も。

 

 記憶の蓋に引っかかった要素が働かせてはいけない思考と絡み合い、開けてはならない記憶の蓋をゆっくり重く開く。

 最後の、証拠。

 無意識のうちに半分になったガラグウェの断面を見る。

 サースティの反応を見るにガラグウェが全身を残すことは珍しくないのだろう。

 それはさておいて問題の断面。

 見覚えがあった。

 

「ハハハハッ」

「お、おい、どうかしたかヒイラギ」

「俺、コイツ、食ってる……」

「あ~……」

「うん」

「そういうことでしたか」

 

 虫ぃ……。

 食ったぁ……。

 

「二日前、ギルドんトコで食べた。オイシカッタデス」

「街で食用として流通してるんですよね。結構一般的らしいです」

「苦手な奴は苦手だよな。あーしは見た目とかは平気だし食うのは食ったことないからわからないが」

「アタシは……ちょっと苦手かも~。出たら食べるけど自分じゃちょっと気が引けるかな」

「アッハァ~ッ! 食べた俺にもう怖いモノなんて何もないもんね!! 触るどころか食ったモン! もう何も恐くない!」

 

 もう二四時間以上経過してるから消化吸収されてるだろうしもうミミズは――ガラグウェは俺の一部になってしまっている。

 まあそもそもそれを言ったら大体のヤツがタンパク質(ミミズとおなじ)だ。

 全ては気分の問題で。

 言い換えればそこさえクリアすればオールグリーンだ。

 

「大丈夫か? お前」

「ヘーキヘーキ、もう大丈夫になったからっ」

 

 これは虚勢でもなんでもない。

 ただ単純に、純粋に、普通に問題ないのだ。

 一種の諦観である。

 もう抗いようのないモノ。

 一線を越えてしまったがゆえに、阻む心的物はもう絶無。

 つまり、今日一日メンタルが半死を維持し続けるだろう。




 いくら調べても出てこないフィクションで見る筒状の髪留め
 名前はわかりませんが実在はするらしいです
 描写に困るので名称を与えてあげてください、筒状とか輪っかの髪留めで普通に通じるなら良いですけどそれで通じないんじゃないかという恐怖があるので……

 調べて初めて知ったんですけどユムシもミミズも剛毛生えてるんですね……見えんて
 もう少し自己主張のある毛を……やっぱそのままで良いですね。生えたら余計気持ち悪いだけというか
 調べる時にアレ以上SAN値削られたくないです
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