ワリとクズな主人公が行く! 異世界洗脳!!   作:名無しのクズ

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第一七五話 荒れる感情と思い込み、限界

「この先、いるな」

「あぁ、俺でもわかるよ」

 

 全身を氷が纏うような寒気と重苦しさ。

 満遍なく、全方位から締め付けるような圧迫感は呼吸するのすらも僅かに阻む。

 高濃度の魔によって体調にも影響があり、マーリンやモルガンは少し飛びづらいらしい。

 

「強力なモンスターの存在は半信半疑でしたがここまでくると疑う余地がありませんね~。一線を退いた身ではありますけど手伝わせて頂きます~」

「あぁ、頼む」

「本当の実力はわからないけどこの中で二番目に活躍してるよね」

「俺ラ、情けねェナ」

「この戦いで挽回しねぇと、な」

 

 探知範囲外。

 けれど伝わってくる存在感。

 腹が内部から蝕まれるかのような感覚。

 湧き出す恐怖。

 だが問題はない。

 仲間がいるという安心感と、言い出した俺がそれに甘えるワケにはいかないという使命感。

 それらが気力を生み出している。

 臆すワケには――

 

「――ッ! 気づかれたッ!!」

「気のせいじゃないのかヒイラギッ!」

「伝わってくる感覚が別モンになったろぉが!」

「こっちはお前ほど感度よくねえんだよ!」

「来てんのは確実!」

 

 無差別に垂れ流されていた強烈な魔が、一気に集束して俺たちへと向かってきた。

 さっきまでの感覚が、ぬるま湯に感じるほど。

 圧迫感が胸を砕くようだ。

 

 痛い痛い、苦しい、気持ち悪い、吐きそう、目が回る、酔う、倒れそう、意識が溶ける。

 なんだよこれッ!?

 

「だ、大丈夫かい!?」

「本気で感じねぇのかよ……羨ましいぜ、まったく……」

「……本当みたいだな、すぐ来るぞ」

 

 まず先にキュリアスが、そしてサハルさん、モルガン、マーリン、俺の順に反応し、構えながら分散する。

 一瞬にして生まれる静寂。

 俺たちの音と入れ替わるように奥から何かを擦るような、音が響き渡る。

 擦る、そう聞こえていた音は次第に削るような音に変化してゆき、やがてその姿が明確になった。

 

 なんだこれは。

 蛇がベース、蠍の尻尾、ムカデみたいな脚。

 そういうキメラか?

 

 全身のいたるところにチェンソーの様な刃が生えていたりと所々に既知の生物的ではない特徴が見えるが大まかに表現すればその三種。

 

「ヒイラギは壁を張って妨害を試せ、あーしは正面からぶった切る、マーリンはあーしと同時に上から攻撃精々合わせろ、モルガンはその間に霧の展開。終わったら合図を出せ、その後はその中で戦う」

「了解ッ!」

「おう!」

「わかった!」

 

 手前から順に岩、水、風、炎の壁を生み出し、それらをバリアで纏めて蛇足野郎の正面に展開する。

 規模はギリギリの縦三メートル横七メートル厚さ二メートル。

 本当は縦にも伸ばしたかったが上から攻撃するマーリンや、手前からの視界を考慮して探知に影響が出すぎない規模で。

 そして蛇足野郎の高さの二倍、という基準で三メートルだ。

 

 はッ――やッ!?

 重ッ!?

 

 継続して送っている魔力が一気に削れる。

 追加で魔力を送るがそれ含めても一瞬で破壊され、バリアが砕ける感覚と共に爆発するように炎が解放され、続く風によって大砲のように炎風が吹き荒れ、水が滝のように吹き乱れた。

 だがそれらすべてを意に介さず、蛇足野郎は最後の一枚を易々を破壊する。

 

「合わせろッ!」

「任セロ!」

 

 岩壁から顔が覗いた瞬間に叩き込まれる大剣。

 ほぼ同時に上から降るように放たれる蹴り。

 一瞬にして二撃が降りかかった蛇足野郎は持ち上がった頭と折れるように曲がった胴体を、勢いよく回転させた。

 旋風が巻き起こるように一回転。

 鞭のごとき尻尾が、鋭い針が、マーリンを襲う。

 

「問題ないッ!」

 

 辛うじて避けたらしい。

 そのどこにも穴は開いていない。

 だが代わりに、全身に生えた刃状突起に切り裂かれてしまったらしく防いだ腕には無数の切り傷が刻まれている。

 

 今の、ほとんど見えなかった……。

 俺が避けるとして初動で全てを予測して回避しないと、ほぼ勘で避けないと避けきれねぇ。

 クソッ、マジかよ。

 

「展開完了ッ!」

「全員に対して強化」

「わかった!」

 

 力が漲る。

 眼も良くなるが、多少マシになったくらいで避けるのが困難なことには変わりなさそうだ。

 

