ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

162 / 183
第一六二話 黒殻蟻

「狭ッ!」

「ウルせーぞヒイラギィッ」

「だってッ、蟻は平気な部類なのにあの数よッ?! 流石に怖いじゃんッ」

「怖いなら凍らせればいいだろうが」

「効かないんですぅッ」

 

 地下約一〇メートル。

 大型ゆえに垂直な穴は流石に無理なのか、ある程度気を付ければ人間でも歩ける程度の傾斜。

 とはいえそれも開拓兵基準で、だが。

 そんな巣の中、前方から三〇を超える黒殻蟻が襲い掛かって来て、後方二人が何もできない状態でいると挟み撃つように出てきたこれまた三〇を超える黒殻蟻に防戦一方。

 巣の道幅の狭さもあって戦うことが難しい。

 それに加え、俺自慢の凍結魔術がほとんど効かない。

 魔術そのものが無効化されているワケではなさそうで、手ごたえとしては俺の魔術の“凍結”という概念やその他数種の魔術が拒絶されているような感覚だ。

 たとえば、凍結魔術の次くらいに特異な水魔術と風魔術は装甲に拒絶、否定される。

 他にも基礎的な魔術の中でトップクラスの攻撃力を有する土魔術を最大限研ぎ澄まして発動させてみたが、流石はほとんどの時を土中で過ごす蟻というべきか、効果はイマイチ。

 剣を使った攻撃も俺の技量不足で何度も攻撃を繰り返さなければ倒せなかった。

 

「役に立たねえなあ、お前」

「ちょッ、おまッ!? 言ってはならんことを! 気にしてるんだぞ、弱いこと!」

「だったら強くなれば良いだろうが」

 

 単純、ゆえに困難。

 そう簡単に強くなれたら苦労はしない。

 圧倒的に技術も、魔術も、知識も、アイデアも、何もかもが足りない。

 唯一足りているのは武器。

 こんな状況になって改めて理解する。

 ペトラの武器が頼もしいことを。

 そしてそれに依存傾向があることを。

 圧倒的な装甲を前に。

 武器が不相応に強くなければ勝つことができない。

 

 技なんて何度だって見てるのに何がダメなんだ。

 動きも、武器も、俺には不相応な強さなのに。

 どうして勝てない?

 キュリアスのように一撃で倒すにはどうしたらいい?

 

「ヒイラギ。考えて動き鈍らせんなら考えるんじゃねえ。死にたいなら独りで死ね、あーしらを巻き込むな」

「ッ! わかってるよッ! 一気にやるから気ぃ付けろ!」

 

 湧いて来る増援に。

 どうにか打開が必要なこの状況。

 使いたくはなかったが仕方がないとし。

 指輪の一つに魔力を流し込む。

 填められた石が輝き、圧縮しきれず漏れた力が紅く煌めいた。

 

「焼けちまえぇえええええええええええええッ!」

 

 紅い光がレーザーのように真っすぐ進み、そのまま黒殻蟻を溶かす――かと思いきや接触地点から一気に解放されて炎色反応(ストロンチウム)のような紅い炎がその方向にいた黒殻蟻を焼却する。

 初期(レーザー)に与えた指向性がそのまま反映されているのか、拡散した紅い炎は一切こちら側へ来ることはなく真っすぐ進み、黒殻蟻だけを焼き尽くした。

 

「今の色っ、もしかしてカーバンクル!?」

「ああ。クアークは見たことあるだろ?」

「そうね。でも流石はあの人の造った魔道具ねっ」

「まったくだ!」

 

 紅い光輝によって無数の魔石と素材(ドロップ)が降り注ぐ。

 二メートル弱の高さから落ちたそれらはいくつか斜面を転がって下へ続く穴へと吸い込まれた。

 

 流石はマユゲ。

 状況の打開がこんな簡単に……。

 けど使いたくないな。

 

