ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!! 作:名無しのクズ
「――それでよ、そん時俺が思いっきりぶん殴ったワケだッ。まず顎に一撃、次に仰け反ったところにもう一撃。磨きぬいた俺の拳はそいつをあっさりと破壊した。顔面にドデカい風穴ぶち開けて、そこから下は全部バラッバラだ」
「おおぉ、スゲェ」
「だが周囲には無数のモンスター。逃げ場はなく俺たちは交戦を宿命づけられた! 殴りかかる俺ッ! 吹き飛ぶモンスターたちッ! 殴っては砕き、殴っては砕き、援軍すらも殴り殺したその時ッ、ついに群れを統率する女王が現れた! 明らかにそれまでとは異なる威圧感、退路は開いたが未だ気絶している仲間を担いででは逃げきれないッ! 長き戦い、毒すら廻り朦朧とした意識の中モンスターの凶爪が襲い掛かる! だが間一髪! 俺を救ったのは今まで守っていた仲間だったッ! 弾かれる狂爪、毒で失われた体力も治癒魔術によって回復し、俺は渾身の一撃を女王に放った! だが倒れない! 殴る、殴るッ、殴るッ! 殴打に次ぐ殴打の果て、俺たちは勝利をもぎ取った!」
「お~、おめでとう」
「ちなみにその気絶してた魔術師、まあ私なんだけど。気絶した理由そいつの無謀な特攻の傷を何度も治したせいで魔力不足になったのが理由ね。つまり自分の撒いた毒を自分で治しただけ」
「あ、バラすなよッ」
「えぇぇ……」
なんじゃそりゃ。
せっかく褒めたのにマッチポンプかよ。
ガッカリですよまったく……。
「期待したみたいでごめんねー、グレッグって話盛る癖があってさー」
「メンドッ」
「おいおいおい」
重なるため息。
反応に困る人だ。
ゲルトルートさんも一緒に居て困るだろう。
「それで? なんの用だっけ?」
「最近
「んー、何かあったっけ?」
「話題、出来事……研究室爆発事故?」
「あー、あったねー」
「何それ」
聞き込み抜きにして普通に気になる話題だな。
やらかしちゃった本人としては堪ったモンじゃないだろうけど研究室が爆発って聞くとワクワクする。
それが生物兵器とか細菌兵器の研究室だったらこっちも堪ったモンじゃないけど。
「北西部の奥にある大きな研究室、というか屋敷でね、保管されていた素材の一つが爆発して、それが連鎖爆発しちゃったんだってー」
「それが大体二週間前だな」
二週間前……この街に着く一週間前か。
トリゴからこっちに向かう旅のちょうど半ばくらい。
ま、関係はないな。
いくら急いでも一週間を短縮できるワケないから同一人物なワケ。
それに自分の研究室爆発させるほど迂闊じゃないだろうしメリットもないし。
「爆発の結果研究室の一つが大破、保管していた素材やら資料やらが全部ダメになって今そこの持ち主はかなりへこんでるってよ。しかも管理不足で罰金が科せられた上に一定期間の特定素材の購入禁止、だとさ」
「うっわぁ……それはキツい。ちなみに周囲への被害は?」
「元々研究と実験のための屋敷だったから場所が広くて被害はなし、だとさ」
「それはまあ、良かったな。周囲に被害出てたらもっと罰金とか掛かっただろうし」
被害が自分にしかない以上過失なんだろうけど……。
まあ、へこむわなぁ。
俺もうっかりミスで探索禁止命令とか出されたらメンタルくるわ、そんな命令あんのか知らんが。
「本人はちゃんと管理してたつもりだったらしいんだけどねー。調べたら一番初めに爆発したヤツがかなり劣化してたらしくてさー、そりゃあ爆発するよー、って」
「杜撰な管理、か。まあ何はともあれ人死にがなくて良かったな」
なぁんだ、実験で爆発起こして髪型アフロに、とかじゃないのか。
ツマンネー。
もっと面白く事故れば良かったのに。
そんな心無い勝手な想像をしながらふと事故の原因に思考が向く。
とはいえそう難しい話でもないのだろう。
恐らくはごく単純な話。
例えば“金属ナトリウム”。
水と激しく反応して爆発する――いわゆる“禁水性物質”であるために保存は石油中で行われるが、それを怠った結果の事故というのは以前の世界で昔よくあった話らしい。
それ同様にただ適切な保存を行わなかった、というのが事の真実なのだろう。
「他はなんかあったか?」
「グラムテカ研究資料流出事件は?」
「そんなんあったな」
「ヤバそうだな」
研究資料流出事件て……。
本人のやらかしか、それとも別の人間の手によるやらかしかはわからんが本人としちゃメンタルくるヤツだし信用問題でもありそう。
てかグラムテカって北の……学術都市だっけ?