「ヒイラギ、壁!」

「ああ!」

 

 役に立たなかったにもかかわらず要求された壁。

 練りに練った魔力で氷壁を成す。

 さっきの攻防。

 蛇足野郎は一切躊躇することなく壁に突っ込んできた。

 避ける、という選択肢、躊躇は一切なかった。

 それが意味するのは“自信”だろう。

 如何な防壁も打ち破る自負。

 

 なら――

 

 高さは必要ない。

 ある種“ノリが良い”のだ。

 力のぶつけ合いには応じてくれる。

 必要最低限の高さがあればぶつかってくれるのだから。

 

「【氷壁(ウォール)!】」

 

 魔力を限界まで込め、固めた、薄(ぐら)い氷。

 幌を掛けたかのように向こうを見通せず。

 光を対価に硬さを増したかのように、その分圧倒的に強度を増している。

 

「よくやった!」

 

 接触とほぼ同時に破壊されてしまったさっきとは異なり、接触から数瞬。

 衝突がハッキリわかるほどにぶつかり合う。

 そしてその隙を狙ったキュリアスの大剣が鱗を僅かに傷つけた。

 続くマーリンの鋭爪が刃状突起を不完全にし。

 最後にモルガンの霧が表面に線を引く。

 

 こんだけ魔力込めてほんの少しかよッ!?

 俺の実力じゃ及ばないのはわかってた。

 傷一つつけられないだろうってのは。

 覚悟の上だった。

 けどッ……ここまでかよッ!!

 サポートに徹すると決めて。

 なのにこのざまかよッッ!!

 

 無念と恐怖と憤怒と後悔と、羞恥と焦燥と。

 感情が入り乱れ、入り混じり、理性を粗砥石で削られる。

 

「――冷静を努めろ」

「え……」

 

 壁に衝突したところを三人が一斉に攻めている。

 その時。

 背に手が触れられる。

 普段の伸びた口調ではなく、ハッキリと、そして背筋に作用するような言の葉。

 

「正面からぶつかることは止めない。その信念が力を引き出すこともある」

「……」

「だからこれは助言だ。方針を示すのではなく、君の持つ答えを補強する添木」

 

 一体何が……。

 

「然るべき時期に手を打て。無駄も、無為も、それを見極めれば一つ強くなれるのだから」

「――よくわからないが、ありがとう」

「……気にしなくていいですよ~」

「くくっ」

 

 普段通りの口調に戻ったサハルさん。

 その言葉に後押しされるように立つ両脚に力が籠る。

 

 タイミングを見極めて、戦う。

 無駄っていうのは行使時間の問題。

 防御に必要なのは衝突から停止までのわずかな時間だけでいい。

 無為っていうのは魔術の洗練。

 より強く、硬く、守ることができる。

 

「【氷壁(ウォール)ッ!】」

 

 魔術術式――無駄はなし。

 

 この【氷壁(ウォール)】はそもそも既存の魔術。

 たとえば【火壁(ウォール)】、たとえば【風壁(ウォール)】、たとえば【水壁(ウォール)】、たとえば【石壁(ウォール)】。

 歴史があり、完成に近い術式。

 その属性改変。

 魔力など疾うに極まっている。

 

 氷への注魔――これ以上は自壊する。

 

 魔力を込めて強度を上げようにも存在力が足りない。

 栄養の摂取過多によって身を亡ぼすが如く、これ以上魔力を込めれば砂の城以上に脆く弱く成り下がってしまう。

 

 存在力の向上――守護の具体性。

 

 より硬く、より強く。

 如何なモノをも阻む防壁。

 

「【大氷地(グレイシア)ッ】!」

 

 内に秘めた大氷塊。

 見た目は粗い氷の壁。

 荒野の如く荒れた氷の塊。

 圧縮に圧縮を繰り返し、注魔に注魔を重ねた超質量魔術。

 そのままでは、地面への強化を施さなくては地面が圧壊してしまうほどの負荷。

 

「やればできるじゃねえか!」

「――ああッ!」

 

 大衝突。

 だがその結果、そこに残っていたのは不変の暗氷壁。

 気を抜けばその魔力によって自壊する。

 やはり未完の魔術。

 未完の俺が扱う未熟な魔術。

 たった今だって、ゲロを吐きそうなほど辛い。

 逐一魔力を回復しなくてはならないほど非効率。

 思いつきに合わせた雑極まりない即興調律。

 限界ギリギリ。

 いや、恐らくこの場で限界を超えた――一撃ならぬ一防。

 俺にできる、俺だけの、最強最硬だ。




 実は色々あって口調が「ですよ~」などの延びたモノになったサハル
 演技であり素でもある
 普段はあれを苦痛とは特に思っていない
 ただ開拓兵時代(むかし)を思い出すようなことが起きたりすると少し口調が戻る
 元々、生来の口調はもっと雑で、昔は性格も雑だった

 それが本編に出るのは一体いつなのか
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