 宝石の中で反射し、増幅する光炎を収め、奥からやって来る新たな黒殻蟻を観察する。

 至近距離だから魔石の位置は正確に把握でき、場所は頭の後ろ少し、胸部の前胸背板と中胸背板の辺りだ。

 つまりそもそもの守りが硬く、すぐ近くに頭があり脚もあるためその突破には骨が折れる。

 

「どうするんだヒイラギ」

「皆次第。やるなら俺はまだやる。体力も魔力も気力もまだ余裕だ」

「ヒイラギの好きにすれば良いわよ」

「一番弱い人がやる気な以上引く気はありません。けどその代わり引き際は自分で見極めるようにっ!」

「――おう!」

 

 これで心配はなくなった。

 あとは没入するだけ。

 さて、考えろ。

 

 右手に黒鍵を握り、左手にはあえて何も握らない。

 そこには服の下にマユゲからの腕輪があり、今回は攻撃一徹の右と防御一徹の左で様子を見ながら戦うことを決めた。

 基本は左腕から一定範囲の面に広げ盾のように構えつつ状況に応じバリアの位置を相対位置固定から空間固定に変更し、それによって動きが止まった瞬間にどの部位に攻撃が有効かを確かめる。

 近くまでおびき寄せ、大顎が開き、閉じる瞬間に大顎の間にバリアを咬ませて動きを封じ、そのまま二連撃を浴びせた。

 まず一撃目。

 右から左への斜め切り下ろし。

 触角を狙い、逸れたワケでもないにもかかわらず鋭い断面は生まれず折れるように切れた。

 そして続く二撃目。

 後頭部と前胸背板の間、つまり生物の急所である首を狙って一歩踏み込み、バリアを潜り抜け、手首の反しとともに勢いよく切り上げる。

 さっきの触角もそうだが、流石は重要な部位というべきかどちらも非常に硬く。

 首は特に頑丈で切った感触は安物のナイフで鉄板を切ろうとするようなイメージが脳裏を過ぎるほど。

 

 硬ッ!?

 けど繰り返せば突破できる。

 あと二撃が限界かと思ったけど追加でもう二撃イケそうだな。

 

 すぐバリアから大顎を離すと思っていたにもかかわらず、バリアを咬み砕こうとしているようで時間稼ぎはまだできている。

 ここだ、とすぐ防御優先の構えから攻撃優先の構えに切り替えてすぐさま切りかかる。

 切り上げ、基節――脚の付け根部分を攻撃し、結果を理解するよりも早く胸背板の集まった部分の隙間を狙って突き刺し、伸ばし、その反動で柄を飛び出させて黒鍵を回収した。

 

「手ごたえはあったんだが……浅かったか?」

 

 奥まで入り込む感触があった。

 何よりも実際剣身は見えなくなっていた。

 切っ先が壊し慣れた魔石を引っ掻く感触も感じ、けれど死ぬ様子はない。

 いや、死にかける様子はある。

 動きが目に見えて弱り、気配も薄らいだ。

 あと少しダメージを蓄積させれば魔石を壊しきらずとも死ぬ。

 それを察知し、もう一本、脚を切り落とす。

 そこでようやくさっきの結果を知った。

 脚は俺の実力でも切り落とせるらしい。

 

 流石に力がいるな。

 武器強化してるのに……。

 ポーラ、武器強化に向いてるってなんだったんだ?

 武器強化全然……武器強化?

 武器強化、別名武想強化、イメージすることで、思い込むことで強くなる。

 なるほど。

 足りてなかったのはそこか?

 いくら魔力が増えても、魔力操作が上達しても……上達してないけど……本質であるイメージが緩けりゃダメ――

 

 ダメージが許容限界を超えたのだろう。

 さっきまで戦っていた黒殻蟻はバリアから離れ、俺に攻撃をしようと動き始めた途端にほぼ全身の霧散させて切り傷の残った魔石だけを残していった。

 

「ダメだ、もっと……」

 

 たしかに魔石の破壊以外にもダメージの蓄積で殺すのも手だ。

 けれどそれは効率的とは思えない。

 倒せはする。

 攻撃も魔石に届き得る。

 それ以上ではない。

 やるからにはもっと強く、もっと鋭く、より手短に。

 

 イメージ。

 全てを切り裂く。

 強いイメージはつまり発露。

 主体性のないイメージに具体性は生まれない。

 強固なイメージ、自分、俺は切ることに何を考えてる?

