ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一六六話 成長速度と経験の大小は比例しない

 まずは足止め。

 突っ込んで来たムカデに正面から岩壁を叩きこむ。

 少量では破壊されて意味を成さないから物量で攻め、勢いを削いで、横から装甲の隙間を縫って攻撃。

 狙うは側部、側板。

 気門のある背板と腹板の間、側板部を狙って一気に短剣を振った。

 

「ヘヘッ、イケんじゃんよ」

 

 身構えていたよりも圧倒的に軽い手応え。

 側板は比較的弱いらしい。

 だが問題がある。

 一つ、比較的弱いだけで弱くはないという点。

 一つ、無数の脚があるせいで一気に切り裂くことが困難という点。

 みょんみょんと生える脚を鬱陶しく思い、試しに攻撃をするが硬く折るまでに三撃が必要だった。

 

「ッ! あっぶねェ……」

 

 脚でこの硬さなら背板や腹板はもっと硬く、傷つけることすら難しいのではないかと考えた瞬間。

 そんな思考の隙を感知したかのようにムカデは脚を高く上げ、俺の脳天目掛けて振り下ろしてきた。

 ビルの屋上から金属棒でも落としたのではないか、運動エネルギー爆弾でも落ちたのか。

 そう錯覚しそうなほど強烈な一撃が俺のいなくなった地面を襲い、砕く。

 破片が下半身を叩き、コートを叩く。

 

 こえーッ!

 何アレ!

 二〇センチくらい脚埋まってますやん、地面貫通してますやん!

 あんなの当たったら死ぬ。

 

「クソ虫が……クソ俺がッ……」

 

 酷く屈辱的だ。

 クアークやサースティ、キュリアスたちと比べたら大したことないのは理解しているが、それでも俺もそれなりに苦労し、頑張ってきたつもりだった。

 けれどその積み重ねたモノが容易に踏みにじられる気分。

 力で捻じ伏せられる気分。

 それが堪らなく屈辱的で、そして戦えると信じて連れてきてくれたのにそれに応えることができていない自分の弱さが何よりも屈辱的極まりない。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す――」

 

 力で抑えつけられるような圧迫感。

 目の前に壁を立てられたような不快感。

 正直いって俺は負けず嫌いだ。

 さらにいえば“自由”という言葉に囚われている。

 非力ゆえの自由への渇望。

 表現を換えるなら空への憧れ。

 だから羽ばたきを妨げる者がいるのなら。

 力で捻じ伏せようとしてくる者がいるのなら、性格の悪い俺は力で捻り潰したくなる。

 

「くくっ、くふふふふっ。なんで俺は今まで気づかなかったんだ」

 

 ストレスが。

 これまでずっと溜まっていた分も合わせて、脳を犯す。

 

「虫なんぞに負けるワケねぇわ」

 

 極限まで溜まっていたストレス。

 圧し潰されてゼロになりそうなほど収束していた心が。

 ちょっとしたキッカケで爆発したかのように全身へ、周囲の空間へ一気に発散する。

 

「てかむしろ弱気だったせいで自分でデバフでも付けてたんじゃねえのかねッ!」

 

 上に跳び、そのまま背板を蹴る。

 流石に大量の脚で支えられているから胴体を地面に抑えつけることはできなかったが、動きを一瞬止めたうえに背板が僅かに砕けた。

 これは全身を一気に回転させた蹴りだから連発はできないが攻撃が通じることは確認した。

 

「よしッ、このまま一気に殺してやんよッ!」

 

 ウネウネと頭を持ち上げてムカデが左右に激しく動き出す。

 固定具も魔術による固定もなしに背に乗っていた俺はその動きに弾かれ、攻撃を受ける前に自ら背から離脱した。

 着地をするとそれに反応してムカデが頭をこちらに向け、襲い掛かってくる。

 そして同時にムカデの魔力の高まりを感じる。

 正確には高まりではなく、集束だ。

 全身満遍なく流れていた魔力が。

 俺を前にして頭部やその下、魔石付近に集められている。

 察するに防御力の向上。

 意図としては最も攻撃を受ける可能性の高い急所部分を守ろうということだろう。

 だが俺には関係ない。

 防御の薄い場所を、という合理的思考は既に頭から消え失せていた。

 あるのは正面から叩き切るということ。

 

「いいぜ、勝負だ馬鹿野郎ッ」

 

 構えた剣へ、想いを流す。

 込めるは“最強”の念。

 強さへの渇望。

 思い描くは果ての未来。

 あり得るかもしれない自分の可能性。

 一振りで全てを滅ぼし尽くす覇者の姿。

 この程度の敵ならば木っ端のように刹那に殺す、力の高み。

 遍く想像が瞬間のこと。

 それら一切を乗せ、切望のように肥大化したモノを表すかの如き大剣を。

 虚実の混ざりなく真っすぐ、解き放った。

 

「斬ッ!!」

 

 割れる頭部。

 強度の向上した頭はそのまま地面へ叩きつけられ、そして逃げ場を失い、そのまま魔石ごと分断されることとなった。

 

