ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一六五話 人は大事なことでも忘れる

「あのぉ?」

「なんだ?」

「三層ですぜ、ここ」

「知ってる」

「……」

 

 現在地、地龍の通り道(アヴァムギーヴ)第三層。

 つまり俺が二人と行った深度よりもさらに深い未到達領域。

 一層上ですら俺一人ではロクに戦える気がしなかったのにたった二人でそれ以上の難度。

 いくらキュリアスが強くても回る手に限度がある。

 そして俺という戦局の大穴。

 なぜ俺を連れて来たのかがわからない。

 

「まずはヒイラギの最大出力を強化する。平時の最低値をチマチマ上げてたんじゃ埒があかねえ」

「つまり?」

「困難を強いるから覚悟決めろ」

「お、おっしゃぁ、やったんぞぉー……」

 

 戸を叩く音で強制的に起こされ、食事を急かされ、引っ張るように連れて来られたこの場所。

 恐らく拒否権ナシ。

 となれば生き延びることに集中するのが得策だ。

 

 それに昨日モルガンにあんなカッコつけたことを言ったんだし。

 ……素面で思い出すとキッツ。

 実力不足のくせにそういうの言うなよ、俺。

 そういうのは強い奴が言う言葉だろうが。

 

「ヒイラギ、お前は強くなる気あるのか?」

「そりゃもちろん」

「ならどうして堂々としねえんだ?」

「……弱いから?」

 

 弱い奴が堂々としているのはただ単に粋がっているとしか思えない。

 そういうのはみっともない気がする。

 

「強くなるなら自信はいるぞ。強くなれば自身が付くこともあるが、強くなるため自信も必要だ」

「そうなのか?」

「当然だ。勝つってのは|エゴ(てめえ)の押し付け。それがなけりゃ強くなるなんて不可能さ」

「う~ん……気の持ちようで強さが変わるのか」

 

 根性論は嫌いじゃない。

 むしろ好きな部類だ。

 けれどそれを“核”としろ、と言われて承諾はできない。

 重きを置くことはできても承諾は難しい

 それは合理的ではないからだ。

 それを良しとしてしまえば無謀な戦いすらも良しとする愚行を招く。

 

「納得してねえ見たいだから理屈で考える面倒くせえお前に説明してやる。苦手だってのに」

「申し訳ねぇっ」

「魔術使うのに重要なのはわかるな?」

「あ~、想像力」

「想像の強さによって同じ魔力量魔力操作でも強度が変わる。つまり最強を想像してそれをぶつければ、最強を押し付けちまえば勝てない相手にも勝てるようになる」

「なるほど、ちょっと理解した」

「それに昨日の、憶えてっか?」

「昨日?」

 

 はて?

 色々ありすぎてなんのことやら?

 つーか昨日もそうだけど俺の一日って濃すぎないか?

 昨日は……髪を留めて、ガラグウェと戦って、メンタル死んで、黒殻蟻と戦って、未熟を改めて思い知って、三人がモルガンと会って、俺が嫌われてるとか好かれてるとかの話をして、モルガン相手にカッコつけちゃって、サイカに会いに行って、納品するモン聞いて、ケース受け取って、帰って……適当にマユゲと話して終わり。

 どのことやら。

 

「サースティの言ってた話だ」

「あ~……あ~、血を吸う時に気分で防御力が変わるとかどうとか?」

「理屈と数字で考えたがるお前には納得が難しいかもしれないがつまりはそういうことだ」

「ふむ……感情、意思、想像。無意識下の魔力操作で防御力が変わる? それを意識的にすることで強化の幅が向上する? ……違うな、考えるな感じろってことだな」

 

 理屈とかは知らんでもできることはある。

 しょっちゅうこの考えに至ってるな、俺ぇ。

 

「理屈抜きに単純な助言してやろうか?」

「ほう、聞こうではないか」

「あーしは強い」

「今日一番の説得力をありがとうございます」

「ぶん殴んぞ」

「や、優しくしてね?」

「キメエ」

「同感」

 

 理屈など考えずとも自分の力を疑わないキュリアスはこうして強くなっている。

 それは“一〇〇の理屈”に勝る、“一の実例”だった。

 

「しかもブーメランじゃねえか……」

「あ?」

「なんでもないっす」

 

 モルガンに固有能力の使い方でちょっとしたアイデアを出した時にそういう感じのこと言ったのに……あれ? 言ったんだっけ? 考えただけだっけ?