 俺にとってそんなもの特別じゃない。

 思い入れもない。

 何を込めればいい?

 

 武器強化の向上方法はわかったがそれの実現が困難。

 切るという行為に対する感情は何もなく。

 そのイメージはただ“切る”ということだけ。

 さらには使う技も他者の模倣。

 そこに自己はない。

 そもそもの主体性が欠如している。

 

 考えても埒が明かん。

 いっそ感情全部乗せちまえ。

 

「シッッ!」

 

 一気に加速。

 短い呼気とともに全身の筋肉を稼働させ、首を狙って切りつけた。

 ナイフで砂を切るような、そんな感覚の後異なる硬さの何かに阻まれ、逸らされる。

 だが攻撃は通じ、切られた首は自重を支えきれずにもげるように垂れ落ちた。

 そして断面から除く硬さの正体。

 黒殻蟻は外骨格ながら内部に強度向上のため内骨格も有していたらしい。

 肉と頸椎で辛うじて繋がったままの黒殻蟻の死体が、前胸背板を残して霧散した。

 

 よし、ストレスによる強化はできるな。

 あとは効率的な感情を探すか。

 主体性が見つかるまでは感情でどうにかすっか。

 でもそれだと非効率だな。

 感情なんて好き勝手にできるモンじゃないし。

 強いイメージを。

 なら思いつくイメージを経験で具体的にすれば良いのか。

 イメージ、イメージ……イメージ。

 切る、斬る、裂く、割く。

 どんなふうにイメージを……ベアトリクス、クアーク、ヘルベルト、ザフィーアさん、ウル、ブルックリン、ガーランドの爺さん、サースティ、キュリアス――ああ、違う。

 憧れるだけ。

 真似は無意味。

 俺の、俺だけの感覚で。

 全てを切り裂き、何も残さない。

 一閃で斬った全てを霧散させる。

 

(ザン)ッ」

 

 バリアを盾として構え、それでぶん殴ることで黒殻蟻の首を跳ね上げ、大顎の間、頭盾を切り、頭部すら断ってその命を奪った。

 切断力は高く、腕への反動は未熟ゆえにかなり強いが一度の攻撃で一体を殺すことができるように。

 その興奮は俺の口角を醜く吊り上げた。




やったかもしれないしやってないかもしれない魔道具に関する解説
 とても発達しているように思えるこの世界の魔道具技術ですが、この世界の歴史で言えばかなり未熟な時代
 建国の英雄ルートヴィヒやオーガストのいた時代は魔道具発明初期、第一世代魔道具
 モードやエスエゴ、シャプル(今作のシャプルとは別人かつ関係なし)などの時代が第一世代魔道具主体の第二世代魔道具が現れ始めた時代
 求道の英雄ルイスの時代は第二世代及び第三世代魔道具

 第一世代魔道具:魔力の圧縮と開放やらなんやらで爆発を起こす爆弾
 第二世代魔道具:基礎となる物質の特性を引き出す現在主流の魔道具
 第三世代魔道具:回路そのものの特性で効果を引き出す魔道具
         建材を強固にするモノや物質を冷却する魔道具はこれ
         現在ほとんど発見されていない
         一説によると魔術文字(ルーン)がこれに属するのではないかと言われている

 ヒイラギが有する魔道具のほとんどが第二世代魔道具
 腕輪は第三世代魔道具(正確には第二世代魔道具と第三世代の複合品)
 魔術種(エルフ)の情熱やマユゲの頭脳を以てしても第三世代魔道具の研究は難航するほど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。