「おっそ」

「そこはまず勝てたことを褒めよぉぜぇ」

「褒められたいのか?」

「叱って」

「気持ち悪」

 

 冗談ボイスはお気に召さないのね、俺も自分でキモいと思ったけど。

 

「一体倒すのに時間かけてんじゃねえよ」

「実力差考えてくれません!?」

「考えたうえで言ってんだドアホ」

 

 そりゃ今ならもっと早く倒せるけどさ。

 初めてだったし力引き出すまでに時間掛かるから仕方ないじゃん。

 

「それで? 今はどんな気分だ?」

「……笑うなよ?」

「笑わねえからさっさと言え」

「今ならなんでもできる気がする……」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「クソ長ため息!? たしかに笑ってはないけどッ」

 

 発されたこれでもかというほどのため息。

 視線も息も呆れに染まっている。

 

「そういうのは普通に胸張って言えば良いだろうが。興奮してるときのその万能感ってのは実際力になるし成長の糧にもなる。んなこたぁ開拓兵続けてりゃ誰でも理解する、だから躊躇してんじゃねえよ」

「マジか?」

「興奮を下手に抑えつけんじゃねえ、それはテメエの可能性を潰すだけだぞ」

「……わかった。頑張って開放してみる」

「頑張らずにそれやれっての」

 

 言っていることは理解できる。

 前に聞いたイジメで引き籠もるのと似ているのだ。

 ほんの小さな勇気を出せば外に出れる。

 けれどそれを躊躇してしまって、どんどん外に出られなくなる。

 一歩前へ。

 それが可能なうちにやっておかなければ一生できなくなってしまうかもしれない。

 興奮状態の、万能感を抱いた状態ですら躊躇してしまうのは、それは今後一切の行動に鈍重な枷を掛ける愚行だ。

 勘違いで踏み出すワケにはいかない、じゃない。

 思い上がっている状態だからこそ一歩前へ、さらに前へ、その場で限界を超えなければならないのだ。

 

 ゆくゆく、そのうち、じゃねえッ。

 空想的(ファンタジー)だからなんでもできるとでも思ったかよ!?

 ここだって前と変わんねぇだろうが。

 大小あれどそれで後悔したことあるだろ。

 明日行けば良いだろって思って結局買えなかったグッズがあるだろ。

 こっちでだって、ノースミナスですぐに動いたから阻止できたんだろうが。

 力は待ってても身につかない。

 

「なあ、キュリアスにとって俺ってどんな奴?」

「あ? 前モルガンといる時話したろうが。……メンドクセエ奴だよ。くっだらねえことでいつまでもウジウジ悩みやがってこのゴミカスが、って基本思ってる。男のくせに、玉ついてんのかとも思ってんな。いっつも顔色窺ってあーしらに合わせようとしやがって、とも思ってる。あとは成長しねえなとも思ってるぞ。お前みたいなのはあーしの嫌いな人種だ、一緒に居たいとは思わん。けどあーしの勘が“今一緒にいりゃ将来良いことがある”って言ってるからそれに従ってる」

「そっか」

 

 愉快だから気に入ってるって言ってたからそれなりに好感度高いと思ってたけど全然そうじゃないらしい。

 むしろこれはかなり嫌われているの部類だろう。

 

「俺は好きだぜ。そうやって感情を包み隠さず話してくれるキュリアスが」

「そーかい」

 

 あれま、反応薄いわ。

 まあそれもそうか。

 嫌いな奴から言われても嬉しくないだろうし。

 でも実際俺からの好感度は激ヤバですわよ。

 俺はそういう人に寄って行きやすい……懐きやすい?

 周囲の人たち皆年上だから懐きやすいって表現の方がしっくりくるなぁ。

 ……俺って犬タイプだったりする? 猫タイプだと思ってるんだけど。

 いや、周囲が年上ばっかなのは仕方ないことだよな。

 俺一七で比較的若い部類だし。

 どんどん先に進もうとするせっかちな性格だから周囲が強い経験豊富な人になるのは必然だろ。

 

「ほら、さっさと次行くぞ」

「うい~」

 




 成長に経験の大小、物事の大小が関係しているのだとしたら今頃人間はもっと賢い(自論)
 成長を早くできる人は物事を明確に分析し、単純化し、吸収する能力に長けた人である(自論)

 ヒイラギは良くも悪くもあるがままを受け入れるタイプなのでその分析が苦手で、それゆえに成長が遅い、という
 ヒイラギは端的に言えば“賢者に憧憬を持つ愚者”なので
 その固有能力ゆえに初期の成長はブーストできたけれど最近はそうでもない
 ただ周囲の戦い方を見たり、直接助言を受けたりで“上手な成長方法”は理解してきています
 現段階は公式に対して数字を当てはめることしかできない初心者状態
 少し変形させた応用問題になってくると途端に対応できなくなる
 ゆくゆくは柔軟性を身に着け、成長できるように……なればいいなぁ
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