 まあいい、とにかく自分で思ってたこと忘れてるとかダメじゃねえか。

 

「自分の力を信じる。けど過信はしない。……キュリアス、頑張って自信つけてみる!」

「ああ」

「それでちょっと頼みなんだけど、ちょっくら落ちない程度に腕切ってくれ」

「は? 構わないが正気か?」

「……俺のいた国に昔存在した忍者って人たちの記憶法だよ。痛みを伴うことで記憶を強烈にする、傷を見れば思い出せる。自分でやったんじゃ痛みに身構えるからキュリアス頼む」

 

 不忘の術だったか感覚刀痕術だったか。

 とにかくそういう記憶術があったはずだ。

 

「こういう大事なことは忘れないように、な。俺って意外とアホだし」

「それは知ってる」

「知ッ……まあいいや。傷はすぐ治せば傷痕残らないけど長期間やれば腕の欠乏と同じで残るし、低級回復薬(レッサーポーション)で傷口が塞がるだけの程度の傷で頼む」

「はぁ……わかった。外側で良いか?」

「ああ」

 

 短剣を渡し、手の甲を見せるようにして腕の外側をキュリアスに向けつつ攻撃が見えないように探知()(とじ)る。

 右手に回復薬(ポーション)を待機させながら攻撃を待っていると「ふッ」という攻撃の声が聞こえ、けれどそれはフェイントだったらしく何も起こらず、そのことを理解し油断したところを的確に狙った攻撃を左腕を襲った。

 それは骨にまで届き、骨を削る感覚が伝わってくる。

 

「ッ……」

 

 キュリアスとの訓練で慣れたはずの痛み。

 けれど一切の情報なしに突然痛みが襲い掛かってきたからかそれは腕が両断されるよりも痛い気がした。

 すぐ右手に待機させていたモノを傷口にかけ、削れた骨とある程度の肉を修復し、かける量を調節することで傷口が治るようにする。

 あとは今後しばらくの治療で傷口付近には治癒魔術を掛けないようにして、しばらく傷口を放置すれば傷痕として残るはずだ。

 

「変な国だな、お前の国」

「変な国ってこと自体は認めるが、不忘の術(これ)はかなり昔の話だし忍者だって当時でもかなりごく少数の存在だからな?」

「そうなのか。まあなんてもいい。そろそろ接敵だからな、そいつらに勝てるなら問題ない」

「任せろ……って言うと変なことになりそうだし。気張るぜ!!」

 

 けどフラグって実際口にしたら逆に生き残りそうだよな!

 本当に死んだら笑えねえけど!

 

「来るぞ、三体だ。二体はあーしがやってやるからそっちは一人でどうにかしろ」

「了解」

 

 少し間を開け、俺の探知()にもその姿が映る。

 俺も姿を捉えたことをキュリアスに伝えると揃って頷き、即座に左右に散開。

 キュリアスは二体に、俺は一体に引き寄せのための魔術を撃ち放ちそれぞれの領域(テリトリー)で戦闘を開始した。

 

「疼くこの傷に従ってみますか」

 

 体高約一メートル。

 速度は以前のゲジゲジよりは遅いが気を抜ける速度ではない。

 見るからに強固な外骨格をしていて生半可な攻撃は通用しないことがわかる。

 

 まずは早く倒そうとせず、倒すことを考えて戦う。

 キュリアスの戦いに意識を取られるな。

 気にしなくてもいいように分かれたんだ。

 自分のペースで攻めて、自分のタイミングで勝つべき。

 

 脚を含めるとかなりの横幅。

 異様なほど長い触角も含めるとかなり圧迫感がある。

 だが触角は感覚器、攻撃のモノではない。

 警戒すべきは毒牙などと呼称される“顎肢”だ。

 呼称の通り顎肢は毒を持ち、それを体内に注入されると種類によっては死に至る。

 たとえば魔力が抜かれる脱魔毒、魔力操作を乱され魔力消費が無意味に増える妨魔毒、指先などの末端から始まり全身に麻痺を及ぼす魔痺毒、噛まれた周辺が壊死し治療が手遅れになるまでの時間が短い壊死毒、一定量に達すると魔力制御が不可能になり魔力暴走を引き起こして自爆死に至る暴魔毒。

 実に多種多様な、嫌らしいモンスターだ。

 その特性は強く遠征開拓兵であっても効力が出る可能性が高いほど。

 それゆえ地龍の通り道(アヴァムギーヴ)の最奥は下手な遠征地よりも恐ろしいと噂される。

 

「チッ、流石に魔術は効かんか」

 

 四系統プラス凍結で試みたものの案の定というべきか、効果はなかった。

 岩の弾丸はやすりで削られたかのように粉砕され、水の槍は装甲が撥水加工されているかのように弾かれ、颶風は向かい風が吹くように大気と化し、猛火は酸素供給を断たれたかのようにその勢いを一瞬にして弱らせ失う。

 唯一効くように思えた凍結魔術も表面に氷を生み出す程度に止まり、攻撃としての価値は一切ない。

 

「さぁて、どうやって攻めたモノか」




 人間って結構記憶力悪いですよね
 言ったことを数日で忘れる
 そのくせ謎にハッキリ憶えてる部分がありますけど

 ちなみに不忘の術は調べたらちゃんと出てきます
 実際は指を切る程度で良いみたいですけどね
 ヒイラギはちゃんとしたやり方を知らず、さらには絶対に忘れないように、ということで腕に傷を付けました
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