もう一つの学園があって、回転式魔力攪乱魔道具作った人がいる。
「突如流出した一〇五編三四本五八報の論文。そのほとんどが未発表だったにもかかわらず何者かの手によって流出し、さらには内容を纏められて数冊の本として出版された。犯人は依然不明、だとさ」
「しかもまだ研究してない続きの部分まで研究されちゃってたんだってー。元々研究してた人たちは“何たる蛮行。されどこの完成度は称賛するべきモノ”って言ってたんだってさー」
「なんとなくだけど、怒りながら鼻息荒くして読んでんのが目に浮かぶわ」
「うん、実際そうだったらしいよー」
「わからんでもない」
勝手にやられるのは嫌だし怒るのは当然だけど、内容をちゃんと纏められてたらそりゃあ探求者としては知的好奇心の方が勝るわな。
まあ、だからこそ複雑なんだけど。
「というかさ、それってグラムテカの話じゃないの?」
「纏めた本が売られたのがこの街だったんだってー」
「ああ、そういうこと」
「俺にはよくわからん話だ。全員で研究すりゃいいのに」
「そんなこと言ったら
「それもそうか」
仲悪い奴らを無理矢理仲良くさせようとしたところでかえって効率が悪くなるだけの話だし
人間はそうやって進歩してきてるんだから。
「じゃあ他なんかないか? モンスターとか」
「なんだ、モンスターのこと聞きたかったのか。つってもなんか話題あったか?」
「うーん?」
「ああ、そういえば最近生息域がちょっと変わったかもな」
「そういえばそうだねー」
「生息域の変化……」
またか。
また生息域の話題。
キュリアスも調査でそういう風に感じた的なことを言ってたな。
正確にはキュリアスじゃなくて調査員の人、なんだっけ?
サハルって人か。
「体感そんな感じすんだよな。よくわからんが」
「うーん。手前によって来てる感じじゃないー?」
「あ、それだ。全体的に縮小傾向があるな」
「縮小傾向? それはモンスターの数自体が減ってきてるってことか?」
「違うよー。数はむしろ増えてるの。正確には絶対数は変わらないまま出現する場所が小さくなったから遭遇頻度が高くなったのー」
「なるほど、モンスター密度の上昇か」
今までが一〇〇の面積に一〇〇の比率だったとしたら五〇の面積に一〇〇の比率になってるって感じか。
流石にそこまで極端ではないだろうけど。
「……じゃあ減った分の、空いた場所には何がいるんだ?」
「さあな。流石に最奥までは行ってない。というかそもそも最奥なんぞ場所にもよるが未発見だろ、果てなき
「そうそう。あまり気にしちゃダメだよー?」
「変化はしてるけど異常事態ではないのか」
何も起きていない現状。
別に行動を起こす理由はない、ということだろうか。
いい加減で警戒心が薄い、と一瞬思ってしまったが実際には俺の方が警戒心が薄いのではないか、とすぐに思考が向かった。
俺のこの考えはあくまでも何も起きていない状況がずっと続いていて、人的資源が余っているような、つまり平和な世で生きてきたからだろう。
外敵の多いこの世界――この国で、脅威が襲い掛かってきたときに人手が足りないとなれば大惨事だ。
起きてもいないただの“可能性”に対して動いて、必要な時に力を出せず、護ろうとした結果護れないとなっては実に滑稽。
醜態極まれり。
きっと俺の方が間違っているのだろう。
……出現域の縮小。
それでモンスターの魔が凝縮されたのか?
サイカは濃い魔の環境ではダメージが大きい。
モンスターの絶対数は変わらないまま密度が上がって、負荷が強くなったのか?
一応は説明がつく。
街全体の魔の変化という現象。
そもそもそれを一個人ができるとは考えづらく、それをしたところで現状は敏感なサイカがその被害に遭っただけ。
それを引き起こすメリットはない。
まだ街の住民の多くが坑道内部でのように異常を感じていたのなら犯罪目的と考えられたが。
いや、サイカは日に日に酷くなってるって……。
だとしたら犯罪の可能性もあり?
……でもそのレベルのことをどうやって?
ノースミナスみたいに人間の死体とかか?
それは無理だ。
前提条件が違う。
坑道の方はあくまでも人間が生み出した空間にモンスターが湧いただけ。
こっちは人間が入る前からあった空間にモンスターがいた。
モンスターと人間の侵入順序が違う。
初めから強力なモンスターがいる場所に拠点を構えたりは完全な自殺行為だ。
「どうするよ。実は地龍が近くまで来ててモンスターはそいつに怯えてるとかだったら」
「やめい、そんな恐ろしいこと」
「そうだよー、そもそも龍がわざわざ来る理由なんてないでしょー」
「そうだそうだ~」
「ただの冗談だろうが」
そういうのはフラグになりかねんからヤメロ。
前ちょろっとだけ上級竜の素材使った装備を見たけど、威圧感半端なかったんだからな!?
俺、アレ以上のバケモンと遭遇したかねぇよ。
現状勝てる気しねーもん
「それで、こんな感じでいいー?」
「もちろん。色々興味深かったし。ありがとうゲルトルートさん」
「存分に感謝したまえー」
「ははぁ~」
「……俺は?」
この街に龍が来たら一時間も経たずに街全壊するよ?
絶対喧嘩売るなよ?
相手が地龍だった場合、地中から一切姿を見せないまま街の地下掘りまくられた挙句避難が間に合わない内に街が沈むよ、物理的に
地龍とかいうチート龍
ありとあらゆる魔術と能力を抜いて、その地中移動という要素だけを残したとしてもよほどのことがないと人間に負けるワケがない存在
対処法は相手を上回る速度で移動できることが前提で、地龍の掘った穴を移動して追いかけてゴリ押しで殺すこと
もしくは地中にいられないようにして地上に連れ出し、ぶん殴る
どちらにせよ街を護ることはできないだろうから結果がどうあれ実質人間の負け
まあ、勝てるワケ……